ダブルワーク時の106万円の壁はどう計算する?超えた際の影響や対策を解説
更新日: 2025.6.27
公開日: 2025.6.5
jinjer Blog 編集部
「ダブルワークをする従業員がいる場合、106万の壁の計算方法は?」
「従業員が106万の壁を超えると企業にどのような影響がある?」
106万円の壁とは、社会保険の加入義務や企業の保険料負担に直結する重要な基準です。適切に従業員の労務管理や事務手続きをするためには、106万円の壁をしっかり理解することが欠かせません。
本記事では、106万円の壁の基本知識や対象者、106万円を超えた場合に企業に及ぼす影響まで、わかりやすく解説します。ミスなく労務管理や事務手続きをするためにも、今のうちに基礎知識を身につけておきましょう。
2024年末頃から”従業員の手取りが減少してしまう年収のボーダーライン”「年収の壁」の見直しを巡る動きが強まっています。
所得税の発⽣や社会保険加⼊の義務に関わる改正であるため、給与計算担当者の業務に直結します。そのため、担当者は正しく改正内容を理解し、メリットだけではなくデメリットも正しく把握しておく必要があります。
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1. 106万円の壁とは?ダブルワークにおける基本知識
まずは、106万円の壁とは何かを解説します。
- 106万円の壁を超えると社会保険料に加入する
- 106万円の壁の対象者
手取り額に大きく影響するため、ダブルワークの従業員がいる場合は必ず押さえておきましょう。
1-1. 106万円の壁を超えると社会保険料に加入する
106万円の壁とは、主にパートやアルバイトなどの短時間労働者に対して適用される、社会保険が必要となる年収の基準額のことです。
従業員の年収が106万円を超えた場合、社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入が義務付けられます。
ダブルワークをしている従業員が106万円の壁を超えることで社会保険の加入義務が生じるため、企業側の手続きや負担も増加します。
収入の設計や勤務時間の管理を適切におこなうためにも、正確に把握しておくべきといえるでしょう。
1-2. 106万円の壁の対象者
106万円の壁の対象となるのは、以下の5つの条件すべてを満たす短時間労働者です。
- 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上
- 2ヵ月以上雇用期間の見込みがある
- 学生ではない
- 事業所の従業員数が51人以上(2024年10月1日以降)
上記の条件を全て満たす場合、ダブルワーク中の勤務先ごとに社会保険の加入義務が生じます。
注意すべきなのは、「106万円の壁」は年収ではなく月額賃金で判断される点です。月額8万8,000円以上(106万円÷12ヵ月)の賃金があると、1年未満の雇用でも社会保険の対象になります。
なお、以下のようなケースは対象外です。
- 学生(夜間学生などは対象となる場合も)
- 従業員数が51人未満の事業所に勤めている
- 正社員やフルタイム労働者、または週の労働時間がフルタイムの4分の3以上ある場合
参考:社会保険適用拡大対象となる事業所・従業員について|厚生労働省
2. ダブルワークの従業員における106万円の壁の計算方法
ダブルワークの従業員における106万円の壁の計算方法を紹介します。
- 1社ごとの年収で判断する
- 割増賃金・賞与・家族手当などは含めない
具体的な計算方法を理解して、適切に労務管理ができるよう努めましょう。
2-1. 1社ごとの年収で判断する
ダブルワークをしている場合でも、社会保険の加入基準は勤務先ごとに判断されます。
以下のように、3つのパターンに分けて考えるのが基本です。
状況 | 社会保険の加入先 |
両方の会社で社会保険の加入条件を満たしている | 両方の会社で社会保険に加入 |
一方の会社だけ加入条件を満たしている | 条件を満たした会社で社会保険に加入 |
どちらの会社も加入条件に満たしていない | どちらの会社でも社会保険に加入しない |
例えば、A社とB社の2社で働く場合、それぞれの会社で「週20時間以上勤務」や「月額8万8,000円以上」などの基準を個別に満たしているかを確認します。
両方の会社で条件を満たしていれば、双方での加入が必要です。給与を合算した標準報酬月額をもとに保険料が計算され、各勤務先が按分して負担します。
一方、いずれか片方の会社のみが条件を満たしている場合は、片方の会社のみで加入する仕組みです。
従業員のダブルワーク状況に応じて、どの勤務先に加入義務が生じるかを正しく判断し、必要な手続きを漏れなくおこなうことが重要です。
2-2. 割増賃金・賞与・家族手当などは含めない
106万円の壁の年収計算には、基本的に雇用契約で定められた基本給や所定労働時間に対する賃金が対象になります。
以下のような手当や一時的な収入は原則として計算には含まれません。
- 残業代(割増賃金)
- 賞与(ボーナス)
- 休日手当
- 通勤手当
- 家族手当
- 精皆勤手当
例えば、基本給が月8万円で、残業やボーナスによって年間の総支給額が106万円を超えたとしても、基本給が基準を下回っている場合は社会保険の加入義務は生じません。
なお、従業員50人以下の事業所における「130万の壁」では、手当も含めて計算する点に注意が必要です。
対象となる収入区分を正しく把握し、基準の違いを踏まえたうえで社会保険の管理をおこなうことが重要です。
3. ダブルワークで106万円の壁を超えた場合に企業側へ及ぶ影響
従業員がダブルワークによって106万円の壁を超えた際、企業側へ及ぶ影響は以下のとおりです。
- 社会保険料の事業主負担が発生する
- 政府の助成金を受けられる可能性が高まる
どのような影響が及ぶのかを事前に把握して、適切に対処できるように準備を整えておきましょう。
3-1. 社会保険料の事業主負担が発生する
ダブルワークをしている従業員が106万円の壁を超えると、社会保険に加入する義務が生じます。
企業は従業員の社会保険料のうち、半額を事業主負担として支払わなければなりません。そのため、健康保険や厚生年金保険料など、人件費が増加します。
例えば、45歳(介護保険あり・賞与なし)のパート従業員の年収が106万円の場合、企業が負担する金額は以下のとおりです。
【2025年度(令和7年度)東京都の保険料率】
- 健康保険料率:9.91%(0.0991)
- 介護保険料率:1.59%(0.0159)
- 厚生年金保険料率:18.3%(0.183)
【社会保険の計算】
- 健康保険料:88,000円×0.0991=8,720円
- 介護保険料:88,000円×0.0159=1,399円
- 厚生年金保険料:88,000円×0.183=16,104円
- 合計:26.223円(企業と本人で折半)
企業負担分は月13,111円、年間では約15万7,000円が加算されます。
こうした負担が該当従業員ごとに発生するため、対象者が増えるほど人件費が膨らみ、企業経営に影響を与える可能性があります。制度変更や労働時間の設計にあたっては、負担額をシミュレーションしておくことが重要です。
参考:令和7年度の協会けんぽの保険料率は3月分(4月納付分)から改定されます|全国健康保険協会
参考:令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)|日本年金機構
3-2. 政府の助成金を受けられる可能性が高まる
ダブルワークをする従業員が106万円の壁を超え、社会保険の加入対象となった場合、企業は政府の助成金を受けられる可能性があります。
厚生労働省は、従業員の処遇改善に取り組む企業に対して「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」を設けているためです。
例えば、社会保険適用により手取りが減少しないよう手当などを支給した場合、労働者1人あたり最大50万円(3年間)が助成されます。
助成金には以下のメニューから選択可能で、企業の状況に応じて活用できます。
メニュー | 特徴 |
手当等支給メニュー | 社会保険加入後に手当や賃上げをおこなった場合に助成される |
労働時間延長メニュー | 所定労働時間を延長して社会保険の適用とした場合に助成される |
併用メニュー | 1年目に手当支給、2年目に労働時間延長など段階的に対応した場合に助成される |
助成金を活用することで、企業は社会保険料の事業主負担に対して資金的な補填を得られ、従業員も年収の壁を気にせずに働き続けやすくなります。
助成金の活用には、キャリアアップ計画の策定や申請手続きが必要ですが、うまく活用することで従業員の定着や労務管理の安定化につなげられるでしょう。
参考:キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)|厚生労働省
4. ダブルワークで106万円の壁を超えないための対策
ダブルワークをする従業員が106万円の壁を超えないためには、企業としての配慮や制度設計が不可欠です。具体的には、以下のような対策が考えられます。
- 労働時間・給与管理を徹底する
- 福利厚生を充実させて実質的な手取額を増やす
- ダブルワークをする従業員への情報提供を徹底する
ダブルワークをする従業員が106万円の壁を超えないようにするためには、労働時間と給与の管理を徹底することが不可欠です。労務管理ツールなどを活用し、勤務時間や支給額のズレが起きないような運用体制を整えましょう。
また、従業員の実質的な手取り額を維持する方法として、福利厚生を充実させるのも有効です。例えば、食事補助や住宅手当など、賃金に含まれない支援制度を活用すれば、年収基準を超えず生活支援が可能になります。
さらに、ダブルワークをする従業員が106万円の壁を理解し、自分の働き方を選択するためにも、企業は情報提供を徹底することが大切です。定期的に説明会を実施したり、資料を配布したりと、従業員にわかりやすい形で伝えるようにしましょう。
5. 106万円の壁は2026年10月に撤廃予定
2026年10月をもって「106万円の壁」は廃止される見通しです。
厚生労働省では、現代の労働環境や人手不足の深刻化を背景に、社会保険の加入基準となる賃金要件そのものを廃止する方針を示しました。
従業員は年収を気にして労働を抑制する必要がなくなるため、希望するだけ働ける環境の整備が期待されています。
さらに、2027年10月には企業規模要件(従業員51人以上)も撤廃される見込みです。企業はより柔軟な働き方に対応できる体制づくりが求められるようになります。
制度変更などによる影響を見据えたうえで、社内制度の整備や見直しなど早めの準備が重要となるでしょう。
6. 106万円の壁に備えて社内ルールと管理体制を見直そう
ダブルワークをする従業員が増えるなか、106万円の壁は企業にとっても重要な労務管理上の課題です。社会保険の加入条件や計算方法を正しく理解したうえで、該当する従業員に対して適切な対応を取ることが求められます。
従業員が106万円の壁を超えると企業側の社会保険料の負担が増加する一方で、助成金を活用すれば一部のコストを補填できる可能性もあります。
従業員と企業の双方が納得のいく形で働き方を設計できるよう、社内ルールの整備と情報提供の体制を見直し、制度変更に柔軟に対応できる環境を整えましょう。
2024年末頃から”従業員の手取りが減少してしまう年収のボーダーライン”「年収の壁」の見直しを巡る動きが強まっています。
所得税の発⽣や社会保険加⼊の義務に関わる改正であるため、給与計算担当者の業務に直結します。そのため、担当者は正しく改正内容を理解し、メリットだけではなくデメリットも正しく把握しておく必要があります。
当サイトでは、給与担当者の方に向けて、「年収の壁」における政府の動向から、企業がとるべき対応まで解説した資料を無料配布しています。
資料では、100万、103万、106万、130万、150万、210万それぞれ年収の壁についての概要から、ボーダーラインを超えた際への影響を図解でわかりやすく解説しています。「年収の壁について手っ取り早く理解したい」という方は、ぜひこちらからダウンロードの上、お役立てください。
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