労働安全衛生法における健康診断の実施は義務?種類・対象者・費用を解説 - ジンジャー(jinjer)|人事データを中心にすべてを1つに

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労働安全衛生法における健康診断の実施は義務?種類・対象者・費用を解説

「健康診断の実施は企業の義務?」

「健康診断にはどのような種類がある?」

上記のような疑問をお持ちではないでしょうか。従業員への健康診断の実施は、企業の義務です。しかし従業員は、業務の忙しさや診断結果の不安から、受診しないことも少なくありません。

本記事では、健康診断の種類や費用、対象者について解説します。健康診断に伴う課題と解決策も紹介するので、従業員の健康を守るために企業ができる取り組みを見直してみましょう。

1. 労働安全衛生法における健康診断の実施は企業の義務

従業員に対する健康診断の実施は、労働安全衛生法第66条により、企業に課せられた義務です。義務を怠ると、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

健康診断の実施に伴い、企業に課せられている義務は以下のとおりです。

  • 事業規模を問わず、常時雇用しているすべての従業員に対し、1年に1回の健康診断を実施すること
  • 常時50人以上の従業員を雇用する事業所は、健康診断結果を労働基準監督署に届出ること
  • 健康診断の結果を、企業内で5年間保管すること

また、健康診断の結果は個人情報であるため、結果を取り扱う担当者には守秘義務が課されます。情報漏洩を防ぐため、徹底した管理体制が求められます。

参考:労働安全衛生法 | e-Gov 法令検索

2. 健康診断の種類

健康診断の種類は以下のとおりです。

  • 一般健康診断
  • 特殊健康診断
  • じん肺検診
  • 歯科医師による健診

2-1. 一般健康診断

一般健康診断は、すべての従業員に対して実施される基本的な健康診断です。従業員の健康状態を把握し、健康リスクを早期に発見するために実施されます。健康診断の結果をもとに、従業員の健康維持や労働環境の改善につなげることも目的の一つです。

一般健診は、さらに以下の4つに細かく分類されます。

種類 対象者 実施時期
雇用時の健康診断 常時使用する従業員 雇入時
定期健康診断 常時使用する従業員 1年以内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断 労働安静衛生規則第13条第1項第2号に該当する従業員 ・6ヵ月以内ごとに1回

・配置換え時

海外派遣労働者の健康診断 海外に6ヵ月以上派遣する従業員 海外に派遣する帰国前と帰国後

特定業務従事者とは、深夜業務や危険な業務に携わる従業員のことです。健康上のリスクが高いことから、別途設けられています。

参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

2-2. 特殊健康診断

特殊健康診断とは、特定の有害業務に従事する従業員を対象に、一般健康診断ではカバーできない特別な検査を実施する健康診断です。

有害な作業環境や、業務が原因で発生する職業病や健康障害を予防・早期発見し、従業員の健康リスクを最小限に抑えることを目的としています。

化学物質や粉塵、有害な放射線など、健康リスクを伴う業務に従事する従業員の健康を守るために、労働安全衛生法によって義務づけられました。特殊健康診断の対象者は、以下のような有害業務に従事する従業員です。

業務内容 具体例
有機溶剤業務 トルエン・ベンゼンなどを使用する業務
粉塵作業 石炭や鉱物の取り扱いなど大量の粉塵が発生する業務
特定化学物質の取り扱い 鉛やアスベストなど、有害物質を取り扱う業務
放射線作業 放射線を扱う、また発生する機器を取り扱う業務
振動・騒音作業 長時間にわたって強い振動や騒音にさらされる業務

特殊健康診断の対象者は、健康被害のリスクが高い業務に従事しているため、配置替え時と6ヵ月以内に1回、必ずおこなわなければなりません。

従業員の健康に異常が見つかった場合、該当業務からの除外などの措置を取る必要があります。

参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

2-3. じん肺検診

じん肺検診は、粉塵を吸い込むことにより発生するじん肺(呼吸器疾患)を早期に発見し、予防するための健康診断です。じん肺検診は以下のような業務に従事する従業員が対象となります。

  • 石炭や鉱石の採掘作業
  • セメントやコンクリートを扱う建設作業
  • アスベストを扱う業務
  • トンネル掘削や解体作業

じん肺は、長期間にわたり粉塵を吸入することで肺に粉塵が蓄積し、肺が硬化する病気です。進行すると、呼吸困難や肝機能低下などを引き起こし、重症化すると命に関わることもあります。

労働安全衛生法では定期的なじん肺検診を義務づけており、実施頻度は原則3年に1回、じん肺の兆候がある場合は1年に1回です。

参考:じん肺法に基づく健康診断|厚生労働省

2-4. 歯科医師による健診

歯科医師による検診は、粉塵や化学物質に長期間さらされる業務に従事する従業員の歯や、口腔の状態をチェックするために実施されます。歯科医師による検診が義務づけられているのは、以下のような有害作業に従事する従業員です。

  • 鉛を扱う業務
  • 有機溶剤を使用する業務
  • 粉塵作業(石炭・鉱物・金属など)

実施期間は、雇入時・配置換え時・6ヵ月以内ごとに1回です。

参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

3. 健康診断の対象者

健康診断の対象者は、以下の雇用形態の従業員です。

  • 正社員|全員が受診対象
  • 契約社員・パート・アルバイト|条件によって受診対象
  • 派遣社員|労働契約の締結先ごとに受診対象
  • 役員|役職により受診対象

3-1. 正社員|全員が受診対象

正社員は通常、労働契約に基づきフルタイムで働いているため、全員が1年に1回の定期健康診断の対象者となります。また、有害業務に従事する場合は特殊健康診断の対象です。

3-2. 契約社員・パート・アルバイト|条件によって受診対象

契約社員や、パート・アルバイトの従業員は、以下の条件を満たしていれば健康診断の対象者となります。

  • 1年以上の雇用が見込まれている、もしくは1年以上雇用されていること
  • 1週間あたりの労働時間が正社員の4分の3以上であること

上記の条件に該当しない場合でも、労働時間が正社員の半分以上であれば、健康診断の実施が勧められています

参考:パート労働者にも健康診断が必要? ~ 常時使用する労働者とは ~ 定期健康診断 有機溶剤等|厚生労働省

3-3. 派遣社員|労働契約の締結先ごとに受診対象

派遣社員も健康診断の対象となります。

派遣社員は、派遣元の企業と労働契約を結んでいるため、健康診断の実施義務は派遣元に発生する仕組みです。つまり、派遣先の企業に健康診断の実施義務はありません。

ただし、派遣先の企業には従業員の安全・衛生管理の義務があります。そのため、派遣社員が有害業務に従事する場合は、「特殊健康診断」を実施しなければなりません。

3-4. 役員|役職により受診対象

役員は、労働者性の有無によって健康診断の受診対象となるかどうかが変わります。例えば、取締役と工場長を兼任しているなど、労働性のある役員は健康診断の対象です。

一方、代表取締役社長など、役員のみに就任している場合は、事業主とみなされるため健康診断の対象になりません。

4. 健康診断の費用は企業が全額負担する

企業の義務とされる健康診断の費用は、企業が全額負担することが安全衛生法で明確に定められています。従業員が健康診断の費用を支払い、後から領収書で精算する方法が一般的です。

ただし、従業員が希望して受けるオプション検査や人間ドック、再検査の費用については、企業に支払い義務はありません。とはいえ、従業員が精密検査や再検査を受けないことは、健康診断の本来の目的を全うしているとはいえないでしょう。

従業員に経済的負担をかけないよう、企業は費用の一部を負担したり、就業時間に受診を認めたりするなどの配慮が大切です。

参考:労働安全衛生規則 | e-Gov 法令検索

5. 健康診断の課題と対策方法

健康診断における課題と対策方法を以下の流れで解説します。

  • 定期健康診断の受診率の低下
  • フォローアップ体制が不十分

5-1. 定期健康診断の受診率の低下

定期健康診断は義務にもかかわらず、健康診断の受診率は、58.7%と低い結果となっています。従業員が健康診断を受けない主な理由と、対策方法は以下のとおりです。

健康診断を受けない理由 対策方法
業務が多忙 ・健康診断を業務時間内に受けられるようにする

・健康診断の受診日を複数日設ける

健康意識の低さ ・健康診断は義務であることを伝える

・健康診断の重要性や必要性について教育する

診断結果への不安 ・診断結果によるフォローアップ体制を整える(専門医の紹介、再検査の促進など)

健康診断の費用は企業負担であると伝えておくことも重要です。従業員の健康を守るためにも、企業の積極的な取り組みが求められます。

参考:業種別定期健康診断実施結果の有所見率の推移(2004-2021年、日本)|中央労働災害防止協会

5-2. フォローアップ体制が不十分

フォローアップの不十分さも企業の課題です。健康診断は、ただ受診するだけでは不十分で、診断結果に基づき適切なフォローアップをおこなわなければなりません

具体的な課題と対策方法は以下のとおりです。

課題 対策方法
従業員による診断結果の放置 ・専門医や健康管理者が診断結果に基づくリスク説明を個別に実施

・具体的な対策や医療機関の紹介

企業内のサポート体制 ・産業医や健康管理担当者の設置

・健康管理プログラムを整備し、社内で定期的な健康チェックをおこなう

健康診断結果の守秘義務 ・健康診断結果の保管方法を見直す(アクセス制限を設ける・鍵付きのキャビネットに保管するなど)

・健康診断結果を取り扱う担当者を明確にし、共有する場合は本人の許可を得る

・守秘義務違反が発生した際の罰則を明確に設定する

企業内のサポート体制を強化し、具体的な方針を従業員に明確にしておくことが重要です。従業員が積極的に健康管理に取り組める仕組みを導入しましょう。

6. 健康診断の重要性を再確認しよう

安全衛生法に基づく健康診断は、企業の義務となっています。診断費用は原則として企業が負担し、従業員に負担がかからないよう配慮することが求められています。

しかし、多忙な業務や診断結果の不安などの理由から、健康診断の受診率は高くありません。企業は従業員に健康診断の重要性を伝えつつ、受診しやすい環境を整える必要があります。

健康診断に対する重要性を再確認し、従業員一人ひとりの健康を守る体制を強化しましょう。

OHSUGI

OHSUGI

クラウド型勤怠管理システムジンジャーの営業、人事向けに採用ノウハウを発信するWebメディアの運営を経て、jinjerBlog編集部に参加。営業時代にお客様から伺った勤怠管理のお悩みや身につけた労務知識をもとに、勤怠・人事管理や給与計算業務に役立つ情報を発信しています。

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