副業を労働時間と通算しないケースや36協定の通算ルールを解説
更新日: 2025.7.18 公開日: 2022.2.20 jinjer Blog 編集部

労働基準法第38条では、労働時間について「事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。そのため、本業と副業を兼業している従業員の労働時間は、原則として通算されるということを覚えておきましょう。
ただし、中には例外として、副業の労働時間が本業と通算されないケースも存在します。
企業は、労働基準法第32条・36条で規定された法定労働時間および時間外労働時間を正確に把握・管理する必要があるため、副業の労働時間を正しく取り扱えるように理解しておかなければなりません。
今回は、副業が労働時間と通算しないケースや、36協定での労働時間の通算について説明すると共に、国が副業・兼業の促進に関するガイドラインを改訂した背景についても解説します。
目次
人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、働き方が多様化したことで管理すべき情報も多く、管理方法と集計にお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな担当者の方には、集計を自動化できる勤怠システムの導入がおすすめです。
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1. 副業の労働時間の「通算」とは


副業の労働時間の「通算」とは、本業と副業の労働時間を足したものです。
勤怠管理をおこなう必要がない労働者は、本業と副業の雇用主が別であれば、労働時間も別計算と考えてしまうことが多いようです。しかし、企業側は従業員の勤怠管理をおこなう上で、副業の労働時間も計算しなければなりません。
労働基準法では、正社員やアルバイト・パートなど雇用形態に関係なく、自社の従業員が企業に雇用された状態で副業をおこなう場合は、自社の労働時間と副業先の労働時間を通算することが義務づけられています。
自社の従業員の副業を把握していないと、法定労働時間や時間外労働の上限を超えてしまう可能性もあるので、適切な勤怠管理が重要になっているのです。
2. 副業の労働時間を通算しないケース


労働者の労働時間は、原則として労働基準法第38条の規定に基づいた通算が必要です。しかし、以下2つのケースでは、例外として労働時間は通算されないことになっています。
- 労働基準法が適用されない働き方の場合
- 労働時間規制が適用されない場合
ここでは、これらのケースについて詳しく解説していきます。
2-1. 労働基準法が適用されない働き方の場合
労働基準法では、同法における「労働者」を、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。
そのため、特定の事業または事務所に属さずに働いている者、具体的には個人事業主をはじめとするフリーランスや独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、幹事等として仕事に従事している者は、労働基準法の適用を受けません。
労働時間の通算は労働基準法第38条で定められた規定であるため、労働基準法そのものが適用されない職種は、副業を行っても労働時間の通算は不要です。
関連記事:労働基準法での副業の規定や取り組むメリットについて
2-2. 労働時間規制が適用されない場合
労働基準法の適用対象であっても、同法第41条および41条の2に該当する人は、労働基準法で定める労働時間、休憩および休日に関する規定の対象外になります。そのため労働時間も通算されません。
同法第41条および41条の2に該当する人は、以下のとおりです。
- 監督もしくは管理の地位にある者、または機密の事務を取り扱う者
- 監督または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
- 高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務に従事する者
- 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業に従事する者
- 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業に従事する者
以上の要件に該当する業種・契約形態で働く労働者は、労働基準法における労働時間の規定の適用対象外です。そのため、副業をおこなっても労働時間は通算されません。
補足として1は主に管理監督者・機密事務取扱者などを指し、3は「高度プロフェッショナル制度」に該当するケースです。高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で、かつ一定の年収要件を満たす労働者について、労働基準法に定められた労働時間・休憩・休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しないとする制度のことです。
4と5の職業の具体例は、農業・畜産業・養蚕業・水産業などが該当します。
参考:高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説|厚生労働省
3. 36協定における労働時間の通算ルールとは


従業員を法定労働時間を超えて時間外労働させる場合、使用者はあらかじめ労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、同法第36条に基づく協定を締結する必要があります。
これが「36(サブロク)協定」で、協定を締結した場合は法定労働時間とは別に、一定の範囲内で従業員を時間外労働に従事させることが可能です。
ここで注意したいのは、36協定における労働時間の通算が、規定内容によって異なることです。
ここでは、厚生労働省がまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を参考に、36協定における労働時間の通算について解説します。
3-1. 36協定の上限は原則本業と副業で分けられる
36協定における時間外労働の上限「月45時間・年360時間以内」(特別条項を設けた場合は「年720時間以内」)は、事業場単位の規制となります。36協定の上限は、原則として本業と副業で分けられるため、時間外労働時間を通算することはありません。
ただし、特別条項付き36協定の「時間外労働+休日労働の合計が100時間未満」、「時間外労働+休日労働の2~6ヶ月平均が80時間以内」という上限は、従業員個人単位の規制です。そのため、本業と副業で時間外労働時間を通算しなくてはいけません。
これを間違えてしまうと、労働基準法の「時間外労働」に関する規定に違反してしまうので注意しましょう。
3-2. 法定休日は通算しない
法定休日も、本業と副業で分けて扱う必要があります。
本業の事業場と副業の事業場それぞれで法定休日を付与する必要があるため、副業をしていない従業員との法定休日数に違いは発生しません。
これは、労働基準法第35条の「法定休日は労働者に与える権利である」という規定に基づいています。そのため、企業はこの権利を尊重し、労働者が健全な労働環境のもとで休息を得られるよう配慮しなければなりません。
副業をおこなう労働者に対しても、平等に休暇を提供することで労働者の心身の健康を維持し、より良い業務環境を整えるのは企業の責任といえるでしょう。
4. 副業で法定労働時間を超えた場合の対応


副業を許可している企業では、副業で法定労働時間を超えた場合の対応を知っておく必要があります。
勝手な判断で対応してしまうと、法令違反になってしまうかもしれません。法定労働時間を超えた場合の対応に関しては、法律による規定が関係していることもあるので注意しましょう。
ここでは、処理の方法と割増賃金の支払いについて解説します。
4-1. 時間外労働として処理する必要がある
労働基準法で定める法定労働時間は本業と副業で通算されるため、合算して法定労働時間を超えた場合、副業であろうとも時間外労働に該当します。
雇用主は、時間外労働が発生した従業員に対し、1.25倍以上の割増賃金の支払い義務が定められています。この割増率は会社が勝手に決められるものではないため、副業をしている従業員の労働時間には注意し、割増賃金を正確に処理するようにしましょう。
加えて、法定労働時間を超える場合は、従業員がどの事業場でどれだけの時間を労働しているかを明確にすることが求められます。特に、労働者自身からの報告や記録をもとに、適切に管理をおこなう必要があります。
さらに、労働時間が通算されることで、36協定に基づく法律違反を避けるためにも、企業は慎重な対応を心掛けることが重要です。労働時間を正確に把握し、適正な賃金支払いをおこなうことで、労働者の健康と安全を守るための環境を整えるという企業の責任をまっとうできます。
4-2. 割増賃金の支払いは雇用契約が後の企業
副業により時間外労働が発生し、割増賃金の支払いが生じた場合、その支払い義務があるのは後から雇用契約を結んだ企業になります。これは、後から契約した企業は本業があることを知っており、そのうえで雇用契約を結んだという前提があるからです。
ただし、これは必ずしも副業に該当する企業とは限りません。本業であっても後から雇用契約をしている場合は、本業の企業に支払い義務が生じます。
しかし、先に契約した企業が法定労働時間を超えることを認知していながら、時間外労働を命じた場合は例外です。この場合、先に契約した企業に割増賃金の支払い義務が発生します。
5. 副業・兼業の促進に関するガイドラインが改訂された背景


厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定したのは平成30年1月のことです。
当該ガイドラインを作成した背景には、年々高まる副業への意向があります。
厚生労働省がまとめた資料によると、副業を希望する雇用者数は年々増加傾向にあります。しかし、その一方で、従業員の兼業・副業を「推進している」と回答した企業はゼロ、「推進していないが容認している」と回答した企業は約15%に留まっています。残り85%の企業は副業・兼業を認めておらず、「副業したくてもできない」という従業員が多いのが実態です。
そんな実態を鑑み、政府は当該ガイドラインを作成し、国を挙げて副業・兼業の促進に踏み切りました。
ガイドラインは、令和2年と令和4年に改訂されています。
令和2年9月1日に副業・兼業の促進に関するガイドラインを見直すため改訂し、副業する場合の労働時間管理についての記載を追加・充実させました。令和4年7月の改訂では、副業・兼業を許容しているか否か、条件付き許容の場合はその条件についての公表を推奨するとしています。
これらの改訂により、企業の副業容認のハードルの低下や副業を希望する労働者の人材確保などが期待できるようになりました。
参考:副業・兼業|厚生労働省
参考:副業・兼業の現状①|厚生労働省
6. 副業の労働時間管理は通算するケースとしないケースがある


副業の労働時間は、労働基準法の規定により、原則として本業と通算されます。
しかし、労働基準法や、労働時間の規定が適用されない職種・就業形態の場合は通算されない仕組みになっています。また、時間外労働についても通算するケースとしないケースがあります。
労働基準法によって定められた労働時間の規定に反すると、使用者が罰則の対象となったり、労働基準監督署から是正勧告を受けたりする可能性があります。そのため、労務管理をおこなう際には、どのような条件で労働時間が通算されるのか、またはされないのか、その内容をしっかり把握しておきましょう。



人事労務担当者の実務の中で、勤怠管理は残業や深夜労働・有休消化など給与計算に直結するため、正確な管理が求められる一方で、計算が複雑でミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
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