災害時のBCP対策とは?人事部門が担うべき役割と計画のポイントを解説
公開日: 2025.8.4 jinjer Blog 編集部

地震、台風、集中豪雨――。日本において、事業活動は常に自然災害のリスクと隣り合わせです。「災害時のBCP対策」と聞くと、多くの方は工場の設備やサプライチェーンの復旧を思い浮かべるかもしれません。しかし、企業の最も重要な資産である「人」を守り、事業継続を支える基盤を維持するためには、「人事部門」が主体となったBCP対策が不可欠です。
本記事では、災害発生時における人事部門の役割と、事前に計画しておくべきBCPの重要項目について、解説していきます。
目次
その人事データ、ただ入力するだけで終わっていませんか?
勤怠、給与、評価…それぞれのシステムに散在する従業員データを一つに集約し、「戦略人事」に活用する企業が増えています。
「これからの人事は、経営戦略と人材マネジメントを連携させることが重要だ」「従業員の力を100%以上引き出すには、データを活用した適切な人員配置や育成が必要だ」そう言われても、具体的に何から始めれば良いか分からない担当者様は多いでしょう。
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1. 災害時における人事部門のBCPと「防災計画」の違い


まず、混同されがちな「防災計画」と、人事部門が取り組むべき「BCP」の違いを理解しておくことが重要です。
| 主な目的 | 内容 | |
| 防災計画 | 「人命の安全確保」と「物的被害の軽減」 | 避難訓練の実施、備蓄品の用意、オフィスの耐震補強といった、災害発生“その瞬間”の被害を最小化するための取り組み |
| 人事部門のBCP | 「事業の継続と早期復旧」 | 災害発生“後”に、従業員の安全を確認し、適切な労務管理を行い、事業活動をいかにして継続させていくか、という視点での計画 |
防災計画が「守り」の対策である一方、人事のBCPは、その先の事業継続を見据えた「攻め」の側面も持つ、より経営に近い活動であると考えることができます。
2. BCP対策で想定すべき災害の種類


2-1. 自然災害
BCP対策で想定すべき災害には、次のようなものがあります。地震 ・台風 ・ゲリラ豪雨などの大雨 ・洪水 ・落雷 ・竜巻 ・大雪 ・津波など これらの自然災害は、いつ起こるかの予想がつかず、一旦起きてしまうと事業を停止せざるを得ない状況を招きます。
そのような状況を回避するためにも、あらかじめBCPを策定して備えておくことが重要となります。 企業の拠点地域の所在地によって発生しやすい自然災害は異なるため、地域のハザードマップ等を参考にしながら、発生可能性の高いものから優先的に計画を作成しましょう。
2-2. 外的要因による災害
外的要因による災害には以下のようなものがあります。サイバー攻撃 ・取引先企業の情報流出 ・通信システムの障害 ・感染症の流行 ・仕入先の倒産 自社都合ではない要因で発生するトラブルとして考えられるものについて、BCP対策を策定しましょう。
サイバー攻撃を受けた際の対策であれば、ウイルス対策ソフトの導入や復旧作業の流れを検討する等の計画をおこないます。仕入先の倒産については、代替仕入先を検討してリストアップしておく等の対応を取りましょう。
2-3. 内的要因による災害
内的要因による災害には以下のような物があります。情報漏洩 ・データの改ざん ・社内の不祥事 ・自社システムの障害 ・システムのメンテナンス等によるサービス提供の中断 ・オフィスの移転 自社が起因となり発生するトラブルやイレギュラーに対して備えるのが内的要因へのBCP対策です。
取引先企業への謝罪連絡のリストや記者会見の開催フロー、謝罪のテンプレートの作成など、 信頼回復に向けてスムーズに行動できるよう、手順を決めておく必要があるでしょう。
3. 人事部門が災害BCPで策定すべき主要項目


3-1. 安否確認の体制とフロー
災害発生後、人事部門が真っ先に行うべき最優先事項です。
- 誰が、どのツールで、どの範囲の従業員の安否を確認するのか?
- 確認結果を、どのように集約し、経営層へ報告するのか?
- 連絡が取れない従業員に対して、次にどのようなアクションを取るのか?
これらのフローを具体的かつ明確に定めておく必要があります。
3-2. 緊急連絡網と情報伝達手段
安否確認と同時に、会社としての方針(自宅待機、出社指示など)を全従業員へ公平かつ迅速に伝達する手段の確保も重要です。
複数のコミュニケーション手段(メール、SNS、安否確認システムなど)を準備しておくことが望ましいでしょう。
3-3. 出社困難時の労務管理ルール
公共交通機関の麻痺や、事業所の被災により出社が困難になった場合の、勤怠の取り扱いを定めておく必要があります。
- 特別休暇の適用範囲と条件
- リモートワークへの移行基準と、その際の勤怠管理・コミュニケーションルール
- 事業所が閉鎖した場合の休業手当の支払いに関する方針
ポイント:
地震などの不可抗力が原因で休業する場合、法的には休業手当の支払い義務は生じないと解釈されるのが一般的です。
しかし、従業員の生活を守る観点から、企業が任意で手当を支給するのか、あるいは特別休暇として扱うのか、その方針を事前に定めておくことが従業員の安心に繋がり、信頼関係を維持する上で極めて重要です。
これらのルールを事前に明確にしておくことが、従業員の不安を和らげ、混乱を防ぎます。
3-4. 給与・休業手当の支払計画
従業員の生活を守る上で、給与の支払いを滞らせることは絶対に避けなければなりません。
オフィスが機能停止した場合でも、給与計算と支払いを継続できる代替手段(クラウドシステムの活用など)を確保しておくことは、人事BCPの根幹をなす項目です。
4.【例】地震が発生した際のBCP対策


災害を「初動対応」「仮復旧対応」「本復旧対応」「保守運用」4つのフェーズに分類し、必要な対応を計画していきます。
4-1. 初動対応
地震が発生した際、初動対応では、お客様や従業員の安全を考えた上で、被害をこれ以上拡大させないような策を取りましょう。
BCP対策の検討段階で、設備の防震対策に不足があれば機器の転倒を防止するような対策をおこなったり、避難経路となる動線が十分に用意されているかなどを確認して改善したりします。 事業場からの避難対応や、被害状況確認のための報告フロー、従業員に怪我があった場合の応急手当や警察・消防への通報マニュアルなどを用意します。
また、地震に伴い火災が発生した場合には初期消火も必要です。火災リスクがある場合は消火設備の準備もしておきましょう。
4-2. 仮復旧対応
安否確認や被害状況の把握が終わったら、その結果をもとに取引先や従業員と連絡をとりましょう。その際は、できる限りスピーディーに対応をすることが大切です。
地震の影響で自社の設備が故障する等、中核となる事業に大きな損害があった場合は、すみやかに事業の継続方針を立て、どのような対応をおこなっていくか関係各所に示します。事業への影響を踏まえ、どの取引先から連絡をいれるのか優先順位を付けて連絡リストを作成しておきます。メール等で連絡をする想定の場合には、謝罪文のテンプレートを作成しておくとよいでしょう。
また地震によって原材料の供給が滞る危険がある場合には、代替の仕入先リストを作成しておけば安心です。 事業場に被害が出て、従業員の自宅の方が安全が確保される状況であると分かれば、出社ではなくリモートワークへ切り替えるよう促す対応も検討されます。
判断基準を定めておくと部署によって判断が分かれず、緊急時でも業務に与える影響を抑えられる可能性が高まります。
4-3. 本復旧対応
仮復旧から通常の状態に戻すための、本復旧対応をおこないます。
設備に被害があった場合には、建物の修復が完了しているか、また電気や水道・ガスといったライフラインが復旧しているか、そして、平常時と同じように業務が稼働できているかの3点を中心に確認をしていくとよいでしょう。
4-4. 保守運用
最後に、初動対応や仮復旧対応、本復旧対応を運用するための保守運用計画を立てていきます。
保守運用では、避難通路や緊急連絡先を最新のものとしたり、備蓄品の買い替えなどをおこなったりするとよいでしょう。
また、避難訓練なども適宜おこなっていきましょう。避難訓練を計画しておくことで、緊急時の連絡フローの抜け漏れや想定時点では気づくことのできなかった懸念点が見つかることもあります。
5. 災害に対応するためのBCP対策の策定ポイント


◇災害に対応するためのBCP策定ポイント3つ
- 既存のBCPを参考にしながら策定する
- 内閣府のガイドラインを参考にする
- 専門家にBCP策定を依頼する
以下、これら3つの策定ポイントについて確認をしていきましょう。
5-1. 既存のBCPを参考にしながら策定する
BCPを策定する場合には、既存のBCPを利用して策定をおこなっていくと、短時間で、かつ効果的なBCPを策定できます。 何もないところからBCP策定をおこなう場合、項目として取り上げる事項や、フォーマットなどに迷いが生じがちです。
しかし、あらかじめ用意されたBCPのサンプルなどを参考に、自社の状況に沿った内容で策定をおこなっていけば、効率よく事業継続計画書を作ることができます。 中小企業庁のホームページでは、中小企業向けのBCP策定運用指針を公開しています。BCP様式類のダウンロードも可能となっていますので、こちらを参考にしてみるのもよいでしょう。
5-2. 内閣府のガイドラインを参考にする
BCP策定をおこなう際には、内閣府「防災情報ページ」にあるガイドラインを参考にするとよいでしょう。
このほか、先ほど紹介した中小企業庁で公開されているガイドラインを参考にするのもおすすめです。 ガイドラインを参考にすることで、専門家に作成を依頼する費用の削減も可能となります。
また、あらかじめ他の企業で作成されたガイドラインを参考にするのもよいでしょう。ただし、内容については自社の現状に沿っていない場合もあるので、十分に精査しながら活用していく必要があります。
参考:防災情報ページ|内閣府
5-3. 専門家にBCP策定を依頼する
外部の専門家(社外コンサルタント)などにBCP策定を依頼すると、ミスのないBCPの策定が可能となります。
自社だけで策定したBCPの内容に不備がないか、不安を感じる場合には最適な方法です。ただし、外部に依頼することで、別途費用がかかる点については注意しましょう。 また、事業継続計画書には、自社の中核となる業務など、重要な情報についても同時に掲載されます。
そのため、BCP策定を依頼する専門家が信頼できるかについても、十分に確認した上で依頼しなければなりません。 社内の大切な機密情報を守るためにも、情報漏洩には十分な配慮が必要です。
6. BCP対策に迅速に取り組むためにすべきこと


6-1. 災害時に露呈する、人事データ管理の脆弱性への対策
BCPをどれだけ詳細に計画しても、その実行に不可欠な「人事データ」にアクセスできなければ、すべては“絵に描いた餅”になってしまいます。そして、従来の人事データ管理方法には、災害時に露呈する大きな脆弱性が潜んでいます。
- 物理的リスク:
紙の従業員名簿や雇用契約書、社内サーバー(オンプレミス)は、事業所が被災すれば、情報ごと滅失・毀損する可能性があります。
- アクセス不能リスク:
オフィスが立ち入り禁止になれば、安否確認に必要な緊急連絡先リストや、給与計算に必要な勤怠データに誰もアクセスできなくなります。
- 情報のサイロ化:
「連絡網はExcel」「従業員情報は紙ファイル」「勤怠データは別システム」といったように、情報がバラバラに管理されていると、緊急時に正確な情報を集約するのに多大な時間を要し、初動の遅れに直結します。そのため、迅速にこのような点を改善するための対策が必要です。
6-2. 解決策:クラウドによる人事情報の一元化がBCPの基盤となる
これらの課題に対する最も有効なアプローチが、クラウドを活用し、分散した人事情報を「ワンデータベース」に一元化しておくことです。
これは、従業員の基本情報から勤怠、給与、個人情報、各種書類まで、あらゆる人事データを一つの統合されたデータベースで管理するという考え方です。この体制が、災害時のBCP対策において以下のような絶大な効果を発揮します。
- データの保全とアクセス性:
データは物理的に安全なデータセンターで保管され、インターネット環境さえあれば、場所を問わず必要な情報にアクセスできます。
- 情報の正確性と一貫性:
データベースが一つであるため、常に最新・正確な情報に基づいた安否確認や労務管理が可能になります。情報の参照元で迷うことはありません。
- 業務継続性の確保:
クラウド上で勤怠管理や給与計算を行えるため、オフィスが機能不全に陥っても、従業員の生活を支える重要業務を継続できます。
7. いつ起こるかわからない災害に対応するためにもBCP対策は重要


災害時のBCP対策において、人事部門が果たすべき役割は、従業員の安全を守り、事業継続の基盤を維持するという、極めて重要なものです。そして、その成否は、いかにして「人」に関する情報を守り、緊急時に活用できる体制を平時から構築しておくかにかかっていると言えます。
もし、貴社の人事データ管理体制に少しでも不安があるようであれば、BCP対策強化という観点から、クラウドによる人事情報の「ワンデータベース」化を検討してみてはいかがでしょうか。



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