地域手当とは?公務員の手当一覧、2024年の見直し、民間企業における導入の注意点
更新日: 2025.6.11 公開日: 2024.1.12 jinjer Blog 編集部

地域手当は、地域の経済格差を埋めるために、物価高の地域に勤務する職員・従業員に支給される手当です。
しかし、地域手当は対象地域によって支給のパーセンテージが異なり、手当の種類によって支給額の算出方法も異なります。そのため、給与計算の担当者は地域手当の種類ごとに、正しい計算方法・会計処理を理解することが必要です。
本記事では、地域手当の目的や種類・対象地域、公務員と一般企業の地域手当の違いや種類ごとの算出方法について解説します。
目次
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1. 地域手当とは


地域手当とは、物価高の地域に居住する職員・従業員に支払われる手当の一つです。地方と都市では賃貸を含む生活にかかる費用が異なるため、生活費の差額を補填する役割として支給されます。
公務員の地域手当は、人事院の給与構造改革により2005年(平成17年)に新設・導入されました。また、人事院規則により10年ごとに見直すのが通例とされています。直近では、2024年に見直しがおこなわれました。見直し内容については、本記事の第4章で詳しく解説します。
なお民間企業における地域手当は、法的義務がないため必ずしも導入されているとは限りません。厚生労働省が2020年(令和2年)に実施した調査によると、地域手当(勤務手当など)を支給している企業の割合は12.2%です。
1,000人以上の従業員が在籍する規模の大きい企業に限っても、35.7%しか地域手当を支給しておらず、民間企業の半数以上には、地域手当の制度がないことがわかります。
参考:人事院規則9-49(地域手当) 第16条|e-Gov法令検索
関連記事:給与における手当とは?一覧や課税の有無・支給する際の注意点を解説
1-1. 地域手当を支給する目的
地域手当を支給する目的は、物価が高い都市部で勤務する従業員の経済負担を軽減することです。地方と都市部では、家賃や食費など生活にかかる費用に差があり、物価の高い都市部の方が負担が大きくなります。地域手当は、こうした経済負担の格差をなくすことを目的として支給される手当です。
ただし、地域手当を支給する現地で採用した場合は、地域手当支給の対象外となるケースもあります。また、公務員や企業によって地域手当の支給規則・運用方法は異なるため、導入する際には、自社に適した規則・運用方法になるようによく検討しましょう。
2. 国家公務員・地方公務員・民間企業の地域手当の違い


地域手当は務める官公署・企業によって、手当の内容や支給額が異なります。
- 国家公務員
- 地方公務員
- 民間企業
それぞれの地域手当の違いを確認しましょう。
2-1. 国家公務員
国家公務員の地域手当は、人事院の基準に則って対象地域に勤務する職員に支給されます。職種や勤続年数にかかわらず、全国の国家公務員が地域手当の支給対象です。
ただし、国家公務員には、転勤が前提になっている国家公務員総合職と、原則として転勤がない国家公務員一般職の2つの職種があります。
国家公務員総合職は全国が勤務地になる可能性があるため、地域手当による格差是正の効果がありますが、原則として転勤のない地方の国家公務員一般職は地域手当の支給割合が低いままです。
1級地である東京都23区(特別区)では、支給割合が20%である一方、茨城県など5級地の支給割合は4%です。地方と都市部の格差が大きいため、地方の職員にとっては不公平感の原因となることが考えられます。
参考:国家公務員の諸手当の概要(1/2)|人事院-1. 国家公務員
2-2. 地方公務員
地方公務員の地域手当は、原則として人事院の基準に則って支給地域・支給パーセンテージが定められています。総務省が2024年(令和6年)に公表した資料によると、地域手当を支給している自治体数は467です。
国家公務員と異なり、地方公務員の給与制度は人事院の決定に縛られるわけではないため、自治体によっては国家公務員とは異なる地域手当の額を定めています。
地域手当を支給している自治体のうち、人事院の基準を上回る支給パーセンテージで地域手当を支給している自治体数は61です。自治体によっては、僻地手当など独自の手当も設けています。
2-3. 民間企業
民間企業では、地域手当の導入は任意で、制度がなくても問題はありません。
厚生労働省が2020年(令和2年)に実施した調査によると、地域手当(勤務地手当など)を導入している企業の割合は12.2%です。
地域手当は配属された地域により給料の格差が出る原因となるため、地域手当を導入する場合は、自社にとって適した制度か、支給額はどのくらいが適正かを含めてよく検討しましょう。
3. 国家公務員の地域手当の種類一覧


国家公務員が支給される地域手当の種類は、以下の4つです。
- 地域手当
- 広域異動手当
- 特地勤務手当
- 寒冷地手当
それぞれの手当の内容を解説します。各手当の金額の一覧表は「5. 国家公務員の地域手当の計算方法」章で紹介しますのでご覧ください。
3-1. 地域手当
地域手当は、民間企業の賃金が高い地域に勤務する職員に対し支払われる手当です。おもな対象地域として、東京都や大阪府など都心部が挙げられます。最も高い1級地の支給割合は20%です。
地域手当対象外の勤務地または以前の勤務地より支給割合が低い地域へ異動となった場合は、地域手当の異動保証を3年間受けられます。ただし、地域手当の対象地域に6ヵ月以上勤務しなければ保証を受けられません。
3-2. 広域異動手当
広域異動手当は、現職場から異動を命じられた職場まで60km以上離れていた場合、距離に応じて支払われる手当です。異動日から3年間、手当を受けられます。
支給のパーセンテージは、距離が300km未満は5%・300km以上は10%です。ただし、地域手当を受ける場合、地域手当の支給割合を減らした割合となります。
3-3. 特地勤務手当
特地勤務手当は、日常生活を送ることが不便な地域(離島・山間部など)に勤務する職員に対し支払われる手当で、原則3年間支給されます。対象地域は、小笠原諸島や奄美地方などです。
支給のパーセンテージは地域の級別区分によって異なり、特地勤務手当が支給される場合は、地域手当の額を差し引いた分の手当が支払われます。
3-4. 寒冷地手当
寒冷地手当は、寒さが厳しい地域に勤務する職員に対し支払われる手当です。おもな対象地域として、北海道全域や東北地方などが挙げられます。群馬県や新潟県の一部も対象地域です。
支給のパーセンテージは地域の級別区分・世帯区分などで異なります。支給期間は11〜翌年3月までです。
4. 2024年に見直しがあった地域手当の級地区分


公務員の地域手当は、2024年に大幅に見直されました。改正内容は以下の4点です。
- 支給地域の単位の広域化
- 級地区分をが7区分から5区分に見直し
- 支給割合の変動に伴うい激変緩和に配慮
- 級地区分の見直し期間を10年間から短縮
詳しく解説します。
4-1. 支給地域の単位の広域化
区や市単位で指定されていた級地区分の指定が、都道府県単位に改められました。都道府県庁所在地や人口20万人以上の市など、中核的な市は例外的に個別で指定されます。
4-2. 級地区分が7区分から5区分に見直し
1〜7級地まであった級地区分が、1〜5級地の5区分に見直されました。これに伴い各級地の支給割合も、以下のように変更されています。
| 級地区分 | 支給割合(見直し前) | 支給割合(見直し後) | 支給地域の例(見直し後) | |
| 都府県で指定 | 中核的な市で個別指定 | |||
| 1級地 | 20% | 20% | 東京都特別区 | |
| 2級地 | 16% | 16% | 東京都 | 横浜市、大阪市 等 |
| 3級地 | 15% | 12% | 神奈川県、大阪府 | さいたま市、千葉市、名古屋市 等 |
| 4級地 | 12% | 8% | 愛知県、京都府 | 仙台市、静岡市、神戸市、広島市、福岡市 等 |
| 5級地 | 10% | 4% | 茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、静岡県、三重県、滋賀県、兵庫県、奈良県、広島県、福岡県 | 札幌市、岡山市、高松市 等 |
| 6級地 | 6% | – | – | – |
| 7級地 | 3% | – | – | – |
4-3. 支給割合の変動に伴う激変緩和に配慮
見直しに伴い支給割合が低下する地域は、1年に1ポイントずつ段階的に支給割合が引き下げられます。支給割合が引き上げになる地域も同様です。
4-4. 級地区分の見直し期間を10年間から短縮
級地区分を10年ごとに見直すとされていた規定が削除され、見直し期間を短縮するとされました。ただし、改正後の規則では見直し期間は明記されていません。
参考:人事院規則9-49(地域手当) 第16条|e-Gov法令検索
5. 国家公務員の地域手当の計算方法


地域手当の算出方法は、地域手当の種類によって異なります。
- 地域(都市)手当の計算方法
- 広域異動手当の計算方法
- 特地勤務手当の計算方法
- 寒冷地域手当の計算方法
それぞれの計算方法を確認しましょう。
5-1. 地域手当の計算方法
地域手当の計算方法は、以下のとおりです。
(俸給+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額×支給割合(※)
※支給割合
| 級地区分 | 支給割合(見直し後) | 支給地域の例(見直し後) | |
| 都府県で指定 | 中核的な市で個別指定 | ||
| 1級地 | 20% | 東京都特別区 | |
| 2級地 | 16% | 東京都 | 横浜市、大阪市 等 |
| 3級地 | 12% | 神奈川県、大阪府 | さいたま市、千葉市、名古屋市 等 |
| 4級地 | 8% | 愛知県、京都府 | 仙台市、静岡市、神戸市、広島市、福岡市 等 |
| 5級地 | 4% | 茨城県、栃木県、埼玉県、千葉県、静岡県、三重県、滋賀県、兵庫県、奈良県、広島県、福岡県 | 札幌市、岡山市、高松市 等 |
成田国際空港や中部国際空港、関西国際空港周辺の地域は、空港所在地の市区町村の平均的な物価より高いことから、特例的に支給割合が定められています。
| 成田国際空港の区域 | 16% |
| 中部国際空港・関西国際空港の区域 | 12% |
2級地の勤務(16%)・俸給40万円・俸給の特別調整額5万円・専門スタッフ職調整手当4万円・扶養手当1万円の職員の場合、地域手当の計算は以下のとおりです。
(40万+5万+4万+1万)×16%=8万円
参考:e-Gov 法令検索「人事院規則九―四九(地域手当)」
関連記事:扶養手当とは?家族手当との違いや金額・条件を詳しく解説
5-2. 広域異動手当の計算式
広域異動手当は、以下のとおり計算します。
(俸給+俸給の特別調整額+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額×支給割合(※)
※支給割合
| 距離区分 | 300km以上 | 60km以上300km未満 |
| 支給割合 | 10/100 | 5/100 |
異動距離が300km未満・俸給40万円・俸給の特別調整額5万円・専門スタッフ職調整手当4万円・扶養手当1万円の職員の場合、広域異動手当の計算は以下のようになります。
(40万+5万+4万+1万)×5%=2万5千円
5-3. 特地勤務手当の計算方法
特地勤務手当の計算方法は以下のとおりです。
特地官署に勤務することとなった日の(俸給+扶養手当)の月額×1/2+現に受ける(俸給+扶養手当)の月額×1/2}✕級別区分別支給割合(※)
※級別区分別支給割合
| 級別区分 | 6級地 | 5級地 | 4級地 | 3級地 | 2級地 | 1級地 |
| 支給割合 | 25/100 | 20/100 | 16/100 | 12/100 | 8/100 | 4/100 |
1級地の勤務(4%)・特地官署に勤務する事になった日の俸給+扶養手当42万円・現に受ける俸給+扶養手当41万円の職員の場合、支給額は以下のとおりです。
特地勤務手当の支給例 (42万)×1/2+(41万)×1/2}×4%=1万6千600円
5-4. 寒冷地手当の計算方法
寒冷地手当は地域や世帯の区分により、以下のとおり支給額が定められています。
| 地域の区分 | 世帯等の区分 | 代表例 | ||
| 扶養親族あり | その他の世帯主 | その他 | ||
| 1級地 | 29,400円 | 16,200円 | 11,500円 | 旭川市、帯広市 |
| 2級地 | 26,000円 | 14,500円 | 9,800円 | 札幌市、釧路市 |
| 3級地 | 25,100円 | 14,300円 | 9,600円 | 函館市、室蘭市 |
| 4級地 | 19,800円 | 11,400円 | 8,200円 | 青森市、盛岡市 |
北海道旭川市(1級地)で勤務する扶養親族ありの従業員の場合、29,400円が寒冷地手当として支給されます。
6. 民間企業で地域手当を導入する際の注意点


従業員の金銭的な負担を減らせる地域手当は、転勤を伴う業務がある企業からすると、必要性の高い手当だと思うかもしれません。
しかし、以下の理由で地域手当の導入を見送ったり廃止したりする企業が増えています。その理由は3つです。
- 給与格差が生まれる
- 人件費と運用コストが増加する
- 一度導入すると簡単に廃止できない
それぞれの注意点を解説します。
6-1. 給与格差が生まれる
地域手当を導入すると同じ仕事でも地域の違いによって給与に格差が生まれます。
離島など明らかに生活が不便な僻地や寒冷地に勤務する従業員に対する地域手当は認める従業員が多い一方、都心部など利便性が高い地域の支給割合が高い点に対しては、反感を持つ従業員も少なくないでしょう。
給与格差が出ることで、優秀な人材が離職する可能性もあります。地域手当において誰もが納得する金額設定は困難です。地域手当を導入する場合は大きな格差が生まれず、あまり不満が出ない制度となるよう努めましょう。
6-2. 人件費と運用コストが増加する
地域手当を導入すると、他の手当で調整しない限り、従業員に支払う給与が増額します。また、地域手当は勤務地によって支給額が異なるため、給与担当者は職員ごとの支給額を確認する作業が増えるでしょう。
結果的に、人件費と運用コストが増加し、企業の経済負担が増加します。地域手当の導入にあたっては、企業として予算を確保できるか十分検討しましょう。
6-3. 一度導入すると簡単に廃止できない
地域手当を一度導入すると、簡単に廃止できなくなります。
地域手当を導入する際は、就業規則に地域手当について定めます。つまり、地域手当を廃止する場合は、就業規則に定められた規定の変更または削除が必要です。
支給されている手当を就業規則の変更によって廃止する場合、労働者にとっては不利益変更にあたると考えられます。就業規則の変更による不利益変更をおこなうためには、以下の2点が必要です。
- 変更内容が合理的であること
- 変更内容を労働者に周知すること
地域手当の導入は従業員にとって嬉しいことですが、廃止しづらいということを念頭に入れて検討しましょう。
7. 地域手当が必要か判断して公平な給与制度設計をしよう


地域手当は、地方と都市部の経済的な格差を補填するために職員・従業員に支払われる制度です。
民間企業の場合、地域手当の支給は法律で定めがないため、支給するかどうかは企業の判断になります。
調整手当や単身赴任手当など、地域手当以外にも異動に伴う経済負担を軽減する手当は存在します。自社の企業文化や業種の特徴も踏まえて、適切な制度を導入しましょう。
地域手当を含む給与管理・社内の人事管理をするには、人事労務の管理に特化したツールの導入がおすすめです。地域手当を含む給与・人事管理をおこなうなら、ぜひ管理ツールの導入を検討してみてください。
関連記事:単身赴任手当とは?相場や条件、公務員と民間会社員の違いを解説
関連記事:調整手当とは?支給されるケースや種類・支給方法を解説



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