「二段の推定」の意味や根拠法律について詳しく解説
更新日: 2024.5.8
公開日: 2023.4.13
jinjer Blog 編集部
会社の法務担当者が押さえておきたい言葉として、「二段の推定」があります。契約や訴訟に関する業務を行うのであれば理解するのが推奨されますが、聞き慣れない言葉のためイメージがわかない方もいるかもしれません。
本記事では、二段の推定について会社の法務担当者が覚えておきたい知識を解説します。法律や判例を交えて解説した上で、近年増加している電子契約のケースも説明しますので、確認してみてください。
目次
1. 「二段の推定」とは?
二段の推定とは、民事訴訟における契約書の作成に関連して使われる言葉です。
会社の契約は電子化が進んでいるものの、昔ながらの方法で紙の契約書を発行し実印を押印するケースがまだ多いです。特にトラブルがなければ契約書が問題になることはありませんが、契約後にトラブルが起きた場合は契約書の内容に基づいて処理されます。その際、作成された契約書は当事者が正式に作成したものかどうかを証明することになりますが、その証明は困難です。
そこで使われるのが、二段の推定です。まず、契約書に契約者本人の印鑑が押されているのであれば、本人の意思によって捺印されたと推定できるでしょう。これを「一段目の推定」とよびます。こちらは、印鑑は適切に保管されるため第三者が勝手に持ち出して使うことはないという経験則から推定されます。
一段目の推定により、その契約書は本人または代理人の意思によって捺印された契約書とされ、正しく成立したと推定できます。これが、「二段目の推定」です。二段目の推定の根拠となるのは、民事訴訟法第228条4項の規定です。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
1-1. 「二段の推定」が行われる理由
二段の推定が行われる理由は、本人の意思によって作成された契約書であることを証明する際に手間や時間がかかるのを避ける必要があるからです。
まず、推定という言葉の意味と契約書の存在意義から確認しましょう。法律において、「推定する」とは、反対の事実や証拠などがなければ、事実として取り扱うという意味です。また、契約書は契約がトラブルに発展してしまう事態に備えて契約の事実を証拠として残すために交わす書面を指します。契約は口頭だけでも成立しますが、契約書があれば証拠にすることが可能です。
ただし、契約書を証拠とするなら、その契約書が本人の意思で作成されたものであることを示さなければなりません。とはいえ、本人の意思で作成された契約書であると証明するのは難しく、時間がかかってしまいます。そこで二段の推定という考え方を使うことにより、契約書が真正に成立したことを証明する手間を省きます。
契約書が本人の意思によって作成されたものだと推定されれば、その契約書を根拠として話し合いや訴訟を進めることが可能です。そのため、二段の推定という考え方は、話し合いや訴訟を円滑に進めるために重要といえます。
2. 「二段の推定」に関する判例
二段の推定の基礎となる判例は、昭和39年5月12日の最高裁判所判例です。裁判要旨は、以下のとおりとなっています。
私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。
つまり、本人の印影があって反証がないのであれば、その印影は本人の意思で押されたものであると推定でき、民訴法第326条(現在の228条4項)によって正しく成立したと推定すべきだということです。
3. 「二段の推定」が覆るケースはある?
二段の推定が一度適用されても、その後、覆るケースがあります。
まず、一段目の推定である本人の意思によって捺印されたという点は、本人による捺印と考えにくい場合に覆ります。これは、契約書に使用された印鑑が盗難されていたケースや、印鑑を本人以外の第三者と共用していたケースなどが該当するでしょう。
そして、二段目の推定である押印があれば正しく成立した契約書だと判断する点は、捺印自体を本人が行っていても真正な契約書とはいえないような事情が確認できたときに覆ります。これは、何も書かれていない紙に押された捺印を悪用して、あとから契約書を作成するようなケースが該当するでしょう。他にも、捺印後に契約書の内容を変更したケースや、契約書の内容を誤認させて捺印させたケースなども二段の推定が覆ります。
4. 電子契約では「二段の推定」が適用される?
近年では電子契約のサービスが増え、導入する会社も多いことから、電子契約の場合に二段の推定が適用されるかどうかは法務担当者にとって気になるポイントです。実際に電子署名でも二段の推定が適用されるとした判例は、2023年3月時点でありません。また、一般的な電子契約サービスで二段の推定が適用されないことは事実です。
電子契約サービスの多くは、契約の当事者ではなくサービス事業者が電子署名を取得する方式を採用しています。この場合は二段の推定は適用されませんが、本人が契約したと立証する材料として本人認証の手続きを厳格にしているサービスが多いです。メールアドレスやパスワード、身分証明書などを用いて本人認証が行われるため、本人の意思による契約書であることは印鑑使用時より容易になる可能性があります。
二段の推定では、本人の意思で作成した契約書だと判断されるだけであり、契約書の内容が事実かどうかは判断されません。そのため、二段の推定が適用されないからといって電子契約サービスに問題があると決める必要はないといえます。
また、内閣府と法務省、経済産業省が令和2年6月に発表した「押印についてのQ&A」では、契約書への押印は必須ではなく、特別な場合を除いて押印がなくても契約の効力に影響しないと記載されています。[注3]
さらに、二段の推定によって証明の負担が軽くなる効果は限定的であり、推定が及ばなくても他の方法によって文書が真正に成立したものであることを立証可能であるという旨の記載があるのも事実です。[注4]つまり、押印による二段の推定にのみこだわる必要はないといえるでしょう。
[注3]押印についてのQ&A 参考資料4-3 問1|内閣府、法務省、経済産業省
[注4]押印についてのQ&A 参考資料4-3 問3〜5|内閣府、法務省、経済産業省
4-1. 法務担当者は電子契約を導入すべき?
電子契約において、必ずしも押印による二段の推定にこだわる必要はないといえます。それでは、会社の法務担当者は電子契約を導入すべきなのでしょうか。これは、用途に応じて適切に選択することが求められます。
国の制度整備については、電子署名法や総務省、法務省、経済産業省が発表している「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」などによって完了しているといえます。そのため、あとは利用する電子契約サービスが問題ないかを会社が個別に判断し、適切に選んでいくことが大切です。
電子契約はこれまでの常識を変えるサービスなので、判断に迷うこともあるでしょう。適切に取り入れるために国の制度や発表内容を確認し、利便性とリスクを考えた上で取り入れてください。
5. 「二段の推定」を学び、契約や訴訟に関わる業務に活かそう
二段の推定は、本人の意思で押印された契約書を正しいものとすることでトラブルの解決をスムーズにできる考え方です。聞き慣れない言葉ですが、会社の法務担当者は覚えておいて損はありません。
ただし、近年は電子契約の導入を進める会社も多いため、契約書作成において押印にのみこだわる必要はないといえます。二段の推定の存在を理解しつつ、適切に業務効率化ができるサービスの導入を考えましょう。
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