属人化とは、特定の業務を一人の従業員が専属的に対応し、他者の介入を拒む状況を指します。属人化でメリットが生まれるケースもあるものの、看過できないデメリットが生じることも少なくないため、迅速な対応が必要です。

本記事では、特定の従業員が業務の属人化をわざとおこなう理由を解説します。企業が受ける悪影響や属人化への対処法と合わせてぜひ参考にしてください。

目次
1. 属人化をわざとする従業員の存在
2. 属人化をわざとおこなう5つの理由
3. 属人化で企業が受ける悪影響
4. 属人化をわざとすることでメリットがある業務
5. 属人化をわざとすることを防ぐ3つの対策
6. 属人化をわざとする従業員が出ないように業務の可視化を進めよう

1. 属人化をわざとする従業員の存在

属人化とは、特定の業務を一人の従業員のみで対応し、ほかの人が内容やノウハウを把握できない状態を指します。

この属人化は、業務の多さや専門性の高さなど、外的な要因によって発生することが多いです。

その一方で属人化をわざとするケースも存在します。

特定の従業員が業務を独占している状態で、故意的に情報を自分だけのものにし、他の人が介入できない状態にすることで、優位性を持とうとする行為です。

また、他者がわざと属人化を発生させるケースもあります。例えば、上司が一人の従業員に業務を押し付け、その人だけの業務とする形が挙げられます。

いずれのケースも、多くの場合で属人化はデメリットを発生させます。故意的な属人化が起きないようにするためには、労働環境や評価制度などを見直すことも考えなければなりません。

2. 属人化をわざとおこなう5つの理由

特定の従業員が業務の属人化をわざとおこなうおもな理由は、以下の5つです。

• 自分の価値や評価を高めたい
• 自分の能力やスキルに自信がもてない
• 変化を受け入れられない
• 他者への共有作業を面倒に感じる
• 保身のために他者へ責任を押し付けたい

それぞれの内容を具体的に解説します。

2-1. 自分の価値や評価を高めたい

自分の価値や社内評価を高めたいがために、わざと業務を属人化させていることもあります。

自分にしかできない・わからない仕事をあえて作ることで、自分自身に付加価値を付け、替えの利かない特別な存在になりたいのです。社内での立場や発言権を強くすることで、周囲から頼られていると感じて満足する人もいれば、あわよくば昇給や昇進を狙っている人もいるでしょう。

とくに個人成果主義の企業では、個々が成果を求めるあまり、自分の手柄を確保する目的で属人化が起こる風潮が見られます。自分の知識や業務ノウハウを他人が得ることで、相対的に自分の価値が下がることを恐れて属人化が進むのです。

2-2. 自分の能力やスキルに自信がもてない

業務の属人化は、自分の能力やスキルに自信がもてない人によっても進められます。他人と情報を共有すれば、自身の未熟さが露呈すると考えているのです。

業務の進め方が稚拙であるだけでなく、場合によっては知識やスキル不足から誤った処理をおこなっている可能性も否定できません。ミスが露呈しないよう、やっきになって業務の共有化を阻止します。

2-3. 変化を受け入れられない

新たな変化を恐れるあまり、わざと属人化を進めようとする人もいます。

たとえば、新人が入ってきて業務の流れが一新される可能性があることや、自分のやり方に異を唱える人が現れることなどを警戒し、属人化をさせることなどが挙げられます。

長年なじんだ業務の進め方に固執していると、他者が加わることで起こる変化に抵抗を覚えるものです。結果、自分一人で業務を抱えようとして属人化が起こります。

2-4. 他者への共有作業を面倒に感じる

他者への共有作業が面倒なために、わざと業務を属人化することもあります。

業務が多忙な場合、情報共有のためのマニュアル作成や、従業員教育にリソースを割くのを嫌うこともあるものです。とくに、業務の独自性や専門性が高い場合は、他者への引継ぎに労力を要するために、あえて属人化を進める傾向が見られます。

2-5. 保身のために他者へ責任を押し付けたい

業務の属人化は、担当者の意思だけでなく、経営陣や管理職が従業員へ責任を押し付けたいがために起こることがあります。

一人の従業員を特定業務に選任することで、万が一問題が発生した場合には自分の責任を回避可能です。対象者に全責任を負わせるよう仕向け、切り捨てることで、自身の保身を図る意図があります。

3. 属人化で企業が受ける悪影響

業務の属人化により、企業は以下のような悪影響を受ける可能性があります。

• 業務にボトルネックが生じる
• 業務の品質や効率が保証できない
• ノウハウが共有化されない
• 社内の風通しが悪化する
• 担当者を適正に評価できない
• 対象の従業員に負担がかかる
• 不正や隠ぺいが起きる可能性がある

詳しい内容を確認していきましょう。

3-1. 業務にボトルネックが生じる

ボトルネックが生じることが、業務の属人化で企業が受ける大きな悪影響です。

属人化されている業務は、その人がいないと成立しません。担当者が休暇を取った際には業務の流れがそこでストップし、遅滞につながります。計画的な休暇であれば事前の調整が可能ですが、体調不良や身内の不幸、急な退職などで準備や引継ぎができなかった場合にはそうもいきません。

とくに期日が迫っている業務や重要案件でボトルネックが発生すると、企業側は大ダメージをこうむるでしょう。

3-2. 業務の品質や効率が保証できない

属人化された業務では、業務の品質や効率が保証できないデメリットもあります。

担当者以外が業務手順を把握していないため、作業の進め方に問題があってもわかりません。担当者のスキルや能力に不足がある場合にも、改善策を講じるのが難しいです。

属人化された業務では、内容の正確性についても保証ができないため、万が一ミスがあっても気づかれにくいでしょう。無自覚にミスしていることもあれば、あえてミスを隠蔽している可能性もあります。

業務ミスを放置していたのでは、企業としての責任問題に発展し、信用を失いかねません。特に経理上の不正や不適切会計があった場合には、重い行政処分が下されることもあるため注意が必要です。

3-3. ノウハウが共有化されない

属人化によって、ノウハウが共有化されないという悪影響も受けます。

担当者以外の従業員が該当業務のノウハウを身につけられなくなるため、ナレッジの継承が難しくなるでしょう。属人化している従業員が退職した時点で、企業から技術やノウハウの喪失が起こる可能性があります。

3-4. 社内の風通しが悪化する

社内の風通しが悪化するのも属人化で発生する問題点です。

属人化している業務では意見交換の場が設けられず、社内コミュニケーションが滞ります。連携がとれなくなることでミスが発生したり、業務の効率が悪くなったりする悪影響が考えられます。

また、コミュニケーション不足は、他者に対する理解を阻害してしまうため、社内の雰囲気を悪化させます。属人化している業務に近い従業員のモチベーションダウンにつながることもあるでしょう。

3-5. 担当者を適正に評価できない

属人化されている業務の担当者に対し、適正に評価できない可能性もあります。

業務の進め方を把握しにくいため、効率が悪い場合やスキルが不足している場合にも正当な評価が下せないでしょう。業務を独占していることから忖度し、実際より高めの評価になることもあります。

反対に仕事を押し付けられる形で属人化している業務の担当者は、負担が大きいにも関わらず過小評価されてしまうことがあります。評価への不満が募り、モチベーションダウンや退職につながる恐れがあります。

3-6. 対象の従業員に負担がかかる

属人化が本人の意思ではなく、企業側や上司の思惑でおこなわれていた場合には、対象者に過度の負担がかかることがあります。

ほかの従業員が仕事を代われないことから、休暇の取得もままなりません。体調が悪い場合でも、無理に出勤してくるでしょう。

肉体的な負担とともに、精神的なプレッシャーがかかる場合もあります。

自分の意思に反して業務を一任されている責任から、重圧に耐えきれず、退職に至る可能性も否定できません。退職前に引継ぎができていない場合には、企業運営に多大な悪影響を与えるでしょう。

3-7. 不正や隠ぺいが起きる可能性がある

属人化している業務は、他の人が介入しにくいため、不正や隠ぺいが発生しやすくなります。

特定の業務の権限を一人が握ってしまうと、「誰も気づかない」「ばれないだろう」という考えが生まれやすくなるからです。

また、一人で業務を抱えている場合、ミスをしても自分で解決しなければならないという思考が働きます。トラブルを抱え込んだり、隠ぺいしようとして、問題が大きくなって初めて露呈するという事態になりかねません。

4. 属人化をわざとすることでメリットがある業務

属人化は企業にとってのリスクになりやすいですが、一部の業務においてはメリットになることがあります。属人化が強みになる業務を4つ解説します。

4-1. 専門性が求められる業務

高度なスキルや専門的な知識が求められる業務では、属人化することでメリットが発生する可能性があります。

専門性の高い研究や開発などでは、事業の内容が外部に流出すると大きな損失になります。関係先との信頼関係の構築も必要になるため、限られた人物にのみ業務を任せ、可能な限り情報流出を防ぐといった方法が考えられます。

後継者の育成や知識の共有が不要である場合は、属人化は強みになるでしょう。

4-2. クリエイティブな業務

独自性や個性が重視されるクリエイティブな業務では、個の集合体として部署や企業をとらえることがあります。

そのような現場では共有化や標準化は不要であり、属人化をわざとさせることでより強い個性や、唯一無二のアイデアを発掘できる可能性があります。

芸術性や創造性を発揮することが求められる業務では、属人化で個を強めることがメリットになるでしょう。

4-3. 短期のプロジェクトやミッション

短期のプロジェクトやミッションでは、限られた時間とリソースの中で効率的に業務を進めなくてはなりません。

そのような条件下では、後継者の育成や情報などにコストをかける余裕はないため、あえてある程度属人化させて効率よく業務を進めたほうがよいことがあります。

経験豊富な人材やスキルを持った人材を厳選し、少数精鋭でおこなうことを前提とした業務では、属人化がプラスに働くと考えられます。

4-4. 長期的な信頼関係が求められる業務

顧客や取引先との信頼関係が求められる業務では、担当者を固定したほうがよい関係を築きやすいです。長年やり取りをすることで自然と関係は深まっていき、スムーズに業務が進みやすくなります。

また、サポート業務では相手の個性や需要を把握することで、より質の高いサービスを提供できます。属人化をわざとさせ、人と人とのつながりを強めることはこうした業務において大きな強みになるでしょう。

5. 属人化をわざとすることを防ぐ3つの対策

属人化をわざとすることを防ぐおもな対策方法は、以下の4つです。

• 業務量や内容を可視化する
• 業務を標準化しマニュアルにまとめる
• 業務分担を割り振り直す
• 属人化が本人にとっても悪影響があることを教える

具体的には、以下のように対応しましょう。

5-1. 業務量や内容を可視化する

属人化がわざと起こるのを防ぐには、業務のプロセスやフローを洗い出して可視化し、従業員の対応状況を明らかにしましょう。

現状を正しく把握するのが、属人化防止への第一歩です。まずは業務の分担状況を整理しましょう。各自の分担を表やフローチャートにまとめれば、分担量や権限などの偏りも見える化できます。

必要に応じ、外部コンサルタントを頼るのも有効です。

5-2. 業務を標準化しマニュアルにまとめる

業務を標準化しマニュアルとしてまとめることも、属人化の防止に役立ちます。

各プロセスを標準化すれば、人を選ばずに業務を担当できるようになり、特定個人の裁量を減らせるでしょう。標準化した内容をマニュアル化することで、ノウハウが容易に引き継げるメリットもあります。

情報の共有システムを用意するなど、ナレッジを蓄積する仕組みを作っておけば、企業の運営状況や時流に則した対応が取りやすいでしょう。マニュアルは作ったきりにせず、運用に応じてブラッシュアップしていくのが大切です。

ツールを導入し、あらかじめルール作りをおこなっておけば、情報共有や業務の標準化が図りやすくなります。

5-3. 業務分担を割り振り直す

業務の全容がつかめたら、特定個人に作業量や裁量が偏らないよう配慮しつつ、改めて業務の分担を割り振りし直しましょう。

業務を割り振りし直した後も、将来的な属人化を防ぐため、定期的に状況を見直し最適化していく必要があります。部署や職務の異動をおこなうジョブローテーションを実施する施策も有効です。

5-4. 属人化が本人にとっても悪影響があることを教える

属人化をわざとしている本人は、自分が優位に立っていることに安心していることが多いです。しかし、周囲の人物や上司は属人化をしている意図に気づいていることがあります。

「あの人はわざと業務を独占して評価を得ようとしている」と見られている可能性があり、それによって評価や信頼感が下がることもあり得るのです。

これを周知すると属人化の解消や予防につながります。属人化をわざとしている本人はもちろんですが、属人化の予防のために業務の独占はマイナスに働くことを知ってもらいましょう。

6. 属人化をわざとする従業員が出ないように業務の可視化を進めよう

属人化は、担当者の自己顕示欲や承認欲求、損得感情、業務状況、企業側の思惑などによって発生するのが一般的です。

一部のケースを除き、属人化は企業に悪影響をもたらします。記事の内容を参考に対策を取り、企業の健全化を図りましょう。