企業において、一部の業務が特定の従業員に集中する「属人化」は、大きな問題となることもあります。業務の属人化は従業員の負担を増大させ、結果的に退職の原因となるケースも少なくありません。

本記事では、仕事の属人化が従業員の退職の原因となる理由や企業に与えるリスク、解消するメリットを解説します。業務の属人化を改善し、従業員の退職を予防しましょう。

目次
1. 仕事の属人化は従業員の退職理由になる
2. 仕事の属人化が退職の原因となる理由
3. 属人化した仕事の担当者が退職により起こる問題
4. 仕事の属人化を解消するメリット
5. 仕事の属人化による退職を予防する方法
6. 仕事の属人化による退職を防いで人材を育てよう

1. 仕事の属人化は従業員の退職理由になる

仕事の属人化は、従業員の退職理由になり得ます。属人化が進むと業務負担が特定の従業員に偏り、過労や過度なストレスを引き起こしやすくなるためです。

疲労が蓄積すると、従業員はモチベーションが低下し「退職したい」と考えるようになります。適切なサポート環境が整っていない場合、退職の意向がさらに強まるでしょう。

また、特定の業務に集中することでほかの業務に着手できなくなるため、キャリアアップの選択肢が狭まります。自身の成長が見込めなくなるため、将来に不安を感じることも少なくありません。

仕事の属人化は、スキルや能力が高い従業員に業務が偏ることが多くあります。優秀な従業員は、より良い労働環境を求めて転職を考えるようになるでしょう。

2. 仕事の属人化が退職の原因となる理由

仕事の属人化が退職の原因となる理由としては、以下のようなものが挙げられます。

• ストレスの増大
• キャリアアップの阻害
• 報酬への不満

退職につながってしまう理由を解説していきます。

2-1. ストレスの増大

仕事の属人化によって担当者がストレスを感じ、、退職の原因になる可能性があります。具体的には、以下のような要因で過度なストレスを感じることが多くなるでしょう。

• 業務内容を自分しか把握していないためほかの従業員に頼れない
• 業務に関連する悩みを共有できない
• 自分が不在になると業務が滞るため体調不良や私用で仕事を休みにくい
• 残業や休日出勤が多くプライベートの時間を確保できない

過度なストレスはメンタルヘルスの問題を引き起こす原因となり、休職や退職につながるケースも珍しくありません。

また、業務が滞ると周りの従業員もストレスを感じやすくなるため、職場全体のストレスレベルが高くなるでしょう。

2-2. キャリアアップの阻害

仕事の属人化が従業員のキャリアアップを阻害する可能性があることも、退職の原因の一つです。属人化された職場では、専門知識やスキルを有する従業員に業務が偏ります。

裏を返せば、仕事に対する意欲があっても専門知識がなければ属人化されている業務にかかわるチャンスがないといえるでしょう。労働環境が改善されなければ、従業員は新たなスキルを習得できず、属人化状態は改善されません。

とくに、仕事に対するモチベーションや向上心の高い従業員は、自身が成長できる環境に身を置きたいと考えるため、転職を検討するようになるでしょう。

2-3. 仕事量に対する不公平感

属人化が進んでいる環境では、ノウハウを持っている人や成果を出せる人に仕事が集中しやすくなります。特に専門性の高い業務が属人化していると、他の人に仕事を割り振ることができず、業務が集中してしまいます。

同じ職位にもかかわらず仕事量に格差があると、不公平感が生まれます。

また、仕事をしたくてもできる仕事がない人が発生することもあり、それが評価の低下につながることも不公平感になるでしょう。

職場内の不公平感は人間関係を悪化させ、モチベーションも低下させます。改善されなければ会社に見切りをつける人も出てくるでしょう。

2-4. 報酬への不満

報酬への不満も、退職を考える理由の一つです。属人化状態になる業務は、専門知識やスキルが求められるものや、機密事項があるものなど、企業にとって重要な業務であることが多くあります。

重要な役割を果たしているにもかかわらず、業務内容に見合った報酬や昇進の機会が得られなければ、従業員は不満を感じやすくなるでしょう。正当な評価がされなければ、従業員のモチベーションは低下します。

より良い条件を求めて、自分のスキルや能力を適正に評価してくれる企業に転職しようと考えるでしょう。

2-5. チームワークの悪化や孤立感

属人化している仕事は、担当者が独自のやり方と采配で業務を進めることになります。連携を取ったり、相談したりすることも減るため、チームワークの悪化を招きます。

連携が取れなければ、業務の効率が下がったり、トラブルが起きた際の素早い対応ができなくなるでしょう。

また、そうした状況は「自分がやるしかない」「相談しにくい」といった精神状態を招き、孤立感を高めます。

同僚や上司との信頼関係が構築できず、会社に対する愛着も薄いことから、何かきっかけがあると退職してしまう恐れがあります。

3. 属人化した仕事の担当者が退職により起こる問題

属人化した業務を担当していた従業員が退職した場合、どのような問題が考えられるでしょうか。現場の混乱や業務の停滞など、周囲に及ぼす影響を考え、改善や備えをしていきましょう。

3-1. 引き継ぎ業務で現場が混乱する

属人化している仕事は、担当者以外が業務内容や知識を知らない状態です。その担当者が退職するとなれば、専有していたノウハウや知識などを誰かが引き継がなければなりません。

属人化していた期間が長ければ、その引き継ぎ業務は膨大になるでしょう。多くの時間と労力がかかり、引き継ぎが終わるまでは業務が停滞したり、ミスが発生したりすることも出てきます。

また、元の担当者と新しい担当者との間に、経験やスキルの差がある場合は、引き継ぐ内容が多すぎて新しい担当者がパンクする恐れもあります。

3-2. 業務の停滞や品質の低下が起きる

多くの知識やノウハウをもっていた担当者がいなくなると、次の担当者や仕事を割り振られた人が対応しきれず、業務の停滞や品質の低下が起きる可能性があります。

属人化している仕事は、担当者独自のやり方で成果を出していたケースも多いです。それが他の人には理解できなかったり、効率よく進められなかったりすることもあるため、元のレベルに戻すまでに長い時間がかかることもあります。

業務の停滞や品質の低下が続けば、会社全体の生産性や信用を下げることになりかねません。

3-3. スキルやノウハウが失われる

属人化している仕事は、引き継ぎをしたとしても一部のスキルやノウハウが失われやすいです。言語化やマニュアル化できる部分には限界があり、前任者の頭の中や経験で進められていた部分も多くあるからです。

元の担当者が長期間属人化している業務を担当していた場合は、自然と身についていた効率の良い方法や人とのつながりが失われてしまうことも考えられます。

また、トラブルやミス発生時など、イレギュラーなことへの対応は後任では対応しきれないことが多いでしょう。

4. 仕事の属人化を解消するメリット

仕事の属人化を解消するメリットは、以下のようなものが挙げられます。

• 人材の定着率が向上する
• 業務品質を維持・向上できる
• 個々のスキルアップが見込める

それぞれのメリットを詳しく解説していきます。

4-1. 人材の定着率が向上する

仕事の属人化を解消することで、人材の定着率の向上が見込めます。従業員の負担を軽減し、働きやすい環境を整えることで退職を予防できるためです。

また、業務を分担しだれが何をしても対応できる体制を構築できれば、リモートワークやフレックスタイム制度など、柔軟な働き方を推進できます。

多様な働き方を提供できれば、従業員の満足度が向上するため、離職率の低下につながるでしょう。

4-2. 業務品質を維持・向上できる

属人化を解消させることで、業務品質を維持・向上しやすくなります。独自のルールをなくし、業務を標準化・マニュアル化することで、すべての従業員が同じクオリティの業務内容をこなせるようになるためです。

また、業務内容を共有することで、改善策や新たなアイディアも生まれやすくなります。さらに業務内容を複数人で定期的に見直せば、品質の向上にもつながるでしょう。

4-3. 個々のスキルアップが見込める

属人化を解消することで、個々のスキルアップが見込めます。業務に関するノウハウや情報、専門知識が共有され、多様なスキルを学べるようになるためです。

例えば、特定の従業員だけが担当していた顧客対応を担当すれば、コミュニケーション力や交渉力が身につけられます。属人化されている事務作業を複数人で担当すれば、データ処理や業務効率化のスキルが身につくでしょう。

また、属人化の解消のために、業務を自動化・効率化する新しいツールやシステムを導入することが多くあります。新たなシステムが導入されれば、デジタルツールの習熟度が高まり、業務の幅が広がることが期待できるでしょう。

4-4. 社内環境が改善される

属人化はチームワークの悪化や孤立化を進めてしまうため、解消されればコミュニケーションが増えることが期待されます。

従業員同士のつながりが強くなり、協力体制ができてくれば社内の雰囲気もよくなります。

また、従業員の間で生まれた提案や新しいアイデアが社内に活かされるようになり、社内環境が改善され、より働きやすい環境づくりにも貢献するでしょう。

働きやすく満足度の高い職場は、従業員の幸福度を高めてモチベーションをあげます。企業全体の活性化にもつながるかもしれません。

5. 仕事の属人化による退職を予防する方法

属人化が原因の退職を予防するには、属人化を解消するとともにすでに発生している問題を解決することが求められます。以下の3点を意識して改善策を講じてみましょう。

5-1. 属人化解消のために見直しをする

業務フローを可視化することで、属人化による退職を予防できます。特定の従業員に負担が集中せず、業務の負担が分散されるためです。

属人化している業務は内容が複雑で、担当者以外にはわかりにくいケースが多くあります。業務フローを可視化すれば、業務内容がわかりやすくなり従業員同士で共有しやすくなるでしょう。

また、チーム内の業務の進捗状況を確認しやすくなります。協力し合える環境が整うため、トラブルやミスを早期発見できたり、業務の遅れをフォローしやすくなったりするでしょう。

5-2. 教育制度やノウハウの共有を強化する

属人化されている業務の勉強をしたり、ノウハウを共有できたりする体制が整うと、担当者以外も知識やスキルが身についていきます。

新しい情報を得て自己成長を実感でき、対応できる業務の幅が広がれば、会社や仕事に対する熱意も高まっていきます。

また、属人化している業務の担当者も、他の人を頼れるという余裕が生まれ、ストレスが緩和されます。トラブル発生時やイレギュラーな業務に対しても、複数人で対応できればプレッシャーからも解放され、退職のリスクを減らせるはずです。

5-3. ストレスへの対策をおこなう

属人化が原因の退職には、多くの場合ストレスが関係しています。

担当者は仕事量の多さやプレッシャーによるストレスを受け、担当者以外は自己成長ができないことや、コミュニケーションが取れないことにストレスを感じます。

そうしたストレスが蓄積することで、退職という選択肢が生まれてしまうのです。

そのため、ストレスチェックや産業医による面談などを適切におこない、ストレスへの対策をすることで退職を防ぎやすくなります。

すでに属人化が進んでいる場合は、早急に従業員のストレスに対策をしましょう。

6. 仕事の属人化による退職を防いで人材を育てよう

仕事の属人化は、特定の従業員の業務負担を増やし、業務の停滞や生産性低下などのリスクを招きます。最終的に退職を引き起こす要因となるため、早期に対策を講じることが重要です。

業務フローの可視化や業務の標準化、情報共有を徹底することで属人化を解消できます。従業員が安心して働ける環境を整え、退職リスクを軽減させましょう。