建設業法における電子契約の法解釈|グレーゾーン解消制度との関連性
建設請負工事における請負契約は、従来書面契約が義務付けられていました。
しかし電子通信技術の向上と業務軽減の目的から、建設業法が改正され、電子契約も可能となりました。ただし電子契約の際は、本人確認の方法が不明瞭な部分もあり、導入に不安を感じるかもしれません。
そこで今回は、建設業法における電子契約の法解釈を解説し、建設請負契約が電子契約できるのか説明します。
【弁護士監修】でデジタル改革関連法を徹底解説!
デジタル社会の実現に向けて法整備が進み、建設業界においても今まで電子化できなかった書面のほとんどが電子化できるようになりました。
とはいえ、「どの書類を電子化できるのか?」「実際に契約を電子化した際の業務の流れは?」と、電子契約についてイメージがついていない方も多いでしょう。そのような方に向け、当サイトでは建設業界にかかるデジタル改革関連法について弁護士が監修した解説資料を無料で配布しております。
建設業界で電子契約できる書類について法的根拠をもとに解説しているほか、電子契約を用いた実際の業務フローや電子署名の導入手順までを網羅的に解説しており、これ一冊で電子契約について理解できるため、電子契約に興味があるという方は、こちらから資料をダウンロードしてご覧ください。
1.電子契約とは
電子契約とは書面による契約書ではなく、電子データとして契約する方法です。
書面契約では署名捺印が必要ですが、電子契約では電子書籍やタイムスタンプで代用します。
電子契約は書面契約のような証拠力がないように感じるかもしれませんが、電子署名法第3条では、電子契約も押印した書面契約と同様の効力を持つと記されている契約方式です。[注1]
現在はテレワークが推進されており、押印不要な電子契約の利便性が再認識されています。
ただし、口頭での契約ができず書類での契約が義務付けられている場合は、電子契約での締結はできません。例えば、定期借地契約書や宅建業者の媒介契約書、訪問販売での交付書類等は電子契約での締結ができない契約書類です。
※デジタル改革関連法の施行により、2022年5月までに電子化が可能となる予定です。
2.建設請負工事における電子契約とは
現在、建設請負工事でも電子契約が可能です。しかし以前は、請負契約は書面契約が義務付けられていました。
建設請負工事の請負契約は、昭和24年に公布された建設業法にて、書面の交付による契約締結が義務付けられていました。
請負契約は性質上、口頭での契約は不明確・不正確になるため、発注者と元請負人あるいは下請負人の間で合意して書面で記録する必要があったからです。当時は電子通信技術が発達しておらず、書面契約が最も正確性の高い方法でした。
しかし昨今の電子通信技術の向上により、電子契約で署名ができるようになって、契約内容の証明も可能になり、法律の見直しがおこなわれることとなります。
令和3年5月19日に公布されたデジタル改革関連法では、昨今の状況に鑑み、建設業法が一部改正されて見積書の電子化が可能になりました。
3.建設業法について
建設請負工事の請負契約は、建設業法によって定められています。
ここでは、そもそも建設業法はどのような法律なのか、改正がおこなわれて電子契約が可能になった経緯と法的要件を解説します。[注2]
3-1.建設業法とは
建設業法とは、公共の福祉の増進を目的とし、請負契約の適正化を図り、発注者を保護するために定めた法律です。
ここでいう建設業とは、建物だけでなく道路や造園、橋などの建築物の建設も含まれます。
また、建設業法で定められている建設業者には、下請負人や元請負人も該当します。
3-2.建設業法改正の経緯とは
建設業法第19条では、建設請負工事における請負契約を書面の交付のみと定めていました。
しかし、インターネットの普及により電子商取引が発展し、電子契約の利便性が認識されるようになりました。
そのため、書面契約を義務付けていた50本の法律を改正するIT書面一括法が平成13年に施行されました。このなかに建設業法も含まれており、同年から契約方式が改正されています。
3-3.建設業法19条の改正内容
平成13年IT書面一括法の施行により、建設業法19条が改正されました。
改正前はなかった3項が追加され、電子契約ができるようになったことが、大きな変更点です。
“建設工事の請負契約の当事者は、前二項の規定による措置に代えて、政令で定めるところにより、当該契約の相手方の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて、当該各項の規定による措置に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講ずることができる。この場合において、当該国土交通省令で定める措置を講じた者は、当該各項の規定による措置を講じたものとみなす。”
つまり、元請負人や下請負人は双方の合意があれば、国土交通省令が認めた電子契約サービスを利用した方法での契約も可能との解釈ができます。建設業法の一部改正により、電子契約も書面契約と同等の効力を持つようになりました。
また、2021年9月に施行されたデジタル改革関連法において、建設業における法律(建設業法、建築士法など)の見直しがあり、電子契約がさらに推進されることになったので、内容を確認しておくのがおすすめです。
当サイトでは、上述した建設業における法律の法改正の内容や、具体的にどのように緩和されたのかなどをまとめて解説した資料を無料で配布しております。
法改正の内容を把握しておきたいご担当者様は、こちらから「デジタル改革関連法マニュアル」をダウンロードしてご確認ください。
3-4.建設業法19条3項の法的要件
建設業法19条3項が追加されたことで、関連する政令・省令も改正されました。改正された政令・省令は以下のとおりです。
1. 書面の交付に代えることのできる電磁的措置の種類(省令第13条の2第1項)
2. 電磁的措置の種類および内容に係る相手方の事前の承諾(政令第5条の5)
3. 電磁的措置の技術的基準(省令第13条の2第2項)
1では、電子メールやWebなどを用いて電子データを送受信することや、電子記録媒体を用いた電子データのやり取りに関する措置が記載されています。
2で定められているのは、電子契約を結ぶ際、あらかじめ電磁的措置の実施を相手方との間で契約を取り交わす必要性です。
3では、電子契約時に国土交通省が定める技術的基準に、適合するものを用いなければならないことが明記されています。技術的基準とは、次の要件です。
● 相手方が記録を出力して書面を作成できるものであること
● 記録された契約事項に改変がおこなわれていないか確認できるものであること
4.建設業法グレーゾーン解消照会の回答で示された新解釈について
令和2年に改正された建設業法施行規則の本人確認措置に関する要件は、適用範囲が不明確なグレーゾーンでした。改正された建設業法施行規則では、第13条の4、2の3において以下のように記されています。
当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていること。
「本人であることを確認することができる措置」において、身元確認の方法が議論となりました。
身元確認の上で電子証明書を発行するのか、本人であると証明できる情報の提示によって電子契約が可能なのか。グレーゾーン解消制度で照会した結果、以下の新解釈が確認できました。[注3]
“契約当事者による本人確認措置を講じた上で公開鍵暗号方式による電子署名の手続きがおこなわれることで、契約当事者による契約であることを確認できると考えられることから、建設業法施行規則第十三条の四第二項に規定する技術的基準を満たすものと解される。”
つまり、本人のものと確認できているメールアドレスをあらかじめ登録し、電子契約の身元確認に代える事業者型(立会人型)でも問題ないとの見解です。
ただし、見読性と原本性を確保する必要があります。
電子契約における見読性とは、電子データを保存した媒体から必要なときに情報を見られることです。建設請負工事の電子契約では、請負契約成立後に請負契約書をいつでも閲覧したり印刷したりできなくてはなりません。
また原本性とは請負契約書が原本であり、改ざんされていないことです。書面契約とは異なり、電子契約は原本性をタイムスタンプで証明します。
本人性・見読性・原本性が確保されていれば、建設請負工事での電子契約も可能です。
5.建設請負工事でも事業者型署名でも電子契約は可能
従来、書面契約しか認められなかった建設請負契約は、建設業法改正により電子契約での締結も可能となりました。
ただし電子契約の方法には、本人性・見読性・原本性の確保が必要です。
建設業法グレーゾーン解消照会の回答で示された新解釈により、本人性は本人が事前に登録したメールアドレスによる本人確認も認められています。
特に、事業者(立会人)型の電子契約サービスを利用する際は、上記の条件が満たせれるかを確認してください。
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