みなし残業の上限とは?種類やトラブルについても解説
更新日: 2023.9.1
公開日: 2022.3.3
YOSHIDA
みなし残業には、これといった上限の定めがないものの、36協定の上限規制に合わせ、45時間までに留めるのが一般的とされています。
この記事では、みなし残業の上限は何時間が望ましいか、また、みなし残業の種類や起こりやすいトラブルを解説します。
関連記事:みなし残業制度とは?ルールやメリット・デメリットを詳しく解説!
1. みなし残業の上限とは
みなし残業制では、あらかじめ、一定時間分の残業代を給与に含めて支給します。
例えば、基本給と一緒に残業代20時間分(5万円)が支給されているなら、6時間の残業でも、20時間の残業でも、毎月5万円が支給されます。ただし、20時間を超えた分の残業については別途手当が必要です。
そのため、みなし残業制を導入すれば、残業代の計算が容易になるなどのメリットが生まれます。しかし、ここで疑問になるのが「みなし残業の上限は何時か」という点です。
1-1. みなし残業の上限は法律で決まっていない
みなし残業の上限時間は、法律上、明確な基準はありません。みなし残業に関する過去の判例では、実際の設定時間以外に、その他の事情(割増賃金の妥当性や役職の有無など)も考慮した上で有効性・無効性が判断されてきました。
そのため、上限時間83時間が無効とされた例もあれば、80時間が有効と判断された事例もあります。
1-2. 36協定の上限である45時間に合わせるのが妥当
しかし、最近の判例では36協定の上限に合わせることや、それを基準とすることが求められる傾向にあります。また、上限時間を100時間などに設定すれば、長時間労働の常態化を促し、公序良俗に違反するとして無効であるとの見方もされています。
そのため、みなし残業の上限に明確な決まりはないものの、36協定の上限である45時間に設定するのが一般的です。
2. みなし残業の3つの種類とその特徴
みなし残業(みなし労働時間制)はどのような事業所でも導入できるわけではなく、次の3タイプのどれかに当てはまる必要があります。それぞれの特徴と、該当する業種を解説します。
2-1. 事業場外みなし労働時間制
外勤の多い職種など、使用者が労働時間の正しい把握が難しい職種で利用します。また、導入の際は、事業場外で全部または一部の労働に従事し、なおかつ、使用者が具体的に指揮をしたり、労働時間の監督をしたりするのが困難であることが必要です。[注1]
例えば、事務所の外にある工場で、無線で上長の指示を仰ぎながら業務に当たっていたなら、指揮監督の及ぶ業務をしており、労働時間の算定は可能であるため、事業場外みなし労働時間制の導入はふさわしくありません。
実際に想定される業種としては、外回りや海外出張が中心の営業職、ツアーコンダクター、バスガイドなどが該当します。
また、在宅勤務の場合も要件を満たせば、事業場外みなし労働時間制が導入できます。
[注1]「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために|厚生労働省
2-2. 専門業務型裁量労働制
実際の労働時間に関わらず、契約時などにあらかじめ定めた時間のみ労働したものとみなす制度です。
そのため、みなし労働時間を8時間としているなら、4時間働いても、11時間働いても「8時間労働」として賃金計算をします。
業務の性質上、仕事の手段や時間配分などの多くを従業員にゆだねる必要のある業種が対象です。ただし、実際に導入できるのは厚生労働省の定める19の業務に限られています。[注2]
下記に一例を紹介します。
- 新商品の研究、または、人文・自然科学の研究
- 情報処理システムの分析
- 記事の取材・編集
- デザイン考案
- コピーライター
- システムコンサルタント
- インテリアコーディネーター
- ゲームクリエイター
- 証券アナリスト
- 公認会計士
- 弁護士
- 建築士
- 不動産鑑定士
- 弁理士
- 税理士
- 中小企業診断士
なお、導入の際は、上記の業務に従事していることが必要です。
例えば中小企業診断士を雇用していても、実際に行っている業務は一般的な事務作業のみでは専門業務型裁量労働制の対象とはなりません。
[注2]専門業務型裁量労働制|厚生労働省
2-3. 企画業務型裁量労働制
事業活動の中核を担う労働者が、主体的に自身の技術や企画能力を発揮できる働き方として導入された仕組みです。[注3]そのため、下記の対象業務が存在する事業場のみで導入が可能です。
- 本社や本店
- 企業の事業運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
- 本社などから具体的な指示を受けずに、事業運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等
なお、本社などから具体的な指示を受けている事業場や支店は、企画業務型裁量労働制の対象とはなりません。
どのような職種が対象になるかまでは言及されていないものの、下記①と②の仕事に従事する従業員が対象です。
①事業運営上の重要な決定が行われる事業所で企画、立案、調査及び分析を行う
②使用者が業務の遂行方法に具体的な指示をしてない
これまで説明した要件に加え、導入に当たっては労使委員会を設置し、5分の4以上の多数による議決後、労働者本人の同意を得る必要があるなど、厳格な手続きが必要です。
3. みなし残業はなぜトラブルが発生しやすいのか?
みなし残業制度は本来、会社側・労働者側、双方にメリットのある制度です。しかし、求人方法から給与の支払いまで、正しい運用方法を理解していないと、後々のトラブルにつながってしまいます。従業員に誤解を招く、代表的な例を紹介します。
3-1. 求人の際にみなし残業と分かりづらい記載をした
みなし残業を導入している事業所で求人を行う際は、基本給とみなし残業代が分かるように明記しなければいけません。募集の際は、みなし残業の時間・金額・手当名まで記載し、他の手当と区別がつくように記載しましょう。
【記載例1】
基本給 20,000円
固定残業代(20時間分)40,000円
【記載例2】
基本給 24,000円
(固定残業代(20時間分)40,000円を含む。)
固定残業代を含む賃金に関する苦情は特に多いため、誤解を招かないように配慮しましょう。
3-2. 勤怠管理をしていない
みなし残業制を導入していても、従業員の労働時間は把握しなければいけません。
使用者は従業員の健康状態を把握し、みなし残業時間以上の労働や、深夜・休日の割増賃金が発生した際は支払いを行う必要があるためです。
そのため、みなし残業制を導入していても勤怠管理システムなどを使い、みなし残業時間以内で業務が完了しているか確認し管理しましょう。また、正しい残業時間を把握できていないことによる残業代の不支給によるトラブルも起きかねません。みなし残業制においても、みなし残業時間以上に労働した場合は残業代を支払う必要があるため注意が必要です。
3-3. 長時間の残業が習慣化しやすい点にも注意
みなし残業制は上限時間まで働かなくてはいけない、などの勘違いが生まれやすく、長時間労働が習慣化しやすい点にも注意が必要です。
特に、既にみなし残業を導入している企業では、60時間などに設定していると、毎月それだけ働かなくてはいけないという思い込みから、トラブルに発展するケースもあります。
みなし残業時間を45時間以上に設定しているなら改める、長時間労働が続いている者がいれば手持ちの仕事を分散させるなど、残業が常態化しない仕組み作りが大切です。
4. みなし残業の上限時間は、45時間が一般的
みなし残業には、上限時間の決まりはないものの、月100時間など労働者の健康を害する時間を設定すれば無効や違法になるケースもあります。そのため、36協定の上限である月45時間を目安に設定するとよいでしょう。
また、みなし残業制だからといって、勤怠管理をしなくてよい訳ではありません。トラブルを事前に防ぐためにも適切な労働時間の管理を行いましょう。
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