ジョブローテーションで従業員が退職する理由は?退職を防ぐ方法まで解説
更新日: 2024.11.13
公開日: 2024.4.3
OHSUGI
ジョブローテーションとは、従業員やスタッフを育成し、モチベーションを維持するために定期的におこなわれる人事異動です。人材が流動することで組織が活性化し、社内コミュニケーションが活発になる効果が見込めます。
しかしなかには「ジョブローテーションで従業員が退職する」「モチベーション低下が起きる」とお困りの方もいるかもしれません。やり方や育成方針に問題があるために、退職につながっている可能性も高いでしょう。
本記事では、ジョブローテーションが原因で従業員が退職する理由や失敗例、向いていない企業を紹介します。本記事を参考に、退職につながらないような効果的な人材育成の方法を検討しましょう。
目次
昨今では、少子高齢化による労働人口の減少が年々激化しており、今後の採用・人材確保はますます難しくなるばかりです。
そんな中で、従業員の定着率をいかに上げるのかという課題が企業各社を悩ませる問題になっており、従業員の待遇改善のため、ボーナスや給与のベースアップを試みたとしても、
「そもそも物価高騰も進む中で、会社にもそんなに余裕はないし、単純な賃上げでは持続性がない...」
「支給額の分だけ税負担が増えるため、従業員の手取りは増えずに、思ったよりも効果が出ない」このように、会社の負担額は増える一方なのに、従業員満足度は上がらないという結果に陥りやすいのが現状です。
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1. ジョブローテーションとは
ジョブローテーションとは、従業員に対して定期的に業務や部署を変えることで、多くの業務を担当する機会を提供する人材育成システムのことです。まずはジョブローテーションの概要を正しく理解するために、概要を説明します。
1-1. ジョブローテーションを行う目的
ジョブローテーションの主な目的は人材育成と組織の活性化です。従業員がさまざまな業務を経験することで、多角的な視点を持った人材が育成され、新しい発想が生まれやすくなります。さらに、異なる部署や職種での経験を通じ、自社への理解を深めることが可能です。
ジョブローテーションによって社員の異動が活発になれば、社内の人間関係やネットワークが広がり、組織全体の柔軟性や活性化にも寄与します。これにより、企業は複数の業務が停滞するリスクを軽減し、業務の効率化や革新も期待できます。
1-2. ジョブローテーションと人事異動との違い
ジョブローテーションは計画的かつ定期的な異動を指し、従業員に幅広い業務知識を身につけさせ、組織の柔軟性を高めることを目的としています。
これに対し、人事異動は業績改善や組織再編、あるいは緊急対応など特定の理由に基づく臨時的な異動で、適性に合った人材を適切なポジションに配置し、その定着を目指します。
例えば、適性があると判断された従業員は、長期間同じ業務を担当し専門性を深めることができます。人事担当者や経営者にとっては、これらの違いを理解し、ジョブローテーションを通じて従業員の成長を促す一方、人事異動によって適材適所の配置を行うことが組織全体の成果向上につながるでしょう。
2. ジョブローテーションが原因で従業員が退職する3つの理由
従業員がジョブローテーションで退職する代表的な理由は、次の3つです。
- これ以上の成長が期待できないため
- 仕事で権限が持てないため
- 会社の方針に共感できないため
上記のような退職理由が多い場合、ジョブローテーションがうまく実施されていない可能性があります。従業員とコミュニケーションをとり、制度の改善を試みましょう。
関連記事:ジョブローテーションとは?目的やメリット・デメリット、実施する際のポイントを解説
2-1. これ以上の成長が期待できないため
代表的な退職理由としてはまず「これ以上の成長が期待できない」があげられます。一定期間で業務や必要となる能力が変わると、専門性が育ちにくいためです。
ジョブローテーションは、企業で働くうえで必要な知識を浅く広く習得するには有効といえます。新卒として入社した人材の育成には適している制度でしょう。
しかし、ある程度のスキルを身に着けると一定以上の専門性を獲得することはできません。向上心が強く、新しい環境でチャレンジしてみたいと考える従業員は、転職を検討する可能性が高いでしょう。
2-2. 仕事で権限が持てないため
ジョブローテーションでは「自分の権限で仕事ができない」ということも退職につながります。短期間で異動があり、部署や任せられる業務が変わると、仕事で権限を持ちにくいためです。
優秀な人材ほど、権限があり、責任を感じられる仕事をやりたいと考えます。仕事の権限を得るには上司の信頼性を勝ち取り、実力を認められることが重要です。
しかしせっかく部署で実績をあげてもすぐに異動になると、なかなか権限のある仕事は任せてもらえません。また長期的なプロジェクトに加わることも難しいため、優秀な人材ほどストレスを感じるでしょう。
2-3. 会社の方針に共感できないため
会社の方針に共感できない、異動に納得できない場合も退職につながります。自分にあわない業務を任されると、不満を抱く原因になるためです。
ジョブローテーションはさまざまな業務に精通したオールマイティーな人材を育成するには適した方法といえます。しかし、自分の適性にあった仕事だけをやりたいと考えている人にとっては苦痛を感じるでしょう。
企業の方針として、長期的な人材育成を見据えた異動でも、従業員が理解していないと不満を募らせます。人事異動の効果を発揮するためにも、従業員への理解を求めるためのコミュニケーションはかかせません。
3. ジョブローテーションが退職につながる失敗例
ジョブローテーションにより、従業員の退職を引き起こす失敗例は次の2つです。
- 人材育成的に意味のないジョブローテーション
- 従業員の意向を考慮しないジョブローテーション
それぞれの例について、どのような点が退職につながるのか解説します。社内で同じような失敗例が起こっていないか確認してください。
3-1. 人材育成的に意味のないジョブローテーション
人材育成的に意味がないと受け取られるようなケースは失敗例の一つといえます。従業員は希望する成長につながらないと感じると、自分が求める環境をほかに求めて退職しやすいためです。
目的や意図を知らされないまま異動させられた場合、従業員は与えられた仕事をただこなすだけになり、成長を感じられません。不信感や不満が募り、退職する可能性が高くなります。
また企業側にとっても、マルチロールな人材を育成するというジョブローテーションの本来の目的が達成できません。
多くの企業が導入しているジョブローテーション制度は、一定年数が経過したら異動する形式をとっています。しかし時期が来たからといって別の部署に異動させるだけでは、ローテーションの効果は低いでしょう。
企業としてどのような人材を育成したいと考えていて、今回の異動にはどのような意味があるのかを従業員に説明し、理解を求めることが大切です。
3-2. 従業員の意向を考慮しないジョブローテーション
企業の都合だけを優先し、従業員の意向を考慮しないと退職を招く危険が高くなります。企業と従業員双方にとってメリットが薄いケースが多いためです。
企業の方針として必要な部署異動であっても、異動先は従業員のキャリアプランを考慮する必要があります。やりたくない・興味のない業務を任せられると従業員のモチベーションが下がり、企業にも貢献できないでしょう。
また、部署での仕事に慣れてきてもう少し専門性を高めたいと感じているときに異動させることも好ましくありません。これ以上の成長が期待できないと判断されると退職のリスクが高まり、人材の流出につながります。
4. ジョブローテーションを導入した成功事例
一方でジョブローテーションの導入に成功した企業の事例はどんなものがあるのでしょうか。失敗して退職させてしまうことを避けるためにも成功事例を参考に自社の運用を検討しましょう。
4-1. ヤマト運輸株式会社の事例
ヤマト運輸株式会社では、従業員の多様な経験を促進するために計画的なジョブローテーションを導入しました。この制度の主な目的は、会社全体の業務の流れを従業員が把握し、理解することです。新入社員は入社後2年間、配送物の集配や配送サポート、営業といった現場での実務を経験し、その後本配属先の部署で就労します。この過程で、本人と会社が一緒にキャリアプランを考える機会も設けられています。
ジョブローテーションは、若手社員のモチベーションを引き出し、キャリアの土台を固める役割を果たしました。新入社員は先輩社員や顧客とのコミュニケーションを通じて、社訓を体得できます。さらに、ジョブローテーションを通じて、社員が厳しくも楽しい現場の感動を体験し、企業全体の業務効率化とイノベーションが促進されています。
この成功事例は、ジョブローテーションが社員の成長と企業の発展に大きく貢献することを証明しています。
4-2. 富士フイルムホールディングス株式会社の事例
富士フイルムホールディングス株式会社は、カメラや医薬品の開発・製造を行う大手企業であり、従業員規模は77,739名(2018年3月31日現在)です。この企業では若年層の育成と組織活性化を目的にジョブローテーションを導入しました。
新入社員にはスペシャリストを目指すための3年間の研修制度が用意され、自発性を磨くことを第一とした内容です。ビジネスマナー、業務に必要な知識やスキル、特定分野の技術・知識を徹底的に学びます。研修終了後、社員はどの部署に配属されても真摯に業務に取り組む姿勢が自然と身につき、「対応力」や「応用力」が強化されました。
ジョブローテーション制度により、社員は様々な業務経験を通して課題形成力、業務遂行力、関係構築力も身に付けられます。また、キャリアデザインを年1回実施し、どのような課題に取り組み、自己成長を目指すかを社員が具体的に考える機会を設けています。OJTと教育研修プログラム、ローテーションの連動を強化することで、自己成長への取り組みと自立型人材の育成を実現しています。
5. ジョブローテーションが向いていない企業の特徴
ジョブローテーションが向いていない企業の特徴は、次の3つです。
- 専門的な技術が求められる企業
- 社歴の浅い企業
- 長期的なプロジェクトが多い企業
それぞれの特徴について解説します。自社がいずれかに当てはまる場合、制度の導入は慎重に検討しましょう。
5-1. 専門的な技術が求められる企業
専門的な知識や技術が求められる企業は、ジョブローテーションが向いていない可能性が高いでしょう。長期間かけて経験を積まないと人材育成が難しく、短期間で異動がある状態では企業に貢献できない場合が多いためです。
例えばメーカーの研究・開発職の場合、一人前になるには製品に使われている部品や技術をくまなく把握する必要があります。従業員もエンジニア志望で入社してきている場合が多いため、本人の意向に沿わない異動は避けるべきです。
ただし同じ企業のなかにも、専門性が求められる職種と求められない職種が存在する場合もあります。例えば企画・営業職に対してだけはジョブローテーションを実施するなど、部分的な導入も検討しましょう。
5-2. 社歴の浅い企業
社歴が浅くて従業員が少なく、事業が安定していない企業も、ジョブローテーションの導入には慎重になったほうがいいでしょう。人材が定期的に入れ替わることで、組織の成長を妨げることになるためです。
ジョブローテーションは、ある程度の社歴があって事業が安定している企業に向いています。さまざま業務経験を積ませることで平均的に能力の高い人材を育成でき、企業の成長につながるでしょう。
スタートアップをはじめ創業して日の浅い企業の場合は、まず事業を安定させて規模を拡大することが最優先です。担当者が変わると、異動のたびに引き継ぎが発生し、業務が停滞する恐れがあります。また、頻繁に人が入れ替わるとチームワークが失われ、生産性も工場しにくいでしょう。
5-3. 長期的なプロジェクトが多い企業
業界や取り組んでいる事業の特性上、長期的なプロジェクトが一般的な企業にもジョブローテーションには向いていません。途中で担当者が変更になると、プロジェクトに悪い影響を及ぼしかねないためです。
例えば大規模なシステム開発をおこなうIT企業や、製品寿命の長い製品を作るメーカーは長期的なプロジェクトが多くなります。引き継ぎが十分におこなわれていないと、取引先に迷惑がかかる、市場で製品不具合が発生するなどの問題が起きかねません。
それでもジョブローテーションを導入する場合、異動のタイミングをずらすなど従業員ごとに対応が必要になるでしょう。
6. ジョブローテーションによる退職を防ぐ方法
従業員の退職を防止し、ジョブローテーションの効果を最大限に発揮する方法は主に次の3つです。
- ジョブローテーションを実施する目的を明示する
- 異動先の意向について従業員とすり合わせる
- ジョブローテーション以外の人材育成手法を導入する
ジョブローテーションの導入を検討している場合、上記の施策もあわせて実施しましょう。それぞれの具体的なポイントを解説します。
6-1. ジョブローテーションを実施する目的を明示する
ジョブローテーションが原因で従業員が退職することを防ぐには、目的を明示するよう努めましょう。企業の方針を従業員に伝えて、従業員にもメリットが得られる制度だと理解してもらうためです。
ジョブローテーションは一見すると何のためのシステムなのかわからず、短期間で異動があるためデメリットが目立ちます。しかし、業務で得られた経験は将来に生かせることもあるなど、従業員にとってのメリットも少なくありません。
ジョブローテーションのどこに魅力を感じるかは人それぞれです。従業員一人ひとりにメリットがあることを伝え、納得したうえで異動に応じてもらうようにしましょう。
6-2. 異動先の意向について従業員とすり合わせる
ジョブローテーションを実施する場合は、異動先について従業員の意向とすり合わせましょう。会社の育成方針だけでなく従業員のキャリアプランも考慮していないと、モチベーションの低下につながるためです。
ジョブローテーションを実施する場合、なぜ異動するのか、どのようなスキルを身につけるべきかなどの育成方針があるでしょう。事前に目的や意図を伝えないと従業員側も目的がわからず、ただ与えられた仕事をこなすだけになります。
同時に、従業員側にも会社で成し遂げたい仕事や、目指す人物像などのキャリアプランがあるでしょう。従業員の意向を汲み取った配置転換でなければ、効果的なジョブローテーションとはいえません。
6-3. ジョブローテーション以外の人材育成手法を導入する
ジョブローテーション制度と同時に、ほかの人材育成手法を導入するのも効果的です。従業員にあわせて育成手法を選ぶことで、効率的な人材育成が可能になるでしょう。
代表的な人材育成手法は以下の通りです。
育成手法の名前 | 内容 |
OJT | 部署の上司や先輩に指導を受け、業務に取り組みつつ必要な知識を学ぶ仕組み |
OFF-JT | 集合研修など、実務を離れて汎用的な知識やスキルを学ぶ仕組み |
自己啓発 | 従業員が自発的におこなう、業務に役立つ学習に対して企業が書籍代・検定受験料などを支援する制度 |
メンター制度 | 知識や経験を持つ部署外の先輩社員が、新入社員・若手社員のサポート、相談に乗る育成システム |
目標管理制度 | 社員が自ら設定した目標に対して、上司がどの程度の成果を挙げたのかを評価する制度 |
上記のような制度のうち、どれを採用するのかは従業員の職種や年次によって異なります。ときには複数の手法を組み合わせることも念頭におきつつ、自社に望ましい人材を育成する方針を立てるといいでしょう。
7. 効果的にジョブローテーションを実施することで従業員の退職は防げる
本記事では、ジョブローテーションで社員が退職してもらう理由や失敗例、退職を避ける方法について解説しました。
従業員が「成長が見込めない」「権限が持てない」「方針に共感できない」と感じると、退職につながる可能性があります。人材育成的に意味のない、従業員の意向を反映していないジョブローテーションにならないよう注意しましょう。
事業内容や社歴、長期的なプロジェクトの有無によっては、そもそもローテーションのシステムが向いていない企業もあります。ジョブローテーション以外の方法も考慮しつつ、従業員の意向をすり合わせた育成方針を立てましょう。
昨今では、少子高齢化による労働人口の減少が年々激化しており、今後の採用・人材確保はますます難しくなるばかりです。
そんな中で、従業員の定着率をいかに上げるのかという課題が企業各社を悩ませる問題になっており、従業員の待遇改善のため、ボーナスや給与のベースアップを試みたとしても、
「そもそも物価高騰も進む中で、会社にもそんなに余裕はないし、単純な賃上げでは持続性がない...」
「支給額の分だけ税負担が増えるため、従業員の手取りは増えずに、思ったよりも効果が出ない」このように、会社の負担額は増える一方なのに、従業員満足度は上がらないという結果に陥りやすいのが現状です。
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