労働基準法に規定されている通勤手当と距離の基準を解説
更新日: 2024.1.16
公開日: 2021.10.4
OHSUGI
ほとんどの企業が従業員の通勤手当を支給していますが、その支給ルールは労働基準法に基づいて決定しなければなりません。
同時に従業員に対しても明確に提示し、正確で無駄のない支給が必要です。計算方法や税金の取り扱いを知っておきましょう。
本記事では、労働基準法における通勤手当の基準や計算方法について解説します。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
目次
労働基準法総まとめBOOK
1. 労働基準法では通勤手当について何も規定されていない
雇用する側もされる側にとっても重要な法律である労働基準法ですが、通勤手当に関するものは一切規定されていません。
それは、通勤手当の支給が企業の義務ではなく、各企業の裁量によるものだからです。
通勤手当を支給しなくても違法ではありませんが、ほとんどの企業は支給しています。
そのため従業員にとって通勤手当は勤務に必要な経費だから支給されるのは当然と考えられがちですが、実際はそうではありません。
就業規則や賃金規定などに「通勤手当を支給する」と定められている場合のみ、通勤手当の支給義務が発生します。
1-1. 通勤手当は各企業の契約や規程によって定めるもの
支給額や上限設定など通勤手当の詳細は各企業が自由に決められるもので、個別の契約ごとに異なっていても問題ありません。
就労規則や労働契約などによって企業が決めた基準などのルールが適用可能な手当として給与と一緒に支給されます。
ただし、正社員と非正規社員で同じ業務をおこなっていたにもかかわらず通勤手当に差があるような不合理な待遇格差は、同一労働同一賃金制度(2020年4月施行)によって禁止されています。
関連記事:同一労働同一賃金はいつから適用された?ガイドラインの考え方や対策について
1-2. 距離や支払い方法は明確に定めなくてはいけない
通勤手当を支給する場合、通勤に必要な交通手段や距離、支払い方法などは明確に定めておく必要があります。
直線距離を基に計測する方法や、マイカー通勤の場合は実際の経路を用いて計算するなど、どのような方法を選ぶかは会社によって異なります。
いずれの場合も明確な定めを設けておく必要があり、支給額はそのルールに則って決定するようにしましょう。
1-2. 通勤日数が少ない従業員でも通勤手当は支給される
長期出張などで職場に通勤しない従業員でも、通勤手当は賃金と同じ扱いであるため会社が勝手に減額や無支給にはできません。
前もって出張や休職期間の通勤手当について就業規則や賃金規定に定めておくようにしましょう。
以下のような規定を定めておくと労使間のトラブルを防ぎやすくなります。
- 所定労働日数の2分の1に満たない者の通勤手当は半額とする
- 1週間以上就労しない日がある者の通勤手当は日割り計算とする
- 長期出張・欠勤などの事由による1ヵ月以上の通勤実態がない場合の通勤手当は支給しない
また、最近ではテレワークが推進されており、通勤手当を見直す企業が増えています。
出社日数に応じて通勤手当を支給するケースや、減額された分は在宅勤務手当としてインターネット接続や電気代にかかった費用として支給するケースもあります。
関連記事:在宅勤務における通勤手当の扱いや支給額の目安・計算方法
2. 通勤手当は距離による基準または実費で支給される
通勤手当のルールは各企業が決めるものですが、そのほとんどは通勤距離による基準または実費で支給されています。
電車やバスなど公共交通機関を使用した場合は定期代などが実費で支給され、マイカーや自転車通勤など実費での支給が難しい場合は通勤距離によって支給額が決められるケースがほとんどです。
マイカーや自転車で通勤する場合など通勤にかかる実費の計算が難しいケースでは、自宅から職場までの距離によって算定されます。
その場合の距離は直線距離が採用されるのが一般的です。
最近では地図アプリなど簡単に距離が計測できるツールを活用する企業が増え、より詳細で正確な交通費が支給できるようになりました。
3. 労働基準法で通勤手当の上限は規定されていない
通勤手当に関しては労働基準法で一切規定されているものがないため、通勤手当の上限についても規定はありません。
しかし、通勤手当は場合によって所得税の課税対象となることもあるので注意が必要です。
労働基準法では通勤手当の上限は規定されていませんが、課税対象とならない非課税上限額が事実上の上限という考え方もできるでしょう。
3-1. 通勤手当の非課税上限額に注意
通勤手当を支給するにあたっては、その内容によって通勤手当が課税対象となるため注意が必要です。
公共交通機関やマイカー通勤で有料道路を利用した分について1ヵ月15万円までは非課税ですが、それを超えた分は所得税の課税対象となります。
距離によって支給額が算定される場合は、片道の通勤距離によって非課税上限額が変わります。
通勤距離(直線距離・片道) | 非課税上限額 |
2km未満 | 0円(全額課税) |
2km~10km未満 | 4,200円 |
10km~15km未満 | 7,100円 |
15km~25km未満 | 12,900円 |
25km~35km未満 | 18,700円 |
35km~45km未満 | 24,400円 |
45km~55km未満 | 28,000円 |
55km以上 | 31,600円 |
また、非課税となった分についても社会保険料を計算する際は所得として計上する必要があります。
テレワーク推進により通勤手当の減額分を在宅勤務手当とした場合、在宅金手当は課税対象となります。しかし、一部非課税とする指針「在宅勤務に係る費用負担に関するFAQ(源泉所得税関係)」を国税庁が発表していることもあり、今後変更となる可能性もあるでしょう。
参考:在宅勤務に係る費用負担に関するFAQ(源泉所得税関係)|国税庁
3-2. 出張などの交通費は非課税
通勤手当と交通費は同じように見えて全く違います。
まず、通勤手当には所得税の非課税分には上限額が設定されています。勘定科目も人件費です。
一方で交通費は従業員が営業や出張など業務中の移動にかかった費用で、勘定科目は出張費や旅費交通費になります。
交通費は従業員が立て替えてから後日会社に請求・精算をするのが一般的で、どれだけかかっても従業員の所得税について非課税です。
4. 労働基準法には通勤手当に関する規定はない
通勤手当は従業員が出勤するのに必須なものであり、ほとんどの企業が支給していることから労働基準法に何らかの規定があると考える人は多いでしょう。
しかし、実際は通勤手当について労働基準法では支給基準や上限額などの規定は一切ありません。通勤手当の支給は義務ではなく、それぞれの企業が自由に規定できるものです。
また、同じ業務をおこなっているにも関わらず、正規社員と非正規社員の通勤手当に差額が生じることは同一労働同一賃金制度によって禁止されています。
通勤手当の支給額によっては一部所得税の課税対象となるケースもあります。労働基準法では上限額について何も規定されていませんが、非課税上限額を超えた通勤手当の支給は従業員の税額負担が増えることにつながるため、慎重な判断が求められるでしょう。
企業内のトラブルを防ぐためにも、通勤手当を支給する場合は事前に就労規則や賃金規定などで支給についての詳細を定めることをおすすめします。
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