産休を取得した従業員の給与計算の方法は?ルールや注意点を解説
更新日: 2024.7.5
公開日: 2024.2.13
OHSUGI
産休を取得した従業員の給与計算は、産休に入った月と終了した月で方法が異なるため注意が必要です。しかし、なかには「具体的な計算方法がわからない」とお困りの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、産休を取得した従業員の給与計算の方法やルール、注意点を解説します。産休を取得予定の従業員がいる場合は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 【原則】産休を取得した従業員には給与の支払いがない
原則として、産休を取得した従業員に企業が給与を支払う義務はありません。なぜなら、「労働なくして賃金はない」と考える「ノーワーク・ノーペイの原則」が給与計算の基本原則とされているからです。
そもそも産休とは、出産予定日の6週間前から出産日までの産前休業と、出産翌日から6~8週間までの産後休業のことを言います。出産を予定している全女性従業員が取得できる制度で、アルバイト・パート従業員も対象です。産休中は休業扱いとなり、有給休暇とは違って給与が発生しません。
ただし、公務員の場合、産休が有給休暇として扱われ、通常と同じく給与が発生します。ボーナスの扱いや出産に関わる給付金についても一般企業と異なるため、混同しないよう注意してください。
最近は、産休中に給与を支払う企業もあるものの、数としてはごくわずかです。民間企業では、産休を取得する従業員が適切な支援を受けられるようサポートすることが大切といえるでしょう。
2. 産休前後の月の給与を計算する際の注意点
産休前後の月の給与を計算する際は、次の3つのポイントに注意しましょう。
- 産休中は社会保険料が免除される
- 産休中は雇用保険料・所得税が発生しない
- 住民税は継続して支払いが必要
それぞれ詳しく解説します。
2-1. 産休中は社会保険料が免除される
産休中は、従業員と会社の双方が負担する社会保険料が全額免除されます。ここでいう社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険のことで、免除期間は、産休の開始月から終了日翌日の前月までです。
ただし、社会保険料は基本的に前月分を翌月に支払う仕組みであるため、実際は産休に入った月の翌月の給与から反映されます。産休の開始月と終了月では、給与計算の仕方が異なることに注意しましょう。
免除を受けるには、会社が日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」を提出しなければなりません。出産日が早まったことなどを理由に、産休の取得期間が予定と異なる場合は、再度「産前産後休業取得者変更届」の提出が必要です。
2-2. 産休中は雇用保険料・所得税が発生しない
雇用保険料や所得税は、給与額を基に算出されるため、給与がない産休中は発生しません。ただし、月の途中で産休に入ったり復職したりする場合は、働いた分の給与に対して雇用保険料と所得税がかかります。
産休中に給与や給与に相当する手当を支給する場合も、それぞれの控除額を差し引いて給与計算する必要があるため注意してください。
2-3. 住民税は継続して支払いが必要
住民税は、前年の所得に対してかかるものであるため、産休中も引き続き支払いが必要です。
住民税の支払いは、基本的に、法人・個人を問わず会社が自治体に納める必要があります。企業が社員に代わり納税する方法を特別徴収といい、会社は6月から翌年5月まで、毎月の給与から税額を控除しなければなりません。
ただし、産休を取得する従業員については控除できる給与がないことから、普通徴収への切り替えが認められています。
特別徴収と普通徴収の違いは次の通りです。それぞれで納税方法や納税時期が異なるため、違いをよく理解したうえで従業員に選択してもらうようにしましょう。
特別徴収
特別徴収は、給与から住民税を天引きし、会社が従業員本人に代わって自治体に納める方法です。産休中も特別徴収の継続は可能であるものの、給与が発生しないため、従業員には別の方法で住民税を支払ってもらう必要があります。
特別徴収を続ける場合、産休期間中の住民税を産休前の給与から一括控除することも方法の一つです。なかには産休が終わるまで住民税を立て替え、復職後の給与からまとめて控除する会社もあります。
いずれの方法においても、金銭的負担が一度にかかるため、従業員に十分な説明をおこない、同意を得ることが大切です。説明、同意した内容を書面に残すなど、トラブルを防止するための対策も忘れないようにしましょう。
普通徴収
普通徴収は、従業員本人が直接自治体に納める方法で、一括または年4回支払いのいずれかによって納めます。6〜12月の間に産休を取得する場合は、翌年5月まで普通徴収への変更が可能です。
1~5月に産休が始まる場合は、すぐに普通徴収を開始できないため、産休の取得月から5月までは特別徴収が適用されます。
普通徴収への切り替えを希望する場合は、「給与支払報告書・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」の提出が必要です。
3. 産休における給与計算の方法
ここからは、産休における給与計算方法を解説します。
3-1. 産休を取得した月の給与
産休を取得した月の給与は、以下の計算式で求められることが多いです。
総支給額=基本給(日割り)+各種手当
支給額=総支給額-控除額(所得税+住民税+社会保険料+雇用保険料)
従業員が月の途中で産休を取得する場合、基本給の計算は日割りでおこなわれるケースがほとんどです。日割りの計算方法には、所定労働日数を用いる方法と暦日を用いる方法があります。
注意すべきことは、給与に関わるすべての税金と保険料を控除する点です。特に社会保険料については、前月分の保険料を翌月に支払う必要があるため、計算から漏れないよう注意しましょう。
3-2. 産休が終了した月の給与
産休が終了した月の給与を求める際の計算式は、次の通りです。
総支給額=基本給(日割り)+各種手当
支給額=総支給額-控除額(所得税+住民税+雇用保険料)
基本的に産休の取得月と同じ方法で算出できますが、社会保険料は前月分が免除されているため、給与計算には含みません。
4. 従業員の産休に関する手当金・給付金制度
産休を取得した従業員が利用できる手当金・給付金制度は、次の3つです。
- 出産手当金
- 出産育児一時金
- 育児休業給付金
それぞれ詳しく確認しましょう。
4-1. 出産手当金
出産手当金は、妊娠4ヵ月以降の出産であり、産休中に給与の支払いがない場合に支給される健康保険の手当金です。
支給対象は、健康保険に加入するすべての女性従業員で、条件を満たせばパート・アルバイトの雇用形態に関係なく受給できます。産休中も給与が発生する公務員は、支給の対象外です。
ただし、出産手当金は、未来日の申請ができません。休業が終了した月の給与の締日以降に申請が可能となるため、実際の支給は産休終了後です。
申請は、従業員本人もおこなえますが、事業主の証明欄については会社が記入しなければならないため注意しましょう。
出産手当金の支給額は、1日あたり「支給開始日直前12ヵ月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×2/3」で求められます。なお、出産手当金は非課税であるため、所得税や住民税を控除する必要はありません。
関連記事:出産手当金の申請方法とは?支給額やもらうための条件についても解説
4-2. 出産育児一時金
出産育児一時金は、出産時に子ども1人につき健康保険から50万円が支給される制度です。妊娠22週未満または、産科医療保証制度未加入の医療機関で出産した場合は48万8千円が支給されます。
出産育児一時金の申請方法は、次の3つです。
直接支払制度 | 出産する医療機関が直接申請する方法 |
受取代理制度 | 被保険者本人が申請をおこない、医療機関が本人に代わって一時金を受け取る方法 |
産後申請 | 被保険者が出産費用を自費で払い、後から申請する方法 |
直接支払制度または受取代理制度を利用する場合は、出産予定日の2ヵ月前までに申請しなければなりません。産後申請の期限は、出産日翌日から2年間です。
会社が申請する必要はありませんが、出産を控えている従業員には説明しておきましょう。
参照:子どもが生まれたときは出産育児一時金が受けられます。|全国健康保険協会
4-3. 育児休業給付金
従業員が産休に続いて育児休業も取得する場合は、育児休業給付金を受給できます。
会社の雇用保険に加入している育児休業取得者が対象で、期間は出産後58日から子どもが1歳になるまでです。ただし、保育園に入園できないなど、特別な事情が認められる場合は、最長2歳の誕生日の前日まで延長できます。
育児休業給付金の支給額は、休業開始6ヵ月(180日)まで1ヵ月あたり「休業開始時賃金日額×30日×67%」の金額です。181日以降は「休業開始時賃金日額×30日×50%」となり、支給額が下がります。
育児休業給付金は、原則として給与支払者である会社がハローワークに申請しなければなりません。申請が遅れると、従業員の受給金額が減ることにもなりかねないため、必ず出産手当金と併せて内容を確認しておきましょう。
関連記事:育児休業給付金とは?支給条件や計算方法を詳しく解説
5. 従業員の産休では正しい給与計算と支援をしよう
従業員の産休では、従業員が手当金・給付金を適切に受給できるよう、正しい給与計算と支援をおこないましょう。正しい給与計算と支援をおこなえば、女性従業員にとって働きやすい環境を整えることにもつながります。
手当金や給付金については、会社で手続きが必要なケースもあるため、十分に理解しておくことが大切です。
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