労働安全衛生法に違反した場合の罰則と違反事例、企業の果たすべき対策を解説 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

労働安全衛生法に違反した場合の罰則と違反事例、企業の果たすべき対策を解説 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

労働安全衛生法に違反した場合の罰則と違反事例、企業の果たすべき対策を解説 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

労働安全衛生法に違反した場合の罰則と違反事例、企業の果たすべき対策を解説

オレンジ色の作業着を着てヘルメットを手に持つ労働者

「労働安全衛生法に違反するとどのような罰則が科されるのか」

「どのようなケースが違反事例に該当するのか知りたい」

このようにお悩みの人事労務担当者も多いのではないでしょうか。

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を守るために企業が遵守すべき義務を定めた法律です。労働安全衛生法違反は、従業員の安全や健康を守るための法律で定められた事項を遵守していない状態を指します。

違反した場合のリスクは、拘禁刑や罰金などの刑事罰だけではありません。民事上の損害賠償責任や社会的信用の失墜など、企業経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

本記事では、労働安全衛生法違反の罰則の全体像と具体的な違反事例、企業が果たすべき義務と実務上の対策を解説します。


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1. 労働安全衛生法とは

男性

労働安全衛生法とは、職場における労働者の安全と健康を確保するための法律です。

1972年(昭和47年)に、それまで労働基準法の一部として定められていた安全衛生に関する規定を独立させるかたちで制定されました。

同法第1条には、「労働災害の防止を図るために、危害防止基準の確立、責任体制の明確化、自主的活動の促進に関する措置を講じ、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」が目的として明記されています。

参考:労働安全衛生法|e-Gov法令検索

企業はこの法律に基づき、安全衛生管理体制の整備、健康診断の実施、安全衛生教育の実施など、幅広い義務を負っています。義務を怠った場合には罰則が科されるため、人事労務担当者は労働安全衛生法の内容を正しく理解しましょう。

関連記事:労働安全衛生法とは?施行令や規則との違いをわかりやすく解説

1-1. 労働安全衛生法の対象範囲

労働安全衛生法は、原則としてすべての業種・規模の事業場に適用されます。ただし、安全管理者や衛生管理者の選任義務、安全委員会の設置義務など、一部の規定は業種や常時使用する労働者数によって適用要件が異なるので注意が必要です。

また、労働安全衛生法が適用される「労働者」には、正社員だけでなくパートタイム労働者や契約社員などが含まれます。雇用形態にかかわらず、事業場で働くすべての労働者の安全と健康を守ることが、企業に求められるのです。

1-2. 労働災害とは

労働安全衛生法における労働災害とは、労働者が就業中に業務に起因して被る負傷・疾病・障害・死亡のことです。具体的には、高所からの転落、機械への巻き込まれ、有害物質による健康障害、長時間労働による過労死などが該当します。

労働安全衛生法は、こうした労働災害があらかじめ発生しないよう、企業に対して予防措置を義務付けています。万が一、企業が法の定めに違反し、予防措置を取っていない状態で労働災害が発生した場合、罰則や損害賠償責任など、複数の法的責任が同時に問われる可能性があるため事前の予防措置が欠かせません。

2. 労働安全衛生法に違反した場合の罰則一覧

penalty

労働安全衛生法に違反した場合の罰則は、違反した条文によって異なります。罰則の種類は大きく「拘禁刑・罰金(刑事罰)」と「過料(行政上の制裁)」の2つです。

また、労働安全衛生法の多くの罰則には両罰規定が設けられており、実際に違反行為をおこなった個人だけでなく、その事業主体である法人にも罰則が科される点に注意が必要です。「両罰規定」は2-8章で詳しく解説します。

2-1. 罰則の全体像(一覧表)

労働安全衛生法における罰則を一覧にまとめました。

罰則 主な違反内容 根拠条文
3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 製造等禁止物質の製造・輸入・使用など 第55条・第116条
1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 無許可での特定機械の製造、秘密漏洩など 第37条・第117条
6ヵ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 危険防止措置の不実施、作業主任者の未選任など 第14条・第20〜25条・第119条
50万円以下の罰金 安全衛生管理者の未選任、安全衛生教育の未実施、労災隠しなど 第10〜12条・第120条
50万円以下の過料 コンサルタント会の届出違反、検査命令違反など 第122条の2
20万円以下の過料 財務諸表の虚偽記載・記載拒否など 第123条

なお、令和7年6月1日施行の刑法改正により、「懲役」は「拘禁刑」に改められています。

2-2以降では、各罰則の内容を詳しく解説します。

2-2. 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金

労働安全衛生法第55条では、労働者に重度の健康障害を引き起こすおそれがある物質として政令で定めるもの(ベンジジンおよびその含有製剤など)の製造・輸入・譲渡・提供・使用を禁止しています。

違反した場合、第116条に基づき、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科されます。

2-3. 1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金

第117条では、次のケースに対して1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金を定めています。

  • 都道府県労働局長の許可を得ずに、別表第1で定める特に危険な作業を必要とする機械等を製造した場合(第37条第1項)
  • 免許試験機関の役員・免許試験員などが、試験事務に関して知り得た秘密を漏らした場合(第75条の8)
  • 労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントが業務上知り得た秘密を漏らし、または盗用した場合(第86条第2項)

2-4. 6ヵ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

第119条では、6ヵ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。

企業が日常の安全衛生管理の中で違反しやすい内容が多く含まれています。主な対象となるケースは次のとおりです。

  • 高圧室内作業など労働災害防止のための管理を必要とする作業で、作業主任者を選任しなかった場合(第14条)
  • 機械設備・有害物・電気・熱などによる危険から労働者を守るための措置を講じなかった場合(第20〜25条)
  • 有害業務をおこなう作業場で、必要な作業環境測定を実施しなかった場合、またはその結果を記録しなかった場合(第65条)
  • 伝染性疾病に罹患した労働者の就業を禁止しなかった場合(第68条)

2-5. 50万円以下の罰金

第120条では、50万円以下の罰金が定められています。

拘禁刑は伴わないものの、企業の日常的な安全衛生管理義務に関する違反が対象となるため、人事労務担当者が特に注意すべき罰則です。主な対象ケースは次のとおりです。

  • 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医などを選任すべき事業者が、選任を怠った場合(第10〜13条)
  • 政令で定める機械の規定の検査の実施や記録をおこなわなかった場合(第45条第1項)
  • 厚生労働省令の定めに従って安全衛生教育を実施しなかった場合(第59条第1項)
  • 労働者死傷病報告を提出しなかった場合、または虚偽の内容を記載して提出した場合(第100条第1項)

2-6. 過料(50万円以下・20万円以下)

過料は、罰金刑とは異なり刑事罰には該当しません。行政上の義務違反に対して科される金銭的制裁であり、前科にはなりませんが、義務違反として行政的な制裁を受ける点に変わりはありません。

50万円以下の過料(第122条の2)は、労働安全コンサルタント会・労働衛生コンサルタント会の届出義務違反や、検査命令への違反が対象です。

20万円以下の過料(第123条)は、財務諸表への虚偽記載や記載拒否が対象となります。

2-7. 登録検査機関の役員や職員の違反に関する罰則

登録検査機関とは、行政から認可を受けて製品検査等の業務をおこなう機関です。その役員や職員が職務に関連して賄賂を収受・要求・約束した場合、または不正行為をおこなった場合には、最大7年以下の拘禁刑が科されます(第115条の3)。

また、賄賂を供与した側にも3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金が科されます(第115条の4)。

2-8. 両罰規定とは

両罰規定とは、違反行為を実際におこなった個人(従業員・管理職など)だけでなく、その使用者である法人(企業)にも罰則を科す規定です(第122条)。

例えば、現場の管理職が安全措置を怠って労働災害が発生した場合、その管理職個人が刑事罰の対象となるだけでなく、企業自体にも罰金刑が科されます。担当者個人の問題では済まされないため、企業全体として法令遵守の体制を整えることが不可欠です。

3. 労働安全衛生法違反により企業が負う4つの責任

ペナルティ

労働安全衛生法に違反した場合、企業が負う責任は罰則だけにとどまりません。違反の内容や結果によって、次の4つの責任が同時に問われる可能性があります。

  1. 民事上の責任
  2. 行政上の責任
  3. 刑事上の責任
  4. 社会的な責任

それぞれの内容を順番に見ていきましょう。

3-1. 民事上の責任

労働安全衛生法違反が原因で労働災害が発生した場合、企業は被災した労働者やその遺族から損害賠償を請求される可能性があります。

労災保険の給付では補填されない慰謝料や逸失利益も請求対象となるため、賠償額が高額になるケースも少なくありません。

こうした民事責任の根拠となるのが、労働契約法第5条に定める安全配慮義務です。労働安全衛生法を遵守していても、安全配慮義務の完全な履行にはなりません。企業は法定基準外の危険に対しても安全配慮義務を負います。

関連記事:労働契約法5条による「労働者の安全への配慮」の意味や注意点

3-2. 行政上の責任

労働安全衛生法違反が発覚した場合、または労働災害発生の急迫した危険がある場合は、都道府県労働局長や労働基準監督署長から改善命令・使用停止命令・作業停止命令などの行政処分が下される可能性があります。

行政処分は、将来の危険の防止を目的とするため、実際に労働災害が発生していなくても科される点が特徴です。是正勧告や指導の段階で速やかに対応しなければ、より重い処分につながる場合もあります。

3-3. 刑事上の責任

労働安全衛生法で定められた措置を講じなかった場合、2章で解説した罰則が刑事責任として課されます。刑事上の責任は、労働災害の発生の有無にかかわらず、違反が発覚した時点で罰則の対象です。

また、安全措置を怠ったことで労働者が死傷した場合には、労働安全衛生法違反に加えて、刑法上の業務上過失致死傷罪に問われる可能性もあります。

両罰規定により、違反をおこなった個人だけでなく法人も処罰対象となる点は、あらためて認識しなければなりません。

3-4. 社会的な責任

労働安全衛生法違反が公になった場合、企業は社会的な信用を大きく損なうおそれがあります。取引先からの契約解除や新規受注の減少、求職者からの応募減少など、事業運営への影響は広範囲に及ぶ可能性も考えられるでしょう。

特に近年は、企業のコンプライアンスや労働環境への社会的関心が高まっており、違反事実がSNSやメディアを通じて拡散するケースも少なくありません。法的な責任を果たすだけでなく、社会的責任の観点からも、日頃からの法令遵守が重要です。

4. 労働安全衛生法の違反事例

ガベル

ここでは、労働安全衛生法違反として実際に送検された事例を取り上げます。どのような行為が違反に該当し、どのような罰則が科されるのかを具体的に確認しましょう。

4-1. 転落防止措置を講じていなかった

令和8年1月、兵庫県内の解体工事現場で、足場を組み立てていた30歳の作業員が高さ10メートルの足場から転落し死亡しました。管轄の労働基準監督署は、安全帯の使用状況を確認しなかったとして、兵庫県内の建設会社と40代男性統括部長を労働安全衛生法違反の疑いで書類送検しています。

調査の結果、作業員は安全帯を装着していたものの、フックを手すりにかけずに作業していたことが判明しました。安全帯を着用していても適切に使用されていなければ意味をなしません。墜落・転落は死亡につながりやすい重篤な災害であり、保護具の「着用」だけでなく「正しく使用されているか」までの管理が事業者の責任です。

違反した場合は第119条第1号により、6ヵ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。

参考:解体現場で落下死亡事故 安全帯の確認をしなかった疑い、姫路の建設会社と部長を書類送検 神戸東労基署|神戸新聞NEXT

関連記事:労働安全衛生法における高所作業とは?高所作業の種類や安全対策を解説

4-2. 労働災害の発生を報告しなかった

令和7年4月、山口県内の工事現場で、作業員が深さ約1メートルの穴に転落し、左ひざの靱帯を損傷するけがを負い4日以上休業しました。

しかし、山口県内の建設会社の代表取締役および元請け・一次下請けの現場責任者3名は共謀し、所轄の労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しませんでした。

翌令和8年1月、管轄の労働基準監督署は、同社と3名を労働安全衛生法違反「労災隠し」の疑いで書類送検しています。

労働者死傷病報告は、休業4日以上の労働災害が発生した場合、遅滞なく所轄労働基準監督署へ提出することが義務付けられています(労働安全衛生規則第97条)。提出しなかった場合、または虚偽の内容を記載した場合は「労災隠し」として、第120条第5号により50万円以下の罰金が科されます。

本事例では、会社だけでなく元請けと下請けの現場責任者も含めた3名が共謀したとして送検されている点が重要です。労災隠しは当事者だけの問題ではなく、現場を管理する立場の者すべてに責任が及びます。「会社の評判を守りたい」「労災保険料の上昇を避けたい」といった動機で報告を怠ると、刑事責任に加え社会的信用の失墜という深刻な結果を招くことになります。

参考:社員の転落事故、労災隠しの疑い 岩国労働基準監督署、建設会社などを書類送検(中国新聞デジタル)|Yahoo!ニュース

4-3. 定期自主検査の不実施が行政処分に発展

令和3年、造船大手工場で、設置していたジブクレーン2基の荷重試験が約1年間実施されていなかったことが発覚しました。

さらに同年の年次点検では測定値の改ざんも明らかになり、所轄の労働基準監督署が労働安全衛生法第45条第1項定期自主検査違反の疑いで書類送検し、その後罰金刑が確定しています。

この罰金刑の確定を受け、令和7年3月、出入国在留管理庁と厚生労働省は技能実習法の規定に基づき、同社が提出していた技能実習計画の認定を一斉に取り消しました。同社は以後5年間にわたり、技能実習生および新制度「育成就労」による外国人労働者の受け入れができなくなっています。

定期自主検査を怠った場合、第120条第1号により50万円以下の罰金が科されます。本事例が示すのは、刑事罰にとどまらず事業継続に直結する行政処分へと波及するリスクがあるということです。「これまで問題が起きていないから大丈夫」という認識のもとで点検を怠ることは、企業規模を問わず許されません。

参考:今治造船の認定取消 技能実習で2134人分 入管庁・厚労省|労働新聞社

5. 労働安全衛生法で企業が果たすべき義務

リスクマネジメント

労働安全衛生法は、単に事故が起きたときの対処を定めるだけでなく、事故を未然に防ぐための義務を企業に幅広く課しています。ここでは、人事労務担当者が押さえておくべき9つの主要な義務を解説します。

5-1. 職場における労働者の安全と健康の確保

事業者は、労働者が安全かつ健康を維持しながら働ける環境を確保しなければなりません(第3条・第20〜27条)。

これは法の根幹をなす義務であり、具体的には機械設備の安全確保、有害物質の管理、高所作業時の墜落防止措置など、業種・作業内容に応じた安全措置が求められます。

「今まで事故が起きていないから」という経験則は法的な免責にはなりません。危険の可能性がある箇所には、実際に災害が発生する前から対策を講じることが義務です。

5-2. 安全衛生管理体制の構築

事業規模や業種に応じて、安全衛生に関する管理者・責任者の選任が義務付けられています(第10〜16条)。

管理者・責任者 根拠条文 概要 選任が必要な事業場
総括安全衛生管理者 第10条 企業全体の安全衛生管理を統括する責任者 業種により100人〜3,000人以上
安全管理者 第11条 現場での安全管理を担当する責任者 一定の業種で50人以上
衛生管理者 第12条 職場の衛生状態と労働者の健康を守る責任者 業種を問わず50人以上
安全衛生推進者・衛生推進者 第12条の2 安全管理者・衛生管理者の選任義務がない中小規模事業場での安全衛生担当者。危険業種では安全衛生推進者、それ以外は衛生推進者を選任 10人以上50人未満
産業医 第13条 企業における健康管理を担当する医師 業種を問わず50人以上
作業主任者 第14条 特定の作業における安全を監督する責任者 特定作業をおこなう場合

なお、建設業や造船業のように複数の事業者が混在する現場では、元請・下請の重層構造に対応した独自の管理体制(統括安全衛生責任者・安全衛生責任者等)が第15〜16条で別途定められています。

選任を怠った場合は50万円以下の罰金(第120条第1号)の対象です。また、選任しただけで実質的に機能していない状態も違反とみなされるリスクがあるため、選任後の職務遂行の確認まで含めた管理を怠らないようにしましょう。

5-3. 安全衛生委員会等の設置

一定規模に該当する事業場には、安全委員会・衛生委員会、またはこれらを統合した安全衛生委員会の設置が義務付けられています(第17〜19条)。

  • 安全委員会(第17条):労働災害防止を目的として設置します。対象は一定の業種で50人以上の事業場です。
  • 衛生委員会(第18条):労働者の健康障害防止を目的として設置します。業種を問わず50人以上の事業場に義務付けられています。
  • 安全衛生委員会(第19条):両委員会の設置義務がある場合、これらを一本化して設置することができます。

委員会は毎月1回以上開催し、議事録の作成・3年間の保存も義務です。開催記録が残っていない場合、監督署の調査で問題となるケースがあります。

5-4. 危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)の実施

リスクアセスメントとは、職場に存在する危険性や有害性を評価し、リスクを軽減するための措置を講じる一連のプロセスです。労働安全衛生法では、リスクアセスメントに関する規定を2つ設けています。

  • 第57条・第57条の3では、ラベル表示・SDSの交付対象となる化学物質を取り扱う事業場に対して、リスクアセスメントの実施を義務として定めています。
  • 第28条の2では、機械・設備や作業行動に関する一般的なリスクの調査・評価をおこなうよう努力義務としています。

実施にあたっては、次の手順を踏むのが一般的です。

  1. 特定職場に存在するリスクの源を洗い出す
  2. 評価特定されたリスクの危険度・有害性を評価する
  3. 措置評価結果に基づき、リスク軽減のための対策を講じる
  4. 記録実施した内容・結果・措置を記録として保存する

参考:リスクアセスメント|厚生労働省

厚生労働省「職場のあんぜんサイト」では、化学物質を対象としたリスクアセスメント支援ツールを無償公開しています。専門知識がなくても活用できるため、自社の対応状況を確認する入口として利用してみてください。

参考:職場のあんぜんサイト:化学物質:化学物質のリスクアセスメント実施支援|厚生労働省

5-5. 機械等ならびに危険物及び有害物に関する規制(表示・文書交付等)

労働安全衛生法では、危険・有害な機械や化学物質による労働災害を防ぐため、製造・譲渡・使用の各段階で規制を設けています。具体的には、次の2点が義務付けられています。

  • ラベル表示(第57条)
    危険・有害な化学物質を容器に入れて譲渡・提供する場合、名称・成分・危険性・取り扱い上の注意などをGHS対応形式で記載したラベルの貼付が義務付けられています。
  • SDSの交付(第57条の2)
    対象化学物質を他の事業者に譲渡・提供する際には、危険性・有害性や取り扱い方法を記載したSDSを交付しなければなりません。

なお、令和7年4月以降は対象物質の拡大など化学物質管理の規制が強化されています。自社が取り扱う物質が対象かどうか、改めて確認しておきましょう。

さらに、令和7年の法改正では、SDS交付義務違反(未交付・虚偽通知)に対して6ヵ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を科す罰則規定が新設されました(第57条の2違反)。施行日は公布から5年以内で政令が定める日とされており、現時点では未定です。化学物質を取り扱う事業場は、施行前から対応状況を確認しておきましょう。

5-6. 安全衛生教育の実施

労働安全衛生法では、労働者の安全意識を高め、労働災害を未然に防ぐため、事業者に対して安全衛生教育の実施を義務付けています。

実施が義務付けられている教育は次の4種類です。

種類 対象 根拠条文
雇い入れ時教育 新たに雇用した全労働者 第59条第1項
作業内容変更時教育 作業内容が変更になった労働者 第59条第2項
特別教育 危険・有害な業務に従事する労働者 第59条第3項
職長等教育 新たに職長等に就く者(建設業・製造業等) 第60条

教育を実施した際は、実施日・内容・受講者などを記録として残しましょう。記録がなければ、労働基準監督署の調査時に実施を証明できません。

安全衛生教育を実施しなかった場合は、第120条第1号により50万円以下の罰金が科される可能性があります。

参考:職場のあんぜんサイト:安全衛生教育[安全衛生キーワード]|厚生労働省

5-7. 作業環境測定・評価および作業管理

有害物質を取り扱う作業場や、騒音・高温など有害な環境下で業務をおこなう事業場は、労働安全衛生法第65条に基づき、定期的に作業環境測定を実施しなければなりません。

測定結果は評価・記録し、環境が基準を下回る場合は改善措置を講じることが求められます。記録の保存期間は取り扱う物質によって異なり、一般的なものは3年、特定化学物質など有害性の高いものは30年保存が必要なケースもあります。

測定は作業環境測定士または登録を受けた作業環境測定機関が実施しなければならないため、外部委託を含めた実施体制をあらかじめ整えておくことが重要です。

参考:作業環境測定の基礎知識|作業環境測定・評価|公益社団法人 日本作業環境測定協会

5-8. 健康診断やストレスチェックなど健康維持のための措置

事業者は、労働者の健康保持・増進のため、健康診断の実施とその結果に基づく適切な措置を講じることが義務付けられています。

  • 健康診断(第66条)
    一般健康診断は、常時使用する労働者に対して雇い入れ時および年1回の定期実施が必要です。有害業務に従事する労働者には、業務内容に応じた特殊健康診断も別途義務付けられています。結果は保存するとともに、異常所見のある労働者は医師の意見を聴き、必要に応じて就業上の措置を講じなければなりません。
  • ストレスチェック(第66条の10)
    常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェックの実施が義務付けられています。
    高ストレス者から申出があった場合は、医師による面接指導をおこない、結果に基づいた就業上の配慮が必要です。50人未満の事業場は努力義務とされています。

健康診断・ストレスチェックともに、結果の記録・保存と事後措置までの一連の対応の管理が重要です。

関連記事:労働安全衛生法における健康診断の実施は義務?種類・対象者・費用を解説
関連記事:ストレスチェックとは?必要性・メリット・効果を高める方法を解説

また、努力義務として次の2つが定められています。努力義務とはいえ、対応をおろそかにせず、従業員の健康増進のために取り組んでいきましょう。

  • 健康教育等(第69条・第70条)
    健康教育・健康相談など労働者の健康保持増進に向けた取組を継続的・計画的におこなうよう努めることを定めています
  • 受動喫煙の防止(第68条の2)
    職場における受動喫煙防止措置への努力義務を規定しており、健康増進法と合わせて対応が求められます。

5-9. 熱中症対策の強化

2024年の労働安全衛生規則改正により、屋外・屋内を問わず高温多湿な環境下で作業をおこなう事業場に対して、熱中症予防措置の徹底が義務付けられました。

具体的には、暑さ指数(WBGT値)の把握・管理、作業前の労働者の体調確認、熱中症予防に関する教育の実施、緊急時の救急処置体制の整備が求められます。

熱中症は毎年多くの死傷者を出している重大なリスクです。夏季だけでなく、年間を通じた管理体制の構築を心がけましょう。

参考:職場のあんぜんサイト:熱中症[安全衛生キーワード]|厚生労働省

6. 労働安全衛生法違反を防止するための実務対策

ヘルメットをかぶった2人の労働者

義務の内容を把握するだけでなく、日常の業務の中でどう実践するかが重要です。ここでは、人事労務担当者が明日から取り組める5つの実務対策を紹介します。

6-1. 安全衛生管理のチェックリストやシステム活用

労働安全衛生法に基づく対応は多岐にわたるため、管理漏れを防ぐにはチェックリストやシステムの活用が有効です。少なくとも次の5項目は定期的に確認できる仕組みを整えておきましょう。

確認項目 チェックポイント
安全衛生管理者等の選任状況 選任要件を満たしているか、変更時に届出済みか
安全衛生委員会の運営記録 毎月開催・議事録3年保存ができているか
健康診断の受診率・事後措置 未受診者のフォロー・医師意見聴取が完了しているか
安全衛生教育の実施記録 雇い入れ時・変更時・特別教育の記録が残っているか
作業環境測定の実施状況 測定時期・保存期間が管理できているか

これらを紙やExcelで管理している場合、更新漏れや担当者交代時の引き継ぎミスが生じやすくなります。そこで活用したいのが、人事労務システムです。システムの活用によって、健康診断の受診状況や教育記録を一元管理でき、対応漏れの防止や担当者の負担軽減にもつながるでしょう。

6-2. 安全衛生の意識を高める啓蒙活動をおこなう

厚生労働省は毎年、全国安全週間(7月)と全国労働衛生週間(10月)を設けています。これらの機会を活用して、安全大会の開催や職場巡視、安全衛生に関する社内周知などをおこなうことで、従業員の意識を継続的に高めることができます。

法令対応としての最低限の取組にとどまらず、こうした啓蒙活動を通じて安全衛生を企業文化として根付かせることが、労働災害の予防につながります。

6-3. 過去の労働災害・ヒヤリハット事例を記録・共有する

労働災害は、重大事故の陰に無数の「ヒヤリ・ハット」が潜んでいるといわれています。

実際に事故が起きてからではなく、「危うく事故になりそうだった」という事例を日常的に記録・共有することが、再発防止と違反リスクの低減につながります。記録した事例はリスクアセスメントにも活用でき、安全衛生管理のPDCAを回す基礎データになります。

参考:ヒヤリハット活動でリスクアセスメント|厚生労働省

6-4. 社労士・産業医などの外部専門家を活用する

労働安全衛生法は改正頻度が高く、自社だけで最新の法令動向を追い続けるのは容易ではありません。

社労士には安全衛生管理体制の整備や法令対応の相談を、産業医には健康診断の事後措置やストレスチェック後のフォローを依頼するなど、役割に応じて外部専門家を活用しましょう。

6-5. 快適に働ける職場環境をつくる

労働安全衛生法が目指しているのは、危険がないだけの職場ではありません。

第71条の2では、事業者が快適な職場環境の実現に向けて継続的・計画的に取り組むよう努めることを定めています。作業環境の整備、作業方法の改善、疲労回復のための施設・設備の充実などが例として挙げられます。

働きやすい環境への投資は、採用・定着面でも企業の競争力を高める経営戦略のひとつです。法定義務の履行にとどまらず、快適な職場づくりに積極的に取り組みましょう。

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労働安全衛生法の違反は、「知らなかった」では済まされません。まず自社の安全衛生管理体制を棚卸しし、法令上の義務が漏れなく果たされているかを確認しましょう。問題が見つかった場合は、監督署の是正勧告を待つ前の自主的な対応が大切です。

チェックリストやシステムを活用して、担当者が変わっても対応品質が落ちない仕組みを整えていきましょう。

解説:社会保険労務士 / 小清水 春香(こしみず社会保険労務士事務所)

7. 労働安全衛生法違反を防止して従業員が安全に働ける環境を作ろう

倉庫の安全会議

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を守るための基本的な法律です。違反した場合には刑事罰だけでなく、民事上の損害賠償責任や行政上の措置、さらには社会的信用の失墜といった深刻なリスクを企業にもたらします。

法令対応の範囲は、安全衛生管理体制の構築から健康診断・教育の実施、リスクアセスメント、化学物質管理、熱中症対策まで多岐にわたります。「知らなかった」では済まされない義務が数多く存在するため、自社の対応状況を定期的に棚卸しする習慣が重要です。

法律を守ることはゴールではなく、すべての従業員が安心して働ける職場をつくるための出発点です。チェックリストや人事労務システムを活用して管理体制を整え、現場と連携しながら継続的な改善に取り組んでいきましょう。

自社の運用は労基署調査に対応できていますか? いつ来るか分からない立ち入り調査に向けて

普段から労務・勤怠管理を徹底していたとしても、労働基準監督署による立ち入り調査は、いつ来るのか事前に分かるものではありません。
そのため、自社の管理方法に問題がないのか不安を抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか。
そのような方に向けて、当サイトでは、社労士監修「事例を踏まえた労基署調査のチェックポイント」として、労基署調査のあれこれをわかりやすく解説した資料を無料配布しています。

◆この資料でわかること

  • 社労士が監修をした上で、実際に指摘を受けた企業の事例
  • 調査で提出を求められる必須書類のチェックリスト
  • 労働時間の適正な把握など、今すぐできる具体的な対策

「実際にどんなポイントを指摘されるのか事例を知っておきたい」「普段からどんな対応策を取っておくべきなのか知りたい」という方は、ぜひこちらから資料をダウンロードの上、お役立てください。

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