飲食店のパート・アルバイト雇用で雇用契約書なしは違法?
公開日: 2025.8.4 jinjer Blog 編集部

飲食業界は、パート・アルバイトの入れ替わりが頻繁で、雇用契約業務に追われる人事労務担当者様も多いのではないでしょうか。
もし、入社手続きの煩雑さから、従業員に対して雇用契約書を交付していない、または回収・管理が徹底できていない状態があれば、それは企業にとって大きなリスクとなります。
本記事では、まず「雇用契約書がない」状態が引き起こす法的なリスクについて解説します。そのうえで、コンプライアンスを遵守し、膨大な契約業務を効率化する「電子締結」のメリットと、具体的な導入方法についてご紹介します。
目次
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
- □ 労働条件通知書の「絶対的明示事項」を全て記載できているか
- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
一つでも不安な項目があれば、正しい手続きの参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 飲食店で雇用契約書がないのは違法?発生しうるリスクを解説

まずは結論から解説すると、従業員を雇用する際に、労働条件を明示する書面(労働条件通知書)を交付しないことは労働基準法違反であり、罰則の対象となります。雇用契約書が労働条件通知書を兼ねる場合、それを交付しないことは違法です。
たとえ口頭で合意があったとしても、「言った・言わない」のトラブルに発展しやすく、企業が法的に不利な立場に置かれるケースは少なくありません。これはパート・アルバイトの場合でも同様です。
1-1. 労働条件の明示義務違反による法的リスク
労働基準法第15条では、企業が従業員を雇用する際、賃金や労働時間といった主要な労働条件を書面で明示することを義務付けています。[注1]
これに違反した場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。[注2]
特にパート・アルバイト従業員に対しては、パートタイム・有期雇用労働法により、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」の4点も追加で明示することが義務化されており、より注意が必要です。[注3]
[注3]厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法が施行されました」
POINT:2024年4月からの労働条件明示ルール改正
さらに、2024年4月1日から労働条件明示のルールが改正され、新たに以下の項目の明示が義務付けられました。
全ての労働者に対して:
- 就業場所・業務の変更の範囲の明示
有期契約労働者(パート・アルバイトなど)に対して:
- 更新上限の有無とその内容
- 無期転換申込機会の明示
- 無期転換後の労働条件の明示
雇用契約書・労働条件通知書がこの改正にに対応しているか、必ず確認してください。
1-2. 「雇用契約書なし」が引き起こす労務トラブル
書面での契約がない場合、以下のような労務トラブルが発生するリスクが非常に高まります。
- 賃金や残業代に関するトラブル: 「聞いていた時給と違う」「残業代が正しく支払われていない」といった主張
- 労働時間や休日に関するトラブル: シフトや休日をめぐる認識の相違
- 解雇に関するトラブル: 不当解雇などを主張された際に、契約内容を証明できない
- 業務内容に関するトラブル: 当初想定していなかった業務を指示されたことによる不満
これらのトラブルは、従業員のモチベーション低下や離職につながるだけでなく、労働審判や訴訟に発展し、企業の評判やブランドイメージを大きく損なう可能性があります。
2. リスク回避と業務効率化を両立する「電子締結」とは

前述の通り、コンプライアンス遵守の観点から雇用契約書の締結は必須です。しかし、従業員数の多い飲食店、特に多店舗展開している企業にとって、紙の契約書管理は大きな負担となります。
そこで有効なのが電子締結です。
電子締結とは、電子データ化した契約書に電子署名をすることで締結する契約を指します。法的に有効な契約でありながら、従来の紙の契約業務における「作成・印刷→署名・押印依頼→回収→保管」という一連のプロセスを、すべてオンライン上で完結させることができます。
「電子締結は難しそう」というイメージがあるかもしれませんが、専用のサービスを利用すれば、初めての方でも簡単かつ安全に導入が可能です。
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の調査では、2021年時点で**電子契約の利用企業は67.2%にのぼり、飲食業が含まれる「卸売・小売」でも61.5%**が利用しており、契約の新しいスタンダードとして広く普及しています。[注4]
[注4]一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC):「企業IT利活用動向調査2021」集計結果(詳細版)[pdf]
2-1. 電子締結における注意点
注意点として、労働条件通知書の電子化には「本人の同意」が必須です。
電子締結で雇用契約を結ぶ際、労働条件通知書も電子データで交付することになります。この電子交付は、法律で定められたルールを守る必要があり、最も重要なのが「労働者本人が電子での交付を希望した(同意した)こと」です。
加えて、以下の要件を満たす必要があります。
- 印刷可能なファイル形式(PDFなど)であること
- 労働者本人のみがアクセスできるメールアドレスや、個人のマイページなどに送付すること
本人の同意なく一方的に電子データを送りつけることは法律違反となりますので、必ず覚えておきましょう。
3. 飲食店が電子締結サービスを導入する3つのメリット

リスクを回避し、かつ人事労務担当者の負担を軽減するために、電子締結がどのように役立つのか、具体的なメリットを3点解説します。
3-1. 雇用契約書の作成・管理・保管コストを抜本的に削減
パート・アルバイトの入退社が頻繁な飲食業界では、雇用契約業務の量が膨大になりがちです。電子締結を導入すれば、これらの業務プロセスを劇的に効率化できます。
- ペーパーレス化:
紙の印刷代、インク代、本社への郵送費、保管用のファイルやキャビネット代といった物理的なコストが不要になります。
- 工数の削減:
契約書の作成から従業員への送付、回収、保管までをすべてシステム上で完結。手作業による転記ミスや、膨大なファイルから特定の契約書を探し出す手間もなくなります。
- 保管場所の不要化:
数百〜数千名規模の従業員の契約書も、すべてクラウド上でセキュアに保管。物理的な保管スペースを一切必要としません。
3-2. 契約締結状況を可視化し、コンプライアンスを強化
大規模なチェーン店では、各店舗で採用した従業員の契約書が本社に届くまでタイムラグが発生し、「入社してすでに働いているのに、本社の手元に契約書がない」というコンプライアンス上危険な状態が起こりがちです。
電子締結であれば、従業員が合意した瞬間にデータがシステムに反映され、本社の人事担当者もリアルタイムで締結状況を確認できます。契約書の未提出や提出遅れ、記載不備といった問題を即座に把握し、迅速に対応できるため、労務リスク管理体制が大幅に強化されます。
3-3. 契約更新や各種同意書も一括で対応可能
有期雇用の従業員とは、個別のタイミングで契約更新手続きが必要です。
電子サービスを使えば、従業員データと文書テンプレートを連携させ、内容が異なる更新契約書や各種誓約書を一度に作成・送信することが可能です。
これにより、従業員一人ひとりに合わせた書類を個別に作成・送付していた煩雑な作業から解放され、人事労務担当者はより重要なコア業務に集中できます。
4. パート・アルバイトの雇用契約書を電子化すべき飲食店の特徴

電子締結に興味はあるけれど、実際に効果が出るかわからず、導入を迷っている…という方も多いでしょう。
電子締結の導入によって得られるメリットの大きさは企業によって異なりますが、以下の特徴に当てはまる場合は、サービスの導入によって高い費用対効果を期待できます。
4-1. 人事総務担当の業務を極めて少数の人員でおこなっている
雇用契約書の作成・管理から、従業員の人事データ管理にいたるまで、すべての人事総務担当の業務を少人数でおこなっている場合、1人あたりにかかる業務負担が大きくなります。
電子締結によって契約のプロセスを効率化すれば、業務にかかる時間と手間を大幅にカットできるため、人事総務担当者の長時間労働の問題も解消できます。
4-2. アルバイト・パート従業員の割合が高い・出入りが多い
アルバイト・パート従業員の比率が多い飲食店では、従業員の入れ替わりが激しく、ひと月に何人もの従業員と雇用契約を結ぶケースも少なくありません。
新しい従業員が入るたびに、いちいち紙の契約書を作成していると手間と時間がかかる上、紙の印刷代や本社への郵送代などの経費もかさみます。そのため電子締結は、これらの手続きとコストを大幅に削減するための有効な手段と言えるでしょう。
4-3. アルバイト・パート従業員の契約状況の把握ができていない
実際の契約と、本社に契約書が届くまでの間にタイムラグがあると、アルバイトやパート従業員の契約状況をリアルタイムに把握できなくなります。
特に、契約書の内容に不備があった場合、再び支店に連絡し、修正した書類を再送付してもらうといった手続きが必要になるため、有効な契約書が手元にそろうまでにかなりの時間を要します。
電子締結なら、契約と同時に電子データを瞬時に本社へ送ることができますし、ミスが見つかっても迅速に対処できるため、実際の契約からほとんどタイムラグなしで契約書を手元にそろえることができます。
5. 具体的な電子締結サービスの導入方法

飲食店で電子締結サービスを導入する具体的な方法をご紹介します。
5-1. 電子締結サービスを導入すれば一括で契約書の管理が可能
飲食企業が電子締結を導入する際は、まず自社に合ったサービスを選定することから始まります。
電子締結サービスとは、電子で契約書を締結するのに必要なプロセスを、すべてクラウド上でおこなうことができるシステムのことです。電子署名の機能から、アラート機能など、電子締結に関するさまざまな機能が搭載されており、安全かつ簡単に契約書を締結できます。
電子データはクラウド上で送受信および管理できるので、多店舗展開している飲食店でも、すべての店舗の契約書を一括管理できるところが大きな特徴です。
なお、利用できる機能はサービスによって異なりますので、導入を検討するのなら、まずはサービスの選定からスタートしましょう。
5-2. 電子締結サービスの選び方
サービスを導入するにあたって何より大切なのは、自社に合った特徴・機能を備えたサービスを選ぶことです。
たとえば、契約書の作成作業を効率化したいのなら、文書テンプレートから作成できる機能が必要ですし、PCだけでなく、スマホやタブレットでも利用したいという場合は、マルチデバイス対応のサービスを選ぶ必要があります。
また、電子締結サービスは一度導入したら長く使い続けていくものですので、導入費やランニングコストが予算内に収まるかどうかも重要なポイントになります。
他にも、PCの扱いが不慣れな方が利用するのなら、直感的に操作できる画面レイアウトを採用したものを選ぶなど、利用者のスキルも考慮することが大切です。
なお、雇用する従業員の数が多い飲食店の場合は、契約書の進捗状況をリアルタイムにチェックできるステータス管理機能や、契約書をまとめて送れる一括送信機能は必須といえます。
これらの機能は多くのサービスに搭載されていますが、ワークフローの設定範囲や、内容が異なる文書を一度に送信できるかといった細かな仕様はサービスごとに異なります。自社の運用に合わせて、各サービスを比較検討することが重要です。
6. 飲食業のパート・アルバイト雇用には効率的な電子締結がおすすめ

アルバイト・パート従業員の出入りが多く、かつ一度に多くの従業員を雇用することが多い飲食店では、毎月ひんぱんに雇用契約が取り交わされます。
新しい従業員が入るたびに、いちいち紙の書類を作成・回収・管理するとなると膨大な時間と手間、そしてコストがかかりますので、PC上ですべての契約プロセスが完結し、データを一元管理できる電子締結の導入をおすすめします。
ただし、機能や特徴はサービスごとに異なりますので、自社のニーズや目的、予算に合わせて、最適なサービスを選ぶようにしましょう。
「長年この方法でやってきたから大丈夫」と思っていても、気づかぬうちに法改正や判例の変更により、自社の雇用契約がリスクを抱えているケースがあります。
従業員との無用なトラブルを避けるためにも、一度立ち止まって自社の対応を見直しませんか?
◆貴社の対応は万全ですか?セルフチェックリスト
- □ 労働条件通知書の「絶対的明示事項」を全て記載できているか
- □ 有期契約社員への「無期転換申込機会」の明示を忘れていないか
- □ 解雇予告のルールや、解雇が制限されるケースを正しく理解しているか
- □ 口頭での約束など、後にトラブルの火種となりうる慣行はないか
一つでも不安な項目があれば、正しい手続きの参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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