住民税特別徴収の納付方法やパターン別の対応を解説
更新日: 2022.12.8
公開日: 2021.11.15
目黒颯己
住民税は前年の1~12月分が翌年に課税され、支払い義務が発生する税金です。特別徴収の場合は、6月~翌年5月にかけて納付するようになっています。基本的に事業主には特別徴収の義務が課せられますが、特例によって特別徴収をしなくても良いケースがあるので、注意が必要です。
ここでは住民税特別徴収の仕組みや流れ、特例やパターン別の対応方法を見ていきましょう。
▼給与計算における住民税の記事はこちら
給与計算における住民税とは|住民税の計算・納付・注意点について解説
目次
1.住民税特別徴収とは
住民税特別徴収とは、個人の住民税を給与支払者(事業主)が給与所得者に代わって給与から徴収・支払いを行う制度です。
所得税の源泉徴収と同様の仕組みで、給与所得者は事前に所得税と住民税が徴収されているため、自らが手続きを行って税金を支払う必要はありません。
地方税法第321条の4、および各市町村の条例規定によって、給与を支払う事業者は原則として特別徴収義務者となり、個人住民税を特別徴収することが義務付けられているのです。
2.住民税特別徴収の納付手続きと流れ
住民税特別徴収の手続きと流れは以下の通りです。
2-1.給与支払報告書を提出する
前年1~12月までの1年間に各従業員へ支払った給与支払額を「給与支払報告書」にまとめて市区町村に提出します。この給与支払報告書が住民税を算定する基準です。
2-2.特別徴収税額の計算と通知
給与支払報告書を受け取った各市区町村は、それぞれの住民税額を計算して「特別徴収税額の決定通知書」を毎年5月ごろに事業主宛てに送付します。事業主は通知を受け取ったら、記載されている内容や金額が正しいかどうかをチェックしましょう。
2-3.住民税を徴収する
通知された従業員ごとの住民税は、月額の給与計算に反映させて給与から天引きします。毎年5月に通知された分は、翌月の6月から反映させなければいけません。
2-4.給与の支払い
給与支払額より住民税分を天引きし、その他にも社会保険や所得税などを引いたうえで残りの額を従業員に支払います。
2-5.税金を納入する
給与から天引きしている住民税を、給与支払いの翌月10日までに納付します。金融機関や市区町村の窓口で納付可能です。
3.住民税特別徴収の特例
住民税特別徴収は地方税法で定められている義務ですが、会社や従業員に事情がある場合は、特別徴収から普通徴収への切り替えが可能です。
・会社の総従業員数が2名以下
・常時2名以下の家事使用人に対してのみ給与を支払っている
・他の会社で特別徴収を行っている
・5月31日までに退職する予定がある
・給与が毎月支払われていない
・給与が少なく特別徴収ができない
これらの理由がある場合「個人住民税の普通徴収の切替理由書」を「給与支払報告書」とともに1月31日までに市区町村へ提出しましょう。
4.特別徴収と普通徴収の違い
特別徴収をしなくても良い場合でも、特別徴収をしたほうが良いのか、それとも普通徴収が良いのかで悩むことがあります。それぞれの違いをチェックして検討しましょう。
4-1.徴収の回数
特別徴収は、原則として毎月の給与から住民税を差し引きます。
普通徴収は年4回であるのに対して特別徴収は年12回であるため、納税義務者の1回当たりの負担が少なくて済むでしょう。
1年間の住民税が30万円だった場合、特別徴収なら1ヶ月25,000円の住民税が給与から差し引かれます。一方普通徴収だと年に4回、6月・8月・10月・1月となり、1回あたりの税額が多くなるでしょう。実際の納税額は変わらないのですが、1回あたりの税額が多いことで負担が大きく感じてしまうのです。
4-2.業務の負担
住民税を特別徴収することで業務量が増えるのでは…という不安を抱えている事業主は多いです。しかし、住民税の特別徴収は所得税と異なり、税額の計算や年末調整の必要はありません。計算は給与支払報告書を確認した市区町村が行います。住民税額が各市町村から通達されたら、その税額を毎月の給与から徴収し、翌月10日までに金融機関を通じて市区町村に納入するだけです。
また特別徴収をすると従業員が金融機関に出向いて自ら納税する手間も省くことができます。従業員の手間を軽減する、という意味でも特別徴収はメリットが大きいです。
4-3.徴収方法
特別徴収は給与から差し引いて払い込むため、支払い忘れるという心配はありません。普通徴収でも納税義務者がきちんと管理できていれば良いのですが、中には支払いを忘れてしまったり住民税分の給与も別のことに使ってしまったりする可能性があります。
普通徴収は納付期限までに納付ができないと、住民税の滞納とみなされるでしょう。督促が行われ、それでも納付されない場合は滞納者の財産が差し押さえられてしまうのです。
会社としても従業員が滞納者となってしまうことで様々なデメリットが生じる恐れがあります。
5.住民税特別徴収の注意点
住民税特別徴収は、給与支払報告書を提出することで市区町村が税額を計算してくれますが、その通知が正確だとは限りません。
通知を受け取ったら、徴収額や内容に間違いがないかどうか、特別徴収対象外の人は含まれていないかなどを確認しましょう。
またチェックしてミスが見つかった場合は、すぐに市区町村の窓口に連絡を入れてください。会社側で勝手に訂正すると、一部未納になってしまうことがあります。
その他にも事務手続きが遅れていたり、引っ越し・転勤で従業員の住所が変わったりすると5月に通知が届かないケースもあるので、なかなか届かないときは市区町村に問い合わせなければなりません。
6.住民税特別徴収のパターン別納付対応
住民税の特別徴収にあたり、様々な事情でどう対応するべきかわからないというケースも多々発生します。ここでは住民税特別徴収のパターン別納付対応を見ていきましょう。
6-1.社員が入社した
入社した社員が普通徴収だった場合、特別徴収を行うためには特別徴収切替届出書を市区町村に提出する必要があります。入社する時期によりますが、すでに納付期限を過ぎている税額は切り替えられないため、社員が個人で納付しなければなりません。社員が特別徴収されていると勘違いしてしまう恐れがあるので、会社側から通知しておくと良いでしょう。
また中途入社で特別徴収を引き継ぐ場合は、前の会社から届く異動届出書があれば転勤・転職の該当部分に追加で記載し、市区町村に届け出るだけで手続きは完了です。社員が勤めていた前の会社から異動届出書が送られてこない場合は、普通徴収であった場合と同様の流れで切り替えましょう。
6-2.社員が退職した
退職した社員が再就職した場合、翌月10日までに転職先に対して給与所得者異動届出書を送りましょう。そのまま特別徴収を引き継ぐことができます。
一方で退職したものの再就職をしない、もしくは再就職が決まっていない場合は、退職した月によって取り扱いが異なります。
・1~4月:残りの分を一括徴収
・5月:特別徴収(通常通り)
・6~12月:翌月より普通徴収
6~12月に退職した場合、退職金を超えない範囲であれば本人の希望によって一括徴収が可能です。
また退職時の退職所得で、退職所得控除を超える分は住民税が課税されます。従業員が退職する際は退職所得の課税に関しても気を付けましょう。
6-3.休職や転勤をした
従業員の転職によって納税地が変更になったり、休職によって給与が発生しなくなった場合は、給与所得者異動届出書の該当欄に記入し、市区町村の窓口に提出します。
休職となるとまとまった期間で給与が発生しなくなるので、特別徴収の取り扱いは退職時と同様です。残りを給与から一括徴収か、納税者本人が普通徴収で納めるかのどちらにするかを選択しましょう。
7.住民税特別徴収の通知を受け取ったら確認を忘れずに
住民税は会社が従業員の分を天引きして代わりに納付する、特別徴収が基本です。住民税額は市区町村が決定するため、会社側の負担はそれほどありません。
とはいえ、会社側は通知が届いたら内容が間違っていないかどうかをしっかりと確認する必要があります。
また事情によっては特別徴収に当てはまらないケースがあるため、特例に該当するかどうかを確かめたうえで特別徴収を行いましょう。
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