着替えは労働時間に含まれる?具体的なケースや判例を交えながら分かりやすく解説
更新日: 2025.10.6 公開日: 2025.4.16 jinjer Blog 編集部

会社が制服の着用を命じている場合、着替えの時間は労働時間として扱うのが一般的です。
本記事では、具体的にどのようなときに着替えが労働時間内になるのかを解説します。着替えを労働時間に含めない際の注意点も解説するので、自社で着替えの時間をどう扱うべきか判断する参考にしてください。
目次
多様な働き方の導入や度重なる法改正により、労働時間管理はますます複雑になっています。
「この対応で本当に正しいのか?」という日々の不安は、コンプライアンス違反という「知らなかった」では済まされないリスクに直結します。
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1. 着替えは原則労働時間に該当する

制服や作業着など仕事に必要な着替えの場合、労働時間に含めるのが原則です。
厚生労働省の労働時間に関するガイドラインでは、企業が従業員に命じた業務に必要な準備行為は労働時間として扱わなければならないとされています。
したがって、業務の実行にあたり企業が着替えを命令している場合は、着替えも労働時間内の行動です。
業務上必要な着替えであれば、「顧客の前にまだ出ていない」「作業にまだ取り組んでいない」などの理由で労働時間から除外してはいけません。
参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省
1-2. そもそも労働時間とは
着替えと労働時間の関係を掘り下げていく前に、労働時間の定義について今一度おさらいしておきましょう。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことを指します。使用者の明示だけでなく、慣習的におこなわれている準備作業など黙示の指示によって業務に従事している場合も、その時間は労働時間として管理しなくてはいけません。
また、2019年4月からは、客観的な記録による労働時間の把握が法律で義務付けられました。これにより、使用者による現認または、タイムカードや勤怠管理システムなど客観的な記録を残せる方法によって管理することが求められています。着替えに関しても、このルールに従った適切な管理が必要です。
2. 着替えが労働時間内になる4つのケース

着替えが労働時間内になるケースは以下のとおりです。
- 安全性や衛生性の確保に制服が必要である
- 制服の着用を会社が明確に指示している
- 制服を着ないと従業員に不利益がある
- 着替える場所を会社が指定している
2-1. 安全性や衛生性の確保に制服が必要である
仕事中の安全性や衛生性の確保のために制服が必要な場合、着替えは基本的に労働時間内と見なされます。
例えば、化学物質を扱う工場で働いている場合、防護服の着用が必要です。また、医療従事者は防汚性や抗菌性のある白衣の着用が必要なことがあります。
制服が安全性や衛生性を守るために欠かせない場合、着替えは労働時間内と考えましょう。
2-2. 制服の着用を会社が明確に指示している
会社が制服を着るよう明確に指示している場合、着替えは労働時間内になる可能性が高くなります。会社が制服の着用を明示している場合、制服への着替えは会社の命令だと解釈できるからです。
例えば、就業規則に制服の着用を明記している場合や、マニュアルで制服を着用した作業を指示している場合などが当てはまります。
従業員が取るべき行動として会社が要求している場合、基本的に着替えは労働時間内と理解されるでしょう。
2-3. 制服を着ないと従業員に不利益がある
制服を着用しないことで従業員が不利益をこうむる場合、着替えが労働時間内になる可能性があります。
例えば、制服を着ないと罰則があったり、出勤させてもらえなかったりするなどです。制服の着用がどこにも明記されていなくても、着ないことで従業員に不利益が発生すれば、暗黙的な命令と解釈されます。
したがって会社命令による着替えとなり、労働時間内と解釈できるでしょう。
2-4. 着替える場所を会社が指定している
制服に着替える場所を会社が指定している場合、着替えは労働時間内になる可能性があります。
着替える場所の指定が会社命令であるため、着替え自体が会社管理のもと実行される労働と解釈できるためです。
制服での出勤を禁止しており、指定の更衣室で着替えるよう命じている場合は、着替えが労働時間にあたる可能性が高いと理解しておきましょう。
3. 着替えが労働時間外になる3つのケース

着替えが労働時間外になるケースは以下のとおりです。
- 従業員の都合で着替えをする
- 制服を着用しての出勤が認められている
- 簡易的に着用できる制服である
3-1. 従業員の都合で着替えをする
従業員の個人的な都合で着替えをする場合、着替えは労働時間外です。
例えば、以下の着替えは会社の指定や命令ではなく、従業員個人の都合でおこなっています。
- ランニングして通勤するため会社でジャージからスーツに着替えた
- 夏の通勤で汗をかくため会社でシャツを交換した
- 終業後予定があるためスーツから私服に着替えた
上記は労働と無関係の着替えのため、労働時間には含まれません。
3-2. 制服を着用しての出勤が認められている
制服を着用しての出勤を認めている場合、着替えは労働時間外です。通勤前の自宅での時間や通勤中は会社の管理外だからです。
従業員の個人的なトラブル発生時のイメージダウンを防ぐため、リスク管理として制服での通勤を禁じることがあります。制服での通勤を禁止している場合の着替えは労働時間になりますが、制服で出勤してよい場合の着替えは労働時間外です。
出勤時の制服着用可否により労働時間かどうかが変わる点に注意しましょう。
3-3. 簡易的に着用できる制服である
簡単に着替えができる簡易的な制服の場合、着替えは労働時間外となることがあります。
例えば、通勤時の私服に会社指定のジャケットを羽織るだけでよい場合や、靴を履き替えるだけの場合、着替えは短時間ですむでしょう。着替えによる時間の拘束がほとんど発生しないため、労働時間外とされる場合が多いです。
4. 着替えと労働時間に関する判例

着替えと労働時間に関する代表的な判例に、2000年3月判例の三菱重工長崎造船所事件があります。
三菱重工長崎造船所事件では、始業前の着替えや作業準備が労働時間に当たるとして、従業員が会社に対して賃金を要求する裁判を起こしました。実際に就業規則では、作業着への着替えを定めていたものの、着替えの時間は労働時間に含めない内容となっていたため、この点が争点となりました。
原告は着替えを義務付けられていたことから、裁判所は使用者の指揮命令下にあるとみなし、着替えの時間も労働時間と認める判決を言い渡しています。またこの裁判では、着替えに加えて、更衣室と作業場間の移動、副資材等の受出しや散水といった作業前の準備も労働時間とみなす判決となっています。
5. 着替えを労働時間に含めない際の3つの注意点

着替えを労働時間に含めない際の注意点は以下のとおりです。
- 労働審判や訴訟に発展するリスクがある
- 労働基準法違反で罰則を受ける可能性がある
- 従業員のパフォーマンスが上がりにくい
5-1. 労働審判や訴訟に発展するリスクがある
着替えを労働時間に含めない場合、不満を抱いた従業員が労働審判や訴訟を起こすリスクがあります。
会社側が着替えを労働時間外としても、従業員は着替えも労働時間内だと感じ、着替えの時間にも賃金が発生するべきだと考えるかもしれません。
着替えの時間に対する未払いの賃金を求めて従業員が労働審判や訴訟を起こした場合、裁判の対応にコストがかかります。また、消費者や取引先からのイメージダウンの対策も必要です。
労働審判や訴訟に発展した場合に会社がどのような損害を受けるか、よく考慮してから着替えの扱いを決めましょう。
5-2. 労働基準法違反で罰則を受ける可能性がある
着替えを労働時間外とする場合、労働基準法違反で罰則を受ける可能性に注意しましょう。
もし労働基準法違反に当たるとされた場合、未払いの賃金に加えて罰金も払わなければいけない可能性があります。この場合の罰則は、労働基準法第24条違反にあたるため、30万円以下の罰金が科されることになります。本来支払うべき賃金にさらに上乗せして払うことになるため、コスト面で打撃を避けられません。
着替えを労働時間外にすることで、結果的に経済的な損失につながるリスクがあることを把握しておきましょう。
5-3. 従業員のパフォーマンスが上がりにくい
着替えを労働時間に含めない場合、従業員のパフォーマンスが上がりにくい点にも注意しましょう。
着替えの時間に賃金が発生しないことを従業員が不満に感じている場合、仕事へのモチベーションが上がりません。結果仕事に対する熱意や誠実さも欠け、パフォーマンスも低くなるでしょう。
不満がつのった優秀な従業員が離職するリスクもあり、品質や生産性の維持に苦労する可能性があります。
6. 着替えの時間を含めた労働時間の管理をしよう

仕事に必要な着替えの時間は労働時間と見なされることが多く、裁判所が労働時間と認めたケースもあります。とくに制服の着用を明確に指示している場合や、着替えの場所を指定している場合、労働時間に含めることが一般的です。
労働時間外とする場合は裁判や罰則のリスクがあるため、着替えも含めて労働時間を管理したほうがよいでしょう。
多様な働き方の導入や度重なる法改正により、労働時間管理はますます複雑になっています。
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