退職時の誓約書とは?目的や効力・拒否された場合の対処法を解説
更新日: 2026.2.26 公開日: 2025.7.10 jinjer Blog 編集部
適切に作成・締結された誓約書には法的効力が認められますが、強制的に署名させた誓約書は無効と判断されます。
労働者からサインを拒否された場合、会社は慎重かつ柔軟に対応しなければなりません。
本記事では、退職時の誓約書の目的や内容、法的効力に加え、拒否された場合の対処法などを解説します。労働者とのトラブルを未然に防止したい人事労務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
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1. 退職時の誓約書とは?


退職時の誓約書は、企業の秘密や利益を守るために重要な書面です。どのような効力があるのか、目的とあわせて解説していきます。
1-1. 退職後の義務や禁止行為を定めた書面
退職時の誓約書は、退職する労働者に提出してもらう書類です。退職後の秘密保持や競業避止などの義務、禁止事項などの条項を記載し、定める内容が一般的です。誓約書を取得できれば、退職後に会社の内部情報を漏らしたり、同業他社にノウハウを流したりすることを防止しやすくなります。
誓約書には法的な拘束力があり、労働者には誓約書の内容を遵守する義務が発生します。会社は退職者に対して、誓約書に記載されている内容の履行を求めることが可能です。そのため、万が一退職者が誓約書の内容を守らず、会社に損害を与えた場合は、誓約書の内容に基づいて損害賠償を請求することが可能です。
ただし、誓約書の内容は無制限に認められるものではありません。不合理な内容や退職後の自由を侵害する内容の場合は、無効と判断されることもあります。
1-2. 退職時の誓約書の目的
従業員の退職時に誓約書を取得する目的は、会社の秘密や利益を守ることです。誓約書を取得することで、主に以下の不利益を防止しやすくなります。
- 会社の機密情報を不正利用されないようにする
- 顧客の引き抜きを防ぐ
- 退職者の義務を明文化し、後のトラブル発生を防ぐ
- 誹謗中傷行為を禁止し、会社の社会的信用を守る
多くの企業では、従業員が在職中は競業避止義務や秘密保持義務を合意の有無に関わらず追っていることが多いです。しかし、退職した後はその義務が消滅してしまうため、退職後もこうした義務を負わせることが退職時の誓約書の主な目的です。
また、書面にして個別に合意を得ることで、退職者の意識も変わります。「うっかり話してしまった」「雑談のつもりで話してしまった」というような、悪意や損得勘定のない情報の漏洩も防ぎやすくなるでしょう。
2. 退職時の誓約書は必須ではない


退職時の誓約書は、企業を守るために重要なものです。しかし、必ずしも作成する必要はありません。また、誓約書がない場合でも、退職した労働者に対して義務を負わせることも可能です。
2-1. 誓約書を作成する義務はない
退職時の誓約書は、企業が独自に作成して合意を得るものです。法律上の作成義務があるものではないため、誓約書を作成・取得しない企業も少なくありません。
しかし、一切の定めがないままでは退職者が会社の不利益となる行動をした場合でも、賠償をさせることができず、その抑止もできないでしょう。そのため、退職時の誓約書は作成することが望ましいです。
なお、退職者も誓約書の内容に合意する義務はありません。退職者が誓約書に合意をしない場合でも、企業は退職を拒否することはできず、退職の手続きを進める必要があります。
このように退職時の誓約書の作成・取得は、企業にも従業員にもその義務がありません。法的な効力はあるものの、あくまでも企業と退職者の合意のもとに成り立つものです。
2-2. 誓約書がない場合でも就業規則で定められる
退職時の誓約書を作成しない、あるいは退職者の合意を得られず取得できなかった場合でも、就業規則によって退職後の義務を発生させることができます。
在職中の規則だけでなく、退職後にも義務が発生することを明示することが重要です。
「在職中および退職後においても、会社の秘密事項や会社の不利益となる事項を開示・使用してはならない」のように、退職後の義務についても明確に記載しましょう。
また、就業規則によって退職時に誓約書の提出義務を定めることも可能です。この規則があれば誓約書を拒否されることを予防しやすくなるでしょう。
ただし、就業規則の効力は合理性が認められなければ発生しません。これは労働契約法第7条で定められており、合理性がないと判断されればどのような内容の就業規則も無効になります。
3. 退職時の誓約書で規定すべき内容


退職時の誓約書には、一般的に以下のような内容を規定します。
- 競業避止義務:競合他社への転職や独立を制限する
- 秘密保持義務:機密情報の漏洩や不正利用を防ぐ
- 貸与品・会社備品の返還
- 顧客や従業員の引き抜き禁止
- 信用毀損行為の禁止
- 違約金や損害賠償
それぞれの詳細を見ていきましょう。
3-1. 競業避止義務:競合他社への転職や独立を制限する
競業避止とは、退職者が元の勤務先と競合する事業に関与することを一定期間・一定地域において制限する取り決めです。
自社のノウハウや機密情報、顧客情報が競合他社に流出することのないよう、退職時の誓約書には以下のような内容を明記します。
- 期間の制限(例:退職後1年間)
- 地域の制限(例:同一県内)
- 競業に該当する事業・企業の明示
競業避止は退職者の「職業選択の自由」とのバランスが重視され、制限の範囲が過度に広い場合は無効とされる可能性が高くなります。
労働者ごとの勤続年数や業務内容などを考慮し、合理的な範囲の制限にとどめることが重要です。
3-2. 秘密保持義務:機密情報の漏洩や不正利用を防ぐ
秘密保持義務は、労働者が業務を通じて知り得た会社の機密情報を、第三者に漏らしたり、不正に利用したりしないよう求める義務です。
退職時の誓約書では、労働者に対する秘密保持義務が退職後も続くことを認識させる必要があります。
誓約書に盛り込むべき主なポイントは以下のとおりです。
- 機密情報の定義(例:顧客情報、ノウハウなど)
- 義務の期間(例:退職後5年間)
- 情報の取り扱い(例:社外持ち出しの禁止、複製の禁止など)
法的に有効な誓約書を作成するためには、機密情報が「何を指すのか」を具体的に示すことが重要です。明示することで退職後の意識も変化するため、無意識に情報を漏洩してしまうような事態も防ぎやすくなるでしょう。
3-3. 貸与品・会社備品の返還
退職時の誓約書には、貸与品や会社備品の返還に関する条項も盛り込みましょう。
誓約書に明記することで、備品の未返却によるトラブル、情報流出の防止につながります。
盛り込むべき具体的な内容は以下のとおりです。
- 返還対象(例:スマートフォン、名刺、マニュアルなど)
- 返還の時期と方法
- データの削除義務(例:私物PCやクラウド上などに保管された業務データ)
とくに近年は、テレワークの普及により情報管理が難しくなっています。また、パソコンやUSBメモリなど、会社の備品を貸与している場合は、その取り扱いを厳重にしなければなりません。貸与や一時的に持ち帰りをしている備品の一覧を作成し、漏らさずに返却されていることを確認できるようにしておきましょう。誓約書やリストを通じて、備品の返却・データ削除を十分に確認することが重要です。
3-4. 顧客や従業員の引き抜き禁止
引き抜きとは、退職者が自社の顧客と取引したり、自社の従業員に移籍を働きかけたりする行為を指します。場合によっては企業の利益を大きく損なう結果につながるため、十分に警戒しなければなりません。
退職時の誓約書には「引き抜き禁止」の条項を盛り込み、営業基盤や人材の流出を防ぐようにしましょう。
誓約書に記載する主なポイントは以下のとおりです。
- 引き抜き禁止の対象(例:在職中の担当顧客、従業員など)
- 禁止行為(例:対象への商材販売、対象への移籍の誘引など)
- 適用期間(一般的には2年以内)
引き抜き禁止の条項は、制限の内容に合理性がなければ無効とされる可能性が高くなります。とくに「対象」や「期間」は、最小限の範囲に限定することが重要です。守りたい範囲と合理的と認められる範囲のすり合わせは非常に難しいため、専門家の意見も取り入れることも考えましょう。
3-5. 信用毀損行為の禁止
信用毀損行為の禁止とは、退職者が会社の評判や信頼を損なうような言動を防ぐことです。円満な退職ができなかった退職者が、会社を悪く言うことで損失が発生することがあります。信用毀損行為の禁止を誓約書に盛り込めば、こうした問題に対処しやすくなるでしょう。
昨今はSNSや口コミサイトの影響力が大きいため、退職時の誓約書には以下のような内容を盛り込む必要があります。
- 禁止行為(例:虚偽の情報の流布、社内事情の暴露、誹謗中傷など)
- 対象範囲(例:顧客、取引先、SNSユーザーなど)
退職者に対し、会社との関係が終了した後も節度を持った言動を求めることで、企業のレピュテーションリスクを低減できます。ただし、過剰な言論制限とならないよう、表現の自由への配慮が必要です。
3-6. 違約金や損害賠償
違約金や損害賠償は、誓約書の内容を守らず、企業や顧客などに損害を与えた場合の賠償について定める項目です。
誓約書違反によって損害が発生した場合でも、それを立証することは簡単ではありません。違反行為によって損失が発生したにもかかわらず、損害賠償を請求できないケースも多々あります。そうした事態を防ぐために、違反があった場合の違約金を定めておくことも考えておきましょう。
ただし、違約金の定めや損害賠償額を予定する契約は労働基準法16条によって禁止されているため、適切に設定することが求められます。
なお、この項目があることで、誓約書の重要性や違反した場合の問題の大きさを印象付けられるため、抑止力としても効果を発揮します。実際に立証が難しいとしても、誓約書の内容に盛り込んでおきましょう。
4. 退職時の誓約書の法的効力


適切に作成・締結された誓約書には、法的効力が認められます。つまり、退職者が誓約内容に違反して会社に損害を与えた場合、会社は退職時の誓約書を根拠に法的措置を検討可能です。
ただし、すべての内容が自動的に有効となるわけではありません。例えば以下のような誓約書は、退職者のサインがあっても無効とされる可能性が高くなります。
- 対象(機密情報の範囲、競業の定義など)が明確でない
- 期間や地域などの制限が合理的でない
- 強制的・一方的に署名させている
特に競業避止や顧客や従業員の引き抜き禁止の項目は、退職後の自由を強く制限する内容である場合は無効とされやすいです。
「合理的」という表現は曖昧な部分もあり、判断が非常に難しい部分です。法的効力が認められる誓約書を作成するためには、過去の判例にもとづいて内容を検討する必要があります。専門家と連携し、業種に応じて設計することが重要です。
5. 退職時に誓約書を拒否されたときの対処法


退職時の誓約書は、原則として労働者の同意に基づくものでなければならず、強制的に署名させることはできません。労働者が署名を拒否した場合、会社には以下のような対応が求められます。
- 退職者と面談の場を設ける
- 条項の見直しや調整を図る
- やり取りを記録して専門家へ相談する
対応の詳細を確認していきましょう。
5-1. 誓約書への署名を強制することはできない
退職時の誓約書への合意・署名は強制することができません。就業規則によって、退職時には誓約書への合意が必要であることを定めている場合は、就業規則に定める義務に違反する可能性があります。在職中であれば、懲戒処分や注意勧告が可能ですが、それでも退職を止めることはできません。
また、誓約書への署名を巡って長時間拘束したり、退職金を条件にだしたりするなど、強制的に署名をさせた場合は誓約書は無効になります。
もしも誓約書への合意・署名を拒否された場合は、強制するのではなく話し合いをし、拒否する理由を知って対応する必要があります。誓約書の目的や必要性も伝え、納得した上で署名をもらうことが大切です。
5-2. 退職者と面談の場を設ける
誓約書への署名を拒否された場合、まずは退職者との面談の場を設け、率直な意見をヒアリングしましょう。誓約書を拒否する理由を明らかにしなければ、退職者が納得できる落としどころを見つけられないからです。
退職者が誓約書を拒否する理由としては、以下のようなものが想定されます。
- 誓約書の趣旨(目的)が十分に伝わっていない
- 誓約書の特定の内容に難色を示している
- 拒否する明確な理由はないが、会社に対する不信感がある
誓約書が退職者の利益を害するものでないことを丁寧に説明し、納得感を醸成することが重要です。
5-3. 条項の見直しや調整を図る
退職者が特定の条項に不満や疑問を持っている場合は、期間や範囲、表現などを見直すことも一つの方法です。
例えば競業避止義務について同意が得られない場合は、対象エリアを緩和する、対価として補償金を支払うなどの対応が考えられます。
合理的な調整によって退職者の合意を得られるケースもあるため、十分な協議を重ねましょう。ただし、譲歩しすぎてしまうと情報漏洩や人材の流出、顧客の引き抜きなどにつながり、会社の秘密や利益を守れなくなります。また、ほかの退職者と制限の差が大きいと、それが知られた場合は問題になるケースも想定されます。
誓約書の内容を個別に変更する場合は、結論を急がずに専門家を交えて十分に検討しましょう。
5-4. やり取りを記録して専門家へ相談する
協議を重ねても退職者の合意を得られない場合は、署名を拒否された事実とやり取りを記録しておくことが大切です。
経緯を文書化しておけば、将来的に退職者とトラブルに発展した場合でも、会社が誠実に対応していた証拠を示せます。
また、弁護士と相談した上で必要に応じて内容証明郵便などによって、退職後の義務について通知することも有効です。損害賠償の請求や不当行為への制裁などについても触れ、弁護士が介入したことを知らせることで、退職者の態度や意識が変わる可能性もあるでしょう。
交渉が難航することが予見される際は、早めに弁護士などの専門家に相談し、合法的かつ適切な対応策を検討しましょう。
6. 退職時の誓約書に関するトラブルを防ぐポイント


誓約書を拒否された段階で対処しても、労使双方が納得できる合意点を見つけるのは難しいでしょう。
以下では、退職時の誓約書に関するトラブルを未然に防ぐ施策を紹介します。
- 入社時に誓約書を作成する
- 就業規則に規定する
6-1. 入社時に誓約書を作成する
退職時のトラブルを防ぐためには、入社時に誓約書を作成しておくことが重要です。
入社段階で誓約書を締結しておけば、労働者は会社のルールや義務を事前に理解した状態で業務を開始できます。退職時にあらためて誓約書を求めても唐突さがなく、退職者の抵抗感を軽減できるでしょう。
誓約書の取得タイミングは、退職時のみに限りません。入社時や昇進時など、適切な場面で複数回取得しておくことで、誓約書が特殊なものである印象が薄くなり、署名を拒否されるリスクを最小限に抑えられます。
6-2. 就業規則に規定する
秘密保持義務や競業避止義務などのルールは、退職時の誓約書だけでなく、就業規則にも規定しておきましょう。たとえ個別に誓約書を取り交わしていなくても、法的効力が認められる可能性があるからです。
就業規則を社内に周知しておけば、退職時に「聞いていない」と抵抗されるリスクも軽減できます。退職時の誓約書のみに頼らず、先手で対策を講じることが重要です。
また、就業規則に記載してある内容であれば、退職時に改めて誓約書として提示しても、抵抗感が少ないです。「知っている内容に改めて署名するだけ」と思ってもらえれば、スムーズに合意を得られるはずです。
7. 退職トラブルを未然に防止して会社の機密と利益を守ろう


退職時の誓約書は、会社の利益を守るうえで欠かせないものです。法的効力が認められるためには、内容の妥当性・合理性が重要になります。
退職者から署名を拒否された場合は、協議を重ねて柔軟に対応しなければなりません。先手で社内の規則整備を進め、トラブルを未然に防ぎましょう。



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