労働安全衛生法における高所作業とは?高所作業の種類や安全対策を解説
更新日: 2025.7.31 公開日: 2025.3.14 jinjer Blog 編集部

「労働安全衛生法における高所作業の定義は?」
「具体的な安全対策は?」
上記の疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
高所作業は墜落・転落のリスクが高いため、労働安全衛生法に基づいた厳格な安全基準が定められています。適切な安全対策を講じなければ、労働災害につながる可能性もあるでしょう。
本記事では、労働安全衛生法における高所作業の定義や必要な安全対策を詳しく解説します。高所作業の安全管理を徹底したい方は、ぜひご一読ください。
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1. 労働安全衛生法による高所作業の墜落防止措置の定義とは


労働安全衛生法では、高所作業とは2メートルを超える高さでする作業と定義されています。
墜落や転落のリスクが高く、重大な労働災害につながる可能性があるのが2メートル以上の高さの作業です。
そのため、法律では「高さ2メートル以上の箇所で作業をおこなう場合は、作業床を設けてその橋や開口部などには囲い、手すり、覆いなどによって墜落そのものを防することが原則」と定められています。
ただし、現場の状況によりこの原則を守れない場合は、労働者に安全帯を使用させるなどの代替となる墜落防止措置が認められています。なお、この安全帯の装着は厚生労働大臣が「安全帯の規格」として定めている条件を満たさなくてはなりません。
高所作業は、適切な安全対策をしなければ大きな事故につながる危険性があるでしょう。労働安全衛生法に基づいた措置を確実に実施することが重要です。
参考:労働安全衛生法令における墜落防止措置と安全帯の使用に係る主な規定|厚生労働省
2. 高所作業の種類


高所作業は地上や作業床から2メートル以上の高さでおこなう作業全般を指します。高所作業に該当する作業としては以下のようなものがあります。
- 足場を使った建設工事や解体工事
- 天井内の点検業務
- 高層ビルの窓清掃
- 屋外設備の保守点検
なお、これらはあくまでも一例であり、高所作業に該当する作業はほかにも多くあります。
2-1. 足場を使った建設工事や解体工事
足場を使った建設工事や解体工事は、高所作業の一つです。足場には単管足場・枠組足場(ビティ足場)・くさび緊結式足場(ヒゲ足場)・移動式足場(ローリングタワー)などの種類がありますが、いずれも条件を満たした場合は高所作業に該当します。
足場の種類や構造は作業の安全性や効率に大きく影響します。無理な姿勢で作業をおこなうと転落や事故のリスクが高まるため、現場の状況に応じた適切な足場を使用しましょう。
足場の選定を誤ると、作業効率の低下や事故につながるおそれがあるため、慎重な判断が必要です。
2-2. 天井内の点検業務
天井内の点検業務とは、電気工事や配管工事、保守・点検など、天井の点検口から内部に入っておこなう作業を指します。
天井内の点検は、高い位置にある点検口から内部に入ることが必要になり、その際に足場を使用することになるため、高所作業に該当します。
天井空間に入り込む作業だけでなく不安定な足場の上で長時間作業するケースもあり、転落のリスクがある業務です。また、天井を踏み抜いて転落につながることもあります。
2-3. 高層ビルの窓清掃
高層ビルの窓清掃は、作業用のゴンドラやロープを使用しておこなわれる高所作業です。
ビルの外壁に設置された窓を清掃するためには、地上から手の届かない高さでの作業が必要になります。そのため、作業員は専用のゴンドラやロープを使って高所で作業をおこない、安全対策を徹底しなければなりません。
適切な安全対策を講じることで、作業員のリスクを最小限に抑えることが求められます。
2-4. 屋外設備の保守点検
風力発電設備や電波塔、太陽光パネルなどの屋外設備の保守点検は、高所作業に分類されます。
高い場所に設置されているため、定期的な点検やメンテナンスをおこなう際には、高所での作業が必要です。
屋外設備の保守点検は、設備の正常な運用を維持するために欠かせません。安全対策を徹底しながら、適切な方法で点検をおこないましょう。
3. 高所作業で発生しやすい事故


高所作業で発生しやすい事故は主に以下の3つです。
- 作業員の転落
- 道具や資材の落下
- 足場の不適正な操作・利用
事故が起きる原因や対策などをそれぞれ見ていきましょう。
3-1. 作業員の転落
高所作業における事故の一つが作業員の転落です。
高所での作業は、足元の不安定さやバランスの崩れによって転落のリスクが高まります。特に、脚立や足場の上で不適切な行動を取ると、事故の危険性が上がるでしょう。また、転落事故は作業員本人だけでなく、下で作業している人にまで影響を及ぼす可能性があります。
脚立の上で無理な姿勢をとったり、別の脚立に飛び移ろうとしたりした場合、バランスを崩して転落するリスクが高くなります。作業員の転落事故を防ぐためには、安全帯やヘルメットの着用を徹底し、安定した作業環境を整えることが大切です。
3-2. 道具や資材の落下
高所作業は、道具や資材の落下も事故を引き起こすため気を付けなければなりません。
作業中に手を滑らせたり、不安定な場所に道具を置いたりすると、資材や工具が落下する可能性が高くなります。高所から落ちるものは軽量なものでも勢いがついて凶器と化し、下にいる作業員や通行人に大きな被害を与えるおそれがあります。
事故を防ぐためには、道具や資材を置きっぱなしにすることがないように腰袋への収納を徹底し、加えて落下防止用のワイヤーを取り付けるなどの対策が必要です。
3-3. 足場の不適正な操作・利用
足場や高所作業車の不適切な操作は、転倒や衝突事故を引き起こす可能性があります。
高所作業車や移動式足場は、安全に作業をおこなうための必須道具ですが、適切に操作しないと事故を発生させるリスクを高めるものです。例えば、移動式足場のキャスターを固定しないままで作業を始めると、作業中に足場が動き転倒や落下の危険が生じます。
足場や高所作業車を使用する際には、必ず事前に操作手順を確認し、適切な方法で使用しましょう。
4. 高所作業の安全対策


高所作業の安全対策として、安全帯を含む装備の適切な使用や足場の設置に加えて、高所作業の危険性に対する教育の実施などが挙げられます。積極的にとりくみ、無事故を達成できるようにしましょう。
4-1. 安全帯(フルハーネスなど)の使用
安全帯は2019年の法改正により、名称が「墜落制止用器具」と名称が変更させています。しかし、現場では従来通り「安全帯」と呼ばれているため、こちらでも安全帯と表記します。
高所作業の際に作業員を守るためには、安全帯の着用が重要です。ベルトやロープ、フックで従業員の体を固定することで、足を滑らせた場合やバランスを崩した場合の落下を防ぎやすくなります。
安全帯の中でも、フルハーネスは肩・腰・腿など複数の箇所で全身を支えるタイプで、作業員の体を安定させ、墜落のリスクを大きく下げられる装備です。2022年1月の労働安全衛生法の改正に伴い、安全帯はこのフルハーネスの使用が原則とされました。ただし、作業する高さが6.75m以下の場合は、胴ベルト型の使用も認められています。
4-2. 足場の設置
高所作業をおこなうためには、足場の適切な設置が不可欠です。足場の設置は、種類を慎重に選び、法令に従った手順で組み立てましょう。
高所作業では、足場が作業員の安全を確保する基本的な手段です。建物の外壁や屋根・天井などで作業をおこなう場合、足場を使用することにより、安定した作業環境を確保でき転落や事故を防止できます。
適切な足場の設置に加え、足場の安全点検も必ず実施しなければなりません。手すりや交さ筋かいが取り外されていたり、脱落していたりするケースもあり、それらが重大な事故につながるケースがあるからです。
4-3. 高所作業車の使用
高所作業車は広範囲の作業や屋内作業には不向きですが、電波塔や電柱などの高所にある屋外設備の保守点検業務を安全に実施できます。
高所作業車には二段手すりや幅木などの転落防止措置がされており、安全装置や安全帯の取り付け設備などもあります。これらを適切に使用することで墜落や怪我などのリスクを大幅に下げることが可能です。ヘルメットや安全帯を正しく利用し、車両を安全に運用できれば従業員の安全を何重にも守れるようになります。
作業床の高さが10m以上の高所作業車の運転には講習が必要になるため、該当する場合は事前に受講する人を選出しておきましょう。
4-4. ヘルメットの着用
高所作業をおこなう際、ヘルメットの着用は必須です。
高所作業において、最も多く発生する事故の一つが転落による頭部の損傷です。厚生労働省の統計によると、はしごや足場からの落下事故では、頭部への損傷が7割を占めるデータがあります。
万が一の転落が発生した場合でも、適切なヘルメットを着用することで頭部への損傷を最小限に抑えられるでしょう。
参考:はしごや脚立からの墜落・転落災害をなくしましょう!|厚生労働省
4-5. 高所作業に関連する安全講習の受講
装備や足場によって従業員の安全を守ろうとしても、従業員本人の安全意識が低ければ事故のリスクを下げられません。安全への意識を高め、正しい知識を得るために以下のような安全講習の受講も検討しましょう。
フルハーネス特別教育
フルハーネス特別教育は、名称通りフルハーネスを正しく使用するための講習です。フルハーネスの重要性や安全性を理解し、正しく装着することで墜落事故のリスクを下げることが目的です。厚生労働省により、フルハーネスを使う労働者に対しては特別教育をおこなうことが義務付けられています。
フルハーネス特別教育はさまざまな団体が各地で実施しており、申し込み方法や実施時期が異なります。申し込む際は事業場の近くや、対象者が受講しやすい機関を選ぶとよいでしょう。
参考:「フルハーネス型安全帯使用作業特別教育」について|建設労働災害防止協会
ロープ高所作業特別教育
厚生労働省は、ロープ高所作業に該当する作業をおこなう際にロープ高所作業特別教育の実施を義務付けています。
ロープ高所作業には、ビル外壁のクリーニングや法面の吹き付け作業などで作業床を確保することが難しく、上から吊り下げたロープで体を保持しながらおこなう作業が該当します。
こうした作業ではロープのほどけや切断による墜落事故が発生しやすいため、ロープ高所作業特別教育が義務づけられました。該当する作業をおこなう際は従業員の安全を守るため、受講するようにしましょう。
参考:ロープ高所作業特別教育|一般社団法人 労働技能講習協会
高所作業車運転特別教育
高所作業車運転特別教育は、高所作業車を安全に運転する知識を得るための教育です。作業床の高さが10m未満の高所作業車を操作する場合は受講が義務付けられています。作業床の高さが10m以上上昇する高所作業車の操作には、技能講習も必要になります。
高所作業車は機体本体の操作だけでなく、路面や天候、周囲の状況にも注意し、作業中の人の安全にも配慮しなければなりません。高所作業特別教育を受けることで義務を果たし、安全に運用できるようにしましょう。
参考:高所作業車運転特別教育|一般社団法人 労働技能講習協会
高所作業車運転技能講習
作業床の高さが10m以上になる高所作業車を運転する際は、高所作業車運転技能講習を修了させなければならないと定められています。この講習を受けることですべての高所作業車の運転が可能になります。
作業する高さが10m以上になる場合、墜落事故が発生した場合の被害は重大なものになります。そのような事故が発生しないように、作業員の安全への意識と運転技能を確保することが求められています。
参考:高所作業車運転技能講習|一般社団法人 労働技能講習協会
5. 2022年1月から高所作業時のフルハーネス着用が義務化


高所作業でのフルハーネスの着用は、2022年1月から法令により義務化されました。
フルハーネスの義務化は、以下のように段階的に導入されています。
| 2018年4月 | 「第13次労働災害防止計画」において、フルハーネスの使用義務化を推進 |
| 2019年2月 | 高さ6.75m以上(建設業では5m以上)の高所作業で、フルハーネス型安全帯の着用が義務化 |
| 2019年7月 | 従来の胴ベルト型安全帯の製造が禁止 |
| 2022年1月 | 猶予期間が終了し、胴ベルト型安全帯の使用が禁止。フルハーネスの着用が完全義務化 |
ただし、高さ6.75m以下でフルハーネスを装着すると、逆に地面に到達してしまうリスクがある場合は着用義務の例外となります。必要なシーンを理解し、適切に活用することが大切です。
今後は必ずフルハーネスを着用し、安全な作業環境を提供しましょう。
参考:安全帯が「墜落制止用器具」に変わります!」|厚生労働省
6. フルハーネス義務化により企業がすべき対応


フルハーネス義務化により企業がすべき対応は下記の3つです。
- 新しい規格のフルハーネスを使用する
- 点検を適切におこなう
- 安全衛生特別教育を受講させる
それぞれの内容を詳しく解説していきます。
6-1. 規格に対応した安全帯を使う
2022年1月以前に購入したフルハーネスは、新しい規格に対応していない可能性があります。必ず最新規格のフルハーネスを導入しましょう。
旧規格の安全帯型ハーネスと新規格のランヤード(ハーネスに付ける命綱)を組み合わせると、墜落時に十分な安全性を発揮できないおそれがあります。
作業員の安全を確保するためには定期的に点検をおこない、使用するフルハーネスが正常な状態であることの確認が必要です。
フルハーネスを使用する作業員は、安全衛生特別教育を受ける義務があります。特別教育とは、労働者が特定の危険または有害な業務に従事する際に、安全や衛生に関する専門的な教育を実施することです。
内容や対象業務、必要な資格や講習は、厚生労働省のホームページで詳しく案内されています。
参考:労働安全衛生関係の免許・資格・技能講習・特別教育など|厚生労働省
6-2. 定期的な点検を実施する
フルハーネスの安全性を確保するためには、定期的な点検の実施も欠かせません。
日常点検に加えて、一定期間ごとの定期点検もおこないましょう。定期点検の間隔は、半年を超えないことが推奨されています。点検項目は製品の取扱説明書に記載されている項目に準拠します。また、ランヤードのロープ類は摩耗が早いため、1年以上使用しているものは短い間隔で定期的な目視点検が求められています。
フルハーネスの交換時期は、使い方に左右される部分はあるものの使用開始から3年とされています。ランヤードはさらに短く、2年が目安だとされています。製品によって差がある部分であるため、取扱説明書に従って交換時期を超えた使用をしないように注意しましょう。
6-3. 安全衛生特別教育の受講
フルハーネス特別教育やロープ高所作業特別教育、高所作業車運転特別教育など、高所作業に関連する特別教育の受講は以前は義務付けられていませんでした。しかし、2018年6月の労働安全衛生法改正に伴って義務化され、「事業者は危険・有害な作業に労働者をつかせる場合には特別教育・安全衛生教育を行い、災害の防止に努めなければならない」と定められています。事業者は必要な特別教育を受講させなければなりません。
特別教育の実施義務を果たしていない場合は、罰則が科される可能性もあります。
参考:労働安全衛生法 第六章 労働者の就業に当たっての措置|安全衛生情報センター
7. 高所作業の条件を把握して労働安全衛生法に従った労働環境を作ろう


労働安全衛生法では、高所作業の定義や安全対策を定めています。具体的には、足場の設置基準やフルハーネスの着用義務などです。
対策を講じることにより、作業員の安全を守り企業の信頼性向上にもつながります。
企業は作業員が安全に作業できる環境を提供し、法令を守ることで事故防止に努めましょう。



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