雇用契約書と就業規則の内容が異なる場合の優先順位について解説

従業員と雇用契約を締結した場合、雇用主はその雇用契約の内容を守らなければなりません。なかには、雇用契約の内容と就業規則とが異なるケースも存在します。

本記事では、雇用契約書と就業規則が異なった場合の優先順位と就業規則の重要性について解説します。

1. 雇用契約書と就業規則の内容が異なる場合の優先順位

雇用契約書は企業によって交付しないところもありますが、交付されている場合には就業規則と内容が異なる部分がないか確認する必要があります。

もし雇用契約書と就業規則の内容が異なる場合には、どちらが優先されるかを知っておかなければなりません。下記に、それぞれのケースを紹介します。

1-1. 雇用契約書の方が就業規則よりも条件がよい場合

まずは雇用契約書の内容が就業規則よりも好条件となっている状況です。

たとえば、時給について雇用契約書には1,000円、就業規則に900円と書いてあるようなケースです。雇用契約書に就業規則には書かれていない手当を支給する旨が記載されているケースも当てはまります。

このような場合には雇用契約書が優先されます。雇用契約書の方の条件がよいためトラブルになることは考えにくいものの、雇用契約書と就業規則の整合性はとれていた方がよいでしょう。

1-2. 就業規則の方が雇用契約書よりも条件がよい場合

雇用契約書の内容が就業規則よりも労働者に不利になっている状況です。

たとえば、就業規則で規定されている福利厚生が雇用契約書に含まれていない、残業代の支払いについて就業規則には記載があるのに雇用契約書にはないといったケースが考えられるでしょう。

こうしたケースでは、就業規則が雇用契約書に優先されます。労働契約法第12条では、就業規則で定めている基準に達しない雇用契約については、その部分に関して無効となり、就業規則で定めた基準が適用されることになっています。

雇用契約書すべてが無効になるわけではなく、就業規則以下の条件が記載されている部分に関してのみ無効となる点に注意が必要です。

2. 雇用者側にとっての就業規則の重要性

就業規則は会社のルールブックともいえるものです。労働関係の法令に定められているルールや会社独自のルールを明記し、従業員に知らせることによって組織だった業務の遂行に役立てることができます。

常時10人以上の労働者を使用している雇用主に対しては就業規則の作成が義務付けられています。

では、なぜ就業規則が雇用者側にとって重要なのか、いくつかのポイントを見ていきましょう。

2-1. 就業規則がないと判断できないこともある

雇用者は日々さまざまな判断を下さなければなりません。とくに従業員の待遇に関する決定は、就業規則がないと判断しにくい点が多いものです。

たとえば給料の締め日はいつなのか、退職金の金額がどのように決定すべきなのか、どのような理由で従業員を解雇できるのかといった重要な点が挙げられます。

労働関係の法令に基づいた就業規則をきちんと定めていないと、こうした判断が行えずトラブルにつながる可能性もあります。

2-2. 取り扱いの不公平が生まれる

従業員の扱いが公平であることは、雇用者側にとって非常に重要です。従業員が扱いに満足していないと、仕事へのやる気を失ったり定着率が下がったりするかもしれません。

就業規則はすべての従業員に同じルールを適用するのに役立ちます。たとえば経費の精算に関して、ある社員は期日を過ぎると罰則が適用され、別の社員は何の罰も受けないといったケースは明らかに不公平です。

就業規則に記載があれば、すべての従業員に対して同じ利益と罰則が適用できます。

2-3. 従業員の定着率に影響する

就業規則は会社のルールを従業員に提示する重要な手段です。労働者側としても、働くうえでの条件がはっきりしていた方が業務に集中しやすいことは間違いありません。

優秀な人材であれば、自分が働く労働条件や労働環境について明確な説明を求めたくなるものです。就業規則は従業員が安心して働くことができる環境作りの指針となります。従業員の定着率にも影響するでしょう。

2-4. 従業員が自分で疑問を解決できる

従業員は働くなかで、さまざまな疑問を持つかもしれません。

給料の根拠や昇給のタイミングなどの点を知りたい場合、就業規則があれば従業員は自己解決できます。総務担当者などに尋ねることなく疑問が解決するので、業務の効率化も期待できるでしょう。

2-5. トラブルの防止と対処に役立つ

就業規則はトラブルを未然に防ぎ、トラブル発生時に迅速に問題を解決するために役立ちます。

社内ルールが明確になっていることにより、従業員と会社の間での問題が起こりづらくなるのです。就業規則に細かなルールが明記されていれば、雇用者側の説明不足によって従業員が不満を感じたりやる気を失ってしまったりすることも少なくなるでしょう。

加えて、就業規則に懲戒処分について記載されていれば、問題を起こした従業員に対して適切な処分を下すことが可能となります。問題を規則に基づいて解決することですべての従業員が安心して働ける環境を整えることができるのです。

2-6. 会社の課題が浮き彫りになる

あまり意識されない点ですが、就業規則を作成する過程で会社の課題が浮き彫りになることもあります。経営者としてある部分に対する意識が足りないことに気づいたり、従業員が不満を抱えそうな部分が分かったりするかもしれません

。雇用者側の意識を変えるという点でも、就業規則は非常に重要なのです。

3. 雇用契約書も就業規則もない場合は?

就業規則は重要ではありますが、常時使用している労働者が10人未満の場合には法的な作成義務はありません。では、雇用契約書も就業規則もない場合にはどうすればよいのでしょうか。

労働基準法によれば、雇用者側は労働者に対して労働条件を書面で交付しなければなりません。労働基準法第15条第1項では契約期間や就業場所、賃金の決定・計算・支払い方法など、明示しなければならない項目が列挙されています。

雇用契約書も就業規則もない場合、労働条件が書面で交付されていないので労働基準法違反となります。常時雇用している従業員が10人以上いるのにもかかわらず就業規則がないのであれば、やはり労働基準法違反となるでしょう。

さらに、雇用契約書も就業規則も交付しない会社は、労働基準法に対する意識が低いとみなされます。いわゆる「ブラック企業」と認識される可能性も高いです。

現在は噂程度の情報であっても、インターネットを通して幅広く知られる恐れがあります。人材の確保にも悪影響を与えかねません。雇用契約書や就業規則については、早急に作成しておくべきでしょう。

4. 雇用契約書と就業規則の内容が異なる場合は従業員に有利な方が優先される

法律的には雇用契約書が就業規則に優先されるものの、内容が異なる場合には従業員に有利な方が採用されることになります。

雇用契約書も就業規則もない場合には、トラブルのもとになったり従業員のモチベーションが下がったりするなど会社が不利益を被ることになりかねません。

雇用契約書も就業規則も重要な書類であることを認識し、法律に則って運用しましょう。