育児休暇中の有給休暇は取得できる?2つの休暇の違いや給与の扱いを解説
更新日: 2025.10.9 公開日: 2025.6.22 (特定社会保険労務士)

「育児休暇中に年次有給休暇は取得できるのか?」
「育児休業と育児休暇はどう違うのか?」
こうした疑問は、実務を担う人事・労務担当者に多く寄せられるテーマです。
育児に関する制度の整備は、従業員の働きやすさや定着率に直結する一方で、正しく理解しておらず運用を誤ると、法令違反や思わぬトラブルにつながりかねません。特に「育児休暇」と「年次有給休暇」の関係性や、給与の扱いをめぐる誤解は、制度設計の際に注意すべきポイントです。
本記事では、育児休暇・有給休暇・育児休業・産前産後休業の違いを整理したうえで、育児休暇中の年次有給休暇の取り扱いや注意点をわかりやすく解説します。正しい知識を身につけ、企業も従業員も安心できる制度づくりにつなげましょう。
育児・介護休業に関する法改正が2025年4月と10月の2段階で施行されました。特に、育休取得率の公表義務拡大など、担当者が押さえておくべきポイントは多岐にわたります。
本資料では、最新の法改正にスムーズに対応するための実務ポイントを網羅的に解説します。
◆この資料でわかること
- 育児・介護休業法の基本と最新の法改正について
- 給付金・社会保険料の申請手続きと注意点
- 法律で義務付けられた従業員への個別周知・意向確認の進め方
- 子の看護休暇や時短勤務など、各種両立支援制度の概要
2025年10月施行の改正内容も詳しく解説しています。「このケース、どう対応すれば?」といった実務のお悩みをお持ちの方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 育児休暇・有給休暇・育児休業・産前産後休業の違い


「育児休暇」「年次有給休暇」「育児休業」「産前産後休業」は、いずれも従業員のライフイベントを支える制度です。ただし、それぞれ法的根拠や取り扱いが異なります。主な違いは、次のとおりです。
| 法的根拠 | 概要 | |
| 育児休暇 | 企業の就業規則など | ・企業が独自に定める任意の育児支援休暇制度
・取得条件や給与の有無は企業に委ねられる |
| 年次有給休暇 | 労働基準法第39条 | ・一定の条件を満たす従業員に対して法定で付与される有給休暇
・年5日以上の取得義務あり |
| 育児休業 | 育児・介護休業法第5~10条 | ・原則として1歳未満の子を養育するために取得できる法定の休業制度(最大2歳まで延長可能)
・雇用保険から育児休業給付金を受給できる(企業からの給与支払い義務はなし) |
| 産前産後休業 | 労働基準法第65条 | ・産前6週間(多胎妊娠の場合14週間)、産後8週間の休業を保障する法定制度
・健康保険から出産手当金を受給できる(企業からの給与支払い義務はなし) |
特に混同されやすいのが、「育児休暇」と「育児休業」です。育児休業は、法律で定められた制度であり、企業は一定の条件を満たす従業員に対して必ず取得を認めなくてはなりません。
一方、育児休暇は企業が任意で設ける制度であり、法的な取得義務はありません。取得要件や給与の有無についても、すべて企業の裁量に委ねられています。
2017年の法改正により、育児休暇(小学校入学前の子を持つ従業員が育児に関する目的のために利用することができる休暇)の導入が企業の「努力義務」とされましたが、実際の導入率は高くありません。認知度も低く、一般的に「育休」というと「育児休業」を指すことが多いため、誤解や混同が生じやすいのが現状です。
Job総研の調査によると、「育児休暇を取得したことがある」と回答した人は、わずか12.8%にとどまりました。一方で「取得したい」と考えている人は82.0%に上っており、制度があっても利用されにくい実態が浮き彫りになっています。
参考:労働基準法 | e-Gov 法令検索
参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 | e-Gov 法令検索
参考:2022年 育児休暇実態調査を実施 | Job総研
2. 産休・育児休業中・育児休暇中に有給は取得できる?


従業員から寄せられる質問のひとつに、「休業中や休暇中に年次有給休暇は併用して取得できるのか」というものがあります。産前産後休業・育児休業・育児休暇は、それぞれ法的根拠や運用のルールが異なるため、誤った説明はトラブルの原因となりかねません。
ここでは、それぞれの制度と年次有給休暇の関係について解説します。
2-1. 育休中に有給取得は原則できない
育児休業は育児・介護休業法に基づき、一定の年齢未満の子を養育するために取得できる休業制度です。育休期間中は、産休と同様に労働義務が免除されるため、有給休暇を取得することは原則できません。
ただし、計画的付与など、育児休業の申出前に有給休暇の取得日が確定している場合には、育児休業中でも有給休暇の取得が可能です。
6 年次有給休暇
年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、育児休業申出後には、育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はないこと。また、育児休業申出前に育児休業期間中の日について時季指定や労使協力に基づく計画付与が行われた場合には、当該日には年次有給休暇を取得したものと解され、当該日に係る賃金支払日については、使用者に所要の賃金支払の義務が生じるものであること。
なお、育児休業中に企業が給与を支給した場合、その支給額に応じて雇用保険から支給される育児休業給付金が減額、または不支給となる可能性があります。実務上は、給付金との調整に十分留意することが必要です。
2-2. 産休中に有給取得は原則できない
年次有給休暇は、労働義務のある日に就労を免除しつつ給与を支給する制度です。一方、産前産後休業は労働基準法第65条に基づき、母体保護を目的として労働義務そのものが免除されているため、産休中に有給休暇を取得させる必要はありません。
ただし、産前休業は従業員の請求によって与えられる休業であるため、従業員が「産前の一定期間に有給休暇を取得したい」と申し出た場合に、有給休暇を取得することは可能です。なお、産前休業の期間に有給休暇を取得した場合、その日数分は、健康保険から支給される出産手当金が減額される点に留意が必要です。
これに対して、産後休業は、労働基準法で就業自体が禁止されているため、計画的付与を含めて有給休暇を取得することはできません。
2-3. 産休と育休の間は有給取得ができる
従業員が育児休業を取得する場合、多くは産前産後休業に続けてそのまま育児休業へ移行しますが、産後休業終了後に一度職場へ復帰し、その後改めて育児休業を取得することも可能です。
この場合、「産前産後休業と育児休業の間の期間」は労働義務が復活しているため、従業員は年次有給休暇を取得できます。取得した日は、通常通り給与が支払われ、有給休暇の残日数も消化されます。
実際に発生頻度は多くありませんが、ゼロではありません。この期間をどう扱うかは勤怠管理に直結するため、従業員が希望する際には柔軟に対応できるよう、制度や運用ルールを整備しておきましょう。
2-4. 育児休暇中に有給取得は原則取得できない
企業が独自で設けた「育児休暇」であっても、年次有給休暇を同じ日に取得することはできません。年次有給休暇も、育児休暇を含む特別休暇も「労働義務を免除する休暇」であるため、両方を同日に与えることはできず、どちらか一方の適用となります。
なお、企業が独自で設定する特別休暇の内容が「取得理由を限定しない」「時期を自由に指定できる」といった、年次有給休暇と同等の条件を満たしている場合は、法定で義務付けられている「年5日の年次有給休暇取得義務」のカウントに含めることが認められるケースもあります。
休暇制度は混同されやすく、誤った運用は法令違反や労使トラブルにつながりかねません。企業が独自で育児休暇制度を導入・運用する際は、就業規則で基準や取得ルールを明確にし、従業員に正しく周知しておくことが重要です。
3. 産休・育児休業・育児休暇期間は有給の計算に含まれる?


産前産後休業や育児休業、育児休暇を取得した場合に、年次有給休暇の付与や消滅へどのような影響があるのかは、従業員からも関心の高いポイントです。
ここでは、各休業・休暇期間における年次有給休暇の計算方法と注意点を解説します。
3-1. 有給付与日数の計算に含まれる
年次有給休暇は、付与日前の1年間(入社最初の付与日は6ヵ月間)における「出勤日数 ÷ 全労働日」の出勤率が8割以上であることを条件に付与されます。
出勤日数・全労働日の算定における主な取り扱いは次のとおりです。
【出勤日数に含まれるもの】
- 業務上の負傷・疾病による休業日
- 産前産後休業を取得した日
- 育児休業、出生時育児休業、介護休業を取得した日
- 年次有給休暇を取得した日
【全労働日から除外されるもの】
- 会社都合による休業日
- 所定休日・法定休日
- 休日出勤をさせた日
- 正当なストライキ等により労務提供が全くなされなかった日
このように、産前産後休業や育児休業の期間は「出勤したもの」とみなされるため、取得したことで年次有給休暇の付与日数は減りません。休業に入ることで「翌年度の有給付与が減るのでは?」と不安を感じる従業員もいるため、影響しない点を丁寧に説明しましょう。
一方で、育児休暇を含む会社独自の特別休暇は法定の定めがないため、取扱いは企業の裁量に委ねられます。ただし、自己都合による欠勤と同一視するのではなく、全労働日から除外するか、出勤したものとして扱うのが望ましいとされています。
3-2. 有給休暇の消滅に注意
企業独自の制度である育児休暇中であっても、年次有給休暇の時効は進行します。年次有給休暇には付与日を起算日とした2年間の有効期限があり、時効期間は休暇・休業中であっても停止されません。
そのため、年次有給休暇を使用しないまま2年が経過すると、自動的に権利が消滅してしまいます。特に長期休業を取得する従業員については、復帰時に「有給休暇が消えていた」といったトラブルを防ぐために、次のような対応策をおこなうとよいでしょう。
- 年次有給休暇の残日数と消滅予定日を従業員に通知する
- 育児休暇に入る前に、計画的な年次有給休暇の取得を促進する
- 勤怠管理システムなどで年次有給休暇の消滅日をアラート表示する
休暇・休業中に時効を迎える有給休暇がある場合には、休暇・休業を開始する前に消化を促すなど、従業員が不利益を受けないよう配慮することが望まれます。
4. 育児休暇と有給休暇への理解を深め社内制度を整備しよう


育児休暇は、従業員が仕事と家庭を両立させるための重要な制度です。企業が任意に設ける特別休暇であり、運用方法や給与の有無は企業の裁量に委ねられるため、法定制度である育児休業との違いを従業員に正しく伝えることが欠かせません。
特に、育児休暇中に有給休暇を取得できないことや、有給休暇の時効が進行する点を従業員が十分に理解していなければ、復職後にトラブルへ発展する恐れがあります。
従業員が安心して働ける職場環境を整えるには、単に育児休暇制度を用意するだけでなく、適切な運用と従業員への周知が必要です。
育児と仕事の両立を支援する企業の姿勢は、優秀な人材の定着や採用力の向上にもつながります。法定制度との違いを踏まえたうえで、自社に合った育児休暇制度を検討し、だれもが安心して働ける職場づくりを進めていきましょう。



育児・介護休業に関する法改正が2025年4月と10月の2段階で施行されました。特に、育休取得率の公表義務拡大など、担当者が押さえておくべきポイントは多岐にわたります。
本資料では、最新の法改正にスムーズに対応するための実務ポイントを網羅的に解説します。
◆この資料でわかること
- 育児・介護休業法の基本と最新の法改正について
- 給付金・社会保険料の申請手続きと注意点
- 法律で義務付けられた従業員への個別周知・意向確認の進め方
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