みなし残業の上限とは?種類やトラブルについて解説
更新日: 2025.8.25 公開日: 2022.3.3 jinjer Blog 編集部

労働基準法上、みなし残業の上限はありません。しかし、36協定の上限規制に合わせて45時間までに留めるのが一般的とされています。
この記事では、みなし残業の上限は何時間が望ましいか、また、みなし残業と混同されやすい制度や起こりやすいトラブルを解説します。
関連記事:みなし残業制度とは?ルールやメリット・デメリットを詳しく解説!
目次
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、働き方が多様化したことで管理すべき情報も多く、管理方法と集計にお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな担当者の方には、集計を自動化できる勤怠システムの導入がおすすめです。
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1. みなし残業(固定残業代制)の上限とは


みなし残業制(固定残業代制)では、あらかじめ一定時間分の残業代を給与に含めて支給します。
例えば、基本給と一緒に残業代20時間分(5万円)が支給されている場合、実際の残業時間が6時間の残業でも、20時間の残業でも、毎月5万円が支給されます。ただし、20時間を超えた分の残業については別途手当が必要です。
そのため、みなし残業制を導入すれば、残業代の計算が容易になるなどのメリットが生まれます。しかし、ここで疑問になるのが「みなし残業の上限は何時か」という点です。
1-1. みなし残業の上限時間は法律で決まっていない
結論から言えば、みなし残業の上限時間は、法律で定められている明確な基準はありません。みなし残業に関する過去の判例では、実際の設定時間以外に、その他の事情(割増賃金に当たる部分が通常の賃金部分と明確に区分されているかなど)も考慮した上で有効性が判断されてきました。
そのため、例えば同じ上限時間80時間でも無効とされる場合もあれば、有効と判断される可能性もあります。
1-2. 36協定の上限である45時間に設定するのが妥当
みなし残業に関連する判例では、36協定の上限に合わせることや、それを基準とすることが求められる傾向にあります。また、上限時間を100時間などに設定すれば、長時間労働の常態化を促し、公序良俗に違反するとして無効であるとの見方もされています。
そのため、みなし残業の上限に明確な決まりはないものの、36協定の上限である45時間に設定するのが一般的です。
1-3.みなし残業は1日の上限も決められていない
みなし残業時間は月単位で設定することが一般的で、上限については前述の通りですが、1日あたりの残業時間についても法律上の明確な上限は定められていません。
ここでは、「月単位で設定したみなし残業時間が1日あたり何時間目安となるか」という観点で解説します。例えば月45時間を日割りすると1日あたり2時間程度が目安になります。
実務的な観点から考えると、1日あたりのみなし残業時間は2時間か、多くても3時間程度に留めることが妥当と考えられます。仮に1日5時間や6時間といった長時間のみなし残業時間を設定した場合、総労働時間が13~14時間におよぶことになり、これは明らかに過重労働と言わざるを得ません。
2.みなし残業の上限時間を決める際に考慮したいポイント


みなし残業時間を設定する際は、実務上のさまざまな要素を総合的に考慮する必要があります。
設定時間が不適切であれば、労務トラブルで無効となるリスクや従業員の健康問題、さらには企業イメージの悪化につながる可能性があります。
ここでは、特に重要な3つのポイントについて詳しく解説します。
2-1. みなし残業時間60時間超は違法?
みなし残業時間を60時間以上に設定することが直ちに違法となるわけではありません。しかし、さまざまなリスクを伴うため慎重な検討が必要です。
まず賃金面では、労働基準法により月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。60時間を超えるみなし残業時間を設定した場合、この50%以上割増の規定を適切に反映した賃金設定になっているかが重要です。
例えば、70時間のみなし残業を設定する場合、最初の60時間分については25%以上の割増率、残りの10時間分については50%以上の割増率で計算したみなし残業代を支給する必要があります。
つぎに、「対価性の要件」を満たしているかどうかの確認も重要な論点です。「対価性の要件」とは、「時間外労働等の対価としての性質を有しているか」の要件のことです。これは、裁判例上みなし残業制が有効となるための要件の一つとされています。
60時間を超えるみなし残業時間を設定している企業は、その合理性や必要性について説明を求められる可能性が高く、適切な根拠を示せない場合は避けるべきと考えられます。
2-2.みなし残業時間の上限が実態と乖離している場合は?
みなし残業制度は本来、実際の残業時間の変動に対応するための制度です。実際の残業時間が常に設定時間を大幅に下回っている場合、その設定時間の合理性が疑問視される可能性があります。具体的には、固定残業代を高く設定して基本給を圧縮し、残業単価(割増賃金の計算基礎)を不当に下げようとしているのでは、という疑念を抱かせるおそれがあります。
仮に無効とされると、その固定残業代部分はすべて「基本給」とみなされるため、本来支払われるべき残業代が未払いだったことになりかねません。無効となった場合、遡及して残業代を請求され、割増賃金計算の基礎となる時給も上昇することで支払い額が大きく跳ね上がるリスクがあります。
さらに、実態と乖離した長時間の設定は、従業員に対して「この時間まで働くことが期待されている」という誤ったメッセージを送る可能性があります。これにより、不必要な長時間労働が誘発されかねません。
在籍している従業員のみならず、求人募集の際に求職者に「長時間労働が常態化している企業なのではないか」という印象を持たせる可能性もあります。
2-3.過労死ラインや健康管理時間も確認を
みなし残業時間を設定する際は、過労死ラインや健康管理に関する法的な基準も十分に考慮する必要があります。これらの基準は、従業員の生命と健康を守るための重要な指標であり、安全配慮義務の観点からも無視できません。
過労死ラインとは、過重労働による健康障害のリスクが高まる目安として知られる時間外労働時間のことで、一般的に月80時間超が知られています。厚生労働省も「時間外・休日労働が月45時間を超えて長くなるほど、業務との因果関係が徐々に強まり、発症前1ヵ月間100時間、または発症前2ヵ月間〜6ヵ月間に1ヵ月あたり80時間を超えると業務との因果関係が強くなる」としています。
また、高度プロフェッショナル制度(*1)においては、健康管理時間(*2)が1ヵ月100時間、3ヵ月では240時間までという上限が設けられています。
*1 高度プロフェッショナル制度
一定の年収要件を満たした専門的かつ高度な職業能力を持つ労働者につき、労働基準法の労働時間制限の対象外とする制度
*2 健康管理時間
対象従業員が「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」の合計時間
現在、厚生労働省では労働基準法の改正に向け労働時間上限や新たな規制の議論を進めていることから、将来的に現在の基準より厳格化されることもありえます。
以上の点をふまえると、法律の範囲内であっても安易に60時間や80時間を超える設定とせず、慎重にみなし残業時間を決めるとよいでしょう。
3. みなし残業制と混同されやすい労働時間制とその特徴


「みなし残業」という言葉はしばしば「みなし労働時間制」と混同されます。みなし労働時間制とは、実労働時間ではなく一定時間働いたものとみなす制度で、どのような業種・職種でも導入できるものではありません。
代表的な3種類があり、それぞれ適用要件が異なります。ここではみなし残業制と混同されやすい3つの制度について特徴を解説します。
3-1. 事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、外勤が多い職種など、労働時間の正しい把握をすることが難しい職種で導入される制度です。導入には、対象の従業員が事業場外で全部または一部の労働に従事し、かつ、上司や管理職が具体的に指揮をしたり、労働時間の監督をしたりするのが困難である状況が必要です。
例えば、事務所から離れた工場で、無線で上長の指示を仰ぎながら業務に当たっていたとしましょう。これは事業場外での業務ではありますが、指揮監督の及ぶ業務をしており、労働時間の算定が可能です。そのため、事業場外みなし労働時間制の導入はふさわしくありません。
事業場外みなし労働時間制の導入に適性がある業種は、外回りや出張が中心の営業職、ツアーコンダクター、バスガイドなどです。
参考:「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために|厚生労働省
3-2. 専門業務型裁量労働制
実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めた時間のみを労働したものとみなす制度です。
そのため、みなし労働時間を1日8時間としているなら、4時間働いても、11時間働いても「8時間労働」として賃金計算をします。
この制度が認められるのは、業務の性質上、仕事の手段や時間配分などの多くを従業員にゆだねる必要のある職種が対象です。対象業務は厚生労働省の定める20種類の業務に限られています。
下記に対象業務の例を紹介します。
- 新商品の研究、または、人文・自然科学の研究
- 情報処理システムの分析
- 記事の取材・編集
- デザイン考案
- 番組制作・映画制作のプロデューサー・ディレクター
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲームクリエイター
- 証券アナリスト
- 金融工学などを用いた金融商品の開発
- 大学での教授研究
- M&Aアドバイザー
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
なお、導入の際は、実際に対象業務に従事していることが必要です。
例えば中小企業診断士の有資格者を雇用していても、実際におこなっている業務が一般的な事務作業のみである場合、専門業務型裁量労働制の対象にはなりません。
また、適用する従業員ごとに同意を得ることが必要です。
3-3. 企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、企業の経営や事業活動の中核に関わる企画立案を担当する従業員が、主体的に自身の技術や企画能力を発揮できる働き方として導入された仕組みです。
対象になる職種は明確に言及されていないものの、下記①と②に該当する仕事に従事する従業員が対象となります。
①企画、立案、調査および分析をおこなう
②知識、経験のある従業員の裁量に委ねるため、企業が業務の遂行方法や時間配分などに具体的な指示をしない
これまで説明した要件に加え、導入に当たっては労使委員会を設置し、5分の4以上の多数による議決後、労働者本人の同意を得る必要があるなど、厳格な手続きが必要です。
4. みなし残業のよくあるトラブルと対処法


みなし残業制度は本来、企業側・従業員側、双方にメリットのある制度です。しかし、求人方法から給与の支払いまで、正しい運用方法を理解していないと、後々のトラブルにつながってしまいます。トラブルに発展しやすい代表的な例を紹介します。
4-1. みなし残業制が周知されていない
みなし残業を導入している事業所で求人をおこなう際は、基本給とみなし残業代が分かるように明記しなければいけません。募集の際は、みなし残業の時間・金額・手当名まで記載し、他の手当と区別がつくように記載しましょう。
【記載例1】
基本給 200,000円
固定残業代(20時間分)40,000円
【記載例2】
基本給 240,000円
(固定残業代(20時間分)40,000円を含む。)
みなし残業代を含む賃金に関する苦情は特に多いため、誤解を招かないように配慮しましょう。契約書上、基本給とみなし残業代が区別されていない場合、後から無効と判断されるリスクもあります。
また、従業員から給与についての質問があった場合、わかりやすく説明できるように人事担当者が正しい知識を身に着けておくことも重要です。
4-2. 最低賃金を下回る
みなし残業制を導入する際、給与総額を適正に保つため、基本給を下げるケースがあります。
こうした調整自体は問題ありませんが、基本給を下げたことで最低賃金を下回った場合は違法になります。最低賃金や計算方法は厚生労働省が明確に定めており、最低賃金は毎年見直されるものです。
都道府県ごとに決まっている最新の最低賃金を必ず確認し、設定に問題がないか確認しましょう。
4-3. 長時間の残業で従業員の健康に悪影響が出る
みなし残業制は「上限時間まで働くことが期待されている」という誤解が生まれやすく、長時間労働が習慣化しやすい点にも注意が必要です。
また、現場を管理する管理職にも「上限時間近くまで働かせないと勿体ない」という誤解を抱かせがちです。
既にみなし残業を導入している企業では、60時間などに設定していると、毎月それだけ働かなくてはいけないという思い込みから、トラブルに発展するケースもあります。とくに36協定の特別条項である月45時間以上の労働を上限を超え7回以上してしまうなどのミスは、労働基準監督署から是正勧告の対象となりかねません。
みなし残業時間を45時間以上に設定しているなら改める、長時間労働が続いている者がいれば手持ちの仕事を分散させるなど、残業が常態化しない仕組み作りが大切です。
4-4. 残業が常態化している印象を与えやすい
みなし残業制はマイナスなイメージを持たれやすく、45時間以上のみなし残業を設定していると長時間労働が常態化している企業という印象を持たれる場合もあるでしょう。
近年はライフワークバランスを重視する傾向や、柔軟性のある働き方への考えが強まっています。そのような時代で長時間のみなし残業制度は、企業イメージを悪化させ、採用に悪影響を与えかねません。
この点を十分に理解した上で、みなし残業時間や残業代を設定するようにしましょう。
5.みなし残業の上限時間は現実的な設定が大切


ここまで述べてきたように、みなし残業には法律上明確な上限はありませんが、従業員の健康への配慮や労務トラブルとなった場合の有効性担保のためには月45時間程度までにとどめるのが現実的でしょう。45時間を大幅に超えるみなし残業時間を、なんとか有効に設定できる方法を模索するよりも、根本的な長時間労働の是正に取り組む姿勢が大切です。
経営上の都合でやむなく45時間を超えるみなし残業時間を設定するときは、残業時間の実態や業務特性を踏まえた妥当なラインに設定するようにしましょう。
6. みなし残業は従業員の負担や人件費を考慮して検討しよう


みなし残業の上限時間を決める際は、従業員の負担と人件費バランスの双方を考慮して慎重に検討することが大切です。決まりがないからといって上限を高く設定しすぎず、無理のない範囲で適正に運用しましょう。
労働時間に関するルールを遵守し、従業員の健康と公正な報酬を確保することで、企業と従業員の双方にメリットのある、みなし残業制度を実現できるはずです。



人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
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