労働安全衛生法違反とは?企業に課される罰則や責任・義務を解説
更新日: 2025.8.28 公開日: 2025.3.3 jinjer Blog 編集部

「何が労働安全衛生法違反に該当するのか」
「労働安全衛生法に違反して事故が起きた場合の罰則を知りたい」
このようにお悩みの人事労務担当者も多いのではないでしょうか。
労働安全衛生法違反は、従業員の安全や健康を守るための法律で定められた事項を遵守していない状態を指します。違反した場合の罰則も定められており、労働安全衛生法を遵守するのは、企業が果たすべき義務です。
本記事では、労働安全衛生法違反の代表例を取り上げて解説します。労働安全衛生法違反の影響を低減させる方法も紹介しているため、自社に合った対策の参考にしてください。
普段から労務・勤怠管理を徹底していたとしても、労働基準監督署による立ち入り調査は、いつ来るのか事前に分かるものではありません。
そのため、自社の管理方法に問題がないのか不安を抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか。
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1. 労働安全衛生法とは


労働安全衛生法とは、職場での労働者の安全と健康を確保するための法律です。同法の第一条には、安衛法の目的が明記されています。
目的は、労働災害の防止を図るために、危害防止基準の確立、責任体制の明確化、自主的な活動を促進する措置を講じ、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することにあります。このような取り組みによって、職場における労働者の健康を守り、より良い労働環境を提供することを目指しています。
1-1. 労働災害とは
労働安全衛生法における労働災害は、労働者の就業に関連する設備や物質、作業環境によって引き起こされる、負傷、疾病、死亡などを指します。
労働安全衛生法では労働災害が発生しないように、企業に対してさまざまな対策を講じるように定めています。例えば、機械設備を使用して作業を行う際の安全確保や従業員に対する年1回の定期健康診断の実施などを義務付けています。
万が一、企業が労働安全衛生法の定めに違法した場合、企業に対して罰則が科せられてしまいす。
2. 労働安全衛生法違反による懲役刑と罰金刑


労働安全衛生法に違反した企業に課せられる罰則は、どの条文に違反したかによって異なるため、法律に反さないように注意しましょう。
ここでは懲役刑と罰金刑を科せられる主なケースを解説します。
2-1. 7年以下の懲役(不正の行為をした場合)
労働安全衛生法における厳しい罰則のひとつが、第115条の3第1項で定められた、登録検査機関の職員等が賄賂を受け取った場合です。具体的には、登録検査機関の職員などが職務に関連して賄賂を受け取り、不正な行為を行った場合、7年以下の懲役に処せられることがあります。
登録検査機関とは、政府の機関として、業務規程の認可を受けた製品検査を行うことができる検査機関が該当します。
2-2. 5年以下の懲役
第115条の3第1項から第3項でも登録検査機関の職員の不正についての罰則を定めています。
登録検査機関の職員等が職務に関連して賄賂を受け取った場合、または職務上で不正行為を行った場合にも、5年以下の懲役刑が科せられかねません。
2-3. 3年以下の懲役または300万円以下の罰金
労働安全衛生法第55条では、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤など、労働者が重度の健康障害を引き起こす可能性のある物質の製造や輸入、使用などを禁止しています。
このような禁止事項に違反した場合の罰則を定めているのが第116条です。第116条では第55条に違反した場合の罰則として3年以下の懲役または300万円以下の罰金を定めています。
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
2-4. 3年以下の懲役または250万円以下の罰金
労働安全衛生法第115条の4 第1項に基づき、賄賂を供与した側にも厳罰が科せられる場合があります。例えば、企業が登録検査機関の職員に賄賂を供与、またはその供与を申し込んだり約束したりした場合、3年以下の懲役または250万円以下の罰金が科せられることになります。
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
2-5. 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
労働安全衛生法の第117条では、都道府県労働局長の許可を取らずに、危険な作業を要する機械などの製造または検査を受けなかったなどの規定に違反した場合の罰則を定めています。具体的な罰則は1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
2-6. 6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金
労働安全衛生法の第119条は罰則として6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金を定めています。
対象となるケースの代表例は以下のとおりです。
- 労働災害防止のための措置や管理を怠ったケース
- 厚生労働省令で定める伝染性の疾病その他の疾病にかかつた労働者を働かせていたケース
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
3. 50万円以下の罰金


労働安全衛生法において、以下では50万以下の罰金を定めています。
- 第120条
- 第121条
- 第122条
3-1. 一般違反行為
労働安全衛生法第10条、第11条、第13条、第40条、第59条、第66条などでは、企業に対してさまざまな義務が規定されています。これらの義務に違反すると、最大50万円の罰金が科せられかねません。具体例は次のとおりです。
- 安全衛生管理体制の構築義務: 企業は、安全衛生管理者を配置し、安全衛生に関する活動を実施する義務があるものの、怠った場合に罰金が科せられる
- 記録義務: 労働災害の発生やその他の安全衛生に関する記録を適切に管理・保存する義務を怠ると、罰金が科せられる
- 届出義務: 労働者に関連する健康診断の結果や安全対策に関する報告を適切に行わない場合に罰金が科せられる
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
3-2. 登録機関等の違反
労働安全衛生法では、登録機関やその他関連機関にも厳しい規定が設けられています。これらの機関が定められた規則に違反した場合も、最大50万円の罰金が科せられることがあります。具体的な違反行為の例は以下のとおりです。
- 届出義務違反(第49条): 登録機関が必要な届出を行わなかった場合、第49条に違反するため、罰金を科せられることがある
- 許可なしの業務廃止(第75条の10): 特定の業務を許可なしで廃止した場合にも第75条の10への違反として罰金が科せられることがある
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
3-3. 使用者責任における罰金
労働安全衛生法第122条では、法人の従業者が違反行為を行った場合、その法人にも罰金が科せられることが規定されています。この場合、法人に対しても同額の罰金が科せられるため、個人の責任だけでなく企業全体の責任も問われる可能性があるでしょう。
例えば、企業の管理職が労働安全衛生法に違反する行為を行った場合、その企業も罰金を支払わなければならないことがあります。企業は従業員の行動に対して一定の責任を負うため、内部の規律をしっかりと管理することが求められます。
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
4. 過料(罰金刑ではなく行政処分に近い軽微な制裁)


労働安全衛生法における過料は、罰金刑とは異なり、行政処分として軽微な制裁を意味します。
過料には、50万円以下および20万円以下のものがありますが、これらは主に行政的な違反に対して科せられます。
4-1. 50万円以下の過料
労働安全衛生法第122条の2で定められているのは、コンサルタント会の届出や検査命令違反に対して、50万円以下の過料が科せられることです。
これにより、法定の届出義務や業務に関連する命令に従わない場合、過料という形で軽微な制裁を受けることとなります。
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
4-2. 20万円以下の過料
労働安全衛生法第123条では、財務諸表に関する虚偽記載や記載拒否に対して、20万円以下の過料が定められています。
これらの違反は、企業が財務報告を正確に行わないことに対する制裁です。財務内容を不正に記載したり、拒否したりすることは企業の信頼性に直結するため、過料として軽い制裁が科されます。
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
5. 労働安全衛生法違反により企業が負う責任


労働安全衛生法違反によって企業が負う責任は、以下の4つです。
- 民事上の責任
- 行政上の責任
- 刑事上の責任
- 社会的な責任
どのような責任が課されるのか、順番に見ていきましょう。
5-1. 民事上の責任
違反が原因で労働災害が発生した場合、民事上の責任として損害賠償を求められる可能性があります。
労災保険の給付によって、怪我の治療費は補償できますが、精神的苦痛は対象外です。従業員が安全・健康に働くための環境づくりを怠った企業は、民事上の責任として損害賠償の支払い義務が発生します。
参考:労災補償|厚生労働省
5-2. 行政上の責任
違反により労働災害が発生する懸念がある場合、機械設備の使用停止や作業停止など行政処分の可能性があります。
行政処分は、未来の危険を防止するために実施されるものです。そのため、実際に労働災害が発生していなくても、行政上の責任が発生するケースがあります。
5-3. 刑事上の責任
労働安全衛生法で定められている労働災害の発生を防止するための措置を実施しなかった場合、同法の罰則が刑事責任として課されます。
刑事上の責任は、労働災害発生の有無に関係なく、違反が発覚したら罰則対象です。また、労働災害の防止を怠って従業員が死傷した場合、業務上過失致死傷罪に問われます。
5-4. 社会的な責任
違反によって、企業に社会的な責任も発生します。社会的な責任とは、企業が世間からの信用を失うことです。
民事・行政・刑事上の責任が発生した場合は、労働安全衛生法に違反したとして世間からの信用を失いかねません。信用を失うと既存顧客との取引停止や新規受注の減少など、事業への影響が考えられます。
6. 労働安全衛生法で企業が果たすべき義務の一覧


労働安全衛生法において、企業が果たすべき義務を一覧で紹介します。
| 義務の内容 | 労働安全衛生法の条番 |
| 職場における従業員の安全と健康の確保 | 第1章/第3条
第4章/第20~27条 |
| 安全衛生管理体制の構築 | 第3章/第10~16条 |
| 委員会の設置 | 第3章/第17~19条 |
| リスクアセスメントの実施 | 第4章/第28条の2 |
| 危険物の表示 | 第4章/第57条の1~4 |
| 従業員への安全衛生教育の実施 | 第6章/第59~60条の2 |
| 作業環境の測定と管理 | 第7章/第65条の1~4 |
| 従業員の健康維持のための措置 | 第7章/第66条の1~10、第69条 |
参考:労働安全衛生法(令和4年6月17日施行)|e-GOV法令検索
それぞれでどのような義務が発生するか、順番に見ていきましょう。
6-1. 職場における従業員の安全と健康の確保
従業員が安全に健康を維持しながら働ける環境を確保することは、企業が果たすべき責任です。単純に基準を守るのでなく、労働条件の改善や快適な職場環境を目指すことで、安全と健康を確保するよう定められています。
健康障害の原因となる化学物質を取り扱う場合や、高所作業による危険が伴う場合など、業種によって対策するべき危険はさまざまです。自社の状況に応じて、適切な環境づくりを実施しましょう。
6-2. 安全衛生管理体制の構築
安全衛生管理体制の構築にあたっては、次のとおり義務と努力義務との違いを把握しておきましょう。
- 選任が義務となる管理者・責任者
- 努力義務に留まる体制整備
6-2-1. 選任が義務となる管理者・責任者
選任が義務となる管理者・責任者、選任方法は次のとおりです。
| 管理者・責任者 | 法定義務 | 概要 | 選任方法 |
| 総括安全衛生管理 | 第10条 | 企業全体の安全衛生管理を統括する責任者 | 事業の実質的統括管理する権限及び責任を有する者 |
| 安全管理者 | 第11条 | 現場での安全管理を担当する責任者 | 危険作業場での選任義務、一定の資格を有する者 |
| 衛生管理者 | 第12条 | 職場の衛生状態と労働者の健康を守る責任者 | 有害物質を取り扱う場所で選任、衛生に関する資格を有する者 |
| 産業医 | 第13条 | 企業における健康管理を担当する医師 | 企業内で健康診断等の専門的知識を有する医師 |
| 作業主任者 | 第14条 | 特定の作業における安全を監督する責任者 | 特定作業における資格や経験を有する者 |
| 統括安全衛生責任者/元方安全衛生管理者/安全衛生責任者 | 第15条・第15条の2・第16条 | 複数の事業所や現場で安全衛生活動を統括する | 企業全体または複数の現場を統括する管理者を選任 |
6-2-2. 努力義務 に留まる体制整備
企業が取り組むべき努力義務もあります。これらは義務ではなく、企業が自主的に行うことが望ましい体制整備です。努力義務に関する体制整備を行うことで、より安全で健康な職場環境を作り上げることができます。
具体的な努力義務の例は次のとおりです。
- 安全衛生推進者・衛生推進者(第12条の2):安全衛生推進者や衛生推進者は、企業内で安全衛生活動をサポートし、労働者に対して安全衛生の啓蒙活動をおこなう
- 規模事業場での医師等による健康管理(第13条の2・第13条の3):小規模事業場では、産業医の選任が義務はないものの、労働者の健康管理をおこなうために、医師等による健康管理を実施する
- 努力義務:管理者・推進者への能力向上教育(第19条の2):安全衛生管理者や推進者に対しては、定期的に能力向上のための教育をおこなう
6-3. 安全衛生委員会等の設置
労働安全衛生法において、安全衛生委員会や衛生委員会、安全委員会の設置は、労働者の安全と健康を守るために欠かせない体制の一環として義務づけられています。一定の規模に該当する事業場に対して設置が義務づけられている委員会は次のとおりです。
- 安全委員会(第17条):労働災害を防止するために、安全委員会の設置が義務づけられている
- 衛生委員会(第18条):労働者の健康を守るため、衛生委員会も設置が義務づけられている
- 安全衛生委員会(第19条):安全委員会と衛生委員会を統合した委員会
委員会の構成についても、労働安全衛生法には規定があります。委員会は事業者側と労働者側が各50%の割合で構成され、両者が平等に議論に参加することが求められます。委員会の議事は、議事録として記録・保存する義務があり、議事録は後日、内容を確認できるように管理しておかなければなりません。議長は通常、事業者側からそれぞれ選任されます。
なお、企業規模が50人未満の事業場では、安全委員会や衛生委員会の設置が義務ではありません。しかし、安全衛生の管理体制が十分に機能しないことを防ぐために、代替的な協議体の設置が推奨されています。小規模事業場でも、安全衛生活動を促進するための体制を作り、労働者の安全と健康を守る取り組みを進めましょう。
6-4. 危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)の実施
リスクアセスメントは、職場の危険性や有害性を評価し、それらを軽減するための措置を講じるプロセスです。労働安全衛生法の第57条・第57条の3では、化学物質を取り扱う事業場に対して、ラベル表示・SDS対象化学物質を扱う場合の調査義務を定めています。
また、労働安全衛生法第28条の2では機械や設備、作業行動に関する一般的なリスクについても、努力義務としています。
リスクアセスメントに取り組む際は次のような手順を踏むのが一般的です。
- 特定: リスクの源を特定する
- 評価: 特定されたリスクの危険度を評価する
- 措置: 評価結果に基づき、リスク軽減のための措置を講じる
- 記録: 実施した内容を記録として残す
また、厚生労働省が提供するリスクアセスメントツールを用いると、より効率的に調査・評価を進められます。
6-5. 機械等並びに危険物及び有害物に関する規制(表示・文書交付等)
危険物や有害物を取り扱う事業者には、次のとおりこれらの物質に関する表示や文書交付が義務づけられています。
- 容器・包装へのラベル表示 4項目(第57条の1):危険物や有害物質を扱う場合、その容器や包装にはラベル表示が義務づけられている
- 文書(SDS)交付義務と変更時の通知(第57条の2):化学物質の危険性、取り扱い方法、応急措置、保管方法などを記載した文書の交付と変更時の通知が義務づけられている
ラベル表示にあたっては、GHS(Globally Harmonized System)に基づく整合表示が推奨されています。標準化されたラベル表示を行うことで、国際的にも通用する表示が可能です。表示免除の範囲や、ラベル表示に関するテンプレートも提供されています。
6-6. 安全衛生教育の実施
労働安全衛生法に基づき、企業は労働者に対して安全衛生教育を実施する義務があります。特に、新たに雇用された労働者や配置転換を受けた労働者には、適切な教育を提供しなければなりません。
- 雇入れ時・配置転換時の教育(第59条の1、2):新たに雇用された労働者や配置転換された労働者には、業務に従事するために必要な安全衛生教育を実施することが義務づけられている
- 特別教育・危険有害業務リスト(第59条の3):危険を伴う業務に従事する労働者には、特別教育をおこなうことが義務づけられている
- 職長等教育(第60条):職長や指導的役割を担う労働者に対しては、職長等教育を実施する
また、努力義務として第60条の2では、現任の労働者についても、継続的な安全衛生教育を行うことが推奨しています。
6-7. 作業環境測定・評価および作業管理
作業環境測定と評価は、労働者の健康を守るために欠かせない活動です。労働安全衛生法では、特に作業環境におけるリスクを管理し、労働者が安全に働ける環境を提供するための義務が定められています。具体的には次のとおりです。
- 指定屋内作業場での定期測定(第65条の1):指定された屋内作業場において定期的に作業環境の測定をおこなう義務がある
- 測定結果の評価と改善措置(第65条の2):測定を行った結果、そのデータに基づいて評価を行う義務がある
- 記録保存(第65条の1・第65条の3):測定結果や評価の内容、改善措置に関する記録を保存する義務がある
また、第65条では作業管理や作業時間管理については、企業に対して努力義務を課しています。
なお、第65条の5では、企業は必要に応じて労働衛生コンサルタントを活用して作業環境の評価や改善に取り組むことを認めています。労働衛生コンサルタントは専門的な知識を持ち、作業環境の改善に向けた提案や指導が期待できるでしょう。
6-8. 従業員の健康維持のための措置
労働者の健康を守るためには、定期的な健康診断を実施が法的に求められています。健康診断は、労働者の健康状態を把握し、早期に健康問題を発見するために重要です。労働安全衛生法では次のとおり義務づけています。
- 定期・雇入れ・特殊健康診断(第66条の1〜3):労働者に対して定期的に健康診断を実施する義務がある
- 健診結果の記録・通知・医師意見聴取・就業上措置(第66条の4〜第66条の6):健康診断の結果は、必ず記録として保存し、必要に応じて労働者に通知する義務がある
- 長時間労働・高ストレス者等の面接指導(第66条の8〜第66条の8の4):長時間労働や高ストレスにさらされている労働者に対して健康状態を把握し改善するための支援を提供する
- 年1回のストレスチェック(第66条の10):年に一度、労働者に対してストレスチェックを実施する義務がある
他にも以下を努力義務としています。
- 健康教育・相談・福利厚生(第69条・第70条)
- 受動喫煙防止の取組(第68条の2)
なお、産業医との連携を強化し、労働者の健康を守るためのフローを確立することが重要です。また、健康診断結果や個人情報は保護されるべき情報であり、適切に管理することが求められます。
7. 労働安全衛生法の違反事例


労働安全衛生法に違反すると、厚生労働省のサイトにて企業名や違反の詳細が公表されます。
ここでは実際に労働安全衛生法に違反したケースを解説します。
7-1. 転落防止措置を講じていなかった
厚生労働省によると、労働安全衛生法の第20条に違反したとして、企業に6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金が課された事例があります。
建物内の高さ約5メートルの位置に設置した足場で作業中に、従業員が墜落して死亡する労働災害です。手すりの設置など、足場からの転落防止措置を取っていなかったため、企業に労働安全衛生法の罰則が適用されました。
参考:労働安全衛生法違反被疑事件を書類送検-開口部に墜落防止措置を講じなかった疑い-|厚生労働省
7-2. 労働災害の発生を報告しなかった
労働安全衛生法では次のようなケースが発生した際に、企業に遅滞なく、労働者死傷病報告を労働基準監督署長に提出することを定めています。
しかし、過去には4日以上の休業を要する労働災害が発生したにも関わらず、遅滞なく労働者死傷病報告を提出しなかったことで、書類送検されたケースがあります。
労働者死傷病報告を提出しなかった場合や虚偽の報告をした場合、50万円以下の罰金が科せられます。
参考:労働基準関係法令違反に係る公表事案(令和6年4月1日~令和7年3月31日公表分) | 厚生労働省労働基準局監督課
8. 労働安全衛生法違反の影響を抑える方法


違反した場合の影響を抑える方法として、以下のようなものが考えられます。
- そもそも違反しない
- 違反が判明したら事実確認を実施して対策する
- 再発防止策を講じる
- 行政からの指導に従って改善する
大前提として違反しなければ、影響を受けることはありません。
しかし、経営者が違反の事実を把握できていないことも考えられます。違反が判明した場合、状況を確認して必要に応じた対策をとりましょう。再発防止策を検討して実施することで、刑事罰が軽減される可能性があります。
行政処分の前に指導が入った場合、指示に従って改善しましょう。その場しのぎでなく、従業員の安全や健康を守る対策ができれば行政処分の対象になることはありません。
9. 労働安全衛生法に対応するメリット


労働安全衛生法に対応することで次のようなメリットが期待できます。
- 従業員のモチベーション向上
- 生産性の向上
- コスト削減や抑制
9-1. 従業員のモチベーション向上
労働安全衛生法に基づく取り組みがしっかりと実施されている企業であれば、従業員は自分の健康と安全を守るために十分な対策が講じられていると感じることができます。このような企業文化は、従業員の安心感を高め、モチベーションの向上につながります。
例えば、職場で定期的な安全衛生教育や健康診断が実施され、労働者が自分の健康を管理できるよう支援を受けることで、従業員は自分が大切にされていると感じるでしょう。
9-2. 生産性の向上
安全で健康的な職場環境を提供することは、従業員の健康を守るだけでなく、企業の生産性向上にも寄与します。例えば、作業環境が快適であれば、従業員の疲労感やストレスが軽減され、集中力が高まり、より効率的に業務をこなすことができるようになるでしょう。
さらに、労働安全衛生法に従うことで、作業のリスクが事前に特定され、適切な対策が講じられるため、予期せぬ事故の減少につながります。
9-3. コスト削減や抑制
労働安全衛生法に従って安全衛生管理を行うことで、長期的にはコスト削減にもつながります。例えば予防策を講じて労働災害を未然に防ぐことで、労働災害時に発生するコストを削減可能です。
10. 労働安全衛生法違反を防止して従業員が安全に働ける環境を作ろう


労働安全衛生法とは、従業員が安全で健康に働ける環境を整えるための法令です。違反した企業は、懲役や罰金などの刑事罰が科せられます。なかには7年以下の懲役が科せられるケースもあります。刑事罰以外に、行政処分や損害賠償、信用をなくしたことによる事業継続の危機に陥りかねません。
従業員の安全と健康を守るために、企業が果たすべき義務がさまざま定められています。取りこぼすことなく対応して労働安全衛生法違反を防止し、従業員の安全と健康を保持しながら働ける環境を整えましょう。労働安全衛生法に適切に対応すれば、従業員のモチベーションや生産性向上などのメリットが期待できます。



普段から労務・勤怠管理を徹底していたとしても、労働基準監督署による立ち入り調査は、いつ来るのか事前に分かるものではありません。
そのため、自社の管理方法に問題がないのか不安を抱えている担当者の方も多いのではないでしょうか。
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