労働契約書とは?作成方法や記載必須事項をわかりやすく解説
更新日: 2023.3.9
公開日: 2021.11.12
YOSHIDA
従業員を雇用する際にはさまざまな契約をする必要があります。業務内容を理解してもらい、問題があった際に確認するために必要なのが労働契約書です。労働契約書には何を記載すべきなのか、労働契約書はどのように作成するのかなどについて詳しく見ていきましょう。
【有期雇用契約の説明書】
1. 労働契約書とは
労働契約書とは、企業が従業員を雇用する際に結ぶ契約内容を記載した書類です。
労働契約書は労働者が不利益を被ることを防ぐだけでなく、企業側のトラブルを防ぐ役割もあります。
労働契約は労使間で以下の点に注意して結び、その内容を記したものが労働契約書です。
- 労使の対等の立場によること
- 就業の実態に応じて、均衡を考慮すること
- 仕事と生活の調和に配慮すること
- 信義に従い誠実に行動しなければならず、権利を濫用してはならないこと
労働契約書にはいくつかの作成ルールがあり、記載必須事項や保管期限など、注意しておくべきことがあるので注意しましょう。
労働契約書に記載が必須な事項は「2. 労働契約書に記載が必須な事項とは」で詳しく解説します。
参照:労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)に関する法令・ルール
1-1. 労働契約書がないのは違法?
労働基準法第15条では、使用者は労働契約を締結するにあたり、労働者に対して賃金や労働時間その他の労働条件を明示することを義務付けています。[注1]
とくに契約期間や就業場所といったいくつかの労働条件は、原則として書面(労働者が希望した場合はFAXやメールでも可)で交付しなければなりません。
労働条件を記載した労働契約書を交付しなかった場合、労働基準法違反とみなされ、同法第120条のもと、30万円以下の罰金に処される可能性があります。[注1]
新しく従業員を雇う場合は、必ず労働契約書を作成し、当該従業員に交付するようにしましょう。
1-2. 労働契約書と雇用契約書の違い
雇用契約書とは、雇用主と労働者の間で結ぶ労働契約の内容を明らかにするために作成する契約書のことです。
雇用契約書には賃金や就業場所、就業時間、業務内容など、労働条件に関する重要事項が記載されており、雇用主と労働者の双方が内容に合意し、署名押印することによって契約を締結します。
記載されている内容は労働契約書と共通する部分が多いのですが、労働基準法で交付が義務付けられている労働契約書とは異なり、雇用契約書の作成・交付は義務ではありません。
ただ、雇用主と労働者それぞれが署名押印した雇用契約書は、「双方が契約書の内容を確認し、同意した」という証拠になります。
雇用契約書がないと労使間で水掛け論に発展するおそれもありますので、口頭契約ではなく、きちんと書面にした雇用契約書を交わしておくことをおすすめします。
2.労働契約書に記載が必要な事項とは?
労働契約書には明記しておかなければならない事項がたくさんあります。
どのような事項を記載する必要があるのかを、しっかりとチェックしておいてください。
2-1.就業する場所
就業することになる場所を記載します。
企業が本社しかなく、その事務所で働くことになるのであれば記載は一つで構いません。
しかし、支社が複数存在し、転勤や異動、出張の可能性がある場合には、その旨や場所についても記載しなければなりません。
なお、入社してからすぐに別の場所で研修をおこなう場合などは記載する必要はありません。
2-2.契約期間
契約期間が限定されている契約社員やアルバイトなどの場合は、契約期間について明記します。
さらに、更新の可能性がある場合は更新するための条件についても記載してください。
派遣社員の場合は一定期間派遣社員として働いてから正社員として雇用するケースもあります。
それまでの期間や正社員になるための条件についてもしっかりここで明記しておきましょう。
2-3.労働時間
始業時間や終業時間などの労働時間について記載します。
毎日同じ時間に始業、終業する場合は一通りで構いませんが、日によって時間が変わる、シフトによって時間が変わる場合などはきちんと明記してください。
リモートワークやフレックスタイムなどを導入している場合には、それらの条件についてもわかりやすく記載する必要があります。
2-4.時間外労働
業務をおこなう上で残業が発生する可能性がある場合は時間外労働についても記載してください。
残業がある場合はその際の割増賃金についても明確に記載する必要があります。
残業は月に何時間まで、などの条件も。労働基準法に則って定めておかなければなりません。
2-5.休憩時間
労働時間に応じた休憩時間はどれくらい与えられるのかについても記載します。
労働基準法では、1日6時間以上の労働の場合には45分以上、8時間以上の労働の場合には1時間の休憩時間を取得させなければならないと決められています。
従業員が交代して休憩を取るのか、一定の時間になったら一斉に休憩を取るのかについても記載しておきましょう。
2-6.休日
労働基準法では、週に1日、または月に4日の休日を設けることが義務付けられています。これを法定休日と呼びます。そして、これとは別に企業が定めている休日を所定休日と呼びます。
この法定休日と所定休日についても、固定なのか、変動するのか、何曜日なのかなどについて明記しておくようにしましょう。
2-7.交替規定
シフト制などの場合は始業、終業の交替の規定について記載しましょう。
シフトの時間帯が固定の場合や、夜勤がある場合などはそれも明記する必要があります。
また、体調不良などによって休む場合には、代わりとなる人員を確保しなければならないなどのルールがあるのであれば、それも書いておきましょう。
2-8.賃金規定
賃金については、月給、日給、時給などを詳しく記載し、昇給の条件や期間なども書かなければなりません。
残業や深夜労働、休日労働などは労働基準法で割増賃金を支払うことが義務付けられているため、その割増率についても記載してください。
さらに、締め日や給与日は何日なのか、どのように支払われるのかもわかりやすく記載しておくようにしましょう。
2-9.退職事項
定年制度を設ける場合には、何歳で定年となるのかを明記してください。
自己都合や会社都合で退職する場合はいつまでに申告すべきか、いつまでに企業からの申告があるかをしっかり記載しておきましょう。
また、どんな場合に解雇されるのかも記載しておく必要があります。
解雇は明確な理由がない限り認められず、場合によっては企業が不利になる可能性もあります。
退職金の決定方法、計算や支払いについても確認し、従業員にもわかりやすく記載してください。
3.労働契約書の詳しい作成方法
労働契約書は上記のような記載しなければならない事項が書かれていれば細かい決まりはありません。
ですが、テンプレートなどが各サイトで配布されているので、初めて作成する際はダウンロードして作成していきましょう。
弁護士に作成を依頼するのもおすすめです。
作成した労働契約書には問題がないか自分で確認するだけでなく、社内の数名で確認し、全員から問題がないことを認めてもらってから利用しましょう。
4.労働契約書の作成方法と注意点
労働契約書を作成する際の注意点について解説します。
4-1. 労働契約書の作成の流れ
労働契約書は、原則として求職者と最初に接触する時点までに交付する必要があります。[注2]
とくに新卒者に関しては、労働させて賃金を支払うことを約し、または通知するまでに労働条件を明示しなければならないとしています。[注2]
つまり、新卒者には内定を通知するまでに労働条件を記した労働契約書を交付しなければなりません。
労働契約書には決まった書式はないため、自社でテンプレートを作成して発行することが可能です。
ただし、労働契約書には必ず明記しなければならない項目がありますので、不備が不安な方は厚生労働省の公式ホームページから「労働条件通知書」のテンプレートをダウンロードして利用するとよいでしょう。
労働条件通知書のテンプレートを自社に合わせて編集したら、書面にして労働者に交付します。
[注2]「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針」|厚生労働省
4-2. 試用期間の有無を明記する
採用するにあたって試用期間の有無を記載します。
試用期間とは、その人材が企業に適しているかどうかを確認する期間です。
この期間はいつまでなのか、正式な雇用になるにはどのような条件を満たす必要があるのかなどを解説してください。
試用期間は賃金が通常と違う場合はその旨も明記します。
4-3. 2通作成する
労働契約書は、企業と従業員の双方が保管する必要があるため、二通作成しましょう。
労働契約書は契約内容に納得したことを証明するために押印しなければなりませんが、この押印も企業の代表者と従業員、それぞれ二通分必要ですので忘れないようにしてください。
企業で保管する場合、スキャンなどでの電子保管は認められていないので注意しましょう。
4-4. 雇用形態別に作成する
正社員採用だけでなくパートやアルバイト、契約社員、派遣社員など、さまざまな雇用形態がある場合は雇用形態別に労働契約書を作成するようにしましょう。
雇用形態によって労働時間や時間外労働の有無、給与形態も変動します。
誤って別の雇用形態の労働契約書を渡してしまうと、後々問題が起きた際に対応しきれない可能性がありますので注意してください。
4-5. 3年間の保管期間がある
労働契約書は作成し、契約書に押印してもらったら完了ではありません。
その従業員が退職、または死亡してから3年間保管しなければなりません。
万が一提出を求められた場合は、すぐに提出できるようわかりやすく管理しておきましょう。
保管方法についても考えておきましょう。保管場所が少ない場合はあらかじめ電子書類にする必要もありますが、電子書類にするには条件がありますのでこちらもあらかじめ確認しておいてください。
5. 正しい労働契約書を作成しよう
労働契約書に記載すべき項目や作成方法などについて解説しました。
労働契約書は企業が従業員を雇用する際に必須の書類です。
労働時間や賃金などについて、従業員がいつでも確認できるように明確に記載しましょう。
労働契約書に違反した仕事を従業員にさせるとトラブルに発展しやすく、訴訟問題になる可能性もあります。
退職後に問題が発覚する可能性もあり、労働契約書がなければ証明になりません。
労働契約書を正しく作成することも大切ですが、その後も正しく保管し続けるようにしてください。
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