災害損失とは?会計処理の方法をわかりやすく解説
更新日: 2024.1.16
公開日: 2023.2.28
jinjer Blog 編集部
地震や集中豪雨、土砂崩れなど、災害により資産が滅失・損壊した場合は、災害損失として計上することができます。災害損失を計上すれば、赤字の繰り越しや法人税の還付などの優遇を受けられます。たとえば、商品や仕入れ品が自然災害の被害を受けたり、被災した固定資産の修繕にお金がかかったりした場合、災害損失として計上できないか確認しましょう。この記事では、災害損失の注意点や会計処理の方法をわかりやすく解説します。
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1. 災害損失とは?
地震などの自然災害や、火災や盗難などの人為的災害により、事業者の資産が滅失・損壊する場合があります。事業者は被災により受けた損失や、原状回復にかかった費用などを「災害損失」として計上することが可能です。ここでは、災害損失の考え方や対象となる範囲、災害損失欠損金や災害損失特別勘定などの言葉の意味を簡単におさらいします。
1-1. 災害損失は特別損失の一部
災害損失は、自然災害などにより棚卸資産や固定資産などの資産が被害を受けたときに用いる勘定科目です。損益計算書では、会社の事業と関わりのない損失を表す「特別損失(特損)」に含まれます。
特別損失の例 | ● 固定資産を売却したり、除却したりしたときの損失(固定資産売却損、固定資産除却損) ● 有価証券を売却したり、評価額が著しく減少したりしたときの損失(投資有価証券売却損、投資有価証券評価損) ● 地震などの自然災害や、火災や盗難などの人為的災害による損失(災害損失) |
災害損失に含まれる損失や費用として、たとえば以下のようなものがあります。棚卸資産や固定資産に生じた被害だけでなく、原状回復に要した費用や、復旧のために支出する費用(修繕費)も災害損失に含まれます。[注1]
災害損失の例 | ● 商品や原材料等の棚卸資産、店舗や事務所等の固定資産などの資産が災害により滅失または損壊した場合の損失 ● 損壊した資産の取壊しまたは除去のための費用 ● 土砂その他の障害物の除去のための費用 |
1-2. 災害損失に含まれる範囲
災害損失として計上できるのは、厳密には「災害に基因するやむを得ない事情」により、資産が滅失・損壊した場合に限られます。ここでいう災害とは、以下の3種類を指します。[注2]
- 震災、風水害、冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災害
- 火災、鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害
- 害虫、害獣その他の生物による異常な災害
また、2020年に流行した新型コロナウイルスなど、大規模なパンデミックにより生じた損失も含まれる場合があります。たとえば、コロナ禍の際は以下のケースで損失や費用を計上することが認められました。[注3]
- 飲食業者等の食材(棚卸資産)の廃棄損
- 感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損
- 施設や備品などを消毒するために支出した費用
- 感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用
- イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損
[注3]国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ|国税庁
1-3. 災害損失欠損金と災害損失特別勘定
災害損失を計上する際に知っておく必要があるのが、「災害損失欠損金」と「災害損失特別勘定」の2つのキーワードです。
① 災害損失欠損金
災害損失欠損金は、文字どおり「法人の有する棚卸資産、固定資産等について災害により生じた損失に係る欠損金額」を意味します。災害損失欠損金は、その事業年度から最長10年間に渡って繰り越し、事業所得から控除することが可能です。[注1]
法人の有する棚卸資産、固定資産等について災害により生じた損失に係る欠損金額(以下「災害損失欠損金額」といいます。)がある場合には、その損失の発生した事業年度が青色申告書を提出できない事業年度であっても、その災害損失欠損金額に相当する金額は、その事業年度から10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度にあっては、9年間)にわたって繰り越して控除されます。
引用:No.8009 災害を受けたときの法人税の取扱い|国税庁
また、災害損失を計上した事業年度の前年に法人税を納付している場合、災害損失欠損金に相当する部分の還付を請求することができます。この手続きを「災害損失欠損金の繰戻しによる還付」と呼びます。[注1]
[注1]No.8009 災害を受けたときの法人税の取扱い|国税庁
② 災害損失特別勘定
災害損失として計上した費用は、原則として災害が起きた事業年度内に処理しなければなりません。しかし、資産の原状回復に時間がかかり、決算日までに修繕費の金額を確定できない事例もあります。将来的な損失額を具体的に見積ることができる場合は、「災害損失引当金」の勘定科目を用いることで、同じ事業年度内に損失を計上できます。
一方、阪神淡路大震災や東日本大震災などの大規模な自然災害では、将来の修繕費用などを「災害損失特別勘定」に繰り入れることが特例的に認められました。災害損失特別勘定は、災害が起きた日から1年以内に発生しうる費用を見積り、まとめて処理することができる勘定科目です。[注1]
法人が、災害のあった日の属する事業年度において、災害により被害を受けた棚卸資産、固定資産等の修繕等のために、災害のあった日から1年以内に支出する費用の適正な見積額として繰入限度額以下の金額を、損金経理により災害損失特別勘定に繰り入れた場合には、その災害損失特別勘定として繰り入れた金額は、その事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができます。
引用:No.8009 災害を受けたときの法人税の取扱い|国税庁
ただし、最終的な支出が確定した場合は、災害損失特別勘定との差額を益金に参入する必要があります。
[注1]No.8009 災害を受けたときの法人税の取扱い|国税庁
3. 災害損失の会計処理方法
災害損失が生じた場合、どのような流れで処理すればよいのでしょうか。ここでは、災害損失の額が確定しているケースと、災害損失引当金として処理するケースの2つに分けて解説します。
3-1. 災害損失の額が確定しているケース
たとえば、自然災害により評価額が200万円の事務所が損壊し、原状回復のために50万円を現金で支払ったとします。仕訳例は以下のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
災害損失 | 2,000,000円 | 建物 | 2,000,000円 |
災害損失 | 500,000円 | 現金 | 500,000円 |
3-2. 災害損失引当金として処理するケース
次に、自然災害により事務所が損壊したが、評価額や原状回復に向けた費用を事業年度内に確定できないケースです。借方には「災害損失引当金繰入額」、貸方には「災害損失引当金」を用いて仕訳を行います。たとえば、固定資産の滅失・損壊、点検費用や撤去費用、修繕に要する費用などを250万円と見積る場合、以下のように仕訳します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
災害損失引当金繰入額 | 2,500,000円 | 災害損失引当金 | 2,500,000円 |
4. 災害損失特別勘定や災害損失欠損金として処理するときのポイント
災害損失の会計処理を行うときのポイントは2つあります。
4-1. 資産の評価損も災害損失として計上できる
自然災害などにより、棚卸資産や固定資産の時価が評価額(帳簿価額)を下回った場合、その差額を評価損として災害損失に計上できます。この会計処理のことを損金経理と呼びます。[注1]
法人の有する棚卸資産、固定資産または一定の繰延資産につき災害による著しい損傷が生じたことにより、その時価が帳簿価額を下回ることとなった場合には、帳簿価額と時価との差額につき、損金経理をすることにより、評価損を計上して損金の額に算入することができます。
引用:No.8009 災害を受けたときの法人税の取扱い|国税庁
たとえば、評価額が10万円の商品が災害により滅失・損壊し、時価(販売価格)が2万円に低下した場合、10万円-2万円=8万円を災害損失として計上します。
[注1]No.8009 災害を受けたときの法人税の取扱い|国税庁
4-2. 損害保険などで損害を補填した場合は保険金額を差し引く
損害保険などに加入しており、災害により生じた被害額を保険金で補填した場合は、被害額から保険金を差し引いた金額を災害損失として計上します。被害額の全額を保険金で相殺した場合は、災害損失を計上することができません。
5. 災害損失の範囲や計上すべきケースを知り、自然災害への備えを
災害損失は、災害により資産が滅失・損壊したときに用いる勘定科目です。災害損失を計上すれば、事業所得を控除したり、法人税の還付を受けたりすることができます。災害損失の額が決算日までに確定していない場合は、災害損失引当金として処理します。災害損失の範囲や計上すべきケースを知り、万が一のときのために会計処理の方法を確認しておきましょう。
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