労働基準法に退職金の規定はある?金額の決め方を詳しく解説
更新日: 2024.8.26
公開日: 2021.10.4
OHSUGI
労働基準法には退職金に関する取り決めがありません。従って退職金は支払われなかったり、額に差があったり、企業によって差があります。ここからは労働基準法による退職金の規定や、支給額、金額の決め方などに関して詳しく解説していきます。
▼そもそも労働基準法とは?という方はこちらの記事をまずはご覧ください。
労働基準法とは?雇用者が押さえるべき6つのポイントを解説
労働基準法では、従業員が退職を申し出て2週間が経過すれば、雇用契約が終了するとされていますが、これに基づき会社独自のルールを定める場合もあります。
そこで今回は、労働基準法に定められた退職のルールから退職届のフォーマット、退職に際してよくあるトラブルの対処法まで網羅的に解説しています。
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目次
1. 労働基準法に退職金の規定はある?
労働基準法には退職金の規定が定められていません。支給するかどうかは企業の就業規則によって異なります。
ここでは労働基準法と退職金の関係性を詳しく解説していきます。
1-1. 労働基準法には退職金の取り決めがない
労働基準法には退職金の取り決めがないので、企業の支払義務もありません。
退職金を設定するかも企業が自由に定めて良いことになっており、最低賃金法によって定められる賃金とは異なり、額も企業が支払える範囲の額を設定できます。
1-2. 退職金がある企業とそうでない企業の違い
退職金が支払われる企業の見分け方は、企業ごとに定められる「就業規則」がポイントになります。
労働基準法89条には就業規則の「作成及び届出の有無」があり、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法ならびに退職手当の支払い時期に関する事項」を作成する必要があると明記されています。
また就職・転職の際は、賃金や手当の下あたりに退職金に関しての額や条件が記載されている可能性があります。
関連記事:労働基準法第89条で定められた就業規則の作成と届出の義務
1-3. 企業が退職金を設定している理由
企業が退職金を設定する理由には、以下が挙げられます。
- 労働者のモチベーション向上
- 良質な人材の確保
- 労働者の長期雇用
企業としては長く働ける優秀な人材を求めているので、退職金を設定して長期間努力し続けてくれる人材が欲しいと願って設定する企業が多いようです。
平成30年度に厚生労働省がおこなった「退職給付制度(一時金・年金)」の調査によると、約80.5%の企業が退職金を設定していました。
また退職金の給付は企業の規模によって異なります。次のとおり、企業規模が大きいほど退職金の給付率が増えるというデータも出ています。
- 社員1000人以上:92.3%
- 300~999人:91.8%
- 100~299人:84.9%
- 30~99人:77.6%
また産業別にみると、産業間でも退職金に以下のような差があるのが特徴です。
- 複合サービス業:96.1%
- 電気・ガス・水道・熱供給業:92.2%
- 建設業:87.5%
退職金の有無を悩んでいる方は、直近の退職金支給率や、産業別、企業規模別のデータを確認してみてください。
1-4. 退職金を出す勤続年数の最低のラインは?
退職金制度を自社で設定する場合、就業規則に退職金の規定を明記する必要があることから、勤続年数の最低ラインについても事前に決めなくてはいけません。
厚生労働省が発表している平成30年就労条件総合調査の資料によると、退職金の受給に必要な勤続年数を3年以上としている企業が最も多く、会社都合の場合で42.2%、自己都合の場合で56.2%となっています。
勤続年数の最低ラインは会社側で自由に決めることができますが、一般的には、勤続年数3年以上を退職金の受給資格として設けている企業が多いようです。
1-5. 退職金の請求権の時効は5年間
第百十五条 この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
引用:e-Gov「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」
労働基準法第115条において、賃金(退職金)の請求権の時効は「5年間」と規定されています。
もし退職した元従業員から退職金の請求を受けた場合は、退職日を確認し、5年以上たっていないのか確認した上で、支払いをしなければならないので注意が必要です。
2. 退職金の支払い義務が生じるケース
労働基準法には退職金に関する条文はないため、基本的には退職金の支払い義務は生じません。ただし、下記の2つのケースは、退職金の支払い義務が生じるので、自社において退職金の支払い義務が生じるか理解していない方は、以下のケースを理解した上で確認してみてください。
2-1. 就業規則に明記されているケース
「1-2.退職金がある企業とそうでない企業の違い」でも解説しましたが、就業規則に明記されている場合は、支払い義務が生じます。雇用契約書や労働契約書に退職金に関する取り決めがきちんと書かれている場合も同様になります。
退職金を就業規則等に規定されている場合は、そちらに退職金の支給条件や計算方法などが明記されているはずなので、確認してみましょう。
2-2. 慣例的に退職金が支給されてきたケース
上記のケース以外で、就業規則に明記されていなくとも、毎年退職者のほぼ全員に退職金が支払われているという慣例があった場合、「今年だけ支払われなかった」や「特定の正社員だけ支払われなかった」というような状況があると、退職金の支払い義務が生じる可能性があります。
ただしこの場合においては、過去の退職金支給実績が証明できる証拠が必要です。
また、求人票やリクルート用のパンフレットなどに退職金の支給について明記していた場合も、従業員側から退職金の請求を受ける可能性があるため、注意しなくてはいけません。
3. 就業規則に退職金の記載がない場合の対応
退職金の支払いについて就業規則に記載がないにもかかわらず、退職者から退職金の請求を受けた場合の正しい対応ですが、退職金は法的に定められていないため、請求を受ける必要はありません。
労使トラブルに発展することを恐れて、「退職金は支払った方がいいのではないか」というように考えてしまうかもしれませんが、退職金の取り決めは使用者が決められることを覚えておきましょう。
4. 退職金制度の種類
従業員に退職金を支給するための手段である退職金制度は、大きく分けて4種類あります。それぞれで支給方法やメリットが異なるため、退職金の導入に携わる担当の方は、特徴を把握した上で自社に合う方法を検討するようにしましょう。
①退職一時金制度:従業員の退職時に一括で退職金を支給する制度
②確定給付企業年金制度:従業員の退職後、一定期間にわたって退職金(年金)を支給する制度
③中小企業退職金共済:従業員が退職後、積みたてた退職金が共済機構から支払われる制度
④企業型確定拠出年金制度(企業型DC):企業が積み立てた掛金を従業員が年金資金として運用する制度
退職金制度は、従業員が安心して働ける環境づくりにおいて重宝されます。詳しく知りたい方は関連記事よりご確認ください。
5. 労働基準法による退職金を計算する際のポイント
労働基準法には退職金に関する取り決めがないため、退職金の額は企業それぞれで自由に設定できます。
よって退職金の額は明確な基準がないので、退職金の平均額や、就業規則に定める際の注意点をご紹介します。
5-1. 就業規則に退職金の計算方法を定める
就業規則に退職金を定める場合は、労働基準法89条により次の3点を明記しなければいけません。
- 退職金を支払う社員の範囲
- 退職金の額を決める決定・計算方法
- 退職金の支払い時期
なかでも社員の範囲や、支払額が争点となることが多いので、詳細を明記するように心がけましょう。
5-2. 退職金の平均額とは?
退職金の額は企業の規模や学歴によって異なります。ここでは大企業の平均値を令和3年に厚生労働省がおこなった「賃金事情総合調査」の結果から、中小企業を令和4年におこなわれた東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」の結果からお伝えします。
大企業の場合
- 大学卒:2,230万4,000円(22歳で入社)
- 高校卒:2,017万6,000円(18歳で入社)
※どちらも定年退職まで働いた場合
中小企業の場合
- 大学卒:1,091万8,000円
- 高校卒:994万円
※どちらも卒業後すぐに入社し、定年退職した場合
このほかにも産業によって平均額は異なりますが、退職金を定めている企業は定年まで勤めると1,000万円前後給付されることが多いようです。
当然勤続年数が多いほど退職金も多いので、すぐに退社したり、自己都合で退社したりなどの場合は、給付額が少なくなっているようです。
参照:中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)|東京都産業労働局
6. 退職金は労働基準法に明記されていないが就業規則に記す場合は支払義務が発生する
労働基準法には退職金に関する取り決めがありません。そのため支給は企業側が自由に決めて良いことになっており、退職金を支給しない企業も少なくありません。
ただし就業規則に退職金の支給を明記した場合は、労働基準法が適用されて支払義務が発生します。就業規則に記載する場合は、対象の社員、退職金の計算方法、支払時期の3点がポイントです。
退職金は少額でも社員のモチベーション向上や長期雇用につながる可能性があるので、余裕がある企業は検討してみてはどうでしょうか。
労働基準法では、従業員が退職を申し出て2週間が経過すれば、雇用契約が終了するとされていますが、これに基づき会社独自のルールを定める場合もあります。
そこで今回は、労働基準法に定められた退職のルールから退職届のフォーマット、退職に際してよくあるトラブルの対処法まで網羅的に解説しています。
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