退職所得の源泉徴収票とは?書き方や計算方法・作成時の注意点を解説
更新日: 2024.12.3
公開日: 2022.8.24
OHSUGI
源泉徴収票と聞くと、年末調整をおこなった際に交付される書類を想像する人が多いです。
確かにそれも源泉徴収票ですが、源泉徴収票にはいくつか種類があり、退職する際に交付されるものも存在します。
退職時に交付される源泉徴収票は、通常の源泉徴収票とは内容が異なり記載内容にも違いがあるため、注意しなければなりません。
本記事では、退職所得の源泉徴収票とは何か、退職金の所得税の計算方法や退職金の所得控除の計算方法などについて解説していきます。
目次
年末調整は、従業員の家族構成やライフステージ、副業の有無、控除対象となる保険類への加入状況など、人によって複雑な分岐や異なる計算方法のルールがあるため、とても複雑な業務です。
給与計算を担当する方にとって、計算結果を統合する一年の集大成とも言える業務ですが、
「結婚・離婚・定年・退職・死亡など、様々なケース別の年末調整に対応する際の注意点が知りたい」
「障害者や勤労学生、共働き、遺族年金がある場合など家族構成に関する控除のポイントを押さえておきたい」
「記載ミスや、申告内容・扶養の変更、税務署からやり直し通知を受けた際などの対応方法が知りたい」
このようなイレギュラーケースの対応について不安を抱えている担当者の方に向けて、当サイトでは「Q&A形式でわかる年末調整と源泉徴収」という資料を無料配布しています。
資料では、一問一答形式でケース別の具体的な年末調整の対応方法を解説していますので、すぐに使える年末調整のガイドブックが欲しいという方は、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. そもそも源泉徴収票とは
源泉徴収票とは、1年間の収入とすでに納付している所得税の金額を記した書類です。一言で源泉徴収票といっても、3つの種類が存在するため、それぞれの内容や必要になるケースをまずは把握しておきましょう。
1-1. 給与所得の源泉徴収票
給与所得の源泉徴収票とは、1年間の間に会社から支払われた給与等の金額および、自分が納付した所得税額が記された書類です。
一般的に「源泉徴収票」という場合は、この給与所得の源泉徴収票のことを指すことが多いです。
企業に勤めている場合、所得税の納付は従業員自身ではおこなわず、給与から算出された金額を会社が天引きという形で納付するのが一般的です。
これを「源泉徴収」といい、源泉徴収票を確認することで自分がいくら所得税を納めたかということだけでなく、なぜその金額になったのかということも把握できます。
なお、給与所得の源泉徴収票には賞与分も含まれています。
関連記事:給与所得とは?給与収入・手取りとの違いと計算方法をわかりやすく解説
1-2. 退職所得の源泉徴収票
退職所得の源泉徴収票は、退職所得を受け取った際に会社から交付される源泉徴収票です。
いつ退職するかは人によって異なるため、退職所得の源泉徴収票が交付されるタイミングも、人によって異なります。退職所得の源泉徴収票が給与所得の源泉徴収票とは別に発行されるのは、源泉徴収する所得税の金額の計算方法が、給与や賞与とは異なるためです。
1-3. 公的年金等の源泉徴収票
公的年金等の源泉徴収票は、年金受給者に対して交付されます。公的年金にも所得税が発生しているためで、毎年1回1月頃に交付されます。
この源泉徴収票には、受け取った年金の総額や、引かれた所得税額が記載されています。年金受給者は、この源泉徴収票を基に確定申告を行い、適切な税額の納付を求められます。年金の種類により、特殊な控除や税率が適用されることがあるため、詳細に確認することが重要です。
これにより、受給者は自身の税務状況を正確に把握することができます。
2. 退職所得の源泉徴収票は給与所得と取り扱いが違う
給与所得と退職所得の源泉徴収票は違うものであることがわかりました。
具体的な違いは以下の点が挙げられます。
- 退職手当の額やそれに対する源泉徴収額を記載する
- 勤続年数を記載する
- 退職日から1ヵ月以内に交付しなければならない
- 給与所得の源泉徴収票も必要になる
気をつけなければいけないのは、退職日から1ヵ月以内の交付が必要であることと、給与所得の源泉徴収票も作成しなければいけない点です。
つまり退職する人がいる場合は、その人の退職所得と給与所得の源泉徴収票を作成する必要があります。1ヵ月以内という決まりもあるため、退職者がいる場合は早めに源泉徴収票の準備を進めておくと安心です。
3. 退職所得の源泉徴収票の書き方
退職所得の源泉徴収票の書き方をサンプル画像を見ながら解説していきます。難しい内容ではありませんが、金額や対象者の情報は間違いの内容に記載するように注意しましょう。
3-1. 項目別の書き方
まずは各項目に記載する内容を解説していきます。なお、②にある区分については後述します。
①支払いを受けるもの
支払いを受けるものとは、給与や賞与などのお金を受け取る人のことで従業員のことを指します。
各従業員の個人情報を記載しますが、従業員へ交付する用の源泉徴収票にマイナンバーの記載は必要ありません。
「住所又は居所」には、源泉徴収票を作成した日の住所を記載します。「令和〇年1月1日の住所」には退職した翌年1月1日の住所を記載するため、引っ越しをする従業員がいる場合は住所の更新に注意しましょう。
②支払金額・税額
支払金額と税額は間違いのないように正確に記載しましょう。なお、この項目にある区分については、後述するためここでは省略しています。
支払金額 | 支払いが確定している退職手当などの金額を記載する項目です。源泉徴収票を作成時点で支払いが終わっていない場合は、未払い金額を内書きしましょう。 |
源泉徴収税額 | 源泉徴収の対象にある所得税や復興特別所得税の合計額を計算し、記載します。 |
退職所得控除額 | 特別徴収が必要な地方税の税額を記載します。 |
③退職所得控除額
現前徴収税額と特別徴収税額の計算をした際に、控除した退職所得控除額を記載します。
退職所得控除額は、退職手当の金額から一定の控除額を差し引いて計算されるため、勤続年数に応じた適切な金額が適用されます。退職所得控除に関しては、国税庁の定める基準に従った計算が求められます。勤続年数が長いほど控除額は大きくなるため、これを正確に算出することが重要です。
④勤続年数・日付
勤続年数と各日付を正確に記載します。給与所得の源泉徴収票にはない項目であるため、忘れずに記載しましょう。
勤続年数 | 退職手当などに対する源泉徴収税額の基礎になる勤続年数を記載します。勤続年数が1年未満の場合、端数は切り上げて1年と記載します。 |
就職年月日 | 入社年月日を記載します。 |
退職年月日 | 退職年月日を記載します。 |
⑤支払者
支払者は企業側です。自社の名称や住所、法人番号などを間違いの内容に記載します。個人事業主の場合は、法人番号ではなくマイナンバーの記載が必要です。また、従業員に交付する用の源泉徴収票には法人番号・マイナンバーは必要ありません。
3-2. 退職者の源泉徴収票にある区分とは
前項の「②支払金額・税額」にある3つの区分について上段・中段・下段に分けて解説します。
上段 | 受給者が提出した「退職所得の受給に関する申告書」に「退職手当がない」と記載されている場合はこの区分に該当します。 |
中段 | 受給者が提出した「退職所得の受給に関する申告書」に「退職手当がある」と記載されている場合はこの区分に該当します。 |
下段 | 受給者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合はこの区分に該当します。 |
4. 退職金の所得税の計算方法
退職金の所得税の計算方法は、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出するかどうかで変わります。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出がある場合、勤務先が所得税額および復興特別所得税額を計算し、退職金から源泉徴収をおこないます。
その際の退職金の所得税額を求める計算式は、課税対象になる退職金の金額によって、以下のように変わります。
4-1. 退職金に適用される税率とは?
①課税対象になる退職金の金額 | ②所得税率 | ③控除額 |
税額(①×②-③)×102.1% |
195万円以下 | 5% | 0円 | (①×5%)×102.1% |
195万円以下超~330万円以下 | 10% | 97,500円 | (①×10%-97,500)×102.1% |
330万円以下超~695万円以下 | 20% | 427,500円 | (①×20%-427,500)×102.1% |
695万円以下超~900万円以下 | 23% | 636,000円 | (①×23%-636,000)×102.1% |
900万円以下超~1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | (①×33%-1,536,000)×102.1% |
1,800万円以下超~4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | (①×40%-2,796,000)×102.1% |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | (①×45%-4,796,000)×102.1% |
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合は、勤務先は退職金の支払金額の20.42%を所得税額および復興特別所得税額として、源泉徴収する必要があります。またこの場合、退職者は確定申告をする必要があります。
5. 退職金の所得控除の計算方法
退職金の所得税額の所得控除額は、退職者がその企業に何年勤めたかによって、以下のように異なります。
勤続年数20年未満:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
勤続年数20年以上:800万円+70万円×(勤続年数-20年)
例として勤続年数30年の人が退職金2,000万円を受け取って退職したケースを考えてみましょう。
この場合、退職金の所得税額の所得控除額を計算する式は
800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
となり、所得控除額は1,500万円であることがわかります。
課税対象となる退職所得の金額は(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円と算出できます。
この金額を上掲した表の計算式に当てはめれば、退職金の所得税を求めることが可能です。
6. 退職所得の源泉徴収票を作成する際の注意点
退職所得の源泉徴収票は、給与所得の源泉徴収票に比べると作成頻度が低いです。そのため、記載内容に迷うことがあります。以下の点に注意して間違いの内容に作成しましょう。
6-1. マイナンバーの記載をしない
市区町村や税務署に提出する源泉徴収票には、マイナンバーの記載が必要です。
しかし、従業員に交付する源泉徴収票にはマイナンバーの記載はしません。情報漏洩の観点からそのようなルールになっているため、誤って記載しないようにしましょう。
6-2. 計算ミスや記載ミスに気をつける
源泉徴収票に記載する各種金額は、退職者の資産を守り、正しく納税をするために重要な情報です。そのため、間違いのないように記載しなければなりません。
特に退職所得の受給に関する申告書の提出の有無で、税額の計算方法が異なる点には十分に注意しましょう。
6-3. 実際に勤務した年数を基準にする
退職所得の源泉徴収票にある「勤続年数」は退職日まで続けて勤務した期間を記す項目です。病気やけがの治療をはじめとした長期の給食があった場合でも、その期間を含んで勤続年数として計算します。
契約社員などから正社員に雇用形態が変化している場合も、契約社員として働いている期間も含んで計算します。社内規定で退職金の計算期間が正社員と定められている場合も同様です。
6-4. 勤続年数が5年以下の場合は課税内容が違うことがある
2021年からは1/2課税の適用に関する規定に変更がありました。
これまでも勤続年数が5年以下で支給する退職手当には、1/2課税の適用はありませんでした。2021年からは、役員に対する1/2課税の適用がなくなり、さらに「退職所得控除額を控除した残額の300万円を超える部分は、1/2課税を適用しない」と定められています。
このように勤続年数が5年以下の場合は、課税内容に変化がある可能性があります。複雑な部分であるため、勤続年数が短い従業員が退職する際は十分に注意しましょう。
参照:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁
7. 退職所得の源泉徴収を正しくおこなってトラブルにならないようにしよう
従業員が退職する際には、退職所得の源泉徴収票を交付する必要があります。
退職金の所得税の計算方法は、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しているかどうかで変わるなど、少々複雑な点もあるため、正しく把握しておかなければなりません。
所得税額の算出方法の式なども踏まえて、正確に所得税額を算出しましょう。
年末調整は、従業員の家族構成やライフステージ、副業の有無、控除対象となる保険類への加入状況など、人によって複雑な分岐や異なる計算方法のルールがあるため、とても複雑な業務です。
給与計算を担当する方にとって、計算結果を統合する一年の集大成とも言える業務ですが、
「結婚・離婚・定年・退職・死亡など、様々なケース別の年末調整に対応する際の注意点が知りたい」
「障害者や勤労学生、共働き、遺族年金がある場合など家族構成に関する控除のポイントを押さえておきたい」
「記載ミスや、申告内容・扶養の変更、税務署からやり直し通知を受けた際などの対応方法が知りたい」
このようなイレギュラーケースの対応について不安を抱えている担当者の方に向けて、当サイトでは「Q&A形式でわかる年末調整と源泉徴収」という資料を無料配布しています。
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