雇用契約書を紛失!企業が取るべき対応は?再発行の手順と防止策
公開日: 2025.8.4 jinjer Blog 編集部

「定期監査の準備中に、従業員1名分の雇用契約書が見当たらない…」
「退職者から、自身の雇用契約書の控えを紛失したため再発行してほしいと連絡があった」
人事労務担当者として、このような事態に直面し、冷や汗をかいた経験はありませんか。雇用契約書は、労使双方の権利と義務を定めた極めて重要な書類です。その紛失は、企業の信頼性や管理体制に関わる重大な問題です。
まず結論からお伝えすると、雇用契約書という「紙」を紛失しても、それによって雇用契約そのものが直ちに無効になるわけではありません。
しかし、紛失した状態を放置すれば、将来的に大きなトラブルに発展するリスクを抱えることになります。重要なのは、紛失が発覚した際に、法的な観点を踏まえて迅速かつ誠実に対応することです。
この記事では、雇用契約書を紛失した場合の法的影響と、具体的な対処法を「企業側が紛失した場合」「従業員側が紛失した場合」の2つのケースに分けて解説します。さらに、このような事態を二度と起こさないための、根本的な再発防止策までを提案します。
目次
雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。
◆押さえておくべきポイント
- 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
- 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
- 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
- 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策
いざという時に慌てないためにも、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 雇用契約書を紛失しても「契約」は無効にならない


まず、法的な大前提を理解しておくことが重要です。
雇用契約は、労働者と使用者の「合意」によって成立するものであり、物理的な「書面」の存在が契約成立の絶対条件ではありません。したがって、雇用契約書を紛失したからといって、その従業員との雇用関係が消滅することはありません。
では、なぜ雇用契約書が重要なのでしょうか。それは、その書面が「労働条件(給与、労働時間、業務内容など)について、労使双方が合意したこと」を証明する証拠(エビデンス)だからです。
この証拠を失うことは、万が一、労働条件をめぐってトラブルが発生した際に、会社が著しく不利な立場に置かれるリスクを意味します。
特に、雇用契約書が法的に交付義務のある「労働条件通知書」を兼ねている場合は、その重要性はさらに高まります。
2. 【ケース別】雇用契約書を紛失した際の具体的な対処法


紛失が発覚した場合、誰が紛失したかによって対応が異なります。
2-1. ケース1:企業側が雇用契約書を紛失した場合
最も深刻なのがこのケースです。
企業には労働基準法第109条により、労働関係に関する重要な書類を保存する義務があります。この保存期間は、2020年4月の法改正で原則5年間に延長されましたが、経過措置として当面の間は3年間とされています。紛失は、この「書類の保存義務違反」に該当する可能性があり、迅速な対応が求められます。
雇用契約書を紛失した際の対応手順
徹底的な社内捜索: まずは慌てずに、ファイルキャビネット、倉庫、担当者のデスク周り、スキャンデータやPDFでの保管がないかなど、考えられる全ての場所を徹底的に捜索します。
従業員への誠実な説明と謝罪: 捜索しても見つからない場合は、速やかに該当する従業員へ事実を伝え、丁重に謝罪します。管理体制の不備を認め、誠実に対応することが信頼関係を維持する上で不可欠です。
雇用契約書の再作成(再締結)を行う: 最も確実な対応は、契約内容を復元し、従業員と再度契約を締結することです。
雇用契約書を再作成する際の注意点
契約内容: 当初の契約内容と相違ないように作成します。給与や労働時間など、過去のデータから正確に復元してください。
契約日: 契約書の締結日(署名日)は「再作成した日付」を記載します。
雇用開始日: 実際の雇用契約が開始された「当初の入社日」を明記します。
覚書の追加: 「本契約書は、YYYY年MM月DD日に締結した雇用契約書を紛失したため、同内容をもって再作成するものである」といった一文(覚書)を特記事項として加えておくと、再作成した経緯が明確になり、後のトラブルを防げます。
2-2. ケース2:従業員側が雇用契約書を紛失した場合
従業員から「控えをなくしてしまったので、コピーが欲しい」と依頼されるケースです。
この場合、企業側に再発行の法的な義務はありません。しかし、従業員の不安を取り除き、良好な労使関係を維持するためにも、誠実に対応するのが望ましいでしょう。
従業員側が雇用契約書を紛失した際の対応手順
会社保管分のコピーを渡す: 企業が保管している雇用契約書の原本(の控え)をコピーし、従業員へ渡します。
「写し」であることを明記: コピーした書類には、不正利用などを防ぐため、「写し」「COPY」といったスタンプを押印しておきましょう。これにより、原本ではないことが明確になります。
3. そもそもなぜ雇用契約書の紛失は起こる?原因と対策


「担当者が注意すれば防げる」と考えていては、紛失事故はまた繰り返されます。まずはなぜ起こるのかを正しく理解した上で、根本的に防ぐ方法も知っておくと良いでしょう。
3-1. 「紙」での管理がもたらす根本的なリスク
特に従業員数が多い企業では、紙媒体での管理そのものが、以下のような本質的なリスクを抱えています。
- 物理的な紛失・劣化のリスク:
誤廃棄、盗難、火災や水濡れによる破損など、物理的なモノである以上、常に紛失・劣化のリスクに晒されています。
- 管理・保管コストの増大:
数百人、数千人分の書類を保管するためのキャビネットや倉庫スペース、ファイリングにかかる人件費は膨大です。
- 検索性の著しい低さ:
「〇〇さんの契約書を確認したい」と思っても、大量のファイルの中から探し出すのに多大な時間と労力がかかります。
- セキュリティ・コンプライアンスのリスク:
書類を持ち出せてしまう環境は、情報漏洩のリスクと隣り合わせです。労働基準監督署の調査などで提出を求められた際に、すぐに対応できない可能性もあります。
このように、雇用契約書の紛失は、担当者個人の問題ではなく、時代遅れの「紙ベースの管理体制」が引き起こす構造的な問題なのです。
3-2. 解決策は「書類の電子化」
これらの問題を根本から解決し、紛失リスクを抜本的に解決する手段が、雇用契約書をはじめとする人事労務書類の「電子化」です。
電子化を導入することで、紙媒体が抱えるリスクは以下のように解消されます。
- データはクラウド上で安全に保管され、バックアップも万全です。誤ってゴミ箱に入れてしまう、といったヒューマンエラーは起こりません。
- 保管スペースは不要になり、書類を探す時間は「検索窓に氏名を入力する数秒」に短縮されます。
- アクセス権限の設定や操作ログの記録により、誰が・いつ・どの書類を閲覧したかが明確になり、内部統制が飛躍的に向上します。
- 契約書の作成から送付、同意、保管までがオンラインで完結。人事労務担当者は、煩雑な手作業から解放されます。
このように、電子契約や書類配布システムを導入することで、紙の契約書は不要になります。従業員とは、PCやスマートフォン上で契約内容の確認と同意(電子署名)を行うため、物理的な紛失という概念そのものがなくなるのです。
ただし、労働条件通知を兼ねる雇用契約書を電子的に交付する際は、法律上、従業員本人が希望していることが前提となる点に注意が必要です。
4. 紛失後の対応から、紛失させない管理体制へ


雇用契約書の紛失は、企業の管理体制が問われる重大なインシデントです。発覚した際は、本記事で解説した手順に沿って、迅速かつ誠実に対応してください。
そして最も重要なのは、その場しのぎの対応で終わらせず、二度と紛失が起こらない仕組みを構築することです。システムを導入すれば、紛失リスクをゼロにできるだけでなく、人事労務部門の業務効率を大幅に改善し、より戦略的な業務に集中できる環境を実現できるでしょう。



雇用契約の基本から、試用期間の運用、契約更新・変更、万が一のトラブル対応まで。人事労務担当者が押さえておくべきポイントを、これ一冊に凝縮しました。
法改正にも対応した最新の情報をQ&A形式でまとめているため、知識の再確認や実務のハンドブックとしてご活用いただけます。
◆押さえておくべきポイント
- 雇用契約の基本(労働条件通知書との違い、口頭契約のリスクなど)
- 試用期間の適切な設定(期間、給与、社会保険の扱い)
- 契約更新・変更時の適切な手続きと従業員への合意形成
- 法的トラブルに発展させないための具体的な解決策
いざという時に慌てないためにも、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
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