AI推進法とは?罰則の有無と企業の対応を解説【2026年版】 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

AI推進法とは?罰則の有無と企業の対応を解説【2026年版】 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

AI推進法とは?罰則の有無と企業の対応を解説【2026年版】 - ジンジャー(jinjer)|統合型人事システム

AI推進法とは?罰則の有無と企業の対応を解説【2026年版】

2025年6月に公布された「AI推進法」について、規制する法律なのか、それとも活用を後押しする法律なのか、正確に説明できないという人事担当者の方は多いのではないでしょうか。政府が国を挙げてAIの活用を掲げるなか、経営層から人事領域でのAI活用を検討するよう指示を受けるケースも増えています。

結論からいうと、AI推進法に罰則規定はありません。全28条を通じて、罰金や禁止行為に関する規定は置かれておらず、むしろ事業者に対して積極的な活用に努めることを求めている法律です。

一方で、罰則がないからといって何も確認しなくてよいわけではありません。政府はこの法律に基づいて、企業が参照すべき文書をすでに複数公表しています。

この記事では、AI推進法の概要と、政府が公表している文書の内容を整理したうえで、企業が社内で確認しておきたい点を解説します。

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1. AI推進法とは?正式名称と押さえておきたい3つの事実

AI推進法は、AIに関する日本で初めての基本法として2025年に成立した法律です。名称に「推進」という言葉が含まれているにもかかわらず規制法と受け取られることが多いため、まずは正式名称と基本的な構成、そして企業に向けられた条文の内容を順番に確認していきましょう。

1-1. 正式名称と3つの呼び名

AI推進法の正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)です。
やや紛らわしいのは、呼び名が1つに定まっていない点です。それぞれ次のように使い分けられています。

呼称 主に使っているところ
AI法 内閣府(公式ページでの表記)
AI推進法 報道・解説記事で最も多い
AI新法 同じく報道・解説記事

いずれも同じ法律を指しています。内閣府の公式ページのタイトルは「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」であり、「AI推進法」「AI新法」は政府による表記ではありません。社内資料をまとめる際や一次情報を検索する際は、「AI法」という表記も覚えておくとよいでしょう。

1-2. 事実①:全28条・4章構成で、罰則規定はない

AI推進法は全28条からなり、次の4章で構成されています。

タイトル
第一章 総則 第一条〜第十条
第二章 基本的施策 第十一条〜第十七条
第三章 人工知能基本計画 第十八条
第四章 人工知能戦略本部 第十九条

この全28条のなかに、罰則を定めた条文はありません。禁止行為の列挙も、AIをリスクの度合いに応じて分類して義務の重さを変える仕組みも、許認可や届出の義務も置かれていない点が、この法律の大きな特徴です。

法律の目的を定めた第1条も、施策の「総合的かつ計画的な推進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与すること」とされています。規制を課すためではなく、推進のための枠組みを定めた法律であることが、条文の構成からも読み取れます。

なお、AI推進法に罰則が置かれていないことは、AIの利用が他の法令の適用を受けないことを意味するものではありません。個人情報保護法をはじめとする既存の法令は、AIを使う場面でもそれぞれ適用されます。

1-3. 事実②:2025年9月にすでに全面施行されている

AI推進法の施行時期は、附則第1条で次のように定められています。

この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章及び第四章並びに附則第三条及び第四条の規定は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

引用:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律|e-Gov法令検索

これにより、施行のスケジュールは以下のとおりとなりました。

時期 内容
2025年5月28日 成立
2025年6月4日 公布・施行(第三章・第四章等を除く)
2025年9月1日 第三章・第四章が施行(全面施行)

2026年8月時点では、全面施行からすでに1年近くが経過しています。「最近成立した法律」という認識にとどまっている場合は、施行後に公表された指針や計画についても確認しておくことが大切です。

1-4. 事実③:企業に向けた条文は「積極的な活用」を求めている

企業に直接向けられている条文が第7条です。条文をそのまま引用します。

第七条(活用事業者の責務) 人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者(以下「活用事業者」という。)は、基本理念にのっとり、自ら積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び第五条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない。
引用:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律|e-Gov法令検索

この条文には、押さえておきたい点が2つあります。

1つ目は「活用事業者」の定義です。条文には「人工知能関連技術を活用した製品又はサービスの開発又は提供をしようとする者」に加えて、「その他の人工知能関連技術を事業活動において活用しようとする者」という文言が置かれています。ただし、どのような利用実態があれば「活用しようとする者」に該当するのかについて、政府から詳細な解釈が示されているわけではありません。自社が対象となるかどうかは、利用実態に即して個別に検討する必要があります。

2つ目は、求められている内容です。「積極的な人工知能関連技術の活用により事業活動の効率化及び高度化並びに新産業の創出に努める」とされており、企業に向けた条文が活用を促す内容になっています。この点が、AI推進法の性格をよく表しているといえるでしょう。

参照:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)|内閣府
参照:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律|e-Gov法令検索

2. AI推進法が「規制する法律」と誤解されやすい理由

罰則が置かれていないにもかかわらず、AI推進法が規制法として受け取られることは少なくありません。その背景には、海外の法規制に関する報道の影響と、条文中の一部の表現があると考えられます。それぞれ確認していきましょう。

2-1. EUのAI規則との報道量の差

ここ数年、AIをめぐる法規制のニュースとして最も大きく報じられてきたのは、EUの「AI Act(AI規則)」です。EUの規則は、対象となるAIをリスクの高さに応じて分類し、禁止されるものを定めたうえで、違反に対して制裁金を課す構造になっています。

これに対して日本のAI推進法は、罰則を置かず、指針の整備や調査研究、人材育成といった施策を国の側の責務として定める設計です。同じ「AIに関する法律」であっても、拘束の仕方が大きく異なる点は押さえておきたいところです。

なお、EUの規則には域外適用の考え方があり、EU域内に拠点がない企業であっても、EU市場に向けてAIシステムを提供する場合や、AIによる出力がEU域内で用いられる場合には対象となり得ると指摘されています。適用範囲・適用時期はいずれも改正動向の影響を受けるため、EUとの取引がある場合は、自社が対象となるかを含めてEU法務に精通した専門家に個別にご確認ください。本記事はEU規則の適用関係について判断を示すものではありません。

2-2. 「協力しなければならない」という表現の位置づけ

前述の第7条には「~協力しなければならない」という表現が含まれています。法律である以上、何らかの義務が生じるのではないかと受け取られるのは自然なことでしょう。

ただし、この文言に罰則が結びついているわけではありません。第16条は、国が国内外のAI関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報を収集するとともに、不正な目的又は不適切な方法による研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討を行い、その結果に基づいて研究開発機関・活用事業者等に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずることを定めています。

つまり、罰則が置かれていないことは、国が事業者の活動に一切関与しないことを意味するものではありません。また、AI推進法に立入検査などの権限が定められていないことは、個人情報保護法など他の法令に基づく権限の行使が及ばないことを意味するものでもありません。個別の場面での対応可否については、専門家にご確認ください。

参照:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)|内閣府
参照:AI法案をめぐる国会論議」|参議院

3. 企業が確認しておきたい4つの政府文

AI推進法そのものには、企業が取るべき具体的な手順は書かれていません。実務に関わる内容は、この法律に基づいて別の文書として公表されています。「AI推進法を読んでも何をすればよいかわからない」と感じる場合、確認すべき情報は法律の外側にあると考えるとよいでしょう。ここでは2026年8月時点で押さえておきたい4つの文書を紹介します。

3-1. 適正性確保に関する指針(2025年12月19日)

正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」です。AI推進法第13条に基づき、人工知能戦略本部が決定しました。

指針が対象として挙げているのは、活用事業者、研究開発機関、国、地方公共団体、国民です。指針が挙げる重要項目は次の10項目です。

  • 人間中心
  • 公平性
  • 安全性
  • 透明性
  • アカウンタビリティ
  • セキュリティ
  • プライバシー・個人情報
  • 公正競争
  • AIリテラシー
  • イノベーション

また、適正性確保のための基本方針として、次の4点が示されています。

  • リスクベースでのアプローチ
  • ステークホルダーの積極的な関与
  • 一気通貫でのAIガバナンスの構築
  • アジャイル(柔軟かつ迅速)な対応

なお、この指針は各主体の自主的かつ能動的な取組を促すものとして位置づけられており、これらの項目に罰則や法的な義務付けが伴うものではありません。

参照:適正性確保に関する指針|内閣府

3-2. 人工知能基本計画(最新は2026年7月14日閣議決定)

AI推進法第18条に基づき政府が定める計画です。2025年12月23日に最初の計画が閣議決定され、2026年7月14日に改定版が閣議決定されました。改定版には「〜日本AX、より強く、より豊かに〜」という副題が付されており、内閣府は最初のものと区別して「第Ⅱ期人工知能基本計画」と呼称しています。

計画は次の4本柱で構成されています。

内容
「AIを使う」 AI利活用の加速的推進
「AIを創る」 AI開発力の戦略的強化
「AIの信頼性を高める」 AIガバナンスの主導
「AIと協働する」 AI社会に向けた継続的変革

筆頭に置かれているのが「AIを使う」である点は、押さえておく価値があります。経営層からAI活用の検討を求められる背景には、こうした国の方針があると考えられます。

なお、この計画は本文で「当面は毎年変更を行うこととする」とされています。年に1度は更新の有無を確認しておくとよいでしょう。

参照:人工知能基本計画|内閣府

3-3. AI事業者ガイドライン 第1.2版(2026年3月31日)

総務省と経済産業省が公表しているガイドラインです。AI推進法とは別の文書ですが、実務では最もよく参照されます。「AI推進法とAI事業者ガイドラインは同じものか」という疑問を持たれることがありますが、両者は別のものです。

このガイドラインは、AIに関わる主体として「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」を挙げ、それぞれに重要となる事項を整理しています。このほか、事業活動以外でAIを利用する「業務外利用者」や、影響を受ける「ステークホルダー」も位置づけられています。なお、同一の事業者が複数の主体に該当し得ることも前提とされているため、自社がどの区分に当たるかは利用実態に即して確認する必要があります。

第1.2版では、AIエージェントやフィジカルAIに関する記述が追加され、主体区分の考え方も詳細化されました。

参照:AI事業者ガイドライン|総務省

3-4. 個人情報保護委員会の公表資料

AI推進法に基づく文書ではありませんが、人事データを扱う場合には併せて確認しておきたい情報源です。

個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表しています。個人情報取扱事業者に向けた注意点として、次の2点が挙げられています。

① 個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。

② 個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。そのため、このようなプロンプトの入力を行う場合には、当該生成AIサービスを提供する事業者が、当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること。

引用:生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について|個人情報保護委員会(2026年8月18日参照)

また、2026年7月17日には「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が公布されました。同委員会は、一部を除き公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されると説明しています。内容の詳細については、同委員会の公表資料をご確認ください。

参照:個人情報保護委員会HP

なお、人事データをAIで扱う場面は、外部の生成AIサービスに入力する場面だけではありません。自社がすでに保有している勤怠・評価・サーベイの回答などを、新たにAIで分析するという場面もあります。この場合、入社時などに従業員へ示している個人情報の利用目的の記載で今回の分析までカバーできているか、記載の追加や見直し、従業員への通知が必要かを、あらかじめ確認しておくことになります。あわせて、そのデータを社内の誰が閲覧できる状態にするのかも、分析を始める前に決めておきたい点です。

自社の具体的なデータの取扱いが法令上どのように評価されるかは、個別の事情によって異なります。判断が必要な場面では、社内の法務部門や、弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

4. 調査データから見えるAI利用の実態

ここまでは制度に関する内容を確認してきました。ここからは視点を変えて、企業におけるAI利用の実態を、公表されている調査データから確認していきます。制度への対応を考えるうえで、自社の現状がどのあたりに位置しているかを把握しておくことは有用でしょう。

4-1. 調査に回答した企業の86.4%が生成AIを業務で利用している

総務省の令和8年版情報通信白書によると、同白書の企業向けアンケートに回答した企業のうち、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した企業は86.4%にのぼり、前年度調査の55.2%から大きく伸びています。個人の利用率も58.8%(前年26.7%)と、こちらも大幅に増加しました。

その一方で同じ白書では、生成AIの活用による業務変革について「組織的な取組はない」と回答した日本企業が27.0%と、3割弱にのぼっています。この割合は、比較対象となった他の3か国よりも高い水準でした。利用そのものは急速に広がっているものの、組織としての体制づくりが追いついていない企業が一定数存在していることがうかがえます。

参照:令和8年版 情報通信白書|総務省

4-2. 社内ルールの整備が追いついていない

民間の調査でも、同じ方向の結果が報告されています。

株式会社サイバーセキュリティクラウド(セキュリティ関連サービスを提供する事業者)が2026年4月21〜22日に実施し、同年5月に公表した調査の結果は次のとおりです。対象は業務でPCを毎日使用する会社員300名で、インターネット調査として実施されました。数値は同社公表資料に基づく要約です。

項目 割合
生成AIを業務利用している 67%
社内AIルールが「ない・わからない」 約45%
何らかの業務情報をAIに入力した経験がある 約60%
個人情報(氏名・連絡先)を入力した経験がある 10%
AI利用で「ヒヤリとした」経験がある 約35%
AI利用で実際に問題になった経験がある 約14%

参照:生成AI利用者の35%がヒヤリハットを経験、 “AI過信”によるコピペと機密情報入力が主因に|株式会社サイバーセキュリティクラウド

また、株式会社エルテスが2026年1月13日に実施し、同月19日に公表した調査(29〜69歳の会社員・公務員300名。教職員を除く)では、生成AIツールの業務利用者103名のうち20名、およそ5人に1人が、企業が許可していない生成AIツールを利用していたと報告されています。同調査では、社内規程が「ある・策定中」の層では許可されたツールの利用割合が高く、規程が「ない」層では許可されていないツールの割合が高いという傾向も示されました。なお、これは回答傾向として示された関連であり、規程の有無が無断利用の増減を引き起こすという因果関係が示されたものではありません。

参照:【実態調査】生成AI利用者の約5人に1人が「シャドーAI」リスク|株式会社エルテス

いずれの調査も回答者300名規模のインターネット調査であるため、日本企業全体の傾向をそのまま示すものではない点にご留意ください。

4-3. 無断利用の背景にあるもの

これらの調査からは、会社が把握していないAI利用がなぜ生じるのかについても、一定の傾向が読み取れます。
前述のサイバーセキュリティクラウドの調査では、回答者300名全体に対する割合として、「ルールが不明確なまま利用」が約13%、「認められていないツールの利用」が約2%と報告されています。(前項のエルテス調査の「5人に1人」は生成AI利用者103名に対する割合であり、分母が異なります)

社内で認められていないツールを使っていたと回答した層よりも、ルールがはっきりしないまま利用していると回答した層のほうが多い、という結果です。

また、株式会社ISOプロの「次世代AIとガバナンス実態調査」(2026年7月22〜23日、経営者・役員・情報システム部門1,023人)では、従業員が会社に無断で個人のAIを利用してしまう要因として、経営層・情報システム部門が最も多く挙げたのは「業務効率を上げたい」(40.1%)でした。

参照:次世代AIとガバナンス実態調査|株式会社ISOプロ

つまり、管理する側から見ても、無断利用の主な動機は業務を効率化したいという意図にあると捉えられているといえます。ルールが明確でないために、利用の可否の判断が個人に委ねられている状況が、多くの企業で同時に生じていると考えられます。

5. 社内で確認しておきたいこと・部門ごとの役割

では、実際に社内で何から着手すればよいのでしょうか。その手がかりは、前述の適正性確保指針とAI事業者ガイドラインに示されています。ここでは、両文書が挙げている項目を整理したうえで、実務の言葉に置き換えた確認項目と、部門ごとの役割分担を紹介します。なお、本章は社内で検討を始める際の切り口を示すものであり、法律上・労務上の助言を目的とするものではありません。

5-1. 政府文書が挙げている取組事項

適正性確保指針は、取組事項を主体ごとに書き分けています。このうち研究開発機関及び活用事業者について挙げられているのは、次のような項目です。

  • AIガバナンスを構築・運用すること
  • 透明性を確保し、ステークホルダーとの信頼関係を構築すること
  • 技術を用いて十分な安全性を確保すること
  • データの重要性を踏まえ、データ保有者等のステークホルダーへ配慮すること

なお、国及び地方公共団体については、AIの積極的かつ先導的な活用、各主体のリテラシー向上、AIガバナンスの在り方の検討などが別に挙げられています。

またAI事業者ガイドラインは、「AI利用者」について、安全を考慮した適正利用、入力データやプロンプトに含まれるバイアスへの配慮、個人情報の不適切入力への対策、セキュリティ対策の実施、ステークホルダーへの情報提供と説明などを挙げています。

これらは項目名として示されているため、自社では具体的な作業に置き換えていく必要があります。次項では、その手がかりとなる確認項目を紹介します。

5-2. 社内で確認しておきたい9つの問い

前項の内容を、実務の言葉に置き換えると次のようになります。すぐに答えが出ないものがあれば、そこが着手すべき箇所と考えるとよいでしょう。

確認したいこと 主に関わる部門
1 いま社内で、誰が、どの業務で、どのAIツールを使っているか把握できているか 情報システム
2 使ってよいツールと、使ってはいけないツールが決まっており、社内に伝わっているか。伝えた記録が残っているか 人事・情報システム
3 入力してよい情報と、入力してはいけない情報の線引きがあるか 人事・法務
4 利用しているツールが、入力したデータを学習に使わない設定・契約になっているか。どの設定項目・どの条項で、いつ誰が確認したかを記録しているか 情報システム・法務
5 AIの出力をそのまま判断に使わず、人が確認する手順になっているか。誰が確認し、その記録は残るか 人事・各部門
6 AIだけで結論を出さない業務を決めているか(例:人事評価の確定、採用の合否、昇格・降格、休職・復職の判断) 人事・経営層
7 誰がいつ何を入力・出力したかの記録を取得できるか。保存期間はどれくらいで、必要なときに取り出せるか 情報システム
8 退職者・異動者のアカウントが確実に停止されるか。個人のメールアドレスで登録された無料プランが残っていないか 情報システム・人事
9 これらのルールを社内規程のどこに位置づけるか、誰が決め、誰が更新するのかが決まっているか 情報システム・法務・人事

なお、これらは社内で議論を始める際の切り口であり、確認すべき事項を網羅したものではありません。人事データを扱う場合には、利用目的の範囲内であるか、委託・第三者提供のいずれに当たるか、データが国外のサーバーで取り扱われる場合の取扱い、要配慮個人情報に該当する情報の取得の可否など、別途検討が必要な事項があります。

5-3. 部門ごとの役割分担

AIの社内ルールづくりは、どこか1つの部門だけで完結するものではありません。おおまかな役割分担としては、次のように整理できます。

担当 主に関わる範囲
経営層 方針の決定、どこまでのリスクを許容するかの判断、必要な予算と人員の確保
情報システム部門 社内のAI利用ルールの策定、利用できるツールの選定と技術的な設定、利用状況の把握、アカウントと権限の管理(入社・異動・退職時の反映)、記録の取得と保全
法務部門 契約・利用規約の確認、法令面の確認と外部専門家への照会
人事部門 人事データの利用目的と閲覧範囲の決定、本人および労働者代表への説明、ルールの従業員への周知と教育、その記録の管理
現場管理職 ルールに沿った運用、AIの出力を業務で使う際の一次確認と記録

社内のAI利用ルールそのものを整備するのは、多くの場合、情報システム部門や法務部門です。人事部門がその策定を主導する必要はありません。

一方で、人事データについては話が変わります。どの人事データを、どの目的で、誰が見てよいのかを決められるのは、そのデータを所管する人事部門だけです。この判断がないまま情報システム部門に設定を依頼しても、設定すべき権限の範囲が決まらず作業が進みません。人事領域でAIを活用するかどうかは、全社のAI推進とは別に、人事部門が自ら決める論点だと考えるとよいでしょう。

なお、利用状況の把握は、従業員の業務中の操作記録を取得することを含む場合があります。何を取得し、どの目的で、誰が閲覧するのかを事前に社内へ示しておく運用は、他のモニタリングと同様に、開始前に整えておきたい部分です。また、法務部門を置いていない場合は、この役割を人事部門や管理部門が引き受けることになります。その場合は、判断に迷った際に誰が外部の専門家へ確認するのかという窓口を、あらかじめ決めておくとよいでしょう。

5-4. 人事部門がAI導入に向けて着手する手順

社内で確認しておきたい9つの問いは並列に見えますが、人事部門だけで始められるものと、情報システム部門と進めるものに分かれます。

1. 人事メンバーが現在どのAIツールを何に使っているかを聞き取る
2. 人事データのうち、AIに入力してよい情報・入力しない情報の素案をつくる
3. AIの出力をそのまま結論にしない業務を決める
4. ツールの選定や設定、記録の取得について、情報システム部門への依頼事項を1枚にまとめる

1から3は人事部門だけで着手できます。4は情報システム部門との調整になるため、先に1から3を固めておくと話が早く進みます。

あわせて、決まったルールを従業員に伝える段階で必要になる次の3点も、早めに決めておくと運用が安定します。

社内規程のどこに置くか:別紙のガイドラインとして配布するだけの場合と、服務規律や情報管理規程に位置づける場合では、その後の運用の扱いが変わります
周知の方法と記録:いつ、誰に、どのような方法で伝えたのかが残っていないと、後から利用実態を確認する場面で拠りどころがなくなります
対象範囲:正社員だけでなく、パート・有期契約の従業員、派遣スタッフ、業務委託先まで含めるのかによって、伝える相手と伝え方が変わります

ルールを整備しても現場に伝わっていなければ、前述の調査で「ルールがない・わからない」と回答した約45%という状況は変わりません。

6. 「禁止」でも「野放し」でもない選択肢を考える

人事領域でのAI活用を検討する際、選択肢は「使うか、使わないか」の二択になりがちです。しかし、どちらにも課題が残ります。ここでは2つの選択肢の限界を整理したうえで、第三の考え方を紹介します。

6-1. 「禁止する」と「自由に使わせる」の限界

1つ目の選択肢は、生成AIの利用を禁止することです。情報漏えいのリスクを避けられる一方で、現場が効率化する機会は失われます。加えて前述の調査結果を踏まえると、禁止したとしても実際には利用が続く可能性があります。

ただし、ルールがないまま利用されている状態と、禁止したうえで利用が続いている状態は、会社側の対応の余地という点では異なります。前者では利用の可否が個人の判断に委ねられていますが、後者では社内規程という拠りどころがあるため、社内の管理体制を対外的に説明しやすくなります。禁止という選択肢を採る場合は、禁止の対象範囲と、ルールに反した場合の取扱いを社内規程のどこに位置づけるかまで決めておくことが、実務上の前提になります。

2つ目の選択肢は、自由に利用させることです。現場の負担は軽くなりますが、どの情報がどこに入力されているのかを把握できなくなります。

いずれの選択肢にも課題が残るのは、判断の軸が「使うか、使わないか」だけになっているためだと考えられます。

6-2. AIを使う「場所」を管理された環境に置く

もう1つの考え方として、AIを使う場所を、管理された環境の内側に用意するというアプローチがあります。

人事データが複数のシステムに分散し、一部がExcelや紙で管理されている状態では、AIを活用しようとした際にデータをどこかへコピーする手間が生じます。その結果として、個人アカウントの生成AIが使われるケースも出てきます。反対に、必要なデータが権限管理された基盤の上にあり、その基盤上でAIが動作する仕組みであれば、データを別の環境へ複製する場面を減らすことが期待できます。

ただし、これは持ち出しを技術的に不可能にするものではありません。クラウドサービスを利用する場合、データは委託先の管理下にあり、画面に表示された内容を利用者がコピーする行為も、基盤側の権限管理だけでは止められません。基盤を整えることは、統制を効かせやすくするための前提条件と位置づけるのが実態に近いでしょう。

7. AI活用の前提になる「正しい人事データ」

AIを使う場所を整えることと並んで、もう1つ欠かせない条件があります。AIに渡すデータそのものが正しいかどうかです。人事データが複数のシステムに分かれている場合、ここが見落とされやすい部分になります。順番に確認していきましょう。

7-1. AIが出す示唆の質は、データの正しさで決まる

勤怠は専用システム、給与は別ベンダー、評価はExcel——このようにデータが分散していると、同じ従業員の情報がシステムごとに食い違ったり、異動や改姓の反映が遅れたりします。この状態のデータをAIに渡しても、出てくる結果は実態とずれます。人事データがどこか1か所で正しく更新される状態になっていることは、情報を守るうえでも、AIを使ううえでも土台になります。

政府が基本計画で「AIを使う」ことを掲げている一方で、企業に特定のデータ管理方式を求めているわけではありません。ただしAIの出力は入力したデータに左右されるため、実務としては「使うかどうか」の前に確認しておきたいことがあります。使えるだけの正しい人事データを持っているか、という点です。

なお、どのような体制が法令や指針の趣旨に沿うかは各社の事情によって異なり、特定の製品を導入することで対応が満たされるものではありません。

7-2. ジンジャーのAIという選択肢

ジンジャーは、人事労務、勤怠管理、給与計算、人事評価、サーベイ、データ分析といった幅広い人事業務を、一つのデータベースで管理する統合型人事システムです。ジンジャーのAI機能は、このデータベースの上で動きます。

1つのデータベースだから正しい人事データに

採用から退職までの人材ライフサイクル全般の情報が、1つのデータベースに集約されます。あらゆる人事業務が同じ従業員情報を参照しているため、1か所を更新すれば各機能に反映され、同じ項目を複数のシステムに二重入力することによるミスが起きません。前項で挙げた「AIに渡すデータが正しいか」という問いに、データの持ち方そのもので応えられる構造です。ジンジャーがAI機能の前提として「正しい人事データ」を掲げているのは、この点によります。

外部ツールにコピーせずに使える

入力したデータが、外部の生成AIの学習に利用されることはありません。権限設定された社内の担当者だけがアクセスできる環境で動くため、人事データを別のツールへコピーする場面を減らせます。情報セキュリティの国際規格「ISO/IEC 27001(ISMS)」の認証も取得しています(組織の情報セキュリティ管理体制に関する認証です)。

権限と組織構造が連動

人事データにAIを使うとき、要点になるのはこの点です。ジンジャーでは、従業員の所属や役職といった組織構造と、閲覧・操作の権限が連動しています。そのため「現場マネージャーには自部門のメンバーの情報だけを参照し、示唆を出す」といった、社内ガバナンスを効かせた状態でのAI活用ができます。

第5章で挙げた「誰が、どのデータを、どこまで見られるか」という問いに、システム側で答えを持てるということです。離職の予兆のような機微な示唆も、閲覧できる範囲を設計したうえで扱えます。なお、検知した結果を何に使い、何には使わないのかという運用ルールは、自社で決めておく必要があります。

ジンジャーのAIについては、専用ページで詳しくご紹介しています。
参照:ジンジャーのAI|統合型人事システム「ジンジャー」

8. まとめ|AI推進法を、社内のAI活用を整えるきっかけにしよう

AI推進法は、名称から規制法と受け取られがちですが、罰則規定は置かれておらず、第7条では事業者に対して積極的な活用に努めることを求めています。確認すべき内容は法律そのものよりも、その後に公表された指針や基本計画、ガイドラインの側にあります。

一方で、生成AIの利用はすでに広がっているのに、社内ルールの整備が追いついていない企業は少なくありません。いま確認する価値があるのは「AIを使ってよいか」よりも、「すでに社内のどこで使われているか」なのかもしれません。

法令が活用を後押ししている今は、AIを禁止するか野放しにするかではなく、管理された環境のなかで活用する体制を整える好機ともいえます。情報を守る仕組みと、AIに渡せる正しい人事データが揃っているかを、この機会に見直していきましょう。

本記事について

本記事は、2026年8月20日時点で公表されている法令および政府文書の内容を、一般的な情報提供を目的として整理したものです。法令の解釈や、個別の事案における適否についての見解を示すものではなく、法律上・労務上の助言を目的とするものではありません。本記事は弁護士等の専門家による監修を受けたものではありません。実際の対応をご検討される際は、最新の一次情報をご確認いただくとともに、社内の法務部門または弁護士・社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

記載内容の正確性・網羅性・最新性について保証するものではありません。法令の改正や政府文書の改定により、記載内容が現状と異なる場合があります。
引用した調査データは、各調査主体が公表した内容に基づく当社による要約です。数値の詳細、調査手法および回答者の属性については、各調査主体の公表資料をご確認ください。

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jinjer Blog 編集部

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