フレックスタイム制の清算期間とは?仕組みや時間外労働の計算方法を解説
更新日: 2025.5.23
公開日: 2021.9.7
jinjer Blog 編集部

フレックスタイム制の清算期間とは、所定労働時間を定める期間のことです。2019年4月の法改正で、清算期間は最長3ヵ月まで延長可能となり、月を跨いだ労働時間の過不足処理ができるようになりました。
本記事では、フレックスタイム制の清算期間の仕組みや残業時間の計算方法を解説します。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
資料ではフレックスタイム制導入の流れや手続の他に、残業の数え方や効率的な勤怠管理の方法も解説しておりますので、適切にフレックスタイム制を運用したいという方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
目次
1. フレックスタイム制の清算期間とは?
フレックスタイム制における清算期間とは何を指すのか、2019年の改正によって変化した部分もあるため正しく理解しておきましょう。
1-1. 労働者の所定労働時間を定めた期間
フレックスタイム制は、一定期間の所定労働時間の範囲内で、労働者が自由に始業・就業、働く時間の長さを決定できる制度です。柔軟な働き方ができるという大きなメリットがありますが、その中でも決められた労働時間は守らなければなりません。
フレックスタイム制における清算期間とは、労働者が働くべき時間(所定労働時間)を定めた期間のことです。労働者は清算期間の間で所定労働時間に達するように調整して働くことになり、企業側は清算期間で給与や手当などを計算して支給します。
関連記事:フレックスタイム制とは?清算期間の仕組みやメリット・デメリットを解説
1-2. 清算期間によって仕組みが変わる
清算期間は法令を守った範囲内で企業側が自由に決めてよいものです。しかし、清算期間が1ヶ月以内の場合と、1ヶ月を超える場合で法定労働時間の総枠の計算方法が異なるため、取り扱いには注意が必要です。
清算期間が1ヶ月以内の場合は、「清算期間の暦日数÷7×40時間(1週間の法定労働時間)」でもとめた法定労働時間の総枠を守れば問題ありません。清算期間が1ヶ月を超える場合は、この計算方法に加えて、過度な労働を防ぐための規定が設けられています。
なお、清算期間が1ヶ月を超える場合は就業規則による規定に加えて、労使協定を締結して管轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
1-3. 2019年より上限が3ヶ月になった
法改正前まではフレックスタイム制における清算期間は最大1ヶ月とされていました。
これが2019年の3月より最大3ヶ月まで延長され、これまでよりもより自由に労働時間を調整できるようになっています。子どもがいる従業員は、子どもが家にいる夏休みや冬休みなどは早めに退勤するということも可能になるため、ライフワークバランスを取りやすくなりました。
ただし、前述したように1ヶ月を超える清算期間の場合は労使協定が必要であり、法定労働時間の総枠に気を付けなければなりません。
2. 清算期間が1ヵ月以内のフレックスタイム制の仕組み
清算期間が1ヶ月以内のフレックスタイム制の仕組みをまずは確認していきましょう。こちらは比較的シンプルな仕組みになっており、法定労働時間の総枠もわかりやすいです。
2-1. 法定労働時間の総枠の決定方法
フレックスタイム制の清算期間は、1ヵ月以内とするか、それとも1ヵ月以上とするかにより、仕組みが若干異なります。フレックスタイム制の清算期間の仕組みについて、それぞれ解説します。
フレックスタイム制では、清算期間中の法定労働時間の総枠内で、総労働時間を決定します。法定労働時間の総枠は、下記により計算できます。
法定労働時間の総枠=「清算期間の暦日数÷7」×「40時間(1週間の法定労働時間)」
清算期間が1ヵ月以内の法定労働時間の詳細は以下になります。
精算期間の暦日数 | 法定労働時間の総枠 |
31日 | 177.1時間 |
30日 | 171.4時間 |
29日 | 165.7時間 |
28日 | 160.0時間 |
労働者は、1ヵ月の総労働時間(働くべき時間)の範囲内で、実労働時間(実際に働いた時間)を調整します。なお、特例措置対象事業所では、週の法定労働時間が例外的に44時間となります。
2-1. 清算期間が1ヵ月以内で過不足が発生した時の取り扱い
総労働時間より実労働時間が長かったとき、すなわち残業があった場合は、超過した時間分の賃金を支払い処理します。総労働時間より実労働時間が短かったときは、
- 不足時間分を賃金から控除する
- 不足時間分を翌月の総労働時間に加算して処理する
どちらかにより相殺します。清算期間が1ヵ月以内なら、当月中に過不足を調整しなければいけません。
3. 清算期間が1ヵ月を超えるフレックスタイム制の仕組み
法改正によって可能になった1ヶ月を超える清算期間では、ルールが少し複雑になります。正しく理解して間違いのないように計算をしましょう。
3-1. 法定労働時間の総枠の決定方法
清算期間が1ヵ月を超えるときは、下記の法定労働時間の総枠の範囲内で、総労働時間を設定します。また、清算期間が3ヵ月以内の場合でも、1ヵ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えると法定外残業です。閑散期は労働時間を短縮し、繁忙期に過度に労働時間を集中するなどの設定はできません。
2ヵ月 | 3ヵ月 | ||
精算期間の暦日数 | 法定労働時間の総枠 | 精算期間の暦日数 | 法定労働時間の総枠 |
62日 | 354.2時間 | 92日 | 525.7時間 |
61日 | 348.5時間 | 91日 | 520.0時間 |
60日 | 342.8時間 | 90日 | 514.2時間 |
59日 | 337.1時間 | 89日 | 508.5時間 |
3-2. 清算期間が1ヵ月を超える場合に過不足が発生した時の取り扱い
清算期間が1ヵ月を超える場合、総労働時間と実労働時間の過不足は、月を跨いで処理できます。
総労働時間より実労働時間が長かったときも、下記の1. 2. どちらも満たす場合は、残業には当たらず、清算期間内での調整が可能です。
- 複数月の労働時間が、平均週40時間以内
- 1ヵ月ごとの労働時間が週平均50時間以内
例えば労働時間が、1ヵ月目は週平均50時間、2ヵ月目は週平均35時間、3ヵ月目も週平均35時間なら、3ヵ月の平均が40時間となるため、残業代は発生しません。また、総労働時間より実労働時間が短かった月は、複数月内で相殺ができるため、直ちに賃金から控除する必要はありません。
3-3. 清算期間が1ヵ月を超える場合は労使協定(36協定)の届出が必要
清算期間が1ヵ月を超えるフレックスタイム制では、清算期間の労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届出が必要です。届出を怠った場合、30万円以下の罰金が課される恐れがあります。
フレックスタイム制の計算方法はとても複雑になり、この記事を読みながら「勤怠管理と給与計算どのようにやろうかな」と悩まれている方もいるのではないでしょうか。当サイトでは、フレックスタイム制の賃金の計算方法や適切な勤怠管理方法をまとめた資料を無料で配布しております。導入後の管理方法で悩まれている方は、こちらから資料をダウンロードしてご確認ください。
関連記事:フレックスタイム制に関する労使協定のポイントを解説
4. フレックスタイム制の時間外労働の計算方法
フレックスタイム制では、1日8時間、週40時間を超える労働が直ちに時間外労働(残業)になる訳ではあません。また、残業時間の計算も、清算期間が1ヵ月以内か、1ヵ月を超えるかによって異なるため詳しく解説します。
4-1. 時間外労働の計算方法:清算期間が1ヵ月以内の場合
時間外労働(残業)は、清算期間中の実労働時間から総労働時間を引くことで求められます。清算期間が1ヵ月以内の場合は、法定労働時間の総枠を超えたら時間外労働として扱えばよいでしょう。この場合、法定労働時間を上回った超過分に対して割増賃金が支払われることになります。
また、清算期間が1ヵ月以内であれば、不足時間分を翌月に繰り越すことができず、当月中に過不足を調整する必要があります。例えば、もしある月の実労働時間が法定時間を超過していれば、その分はすぐに残業代として計算し、繰り越すことをせず支払うことになるのです。このように、適切な勤怠管理と透明性を保つことが、フレックスタイム制を採用する上での成功の鍵となります。
4-2. 時間外労働の計算方法:清算期間が1ヵ月を超える場合
清算期間が複数月にまたがる場合は、下記の2つを合算し残業時間を算出します。
- 清算期間1ヵ月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間
- 清算期間全体で、法定労働時間の総枠を超えた実労働時間
具体例を元に確認します。
step1:清算期間各月の実労働時間が週平均50時間を超えているか確認する
下記を例に、各月の実労働時間が週平均50時間を超えているか確認します。
労働月 | 実労働時間 |
4月 | 220時間 |
5月 | 180時間 |
6月 | 150時間 |
合計 | 550時間 |
週平均50時間となる月の実労働時間は、下記の式より求められます。
「50時間」×「各月の暦日数÷7」=「週平均50時間となる月の実労働時間」
以下の例を用いて整理すると次のとおりとなります。
労働月 | 週平均50時間となる月間 |
4月 | 214.2時間 |
5月 | 221.4時間 |
6月 | 214.2時間 |
4〜5月について、週平均50時間を超えているか確認します。
- 4月:220時間-214.2時間=5.8時間
- 5月:180時間-221.4時間=0時間
- 6月:150時間-214.2時間=0時間
4月は週平均50時間を超えた残業時間は5.8時間となります。
step2:清算期間中の実労働時間が法定労働時間を超えているか確認する
4月~6月までの法定労働時間の総枠は520時間(※)となります。
(※)「法定労働時間の総枠=40時間×91日÷7日=520時間」
清算期間中の実労働時間が法定労働時間を超えているかは、下記により求められます。
「清算期間の実労働時間」-「週平均50時間を超えた労働時間」-「清算期間の法定労働時間の総枠」=「残業時間」
実際に計算すると、残業時間は24.2時間となります。
550時間-5.8時間-520時間=24.2時間
上記は、最終月の残業時間として集計します。
step3: step1・step2で算出した残業時間を合計する
最後に、Step1、Step2で算出した残業時間を足すと、清算期間中の残業時間の合計がわかります。
- step1:5.8時間
- step2:24.2時間
- 5.8時間+24.2時間=30時間
労働月 | 4月 | 5月 | 6月 |
残業時間 | 5.8時間 | 0時間 | 24.2時間 |
今回のケースでは、清算期間中の残業時間は30時間で、割増賃金の支払いが必要になります。
本章で解説したように、フレックスタイム制の時間外労働の計算方法は、定時制の場合とは全く異なります。そのため正しく理解していないと、フレックスタイム制を導入した後に残業代に過不足が生じる可能性が高くなり、労使間トラブルや上限規則の法律違反になりかねないため注意が必要です。
5. フレックスタイム制の清算期間の仕組みを理解して正しく処理しよう
フレックスタイム制の清算期間の上限が1ヵ月から3ヵ月に延長となったことから、従来よりも柔軟に労働時間の過不足処理が可能となりました。しかし、複数月に跨る清算期間では、残業時間の計算方法が1ヵ月以内の時よりも複雑になります。正しい賃金支払いのためにも、フレックスタイム制の清算期間の仕組みを正しく把握しましょう。
フレックスタイム制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、フレックスタイム制を導入した後に、「出勤・退勤時間が従業員によって異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法と清算期間の関係がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「フレックスタイム制度を実現するための制度解説BOOK」をご用意しました。
資料ではフレックスタイム制導入の流れや手続の他に、残業の数え方や効率的な勤怠管理の方法も解説しておりますので、適切にフレックスタイム制を運用したいという方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
勤怠・給与計算のピックアップ
-
有給休暇に関する計算を具体例付きで解説!出勤率、日数、金額の計算方法とは?
勤怠・給与計算公開日:2020.04.17更新日:2025.07.09
-
36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
勤怠・給与計算公開日:2020.06.01更新日:2025.03.27
-
社会保険料の計算方法とは?給与計算や社会保険料率についても解説
勤怠・給与計算公開日:2020.12.10更新日:2025.03.03
-
在宅勤務における通勤手当の扱いや支給額の目安・計算方法
勤怠・給与計算公開日:2021.11.12更新日:2025.03.10
-
固定残業代の上限は45時間?超過するリスクを徹底解説
勤怠・給与計算公開日:2021.09.07更新日:2024.12.26
-
テレワークでしっかりした残業管理に欠かせない3つのポイント
勤怠・給与計算公開日:2020.07.20更新日:2025.02.07