産休・育休を取得した従業員の給与計算方法は?日割りのルールや注意点を解説
更新日: 2025.10.15 公開日: 2024.2.13 jinjer Blog 編集部

産休や育休を取得した従業員の給与は、休業に入った月と終了した月で計算が異なるため注意が必要です。しかし、なかには「具体的な計算方法がわからない」とお困りの方もいるのではないでしょうか。
本記事では、産休・育休を取得した従業員の給与計算の方法やルール、注意点を解説します。産休・育休を取得予定の従業員がいる場合は、ぜひ参考にしてください。
目次
労務担当者の実務の中で、給与計算は出勤簿を基に正確な計算が求められる一方で、Excelからの手入力や別システムからのデータ共有の際、毎月のミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、昇格や人事異動に伴う給与体系の変更や、給与計算に関連する法令改正があった場合、更新すべき情報も多く、管理方法とメンテナンスにお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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1. 【原則】産休・育休を取得した従業員には給与の支払いがない


産休・育休を取得し、休職している従業員には、原則として給与を支払う必要はありません。なぜ必要ないのか、産休の定義とノーワーク・ノーペイの原則を解説していきます。
1-1. 産前産後休業とは
産休は正式名称を「産前産後休業」といい、出産前後の母体保護のために一定期間休職できる制度を指します。休職期間は次のとおりです。
- 産前休業:出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から出産当日まで
- 産後休業:出産翌日から8週間まで
産休は出産前後の女性従業員であればだれでも取得できます。雇用形態や勤続年数による取得制限はできません。
産前休業の取得は従業員の希望に基づくため、従業員が希望しなければ取得させる必要はありません。しかし、産後休業は従業員の申し出がない場合も、必ず取得させる必要があります。
関連記事:産休はいつから?産前産後の取得期間や双子の場合・手当の計算方法を解説
1-2. 育児休業とは
育児休業とは、育児・介護休業法によって定められた、従業員が子を養育するための休業制度です。産休が母体保護を目的としているのに対し、育児休業は仕事と育児の両立を目的としています。男女問わず利用できる点が産休との違いです。
育児休業制度には、原則となる「育児休業」と、主に男性の取得を想定した「出生時育児休業(産後パパ育休)」があります。主な違いは次の表のとおりです。
| 項目 | 育児休業 | 出生時育児休業(産後パパ育休) |
| 対象期間 | 原則、子が1歳に達するまで | 子の出生後8週間以内に通算28日まで |
| 延長 | 保育園に入園できないなどの特別な事情がある場合、最長2歳まで可能 | なし |
| 給与 | 無給 | 無給 |
| 申出期限 | 原則、休業開始の1ヵ月前まで | 原則、休業開始の2週間前まで |
| 分割取得 | 可能(通算2回まで) | 可能(通算2回まで) |
育児休業制度の詳細は、関連記事で解説しているのであわせてご覧ください。
関連記事:育児休業とは?最新の法改正から給付金、取得期間、男性の育休取得などわかりやすく解説
1-3. ノーワーク・ノーペイの原則
産休や育休で休職中の従業員に給与を支払う必要がない根拠が「ノーワーク・ノーペイの原則」です。ノーワーク・ノーペイの原則とは、「従業員が労務の提供をしていない場合、企業はその期間の賃金を支払う必要はない」という考え方を指します。産休や育休にもこの原則が適用され、休職している期間は無給とすることが認められています。
ただし、公務員の場合は産休を有給としているため、産休期間中も給与が発生します。出産に関わる給付金も一般企業と異なる部分があり、混同しないよう注意が必要です。
最近は、産休期間を有給とする企業も増えました。有給にしない場合でも、産休や育休を取得する従業員を適切にサポートすることが大切です。
2. 産休・育休前後の月の給与計算をするうえで知っておくべきこと


産休・育休前後の月の給与を計算する際は、次の3つのポイントに注意しましょう。
- 産休・育休中は社会保険料が免除される
- 給与の支払いがない場合は雇用保険料・所得税が発生しない
- 住民税は継続して支払いが必要
それぞれ詳しく解説します。
2-1. 産休・育休中は社会保険料が免除される
産休・育休中は、従業員と企業の双方が負担する社会保険料が全額免除されます。ここでいう社会保険とは、健康保険や厚生年金保険、介護保険のことです。免除期間は次のとおりです。
- 産休:出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産の日後56日までの間で、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間が含まれる月
- 育児休業:育児休業を開始した月から育児休業終了日の翌日が属する月の前月
- 出生時育児休業:月をまたぐ場合は育児休業を開始した月、月をまたがない場合は取得月の前月(14日以上育児休業を取得した場合のみ)
社会保険料の免除は休業を開始した月の分から適用されます。ただし、毎月の給与から前月分の社会保険料を徴収している場合、産休・育休を開始した翌月の給与から社会保険料が控除されなくなります。多くの企業がこのケースに当てはまるでしょう。
産休・育休を開始した月の給与では、社会保険料が免除されない場合が多いため注意が必要です。
免除を受けるには、企業が日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」「育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届」を提出する必要があります。出産日が早まったり、予定より早く復職したりするなど、産休・育休の取得期間が予定から変更になる場合は「産前産後休業取得者変更(終了)届」「育児休業等取得者申出書(新規・延長)/終了届」の提出が必要です。
関連記事:産休中の社会保険料免除の期間を事例別で解説!出産日がずれた場合の対応方法
2-2. 給与の支払いがない場合は雇用保険料・所得税が発生しない
雇用保険料や所得税は、支給される給与の額に一定率を掛けて算出されます。給与が支給されない産休・育休中は基本的に雇用保険料も所得税も発生しません。ただし、次の場合は給与が支払われるため、雇用保険料と所得税も発生します。
- 産休を有給としている場合
- 月途中で産休・育休に入った場合
- 月途中で産休・育休を終了した場合
雇用保険料・所得税は社会保険料と異なり、産休・育休中であれば無条件に支払いが免除されるわけではないため注意しましょう。月の途中で産休・育休に入ったり復職したりする場合は、働いた分の給与に対して雇用保険料と所得税がかかります。
2-3. 住民税は継続して支払いが必要
住民税は、前年の所得に対してかかるものであるため、産休・育休中も支払いが必要です。
従業員の住民税は基本的に、給与から天引きして企業経由で自治体に納める必要があります。企業が従業員に代わり納税する方法を特別徴収といい、企業は6月から翌年5月を一年度として、毎月の給与から住民税を控除しなければなりません。
ただし、産休や育休など休業中の従業員は給与の支払いがなく住民税を控除できないため、普通徴収への切り替えが認められています。
特別徴収と普通徴収では納税方法や納税時期が異なるため、違いをよく理解したうえで従業員に希望の徴収方法を確認しましょう。2つの徴収方法の違いを解説します。
特別徴収
特別徴収は、毎月の給与から住民税を天引きし、企業が従業員本人に代わって自治体に納める方法です。産休中も特別徴収の継続は可能ですが、給与が発生しないため、従業員からは次のどちらかの方法で住民税を徴収する必要があります。
- 産休期間中の住民税を産休前の給与から一括控除する
- 産休が終わるまで住民税を立て替え、復職後の給与からまとめて控除する
いずれの方法でも金銭的負担が一度にかかるため、従業員に十分な説明をおこない、同意を得ることが大切です。説明内容や同意の記録を書面に残すなど、トラブル防止の対策をおすすめします。
普通徴収
普通徴収は、従業員本人が直接自治体に納める方法です。一括または年4回支払いのいずれかの方法によって納めます。普通徴収への切り替えを希望する場合は、「給与支払報告書・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を納付先の自治体へ提出しましょう。
関連記事:住民税は産休・育休中でも支払う必要はある?納付方法や納付書がいつ届くのかを解説
3. 産休・育休に関わる給与計算方法


ここからは、産休期間や育休期間前後の給与計算方法を解説します。通常の給与計算とは異なる部分があるため、間違えないよう慎重に計算しましょう。
3-1. 産休・育休を取得した月の給与計算方法
産休・育休を取得した月の給与は、その月の出勤日数に応じて日割りで計算した額を支払います。日割り計算は、所定労働日数を用いる方法と暦日を用いる方法があります。どちらを用いるかは、就業規則によって定められているので、まずは就業規則を確認しましょう。ここでは、基本給のみを日割り計算とする場合の計算式を紹介します。
| 総支給額=基本給(日割り)+各種手当
支給額=総支給額-控除額(所得税+住民税+社会保険料+雇用保険料) |
産休・育休期間中の社会保険料は免除されますが、毎月の給与から前月分の社会保険料を控除している場合、産休・育休を開始した月の給与からは社会保険料を控除する必要があります。所得税や雇用保険料も給与の額に応じて発生するため、注意しましょう。
3-2. 産休・育休が終了した月の給与計算方法
産休・育休が終了した月の給与も、日割り計算によって算出します。基本給のみを日割り計算とする企業の場合の計算式は、次のとおりです。
| 総支給額=基本給(日割り)+各種手当
支給額=総支給額-控除額(所得税+住民税+雇用保険料) |
総支給額の計算方法は産休・育休の開始月と同じですが、社会保険料の免除は休業終了翌日が属する月の前月分までが対象です。
給与から前月分の社会保険料を徴収している企業の場合、終了月の給与の社会保険料は免除の対象となるため、控除しません。
3-3. 産後休業後すぐに育休を取得するときの給与
産後休業が終了した翌日から、続けて育児休業に入る女性従業員は多くいます。この場合、休業期間が継続するため給与は発生せず、支給額は0円です。
また、社会保険料は産後休業に引き続き育児休業でも免除されます。雇用保険料や所得税、住民税の扱いも産休中から変わらず、次のとおりの扱いが継続されます。
- 社会保険料:免除
- 雇用保険料・所得税:給与が0円の場合は発生しない
- 住民税:納付が必要
ただし、産後休業の終了届と育児休業開始の申出書は年金機構への届け出が必要です。忘れやすい手続きのため、注意しましょう。
4. 産休・育休に関する手当金・給付金制度


産休を取得した従業員が利用できる手当金・給付金制度は、次の3つです。
- 出産手当金
- 出産育児一時金
- 育児休業給付金・出生後休業支援給付金
それぞれ詳しく確認しましょう。
4-1. 出産手当金
出産手当金は、出産のため休みに入り、給与の支払いがない場合に支給される健康保険の手当金です。
支給対象は、健康保険に加入する女性従業員で、条件を満たせばパート・アルバイトなど雇用形態に関係なく受給できます。ただし、給与の支払いがないことが要件で、産休中も給与が発生する場合は対象外です。
出産手当金の申請ができるのは、産後休業の期間終了後です。産休期間中は申請できず、支給されるのは産後休業終了後となります。申請は従業員本人もおこなえますが、企業が記入する「事業主の証明」欄があるため注意しましょう。
出産手当金の支給額は、1日あたり「支給開始日直前12ヵ月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×2/3」で求められます。なお、出産手当金は非課税で、所得税や住民税はかかりません。
関連記事:出産手当金の申請方法とは?支給額やもらうための条件についても解説
関連記事:出産手当金は扶養家族の出産時にはもらえない?給付の条件やもらえる補助金を解説
4-2. 出産育児一時金
出産育児一時金は、健康保険の被保険者や被扶養者が出産したときに支給されます。支給額は子ども1人につき50万円です。ただし、妊娠22週未満で出産した場合や、産科医療補償制度未加入の医療機関で出産した場合は48万8千円です。
出産育児一時金の申請方法には、次の3つがあります。
- 直接支払制度:出産する医療機関が直接申請する方法
- 受取代理制度:被保険者本人が申請をおこない、医療機関が本人に代わって一時金を受け取る方法
- 償還払い制度:被保険者が出産費用を自費で払い、後から申請する方法
これらの3パターンから本人の同意をもとに申請をおこないます。出産育児一時金の申請期限は、出産日翌日から2年間です。企業で申請の手続きをおこなう必要はありませんが、出産を控えている従業員には説明しておきましょう。
4-3. 育児休業給付金・出生後休業支援給付金
従業員が産休に続いて育児休業も取得する場合は、育児休業給付金を受給できます。育児休業給付金の概要は次の表のとおりです。
| 対象者 | 雇用保険の被保険者である育児休業をしている従業員 |
| 期間 | 子の出生日(産後休業の期間を除く)から子どもが1歳になるまで |
| 延長 | 最長2歳の誕生日の前日まで(保育園に入園できないなど、特別な事情が認められる場合) |
| 支給額(1ヵ月あたり) | 休業開始6ヵ月(180日)まで:休業開始時賃金日額×30日×67%
181日以降:休業開始時賃金日額×30日×50% |
| 申請 | 企業を経由してハローワークへ申請 |
育児休業給付の申請が遅れると、従業員が給付金を受給できる時期が遅れるため、必ず内容を確認しましょう。
関連記事:育児休業給付金とは?2025年4月の改正点や支給条件、申請、計算方法をわかりやすく解説!
また、2025年4月からは出生後休業支援給付金も創設されました。出生後休業支援給付金は、両親ともに育児休業を取得しているなどの要件を満たすと受給できる給付金です。
支給要件は次のとおりです。
- 被保険者が原則として子の出生から8週間までの期間に、育児休業や出生時育児休業を通算14日以上取得している。
- 被保険者の配偶者が原則として子の出生から8週間までの期間に、育児休業や出生時育児休業を通算14日以上取得している。または子の出生日の翌日に「配偶者の育児休業を要件としない場合」に該当する。
支給額は、休業開始時賃金日額×30日×13%です。育児休業給付金と合わせると、給付率はおよそ80%になります。育児休業給付金も出生後休業支援給付金も非課税のため、手取りの10割相当の額を受給できる計算です。
5. 産休・育休時の給与計算方法を理解して適切な給与計算をおこなおう


従業員の産休・育休中の給与は、ノーワーク・ノーペイの原則により基本的には支給されません。ただし、休業前後の期間の労働に対する給与が発生したり、社会保険料の免除のタイミングが複雑だったりと、給与を計算する際の注意点がいくつかあります。
給与の計算方法が誤っていると、出産や育児にかかる給付金の支給額にも影響が出る場合があります。制度の内容をしっかり押さえ、正しく給与計算をしましょう。



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