人事部門のためのBCP対策とは?安否確認・労務管理のポイントを解説
公開日: 2025.8.4 jinjer Blog 編集部

自然災害やパンデミックなど、企業活動を脅かす緊急事態は、いつ起こるか予測がつきません。こうした事態に備える「BCP対策(事業継続計画)」の重要性は広く認識されていますが、人事労務部門として、具体的に何をすべきか、明確な方針をお持ちでしょうか。
一般的なBCP対策は、サプライチェーンやシステムの復旧に焦点が当たりがちです。しかし、事業継続の最も根幹をなすのは、言うまでもなく「人」です。従業員の安全を守り、緊急時においても適切な労務管理を維持し、生活の基盤である給与を滞りなく支払う。これらは、人事部門に課せられた極めて重要な責務です。
本記事では、特に人事部門が主体となって取り組むべきBCP対策の要点について解説していきます。
目次
その人事データ、ただ入力するだけで終わっていませんか?
勤怠、給与、評価…それぞれのシステムに散在する従業員データを一つに集約し、「戦略人事」に活用する企業が増えています。
「これからの人事は、経営戦略と人材マネジメントを連携させることが重要だ」「従業員の力を100%以上引き出すには、データを活用した適切な人員配置や育成が必要だ」そう言われても、具体的に何から始めれば良いか分からない担当者様は多いでしょう。
そのような方に向けて、当サイトでは「人事管理システム導入完全ガイド」という資料を配布しています。
◆この資料でわかること
- 人事管理システムを活用した業務効率化の方法
- 人事データにはどのような活用価値があり、活用することで会社が得られるメリットは何か
- 正しい人事データを効率的に管理するためにはどんな機能が必要なのか
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1. BCP(事業継続計画)対策とは?


BCP(事業継続計画)とは、「Business Continuity Plan」の略で、緊急事態の際に最小限の被害にとどめ、以降の事業を継続できるようにまとめた計画です。
災害やテロ、未知のウイルスの流行といった、企業の緊急事態時には事業の継続や早期復旧をさせなければなりません。事業の継続ができない事態に陥り、企業の信頼低下や倒産といった可能性を防ぐためにも、リスクマネジメント対策としてBCPは必要な対策と言えます。
また、介護業界では、3年間の猶予期間を設けた後、2024年からBCP策定が義務化されることが「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」内で明記されており、既に対応が義務化されています。
1-1.従来の防災活動やBCMとの違いや関係性
BCPとよく似た施策に防災活動やBCMがあります。BCMは「Business Continuity Management」の略称で、BCPを策定・運用・改善するために必要な、平常時における包括的なマネジメント活動を指します。
BCP対策と防災活動の概要と違いは下記の通りです。
| BCP対策 | 防災 | |
| 目的 | 安全確保および事業の継続や早期復旧 | 従業員の身体、生命の安全確保 |
| 想定する事象 | 事業や業務の継続に支障をきたすあらゆる状況 | 拠点地域の自然災害 |
| 評価基準 |
・経営資源の被害を最小限に留めること ・経営やステークホルダーへの影響 ・復旧の速度、復旧レベル |
・死者数 ・損害額 ・復旧の速度 |
防災は自然災害を想定しているのに対し、BCP対策では、より広義なあらゆるインパクトを想定しています。
防災が主に建物や設備といった経営資源への物理的な被害を抑えることを目的とするのに対し、BCPは事業活動や収益といった、より経営的な観点でのリスクに備える点が異なります。
2. なぜ「人事部門のBCP対策」が重要なのか


全社的なBCPの中でも、人事部門が担う役割は、以下の3つの観点から特に重要であると考えられます。
2-1. 従業員の安全確保と安否確認
緊急事態発生時、最優先されるべきは従業員の生命と安全です。
迅速かつ正確に全従業員の安否を確認し、必要な支援を行う体制を構築することは、企業の社会的責任であり、人事部門が中心となって果たすべき役割です。
2-2. 事業継続の根幹である「人」の管理
設備やシステムが復旧しても、従業員が安心して働ける状態でなければ、事業の本格的な再開は困難です。
緊急時においても、従業員とのコミュニケーションを維持し、適切な人員配置や勤怠管理を行うことは、事業復旧の原動力となります。
2-3. 緊急時における法的な労務管理義務
緊急時であっても、労働基準法をはじめとする各種法令の遵守義務が免除されるわけではありません。
休業時の手当の支払いや、労働時間の管理、安全配慮義務など、平時とは異なる状況下で、法に則った適切な労務管理判断が求められます。
3. 人事部門がBCPで定めるべき主要項目


人事部門が策定するBCPには、具体的にどのような項目を盛り込むべきでしょうか。ここでは、主要な4つの項目をご紹介します。
3-1. 緊急連絡体制と安否確認フロー
誰が、どのツール(電話、メール、安否確認システム等)を使って、どのように安否確認を実施するのか。
そして、集約した情報をどこに報告するのか。明確なフローと連絡網を事前に定めておくことが不可欠です。
3-2. 出社・在宅勤務の判断基準と指示系統
「どのような状況になったら、出社禁止とするのか」「在宅勤務に切り替える基準は何か」といった判断基準を明確に決定します。
そしてそれを誰が決定し、全従業員に周知するかの指示系統を明確にしておく必要があります。
3-3. 給与支払・勤怠管理の代替手段
オフィスへの出社が困難、あるいは基幹システムが停止した場合でも、給与計算と支払いを滞りなく行うための代替手段を確保しておくことは、従業員の生活を守る上で極めて重要です。
クラウド型の給与システムや、外部委託なども選択肢となり得ます。
3-4. 従業員のメンタルヘルスケア体制
大規模な災害などを経験した従業員には、精神的なケアが必要となる場合があります。
相談窓口の設置や、産業医との連携など、有事の際のメンタルヘルスケア体制についても、事前に検討しておくことが望ましいでしょう。
4. 従来型の人事データ管理が抱える問題と解決策


上記の項目を計画しても、その実行の元となる「人事データ」が、緊急時にアクセスできなければ意味がありません。
実は、従来の人事データ管理方法そのものが、BCPの大きな障壁となっているケースが少なくありません。
4-1. 従来型の人事データ管理がBCPの障壁となる理由
- 情報の分散(サイロ化):
「緊急連絡網はExcel」「従業員名簿は紙のファイル」「勤怠データは社内サーバー」「給与データは別のシステム」…このように情報がバラバラに管理されていると、安否確認や給与支払に必要な情報を即座に集約することが困難です。
- アクセス不能リスク:
紙の書類や、社内に設置されたサーバー(オンプレミス)でデータを管理している場合、オフィス自体が被災すれば、全ての情報にアクセスできなくなるリスクがあります。
- 情報の不整合:
Excelの連絡網が更新されておらず、最新の情報は紙の従業員名簿にしかない、といった情報の不整合は、緊急時の迅速な対応を妨げる致命的な要因となり得ます。
4-2. 解決策:人事情報を「ワンデータベース」で一元化する
これらの課題に対する最も有効なアプローチの一つが、分散した人事情報を、クラウド上の「ワンデータベース」に一元化しておくことです。
これは、従業員の基本情報から、勤怠、給与、評価といったあらゆる人事データを、一つの統合されたデータベースで管理する考え方です。この体制が、BCP対策において計り知れない価値を発揮します。
- 場所を問わないアクセス:
権限を持つ担当者は、インターネット環境さえあれば、自宅や避難先からでも必要な人事データに安全にアクセスできます。
- 常に最新・正確な情報:
データベースが一つであるため、情報の重複や更新漏れが発生しません。安否確認に使う連絡先も、給与計算の元となる情報も、常に最新の状態が担保されます。
- 堅牢なデータ保全:
クラウド事業者が提供する強固なセキュリティと、地理的に分散されたバックアップ体制により、自社で管理するよりも高いレベルでデータを保全できる可能性があります。
[参考]3.6 BCP策定・運用状況の自己診断(基本コース)|中小企業庁
5. BCP対策を的確に実施し緊急事態時における事業の早期復旧・継続を目指そう


人事部門におけるBCP対策は、単なる管理業務ではなく、従業員の生命と生活、そして会社の未来を守るための根幹的な活動です。
その成否は、いかにして「人」に関する情報を、有事の際に迅速・正確・安全に活用できる体制を平時から築いておくかにかかっていると言っても過言ではありません。
もし、貴社の人事データが未だに分散管理されている状態であれば、BCP対策強化という観点から、その一元化を検討してみてはいかがでしょうか。本記事が、その一助となれば幸いです。



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