労働者派遣法第30条の4第1項とは?その内容や注意点を解説
更新日: 2023.9.1
公開日: 2021.11.25
YOSHIDA
2020年4月1日に改正された労働者派遣法では、第30条の4第1項が新たに追加されました。
労働者派遣法第30条の4第1項の追加は、派遣労働者の同一労働同一賃金を目的としています。派遣労働者と一般労働者の賃金や処遇の差をなくし、働きやすい環境を整えられることがメリットです。
今回は、労働者派遣法第30条の4第1項の内容と、派遣元事業主が注意すべきポイントを解説します。
▼そもそも労働者派遣法とは?という方はこちらをお読みください。
労働者派遣法とは?その内容や改正の歴史を詳しく紹介
目次
1.労働者派遣法第30条の4第1項とは?
労働者派遣法第30条の4第1項とは、2020年4月1日に施行された条文です。派遣労働者の賃金や労働条件について、派遣元事業主がするべき対応の基準が記載されています。
まずは、労働者派遣法第30条の4第1項の原文を確認してみましょう。
派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(第四十条第二項の教育訓練、同条第三項の福利厚生施設その他の厚生労働省令で定めるものに係るものを除く。以下この項において同じ。)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条の規定は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用しない。
上記の条文には、協定に定めるべき項目が記載されています。大まかに挙げると、次の項目があります。
- 協定が適用される派遣労働者の範囲
- 同業の一般労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金額
- 派遣労働者の職務の成果や能力、意欲の向上があった場合の賃金改善
- 派遣労働者の賃金決定には職務内容や成果を公正に評価して行うこと
- 派遣労働者の待遇と派遣元事業主の労働者との待遇に差がないこと
- 派遣労働者に対する教育訓練の実施
つまり、協定で定めた派遣労働者に対し、同種の一般労働者の平均的な賃金と同等以上の賃金を設定し、能力や成果に応じた賃金改善を公正な評価で行います。賃金だけでなく待遇面でも、派遣元労働者と同等の対応葉求められるとの意味です。
2.労働者派遣法第30条の4第1項と第30条の3との関係
労働者派遣法第30条の4第1項は、同法第30条の3と深く関係しています。それぞれの違いを次の表にまとめました。
派遣元事業主は、賃金決定方式に第30条の4の労使協定方式か、第30条3の派遣先均等・均衡方式かを選択できます。
派遣先均等・均衡を選んだ場合は、派遣先事業主から同種の一般労働者の平均賃金に関する情報提供義務が生じます。
一方、労使協定方式を選んだ場合、世間一般の同種労働者の賃金に合わせて派遣労働者の賃金を決定するため、派遣元事業主からの情報提供は必要ありません。
労働者派遣法第30条の4第1項が追加される前は、派遣先均等・均衡方式しか選べなかったため、派遣労働者は派遣先が変わるたびに賃金が変更されていました。労働者派遣法第30条の4第1項の施行により、派遣元事業主の事務手続きの簡素化だけでなく、派遣労働者の賃金安定が実現されました。
また、2020年の労働者派遣法の改正では、派遣元事業主には雇い入れ時と派遣時に、労使協定方式あるいは派遣先均等・均衡方式を説明する義務が課せられています。
関連記事:労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定とは?
3.労働者派遣法第30条の4第1項のメリット
労働者派遣法第30条の4第1項は、派遣労働者の処遇を改善するだけでなく、派遣元事業主や派遣先事業主にとってもメリットがあります。
ここでは、労働者派遣法第30条の4第1項のメリットを2つ紹介します。
3-1.書類を簡略化できる
労働者派遣法第30条の4第1項の改正は、派遣先事業者との書類のやり取りが簡略化されたことがメリットです。
従来、労働者派遣法第30条3により、派遣先事業主は派遣先労働者の賃金情報を書面にして派遣元事業主へ通知する必要がありました。均等・均衡方式では書類が多くなるため、事務手続きが煩雑になります。
しかし第30条の4が追加されて労使協定方式を選べるようになったことで、派遣先労働者の賃金を知る必要がなくなったため、手続きが簡略化されました。
派遣労働者の労働先が変わっても、派遣事業先の賃金情報を入手し直す必要がなく、大幅な簡略化につながりました。
3-2.派遣先によって賃金を変えなくてよい
派遣労働者の派遣先が変わっても、賃金変更しなくてよいことも、労働者派遣法第30条の4第1項のメリットです。
第30条の3では、派遣労働者の賃金を派遣先労働者と同等にするため、派遣先が変わるたびに賃金変更が行われていました。しかし、労使協定方式では派遣先によって賃金を変える必要がなく、派遣先の要望に沿った派遣料金を設定しやすくなります。
また派遣労働者にとっても、派遣先によって賃金が変わることはデメリットでもありました。労働者派遣法第30条の4第1項によって、賃金が安定しやすくなります。
4.労働者派遣法第30条の4第1項に関する注意点
2020年の労働者派遣法の改正によって、新たに追加された第30条の4。改正で労使協定の締結や決定事項の記載など、注意すべきことがいくつかあります。
ここでは、労働者派遣法第30条の4第1項の改正で、気を付けたいポイントを3つ解説します。
4-1.過半数代表者の選出
労働者派遣法第30条の4第1項では、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、労働者の過半数を代表する者と労使協定を締結する必要があります。
過半数の代表者の条件は、次のとおりです。
- 労働基準法第41条第2項で定められる管理監督者ではない
- 労働者の中から民主的な方法で選出された者
あくまでも労働者側の立場で労使協定を結ぶ者との位置付けのため、派遣元事業主の意向で選ばれた者は不適です。
4-2.労使協定事項の決定
労働者派遣法第30条の4第1項を実行するには、労使協定の事項を決定する必要があります。策定事項は次のとおりです。
- 労使協定の適用範囲
- 賃金の決定方法
- 賃金決定の基になる評価方法
- 賃金以外の待遇
- 教育訓練の実施方法や内容
労使協定のイメージは、厚生労働省で公開されています。
参照:労働者派遣法第 30 条の4第1項の規定に基づく労使協定(イメージ)|厚生労働省
4-3.行政機関への報告
労使協定を締結したら、派遣元事業主は期日までに行政機関へ届出をしなくてはなりません。
毎年6月30日期限の事業報告書に、労使協定の複写を添付する必要があります。締結した労使協定の書面は、少なくとも3年間保管しましょう。
5.労使協定を締結して職場環境を整えよう
労働者派遣法第30条の4第1項は、同一労働同一賃金を目的として施行されました。派遣労働者の賃金や処遇を一般労働者と同等以上に設定し、派遣労働者を守るための法律です。
派遣元事業主は、労働組合あるいは、労働者の過半数を代表する者との労使協定を締結する必要があります。締結した労働協定は、事業報告書と一緒に提出が義務付けられています。
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