前払金と前払費用の違いや長期・短期前払費用について徹底解説
更新日: 2023.9.1
公開日: 2022.5.11
FURUYA
前払金と前払費用、代金を前払いしている費用に対して使う科目であることは共通していますが、科目の意味が全く異なります。
それぞれの違いを知らずに仕訳を行ってしまうと、大きな経理ミスにつながってしまう恐れもあるため、注意が必要です。
今回は、前払金と前払費用の違い、さらに長期・短期前払費用についても詳しく解説しています。
1.前払金と前払費用との異なる点
前払金と前払費用は「商品やサービス等の対価を先払いしている」という点では共通していますが、両者には大きく異なる点があります。
まず「前払金」とは、商品やサービスの対価を先払いした際に計上する科目のことを指します。
材料や商品を仕入れる際に、先払いした一部代金に対して処理する際に使われる科目です。
一方で「前払費用」とは、継続的なサービス提供を受ける契約をした際、まだ提供を受けていないサービスに対して先払いした金額を計上する科目のことです。
年単位で支払う保険料や事業所の家賃等は前払費用で勘定処理します。
なお、前払費用に関して、企業会計原則の注解でも次のように定められています。
「前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない。」
つまり、両者が大きく異なる点は、「対価の対象に継続性があるかないか」です。
また、前払費用に関しては「サービス」に限定されている点も前払金と異なっています。
関連記事:前払金の基本的な部分を勘違いしやすい勘定科目と比較して紹介
2.前払費用について
前払費用については、継続的なサービス提供を受ける契約をした際、まだ提供を受けていないサービスに対し、先払いした金額を計上する科目と先述でも説明しました。
火災保険や自動車保険といった各種保険、機械設備や事務用品等のリース契約など、年を超えた長期契約によって代金を先払いするケースは多々あります。
また、事業所の家賃などでも、当月分を翌月に支払うといった先払いをするケースもあります。
こういった先払いした費用のうち、翌期にかかるサービス分については、貸借対照表上の「資産」として計上することになります。
また、前払費用は、ワンイヤールール(1年基準)に従って仕訳しなくてはいけません。
ワンイヤールールとは、決算日の翌日から1年以内に回収できる資産または決算期日を迎える負債を「流動資産または流動負債」、1年を超えるものを「固定資産または固定負債」に区分するといったルールです。
ワンイヤールールに従って、1年を超えるものを「長期前払費用」、1年以内のものを「短期前払費用」として扱います。
2-1.長期前払費用について
長期前払費用は、1年を超えるサービス契約で前払いした費用のうち、決算日から1年を超えた部分の費用が該当します。
具体的な例で説明すると、2年や3年といった数年単位の保険契約の場合、数年分の保険料を契約時にまとめて支払うことがあります。
この場合、決算日より1年以内は短期前払費用とし、1年を超えている部分については長期前払費用として、それぞれ計上します。
また、長期前払費用と関係のある繰延資産についても、ここで整理しておきましょう。
繰延資産は「会計上の繰延資産」と「税法上の繰延資産」に分けられます。「税法上の繰延資産」の中には「会計上の繰延資産」が含まれていますが、会計基準上で繰延資産の勘定科目に計上できるのは、「会計上の繰延資産」だけです。
「税務上の繰延資産」については、「投資その他の資産」に長期前払費用等として計上することとされています。
具体的には、「中小企業の会計に関する指針」で、法人が支出する次の費用は税法上の繰延資産に該当するとして、「投資その他の資産」に長期前払費用等として表示するとしています。
・自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
・資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用
・役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
・製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
・1から4までに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用
したがって、貸借対照表に長期前払費用がある場合は、法人税独自の繰延資産が含まれていることがあります。
関連記事:年度またぎがある場合の前払金の扱い方を具体例と合わせて紹介
2-2.短期前払費用について
長期前払費用に該当しない前払費用については、短期前払費用または前払費用として科目処理します。
ただし、短期前払費用として処理する際には、次に挙げる注意点に気を付けなくてはいけません。
2-2-1.支払った事業年度にサービス提供が開始していること
短期前払費用として計上するには、継続したサービスの提供が受けられることが条件としてあります。
たとえば、12月決算の会社で、サービスの開始月が翌年3月であった場合、11月にサービス代金を前払いしても、12月の決算時点でサービスの提供はされていません。
そのため、このケースでは12月の決算時点で短期前払費用として処理することができません。
2-2-2.短期前払費用に計上できないものがある
前払費用は、継続的なサービスの提供が条件としてありますので、新聞や雑誌の年間購読料などは前払費用ではなく前払金として処理します。
また、弁護士や税理士の顧問料のようにサービスの内容が均質ではないものについても、継続的なサービスとはみなされないため、短期前払費用に計上することはできません。
2-3.短期前払費用の税務上の特例
短期前払費用には税務上の特例があり、条件を満たした短期前払費用については、支払った全額を損金計上することが認められています。(法人税基本通達2-2-14)
条件については以下の通りとなります。
支払日から1年以内にサービスの提供を受けていること
毎期継続して同じ処理を行うこと(年払いで対応したものは、翌期以降も年払い)
収益と対応させる必要がない費用でなくてはならない
短期前払費用の税部上の特例を活用できれば、法人税や所得税の節税にもつながりますので、自社で利用ができないか、顧問の税理士に相談してみると良いでしょう。
3.前払金と前払費用の違いを把握してミスのない仕訳を行おう
前払金は商品やサービスを先払いした際に使う科目です。
一方、前払費用は、継続して行われるサービスに先払いした代金について、サービス未提供部分に使う科目です。
前払金と前払費用、言葉は似ていますが、この通り意味が全く異なります。
それぞれ混同しないよう、しっかり把握しておく必要があります。
また前払費用に関しては、ワンイヤールールの適用によって、短期前払費用と長期前払費用とに区分されますので、合わせてしっかり覚えておきましょう。
少々複雑ではありますが、本記事を参考にそれぞれの違いをしっかり整理し、実務においては正しく仕訳をするようにしてください。
関連記事:前払金の仕訳を混同しやすい勘定科目との違いを踏まえてチェック
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