勤務間インターバル制度の義務化はいつから?労働基準法改正の最新動向と企業への影響
更新日: 2025.12.16 公開日: 2025.12.16 jinjer Blog 編集部
勤務間インターバル制度とは、終業から次の始業までに一定以上の休息時間を確保することで、従業員の生活時間や睡眠時間を守る仕組みです。2019年4月の法改正(働き方改革関連法)により企業への導入が努力義務となりましたが、現状では導入率は「令和6年就労条件総合調査」によると5.7%にとどまっています。
しかし近年、長時間労働による健康被害への関心が高まる中で、この勤務間インターバル制度を企業に義務付ける方向で議論が進んでいます。
本記事では、勤務間インターバル制度の概要と義務化の時期、最新の法改正動向や企業への影響、そして企業が今から備えるべきポイントについて詳しく解説します。
1. 勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル制度は、勤務終了時刻から翌日の勤務開始時刻までに一定以上の休息(インターバル)時間を置く制度です。具体的には、残業などで勤務終了が遅くなった場合に翌日の始業時刻を繰り下げる、あるいは深夜の残業自体を制限するといった方法で、終業から次の始業までの休息時間を確保します。
勤務間インターバルは、従業員が十分な睡眠・休養を取って健康を維持し、ワークライフバランスの向上につなげることが目的です。
日本では2019年4月から勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務として位置付けられました。これは「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」の改正によるもので、法律上は企業に制度導入の努力を求めるものの、導入するか否かは企業の自主判断に委ねられている状態です。
関連記事:勤務間インターバル制度とは?導入方法や助成金をわかりやすく解説
2. 今後の義務化に向けた議論の方向性と施行スケジュール

勤務間インターバル制度の義務化に向けた議論は、2024年から加速しています。
2025年11月現在、厚生労働省は約40年ぶりの大規模な労働基準法改正に向けて議論を進めており、有識者会議である「労働基準関係法制研究会」の2024年末に公開された報告書によって勤務間インターバル制度の導入義務化が提言されました。
報告書では、現在努力義務にとどまっているインターバル制度を、法改正によって11時間の休息を確保する義務へ引き上げる方向性が示されています。
研究会報告書の提言段階では具体的な適用範囲や例外条件、経過措置など、詳細は今後の検討課題とされています。厚生労働省は労働政策審議会での議論を経て、早ければ2026年にも労働基準法など関係法令の改正を目指す方針です。公布・施行は法案成立時期によりますが、2026年〜2027年前後となるでしょう。
直近の大型改正の実例として、2018年の働き方改革関連法で中小企業は段階適用となりました。今回の改正も規模が大きい場合、大企業が先行して義務化され、中小企業は段階適用となる可能性があります。
なお、「11時間」という時間は、欧州連合(EU)の労働時間指令で定められた基準を踏まえたもので、今後の議論によってはより短い時間となる可能性もあります。
さらに、2025年11月現在、内閣総理大臣である高市早苗氏は労働時間規制の柔軟化に言及しており、インターバルの水準(例:11時間)や義務化の度合い、経過措置に調整が入る可能性があります。
参考:「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表します|厚生労働省
関連記事:2026年、労働基準法が40年ぶりに大改正へ!重要ポイントと企業が備えるべき対応
3. 勤務間インターバル制度の義務化に向けた企業の対応ポイント

勤務間インターバル制度が義務化されれば、法令遵守のために就業環境や社内ルールを整備する必要があります。ここでは、今から準備すべき主な対応ポイントを解説します。自社の勤務実態を踏まえて、次の点に順次取り組んでおきましょう。
3-1. 自社に適したインターバル時間の設定
まず、自社の業務実態に即したインターバル時間(休息時間)の長さを検討しましょう。義務化後は最大で11時間のインターバル確保が求められる可能性があります。自社で11時間のインターバル確保が可能かどうかをシミュレーションしておきましょう。
労働基準法改正の議論の方向性によっては、11時間より短い時間となる可能性もあります。自社に適したインターバル時間が何時間かを把握しておくと安心です。
まずは勤怠データを使って、自社の働き方の実態を把握します。そのうえで、インターバル時間を「11時間」「9時間」など複数のパターンで試算し、どの程度影響が出るかをシミュレーションします。繁忙期がある場合は、その期間も含めて確認しましょう。
それぞれのパターンでインターバルが確保できない従業員の割合を出すと、健康確保と業務への影響のバランスが判断しやすくなります。実務面では、始業時間の繰り下げ、残業の抑制、人員再配置などでどこまで吸収できるかも検討します。
業種や働き方によってはインターバルの確保が難しいケースも考えられます。例えば決算期に業務が集中する場合や、海外とのミーティングで早朝・深夜の業務が避けられない場合などです。法改正の議論では代替措置や適用除外の範囲について議論が交わされていますので、今後の動向に注目しましょう。
3-2. 就業規則や労働条件通知書の改定
勤務間インターバル制度が義務化された場合、就業規則や労働条件通知書の変更が必要となる見込みです。
勤務間インターバル制度が将来法的に義務化された場合、終業から次の始業までの一定休息間隔をとるという制度は労働時間の設定に関わるものとなります。そのため、就業規則での明示が求められる事項(絶対的必要記載事項)に該当する可能性が高いと考えられます。
絶対的必要記載事項に該当すれば、勤務間インターバルとして何時間の休息を設けるか、適用除外の条件はあるかなどを記載しなければなりません。また法改正に合わせて速やかに就業規則を整備する必要も出てくるでしょう。
あわせて、労働条件通知書においても各企業におけるインターバル時間の長さや適用方法が労働条件通知書で明示すべき絶対的明示事項である「労働時間に関する事項」の一部と位置付けられる可能性も高いです。
3-3. 勤怠管理システムの対応
勤怠管理システムや人事管理システムの対応も重要なポイントです。インターバル制度が義務化されると、システム上で休息時間を自動チェック・管理できるようにする必要があります。
具体的には、前日の退勤時刻と翌日の出勤時刻の差を計算し、規定のインターバル時間に満たない場合はアラートを出す、または出勤打刻自体をエラーにする仕組みなどが考えられます。
使用している勤怠管理システムがこうした機能に対応しているか、対応していない場合、法改正に伴いアップデートの予定があるかを確認するとよいでしょう。今後もアップデート対応の予定がない場合、ベンダーへの機能追加依頼をおこなうことも考えられます。このようなシステム対応には一定のコストや改修期間が必要になるため、必要であれば早めに計画を立てましょう。
3-4. シフト管理と人員配置の見直し
インターバル時間を確保するためには、勤務シフトの組み方や人員配置の見直しも避けて通れません。特に交代制勤務や夜勤のある職場では、インターバル確保のために連続勤務を避ける工夫が求められます。
シフトパターンを増やして勤務開始時間をずらす、夜勤明けの翌日は必ず休みにする、繁忙期には臨時スタッフを投入して既存従業員の勤務間隔を空けるなど、さまざまな対策が考えられます。結果として、追加の人員確保や勤務割振りの再検討が必要になる可能性があります。
人員が確保できない場合、生産計画やサービス提供体制の見直しが必要になりかねません。必要に応じて増員計画や外部委託の検討なども含め、余裕をもって検討しましょう。
3-5. 従業員や現場の管理職への周知
最後に重要なのが、従業員および現場管理職への制度周知と教育です。なぜなら、勤務間インターバル制度が義務化される場合、単にルールを定めても現場で守られなくては意味がなくなってしまうからです。
具体的には、法律の施行前から説明会を開いたりわかりやすいガイドを配布したりすることで、勤務間インターバル制度とは何か、なぜ守る必要があるのかを丁寧に説明しましょう。特に現場のライン管理職には、部下の残業管理と翌日の勤務計画についてインターバルを考慮した運用を指導することが大切です。
また、従業員一人ひとりにも自己管理の意識を持たせることが重要です。「休息時間の確保は従業員の権利であり義務でもある」という考え方を周知し、たとえ繁忙期でも無理をして働きすぎないよう促しましょう。
4. インターバル時間は何時間がベスト?

勤務間インターバル制度を導入・運用する上で悩ましいのが、「休息時間を何時間に設定すべきか」という点です。義務化後は法定のインターバル時間を遵守する必要がありますが、企業が自主的に制度を設計する場合、11時間に限らず9時間や8時間以下といった選択肢もあります。それぞれの時間設定にどのような意味や効果があり、自社の特性に合うかを考えてみましょう。
4-1. 11時間以上
11時間以上のインターバルは、国際的にも標準的な水準であり最も望ましい休息時間といえます。EUの労働時間指令は11時間のインターバルを各加盟国に義務付けており、多くの欧州諸国で11時間ルールが定着しています。
例えば、ドイツやフランスでは法律で勤務間インターバル11時間が規定されており、ギリシャやスペインではさらに厳しく12時間の休息を求めています。EU離脱後のイギリスでも11時間の休息と代替措置が設けられており、11時間はグローバルスタンダードと言えるでしょう。
もっとも、日本企業では従来「深夜まで残業しても翌朝は通常通り出勤」という働き方が珍しくなく、11時間の休息を毎日確保するとなると業務運営上の工夫が必要になります。
またデメリットとして、長時間の中抜けを活用した柔軟な勤務はインターバル違反になりやすく、活用しにくくなります。典型的には子育て中の従業員が中抜けし、子どもの食事や寝かし付けを済ませてから業務を再開する場合などが挙げられます。
4-2. 9時間
9時間のインターバルは、11時間には及ばないものの最低限必要な休息時間として位置づけられます。日本では2024年から、自動車運転業務(バス・タクシー運転手など)に対して改善基準告示の改正により最低9時間(例外あり)の勤務間インターバルが義務化されました。
このように、9時間という数値は日本国内でも実効的な最低基準として採用が始まっている状況です。9時間休息があれば、従業員は短いながらも睡眠をとる時間を確保できます。
もちろん、9時間はあくまで必要最小限であり、できればそれ以上のインターバルが望ましいのは言うまでもありません。しかし難しい場合、「最低9時間だけは死守する」というのは現実的なラインとして有効です。
4-3. 8時間以下
8時間以下のインターバル設定は、推奨できない水準です。8時間の休息では、通勤や食事・入浴の時間を差し引くと十分な睡眠を確保するのは難しいとされています。厚労省のガイドライン等でも8時間は決して推奨される数字ではなく、「最低でも8時間」という文脈でのみ登場する時間です。
仮に制度として8時間を許容すると、「忙しければ8時間ギリギリまで働かせても良い」という運用になりかねず、従業員の疲労が抜けないまま次の勤務に入るおそれがあります。それでは制度導入の趣旨である健康確保が果たせません。
たとえ暫定措置として8時間のインターバルから始めざるを得ない場合でも、将来的には9時間→10時間→11時間と順次引き上げる計画を立てていくことが望まれます。
5. 勤務間インターバル制度の違反リスクと行政指導の可能性

勤務間インターバル制度に関して、現行制度下での扱いと将来的な義務化後の違反リスクについて整理しておきます。法律上の位置付けが変わることで企業の責任も大きく変わるので、リスク管理の観点から把握しておきましょう。
5-1. 現行の規定
現行では勤務間インターバル制度は努力義務であり、導入しなくても直ちに法違反とはなりません。そのため、インターバル未導入を理由に、労働基準監督署が是正勧告を出したり罰則を科したりすることもないと考えられます。
ただし近年の動きとして、2021年に過労死等の労災認定基準が約20年ぶりに見直され、そこで「勤務間インターバルが極端に短い勤務」や「休日のない連続勤務」が労働時間以外の負荷要因として新たに追加されました。労務リスク管理上はインターバルを考慮しない働かせ方にはリスクが伴うことを認識しておきましょう。
5-2. 義務化後に想定される罰則内容
では、勤務間インターバル制度が法的に義務化された場合、違反した企業にはどのような罰則や指導が考えられるでしょうか。現時点で具体的な条文は決まっていませんが、いくつかの予想ができます。
5-2-1. 労働基準法に明記されるケース
最も有力と考えられるのは、労働基準法本体に勤務間インターバルの規定を新設する形です。労基法は強行法規であり、違反には刑事罰が科せられます。例えば、時間外労働の上限違反では「6ヵ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」という罰則規定があります。
ただし現実の運用では、まず労働基準監督署が是正勧告を行い、悪質・継続的な違反のみ送検・罰則適用という段階的対応が想定されます。
労基法に基づく厳格な義務化は違反抑止力が高い一方、企業への影響も大きいため適用除外の設定や経過措置なども慎重に検討されるでしょう。
5-2-2. 施行規則・他法令で規定するケース
労働基準法施行規則や労働時間等設定改善法の改正によって義務づける案も考えられます。この場合、労働基準法そのものより柔軟な運用が可能で、違反しても行政指導による是正や企業名公表が中心になると見込まれます。
5-2-3. ガイドラインレベルの努力義務を維持するケース
2019年の法改正で勤務間インターバルは努力義務化されましたが、守らなくても直接の罰則はありません。この状態を維持しつつ、指導や助成金による普及促進を図り、法的強制はおこなわない案も考えられます。
導入率が低迷している現状を踏まえると、単なる努力義務のままでは実効性に限界があるため、この選択肢の可能性は低いでしょう。しかし、現政権の政策次第では可能性はゼロとはいえません。
6. 今後の勤務間インターバル制度の動向を注視しよう

勤務間インターバル制度の義務化に関する議論は今まさに進行中であり、最新動向を注視し続けることが重要です。今後、労働政策審議会での審議結果や国会への法案提出状況によって具体的な施行時期や規制内容が明らかになってくるでしょう。
本記事で述べたように、最速で2026年に法改正が実現する可能性があるため、時間的な猶予はそれほど長くありません。
自社の勤務データで従業員のインターバル時間の状況を確認し、短い時間しか取れていない場合は、法規制に先行して自主的にインターバル制度を導入してみるのもおすすめです。自社に適したインターバル時間を見極め、最初は9時間など現実的な時間数から段階的に始めるとよいでしょう。
法改正は企業にとってリスク対応であると同時に職場環境を見直す好機でもあります。従業員の健康と企業の持続的成長の両立を実現するために、勤務間インターバル制度の趣旨を正しく理解し、戦略的に活用していきましょう。
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