変形労働時間制で従業員のシフト変更は可能?注意点を解説
変形労働時間制でシフトを組むときは、あらかじめ繁忙期や閑散期の業務量に応じて各従業員の労働時間を決めていきます。しかし、理由があって突然シフトを変更しなくてはいけなくなるシーンも少なくありません。
そもそも、変形労働時間制の企業がシフトを変更することは認められているのでしょうか。この記事では、変形労働時間制でシフト変更をするときの注意点を解説します。
変形労働時間制は通常の労働形態と異なる部分が多く、労働時間・残業の考え方やシフト管理の方法など、複雑で理解が難しいとお悩みではありませんか?
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目次
1. 変形労働時間制で従業員のシフト変更は可能?
変形労働時間制を採用する企業では、従業員の労働時間が不規則になりやすい傾向にあります。従業員の勤務時間を管理するためには、シフト表を作成して運用していくことが大切です。
変形労働時間制では、あらかじめ繁忙期や閑散期の業務量に応じてシフトを組むとはいえ、思わぬトラブルでシフトの変更が必要になることは多々あります。こういった場合、シフトを変更することは労働基準法に違反しないのでしょうか。
まずは、変形労働時間制でシフトを変更することの可否について見ていきましょう。
1-1. 原則変形労働時間制のシフト変更は認められていない
結論から言うと、変形労働時間制の企業において、あらかじめ決められている勤務シフトを会社が業務上の都合によって変更することは認められていません。このことについては改正労働基準法の変形労働時間制の項目に規定されており、以下のような条文が記載されています。
ロ 労働時間の特定
一箇月単位の変形労働時間制を採用する場合には、就業規則その他これに準ずるもの(改正前の労働基準法第三二条第二項における「就業規則その他」と内容的に同じものである。以下同じ。)により、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定めることを要し、変形期間を平均し週四〇時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しないものであること。
なお、法第八九条第一項は就業規則で始業及び終業の時刻を定めることと規定しているので、就業規則においては、各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業の時刻も定める必要があるものであること。
条文のとおり、変形労働時間制でシフト変更をした場合、違法性をとわれます。会社の都合でシフト変更をしてしまうと、変形労働時間制の要件を満たせなくなってしまうということなのです。
このことから、変形労働時間制は事前に組んだスケジュールがあとから変更になることが多い職場には適していません。もしもシフトを変更しながら運用したいのであれば、通常の法定労働時間内でシフト制を採用したほうがよいでしょう。
1-2. 正当な理由があれば変更することができる
普段は適切に変形労働時間制を運用できている企業でも、やむを得ない理由でシフトを変更しなくてはならないこともあるでしょう。変形労働時間制のシフト変更は原則認められないと紹介しましたが、過去の判例では正当な理由があればシフトの変更が認められています。
正当な理由の一例としては、天災地変や機械の故障などといった緊急かつ、不可避の事情が挙げられます。また、予定していた業務の大幅な変動があったときなど、例外的な事由に基づく場合は認められるといった判例もありました。このようにやむを得ない理由があるときは、特例としてシフトの変更が認められているのです。
参考:JR西日本(広島支社)事件第一審判決|全国労働基準関係団体連合会
2. 変形労働時間制でシフト変更するときの注意点
変形労働時間制のシフトは原則変更してはいけませんが、正当な理由があれば例外として変更が認められると紹介しました。
しかし、いくら変更が認められるからといって、会社が自社の都合に合わせて自由にシフトを変更してはいけません。知識がないままシフトを変更してしまうと、労働基準法違反になってしまう恐れがあります。ここからは、変形労働時間制でシフトを変更するときの注意点を見ていきましょう。
2-1. 変形労働時間制の適用が否認される可能性がある
先述してきているように、変形労働時間制のシフト変更はやむを得ない理由があるときのみ可能です。どのような事態がやむを得ない理由に該当するかは判断が難しいですが、例えば以下のような理由でシフトを変更することはできません。
- 客足が少ないから今日はシフトを削ろう
- この業務を早く終わらせたいから休日振替にしよう
上記のようなシフト変更は、企業にとっては正当な理由に該当するかもしれません。しかし、こういった会社都合のスケジュール変更をおこなってしまうと、変形労働時間制の要件を満たせなくなります。
最悪の場合、変形労働時間制の適用が否認されてしまい、所定労働時間を超過した分の割増賃金が発生してしまう危険性もあるため注意しましょう。
2-2. シフト変更の履歴を追えるようにしておく
変形労働時間制を導入するときは、必ずシフトの変更履歴を追えるようにしましょう。たとえシフトの変更があった場合でも、日頃適正にシフトを運用しており、変更があったときはやむを得ない理由があったことを証明できれば、変形労働時間制の適用が認められるためです。
シフトの変更履歴が追えないと適切な変形労働時間制の運用が証明できなくなり、労働基準監督署に指摘されてしまう恐れがあります。従業員から不信感を抱かれることにもつながります。そのため、「シフトが変更されていないこと」「どのシフトが変更され、どのような理由があったのか」についてわかるよう、必ず記録を残しておきましょう。
2-3. 時間外労働による割増賃金が必要になるケースがある
変形労働時間制であっても、休日振替勤務を行なってもらうことは可能です。ただし、1日8時間、1週間40時間を超える労働が設定されていない日や週に休日振替が行なわれた場合、時間外労働にかかる割増賃金が必要になる点に注意しましょう。
関連記事:変形労働制でも残業代は出さないとダメ!知っておくべきルールとは
3. 変形労働時間制でシフト表を作成するときのポイント
適正に変形労働時間制を運用するためには、シフト表を作成する段階でさまざまなポイントに気をつけなくてはいけません。最後に、変形労働時間制のシフト表作成で押さえておきたいポイントを見ていきましょう。
3-1. 期間内の業務量をしっかりと把握しておく
変形労働時間制ではシフトの変更がないことが大前提なので、スケジュール変更がないようにシフト表を作成する必要があります。あとから人手不足になってしまってもシフトの変更は難しいため、しっかりと事前に適用期間内の業務量を把握しておき、適正なシフトを作成することが重要です。
制度の導入前に業務量や業務フロー、工数などを洗い出し、いつどれくらいの人材が必要なのかについてしっかりと把握しておきましょう。
3-2. あらかじめシフト表を作成しておく
変形労働時間制でシフト表を作成するときは、必ずあらかじめシフトを決めておくことが大切です。
例えば、1か月単位の変形労働時間制を導入している店舗において「2週間ごとのシフトを作成している」という場合は、変形労働時間制の要件を満たすことができません。なぜなら、変形労働時間制を導入する場合、その運用が始まる前までに「労働日」と「労働日ごとの労働時間」を決めて周知しなくてはいけないためです。
変形労働時間制を導入するときは、シフト表の作成・周知と導入のタイミングに気をつけましょう。
関連記事:1ヶ月単位の変形労働時間制とは?採用事例や4つの導入ステップを紹介 | jinjerBlog
3-3. シフト表と勤怠管理を連携させておく
変形労働時間制を導入するときは、勤怠管理システムを活用してシフト表と連携させておくことをおすすめします。変形労働時間制は、そもそも「労働時間」と「残業時間」の区別がつきにくいというデメリットがあるため、適切に労働時間を管理するための勤怠管理システムは欠かせません。
また、やむを得ない理由でシフトの変更や休日振替を行なうときは、紙の管理だけでは記載漏れや記載ミスが生じてしまう可能性があります。残業時間やシフトの変更があったときに正しく勤務時間を把握するためにも、シフト表と勤怠管理システムの連携が重要です。
4. 変形労働時間制でシフト変更をする場合の法的リスクと対策
変形労働時間制でのシフト変更は、法的なリスクを伴います。例えば、不適切なシフト変更は労働基準法違反となり、罰則の対象となる可能性があります。また、労働者の信頼を損ねる可能性もあります。これらのリスクを避けるためには、シフト変更の理由を明確にし、関係者とのコミュニケーションを十分にとることが重要です。
4-1. 労働時間と残業時間の明確な区別を保つ
変形労働時間制では、基本的な労働時間と残業時間を明確に区別することが重要です。これには、業務内容、労働時間、休憩時間などを詳細に記録し、労働者と共有することが必要です。
4-2. 適切な労働時間管理のためのシステムの活用
労働時間の管理には専用のシステムの活用が有効です。システムを使用することで、労働時間の計算や記録が自動化され、ミスが減ります。また、必要に応じてデータを参照することも容易になります。適切なシステムを選ぶ際には、使用感、機能性、コストなどを総合的に判断しましょう。
5. 変形労働時間制のシフト変更には注意が必要!
変形労働時間制のシフトは、原則として変更することができません。ただし、やむを得ない理由がある場合は特例として変更が認められているため、状況に応じて判断しましょう。
会社都合でシフトを変更したり適切な管理ができていなかったりすると、変形労働時間制が否認されてしまう恐れがあります。最悪の場合、超過した労働時間の割増賃金が発生することもあるため、十分に注意しましょう。
法令を遵守した変形労働時間制の運用を目指すのであれば、勤怠管理システムの導入をおすすめします。
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