資産除去債務の仕訳方法や計算方法を徹底解説
更新日: 2025.3.25 公開日: 2022.10.24 jinjer Blog 編集部

資金除去債務とは、撤去・除去に関して法的な義務が設定されている「有形固定資産」を取得した際に発生する、撤去費等の負債です。
将来確実に必要となる撤去費等を企業の財務諸表に計上しておくことは、投資家にとって非常に有益な投資情報となります。
日本では、平成22年4月1日からの会計年度で導入されることとなりました。
本記事では、資産除去債務の計概要や注意点、さらには算方・仕訳の方法を詳しく紹介します。
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1. 資産除去債務とは?


資産除去債務は、元々日本の会計原則には適用されていなかった勘定科目です。どのようなものなのか、具体的に見ていきましょう。
1-1. 資産除去債務の定義
「企業会計基準第 18 号 資産除去債務に関する会計基準」によると、資産除去債務の定義は以下のとおりです。
・「資産除去債務」とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。
企業が取得した有形固定資産の中には、売却・廃棄を行う時点で「確実に除去費用がかかる」と判明しているものがあります。
現行の法律では、処分費・撤去費等は、取得時点で「負債」として帳簿に計上しなければならない決まりです。
そのため有形固定資産を取得した場合、企業は処分費・撤去費等の見込みを概算で算出し、「資産除去債務」という勘定科目で帳簿に計上しなければなりません。
1-2. 対象は「有形固定資産」
有形固定資産とは、長期に渡る使用が想定されている固定資産です。財務諸表の勘定科目としては、工具器具備品、機械装置、車両運搬具などが該当します。
ただし資産除去債務は、「それに準ずる有形の資産にも適用される」とされている点に要注意です。
建設仮勘定・リース資産、帳簿上は「投資その他の資産」に分類される投資不動産なども対象となります。
1-3. 資産除去債務が取り入れられた理由
資産除去債務の採用は、日本の会計基準を国際財務報告基準(IFRS)に近づけるためです。また将来的に発生する負債をあらかじめ計上することが、「投資家にとって有益な投資判断材料になる」というメリットも重視されました。
元々資産除去債務は、IFRS(国際会計基準)等、海外の会計基準で使用されていた勘定科目です。日本では「原子力発電施設の解体」等、特殊な場合を除いては適用されたことはありません。
しかし平成18年3月に行われた会合で資産除去債務がピックアップされたことから日本の会計基準への適用の検討が始まり、平成22年4月1日の事業年度から資産除去債務の計上が必須となりました。
ただし、資産除去債務の計上が必要なのは、上場企業および上場企業の連結決算に関連する子会社のみです。中小企業に関しては、帳簿に計上する義務はありません。
2. 資産除去債務の税法上の注意点


資産除去債務の計上については、税法上の注意点がいくつかあります。どのようなものなのか、詳細を確認しておきましょう。
2-1. 除去の時点で消費税の計上が必要
資産除去債務が発生した時点では、課税取引に該当しません。帳簿に計上するときは、有形固定資産は「課税」、資産除去債務は「税抜き」で入力する必要があります。
一方数年たってから有形固定資産を除去する場合、撤去費・処分費等には消費税が発生します。帳簿には消費税を計上しなければなりません。
タイミングによって消費税の扱いは異なるため、記載漏れ・ミスのないよう注意しましょう。
2-2. 「損金」に計上できない
そもそも税法上では、「資産除去債務」という考え方が存在しません。損金として計上できず、会計上の処理と税法上の処理に差異が出てしまいます。両者の差異をなくすためには「税効果会計」の導入が必要です。
負債に計上される資産除去債務には「繰延税金負債」、資産に計上される資産除去債務には「繰延税金資産」を計上して調節することとなります。
3. 資産除去債務の計算・仕訳方法


有形固定資産を取得して資産除去債務が発生した場合、どのように計算・処理を行えばよいのでしょうか。計算・仕訳方法を詳しく紹介します。
3-1. 有形固定資産を購入した時点の計算・仕訳
まずは、有形固定資産の処理・撤去にかかる費用の概算を算出しましょう。この時点で確実な金額を出すのはほぼ不可能です。とはいえ根拠のない金額は計上できません。
「同じような事例を探して妥当な金額を出す」「過去の実績から見積もる」「業者に相談する」等、合理的な見積もりを行ってください。
処理・撤去費が算出されたら、資産除去債務として計上します。
ただし処分や撤去は「将来のこと」です。将来の通貨の価値を現在の通貨の価値に換算しなければなりません。費用には「割引率」を適用し、計算した金額を資産除去債務として計上してください。
例えば、以下の条件で具体的に計算してみましょう。
・機械を現金10万円で購入
・耐用年数は3年
・撤去費用の見積は2,000円
・割引率は5%
・定額法で減価償却する
まずは3年後の見積価格を算出します。
・見積価格÷(割引率)3=3年後の見積価格
式に数字を当てはめると、以下のとおりです。
・2,000円÷(5%)3=1728円
すなわち3年後の撤去費用の見積は10万1,728円となります。これを仕訳すると、以下のようになります。
借方 機械 101,728円 / 貸方 現 金 100,000円
資産除去債務 1,728円
3-2. 決算を迎えた時点の計算・仕訳
決算を迎えた場合、資産除去債務の調整額の計算と減価償却の計算が必要です。
上記の条件で資産除去債務の調整額を出す場合は、以下の式に当てはめます。
【資産除去債務の利息費用の計算】
1,728×5%=86円
借方 利息費用 86円 / 貸方 資産除去債務 86円
有形固定資産取得時から決算までには、1年分の時間がたっています。資産除去債務はその時点の価値に合わせる必要があるため、「利息費用」を追加して調整しなければなりません。
また減価償却は定額法のため、機械に計上した費用を3年で割った金額を減価償却費として計上します。
【減価償却費の計算】
101,728円÷3年=33,909円
借方 減価償却費 33,909円 / 貸方 減価償却累計 33,909円
機械は3年後に撤去されるため、3で割って減価償却費を計算します。借方に「減価償却費」、貸方に「減価償却累計額」の科目を立てましょう。
3-3. 2年目の決算時点の計算・仕訳
2年目以降の決済も、1年目と同様に「利息費用」「減価償却費」を計上します。注意点は、元となる資産除去債務に利息費用を合わせて計算することです。
【利息費用の計算】
(1,728円+86円)×5%=91円
借方 利息費用 91円 / 貸方 資産除去債務 91円
減価償却費は、1年目の決算と同じです。
借方 減価償却費 33,909円 / 貸方 減価償却累計 33,909円
3-4. 資産を除去した時点の計算・仕訳
3年が経過して機械を撤去した場合は、「実際にかかった撤去費」が必要です。
債務発生時は撤去費用を2,000円と見積もっていましたが、実際には3,000円かかったとしましょう。
この場合の仕訳は、以下のようになります。
借方 資産除去債務 2,000円 / 貸方 現金預金 3,000円
履 行 差 額 1,000円
履行差額とは、資産除去債務のみに使われる勘定科目です。
有形固定資産の撤去では、実際の費用と見積もりが1円のズレもなく合致することは滅多にありません。差額が発生した場合は履行差額として計上し、整合性を取りましょう。
損益計算書には、「販売費及び一般管理費」と記載してください。
また3年目も、1・2年目と同様に利息費用と減価償却費の計上が必要です。
【利息費用の計算】
(1,728円+91円)×5%=91円
借方 利息費用 91円 / 貸方 資産除去債務 91円
借方 減価償却費 33,909円 / 貸方 減価償却累計 33,909円
4. 資産除去債務を正しく仕訳使しよう


資産除去債務とは、法律によって撤去・除去が義務付けられている有形固定資産を取得した際に発生する負債です。一定期間後に撤去・除去が完了するまでは、適切な方法で財務諸表に計算・仕訳されなければなりません。
計算・仕訳のポイントは、割引率を適用して利息費用を計算すること・減価償却を行うこと、さらには、処分時に履行差額を計上することです。
資産除去債務の計上が義務付けられている企業は、ポイントを理解して適切に計算・仕訳を行いましょう。



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