キャリアパスとは?キャリアプランとの違いや重要視されている背景を解説
更新日: 2025.11.21 公開日: 2025.4.24 jinjer Blog 編集部

キャリアパスとは、従業員が特定の役職や職務へ就くための道筋を示したものです。企業が従業員に対してキャリアパスを提示することで、モチベーションの向上や採用後のミスマッチの防止などが期待できます。
キャリアパスを制度として導入する際は、自社の実態に沿った等級制度や研修制度を整備することが重要です。
本記事では、キャリアパスとキャリアプランの違いや制度の導入で得られるメリットを解説します。制度を導入する際の手順も紹介するので、キャリアパス制度を導入したい方はぜひ参考にしてください。
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1. キャリアパスとは

キャリアパスとは、企業などの組織内において、特定の役職や職務に就くために辿るべきプロセスを意味します。例えば、「入社5年目でリーダーに任命」「管理職研修の受講で課長に昇進」のように、上級の役職や職務への到達基準を示します。
キャリアパスは、従業員の成長意欲の向上や人材育成に効果的です。企業が従業員へキャリアパスを提示すれば、昇進に必要な経験やスキルが明確になることで、従業員の自主的な成長が期待できます。
キャリアパスの考え方を人事評価や、昇進・昇給の基準として取り入れたものがキャリアパス制度です。
2. キャリアパスとキャリアプランの違い

キャリアパスとキャリアプランの違いは、以下の通りです。
| キャリアパス | キャリアプラン |
| 企業が従業員に対して提示する、特定の役職や職務に就くために必要なプロセス | 従業員が作成する、将来の理想のキャリアに到達するための目標や行動の計画 |
キャリアパスは、企業が従業員に対して提示します。
一方、キャリアプランは、従業員が自分の理想とする働き方や仕事にもとづいて計画するものです。例えば、「10年後にマネージャーとしてチームをけん引するため、研修でマネジメントスキルを身につける」などの例があります。
組織内でキャリアが完結するキャリアパスに対し、キャリアプランは職業人生全体を見通してキャリア形成を計画する点も違いのひとつです。
そのため、キャリアプランには、転職や独立などの過程も含まれます。混同しないよう注意しましょう。
2-1. キャリアデザインやキャリアデザインとの違い
キャリアデザインは、仕事だけでなくプライベートも含めた人生全体をどう生きるか、という広範な「生き方」の設計を指します。一方、キャリアプランは、その人生の目標を達成するために、仕事(職歴)に絞って具体的な目標や行動計画を立てることを意味します。
つまり、キャリアデザインが人生の全体像と理想像(ビジョン)を描くのに対し、キャリアプランはそれを実現するための具体的な職務上の道筋やステップを示すものです。
3. キャリアパス制度が重要視されている背景

近年、キャリアパス制度が重要視されている背景には、働き方に関する価値観の多様化が挙げられます。
キャリアパス制度が注目され始める以前、日本では終身雇用が雇用の慣行でした。
終身雇用では、年功序列型の給与体系が採用されることが多く、勤務年数や年齢に応じて役職や給与が上がります。そのため、定年まで同じ企業で働き続け、キャリアを重ねることが働き方の基本でした。
しかし、1990年代に入ると、成果主義が広まります。終身雇用や年功序列が機能しなくなったことで、労働者自身が転職も見越してキャリア形成を考える必要性が生じてきました。
キャリアパス制度は、そうした社会の要請に応えるための効果的な手段の一つです。企業が組織内でのキャリアの展望を明確に示すことで、労働者が自分の理想とする働き方に合った選択をできるようになります。
4. キャリアパスとキャリアプランのすり合わせ方法

キャリアパスは企業が従業員に対して提示する将来の理想像なのに対して、キャリアプランは従業員が自身の理想を目指す計画です。
そのため、キャリアパスとキャリアプランが異なる可能性があるため、以下のような方法ですり合わせを図りましょう。
- 定期的なキャリア面談の場を設ける
- 従業員のキャリアプランを制度に反映できる柔軟性を持たせる
4-1. 定期的なキャリア面談の場を設ける
企業が定めたキャリアパスと、従業員が描くキャリアプランの認識を一致させるため、定期的なキャリア面談が重要です。上司や人事が、評価とは別に中長期的な視点で従業員の志向やスキル、課題、どのようなキャリアパス要件なのかをヒアリングします。
この対話により、従業員は自身の計画を具体化でき、企業側は提供するキャリアパスとのズレを早期に把握・修正できます。これは、従業員の納得感とモチベーション維持に不可欠です。
4-2. 従業員のキャリアプランを制度に反映できる柔軟性を持たせる
企業が設計したキャリアパスは、すべての従業員に適用できるとは限らないため、多様なキャリアプランに対応できる柔軟性が必要です。
例えば、職種をまたぐ異動を可能にする社内公募制度やFA制度を設け、提示されたパス以外の選択肢を提供します。また、従業員のスキルや市場の変化に応じて、キャリアパスそのものを定期的に見直し、アップデートを試みましょう。柔軟性が、従業員に「自分の未来は会社で実現できる」という信頼感を与え、制度の実効性を高めます。
5. キャリアパス制度の導入で得られる3つのメリット

キャリアパス制度の導入で得られるメリットは、主に以下の3つです。
- 従業員のモチベーションの向上につながる
- 採用後のミスマッチを防止できる
- 効率的に人材を育成できる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
5-1. 従業員のモチベーションの向上につながる
キャリアパス制度のメリットは、従業員のモチベーションの向上につながることです。
キャリアパスが明確に提示されていると、従業員は今の自分に必要な経験やスキルを把握できます。目標のキャリアに到達するためにどのような努力をするべきかがわかることで、意欲的に業務に取り組めるようになるでしょう。
従業員一人ひとりの成長意欲が高まれば、組織全体の生産性の向上も見込めます。
5-2. 採用後のミスマッチを防止できる
キャリアパス制度は、採用後のミスマッチの防止にも有用です。
採用活動でキャリアパスを提示すれば、求職者は企業に対する自分の適性を見極められるようになります。企業にとっても、自社のニーズに合った応募者が集まりやすくなるため、満足度の高い採用活動ができるでしょう。
さらに、採用後のギャップが生まれにくくなることで、定着率の向上も期待できます。
5-3. 効率的に人材を育成できる
キャリアパス制度を導入すれば、効率的な人材育成が可能になります。なぜなら、あらかじめ社内の昇進・昇給基準が明確に決められていることで、研修計画が立てやすいからです。
また、従業員の目標に適した研修を、必要な分だけ実施するため、教育コストの削減も期待できます。従業員は効率よく次のステップへと進めるため、短い期間で優秀な人材を育成できるようになるでしょう。
6. キャリアパスの考え方

キャリアパス制度を導入するにあたり、人事担当者は次のようなキャリアパスの考え方について把握しておきましょう。
- キャリアの目標地点を決める
- スキルを棚卸する
- やることを逆算して考える
6-1. キャリアの目標地点を決める
キャリアパスを考えるうえで重要なのは、どこを目指したいのかという目標地点の明確化です。漠然と昇進したいと考えるのではなく、具体的にどのようなポジションで、どのような役割を担い、どのような影響を与えたいのかをイメージするのがポイントです。
目標地点を決めることで、次に何をすればよいのかを判断しやすくなります。イメージ図を用いることで、キャリアを描きやすくなるでしょう。
6-2. スキルを棚卸する
目標地点が定まったら、従業員のスキルを棚卸します。これまでの業務経験を通じて培ってきた知識、経験、能力を具体的に書き出してもらいましょう。
スキルを棚卸しすることで、従業員の強みと弱みが明確になります。そのため、目標達成のために足りないスキルや、さらに伸ばすべきスキルが見えてくるでしょう。
6-3. やることを逆算して考える
目標地点と現在のスキルが明確になったら、最後に目標達成のために何をすべきかを逆算して考えます。例えば、人事部門のマネージャーになるという目標がある従業員の場合、必要なスキルとして、マネジメント能力や戦略的人事企画力が挙げられます。マネージャーに必要なスキル習得のための行動計画を効率的に立てられます。
7. キャリアパス制度の導入手順

キャリアパス制度の導入手順は、以下の通りです。
- 等級を設定する
- 評価基準を定める
- 給与体系を設定する
- 研修制度を整備する
それぞれの手順を詳しく解説します。
7-1. 等級を設定する
まず、社内の等級を設定します。
民間企業の場合、等級は主任・係長・課長・部長などの役職で設定することが一般的です。一般従業員についても経験やスキルなどに応じて複数の階層を設けるとよいでしょう。
例えば、「入社5年目でリーダー、10年でマネージャー」など、経験やスキルを重ねるほど上級の職務になるように設定します。ポジションの名称は、自社の業態や業務の特質に合わせて決めましょう。
7-2. 評価基準を定める
等級制度を設定したら、評価基準を決めます。従業員が目指すべきスキルや努力の方向性がわかるよう、明確な評価基準を定めましょう。
評価基準を決める際は、人事評価制度と連動させることが重要です。すべての従業員が納得できる評価をおこなうため、キャリアパス全体で基準を統一し、公平性を確保しましょう。
7-3. 給与体系を設定する
設定した等級・階層ごとの給与を設定します。等級・階層が高いほど、業務の難易度や責任の重みも増すため、その整合性がとれるよう設定することが大切です。
決定した給与体系は、従業員全員が社内でいつでも確認できるように開示するとよいでしょう。従業員が等級・階層ごとの給与額を把握できることで、成長意欲の向上やモチベーションアップが期待できます。
7-4. 研修制度を整備する
従業員がキャリアパスを実現できるよう、等級ごとに、必要なスキルを習得するための研修制度を整備しましょう。
研修の内容は、業務の実態に沿ったプログラムにすることが重要です。
例えば、実務を通して知識を習得するOJT研修や、資格関連の研修があると、スムーズなキャリアパスの実現につながるでしょう。従業員の自主的なスキルや技能の習得を、経済面や時間面から支援するSDS研修(Self Development Support)も効果的です。
外部の研修機関やeラーニングなども活用して、実効性のある研修を用意しましょう。
8. キャリアパス制度の導入で考慮すべきポイント

キャリアパス制度の導入時は、以下のポイントにも留意しましょう。
- 選択肢を複数設ける
- ロールモデルを設定する
それぞれ詳しく解説します。
8-1. 選択肢を複数設ける
キャリアパスは、複数の選択肢を設けましょう。
従業員によって能力や成長度合いは異なるため、一つのキャリアパスですべての従業員が理想の働き方を実現できるとは限りません。キャリアパスを複数設けておけば、従業員が自分の成長度合いや適性に応じて、柔軟にキャリアを選択できます。
妊娠・出産、育児との両立など、ワーク・ライフ・バランスに配慮することも重要です。
ただし、教育コストや運用担当者の負担が増すことも考え、選択肢の増やしすぎには注意しましょう。
8-2. ロールモデルを設定する
従業員が主体的にキャリア開発に取り組むようにするため、社内のロールモデルを設定しましょう。
ロールモデルとは、行動や考え方の模範となる人物のことです。自社のキャリアパスでキャリアアップに成功したモデルを示せば、従業員が自分のキャリアパスを進める際の参考になります。
また、自社のキャリアパスが実際に機能している証明にもなるため、従業員の自社に対する信頼度を高めることにもつながるでしょう。
9. キャリアパス導入が形骸化する企業の共通点

キャリアパスを導入しても形骸化してしまう企業として、以下のような共通点があります。
- 評価基準が曖昧で不公平感を生む
- 研修制度が実務に直結していない
- 上司がロールモデルになっていない
9-1. 評価基準が曖昧で不公平感を生む
キャリアパス制度が形骸化する企業の共通点として、評価基準の曖昧さが挙げられます。昇進・昇格の基準や必要なスキルが明確でないと、従業員は「何を頑張れば次のステップに進めるのか」がわからず、努力の方向性を見失います。
さらに、評価が属人的・主観的になり、特定の従業員に有利に働くなど不公平感が生じると、制度や会社への不信感が高まります。結果として、従業員はキャリアパスを真剣に捉えなくなり、制度の存在意義が失われてしまいます。
9-2. 研修制度が実務に直結していない
導入したキャリアパスで求められるスキルや知識を習得するための研修制度が、実際の業務や次のステップに直結していない場合、制度は形骸化します。研修内容が抽象的であったり、現場で活用できない座学に偏ったりしていると、従業員は「研修を受けても意味がない」と感じ、時間とリソースの無駄になります。
キャリアパスを機能させるには、各ステップで必要な具体的スキルを習得できる、実践的な研修プログラムとOJT(オンザジョブトレーニング)の連携が不可欠です。
9-3. 上司がロールモデルになっていない
キャリアパスの上の段階にいる上司が、目指すべきロールモデルとして機能していないことも、制度の形骸化を招きます。上司自身が提示されたキャリアパスを辿って成長したという実感や、高い専門性を示せていないと、部下は「この道を歩んでも理想の姿にはなれない」と感じてしまうでしょう。
上司は、ただ管理するだけでなく、自身のキャリア経験や知識を部下に共有し、パスの有効性を体現することが重要です。これが欠けると、制度への信頼性が低下します。
10. 業種別のキャリアパス

キャリアパスは業種によって異なります。ここでは以下の業種別のキャリアパスを解説します。
- 営業職
- 介護職
- エンジニア
- プログラマー
10-1. 営業職
営業職は、企業の売上を直接的に左右する重要な役割です。そのため、営業職のキャリアにおいては、成果に直結する貢献が特に求められます。
営業職におけるキャリアパスの例としては、特定の分野のスペシャリストとして実績を積む道や、チームマネジメントを行う管理職を目指すことが挙げられます。
10-2. 介護職
介護業界は人材不足が深刻で離職率が高い傾向にあるため、質の高いサービスの提供と、働きやすい環境づくりが重要になります。
キャリアパスの例としては、現場での専門性を高め続ける道や、サービス提供責任者、施設管理者といった管理職を目指すことが考えられます。
10-3. エンジニア
IT業界のエンジニアは、技術革新のスピードが速く専門性が高い職種です。そのため、最新技術への対応力と、問題解決能力が重要なミッションとなります。
エンジニアにおけるキャリアパスとして、特定の技術分野のプロフェッショナルとして第一線で活躍する道や、プロジェクトマネージャー、テックリードとしてチームを牽引する立場を目指すことが挙げられます。
10-4. プログラマー
プログラマーはエンジニアの一種で、特にコーディングを主業務とします。基本的な特徴はエンジニアと共通しますが、より個々のスキルレベルと成果物に焦点を当てたキャリアが求められます。
プログラマーのキャリアパスとして、特定の言語や技術に特化したエキスパートになる道や、チームの中心となって開発をリードするリードプログラマーを目指すことが考えられます。
11. キャリアパス制度を導入して従業員のモチベーション向上を図ろう

キャリアパス制度を導入すれば、従業員は自分の目指す役職・職務に就くために必要なスキル、経験がわかります。従業員がキャリアパスを実現しようと行動するようになれば、モチベーションがアップし、組織全体の生産性向上につながるでしょう。
キャリアパス制度を適切に導入するには、等級制度や評価基準を明確に定め、給与体系との整合性を確保する必要があります。実効性のある研修制度を設けて、従業員のキャリアパスの実現をサポートする体制を整えることも重要です。
優秀な人材を育成するため、キャリアパス制度を導入し、従業員のモチベーションを向上させましょう。
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