【社会保険の加入手続き】事業所・従業員の加入要件、必要書類、電子申請の流れを解説
更新日: 2026.5.29 公開日: 2021.10.21 (特定社会保険労務士)

事業所や従業員は、要件を満たすと社会保険に加入する必要があります。しかし加入には手続きが必要で、自動で適用されるわけではありません。
また、2025年6月に成立した年金制度改正法により、2026年10月以降は短時間労働者の加入対象が段階的に拡大される見通しです。今後は、従来以上に加入判定・手続き漏れへの注意が求められます。
本記事では、事業所や従業員を社会保険に加入させるときの手続きや必要書類、電子申請の流れまで、人事・労務担当者が入社当日から迷わず動けるよう、フローに沿った対応を詳しく説明します。加入要件やポイントを正しく押さえ、必要な手続きをミスなくスムーズに進めましょう。
なお、この記事でいう社会保険は健康保険や介護保険、厚生年金保険を指します。労災保険や雇用保険など、労働保険の手続きは関連記事をご覧ください。
関連記事:社会保険とは?企業や従業員の加入条件や手続き方法、適用拡大など注意点を解説
関連記事:労働保険とは?加入条件・加入義務をわかりやすく解説
目次
従業員の入退社、多様な雇用形態、そして相次ぐ法改正。社会保険手続きは年々複雑になり、担当者の負担は増すばかりです。
「これで合っているだろうか?」と不安になる瞬間もあるのではないでしょうか。
とくに、加入条件の適用拡大は2027年以降も段階的に実施されます。
◆この資料でわかること
- 最新の法改正に対応した、社会保険手続きのポイント
- 従業員の入退社時に必要な手続きと書類の一覧
- 複雑な加入条件をわかりやすく整理した解説
- 年金制度改正法成立によって、社会保険の適用条件はどう変わる?
この一冊で、担当者が押さえておくべき最新情報を網羅的に確認できます。煩雑な業務の効率化にぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 社会保険加入手続きの全体像


社会保険の加入手続きは、大きく次の2つの場面で発生します。
- 事業所を新規に加入させる場面:会社を設立したとき、個人事業所が適用要件を満たしたとき、任意適用事業所として加入するとき
- 従業員を加入させる場面:新入社員が入社したとき、パート・アルバイトが要件を満たしたとき、雇用条件が変更されたとき
社会保険の手続きは、まず事業所の加入が前提となり、そのうえで個々の従業員の加入手続きを進めます。
実務上、人事・労務担当者が日常的に対応するのは「従業員の加入手続き」が中心ですが、会社設立直後には、両方の手続きが必要になります。また、事業所を新たに設置した場合なども、状況に応じて手続きが必要になることがあります。
2. 社会保険の加入手続きに必要な書類と提出先


社会保険には、事業所を新規加入させる手続きと、従業員を加入させる手続きの2種類があります。それぞれの手続きと必要書類は、次の表のとおりです。
|
対象 |
手続き |
必要書類 |
|
事業所 |
新規適用届 |
<法人の場合>
<個人事業所の場合>
|
|
任意適用申請書 |
|
|
|
従業員 |
被保険者資格取得届 |
原則なし(マイナンバー記載が必要) |
|
被扶養者異動届 |
|
ここでは、それぞれの手続きの内容を解説します。
2-1. 事業所の加入手続き
従業員を社会保険に加入させるには、前提として事業所が社会保険に加入している必要があります。事業所の社会保険加入は、「強制的に加入が必要になる場合」と「事業主や従業員の意向で加入する場合」で手続きが異なります。
2-1-1. 強制的に加入が必要になる場合(新規適用届)
強制適用事業所に該当することとなった日から5日以内に、「新規適用届」を年金機構へ提出します。法人と個人事業所の場合で、添付する書類が異なります。
- 法人の場合:登記簿謄本:履歴事項全部証明書、法人番号指定通知書のコピー
- 個人事業所の場合:事業主の世帯全員の住民票(個人番号の記載がないもの)
また、保険料を口座振替で納付する場合は、保険料口座振替納付(変更)申出書も併せて提出すると良いでしょう。
2-1-2. 事業主や従業員の意向で加入する場合(任意適用申請書)
任意適用事業所として社会保険に加入する場合は、「任意適用申請書」を日本年金機構へ提出します。添付書類として次の書類を準備しましょう。
- 任意適用同意書(従業員の1/2以上の同意を得たことを証する書類)
- 事業主世帯全員の住民票(個人番号の記載がないもの)
- 次の公租公課の領収書すべて(原則1年分)
- 所得税
- 事業税
- 市町村民税
- 国民年金保険料
- 国民健康保険料
任意適用申請書を提出する場合も、保険料の口座振替納付を希望する場合は、保険料口座振替納付(変更)申出書を併せて提出します。
なお、法人はすべて強制適用事業所となるため、任意適用申請はできません。この手続きは個人事業所のみが対象です。
2-2. 従業員の加入手続き
従業員を社会保険に加入させる場合は、「被保険者資格取得届」を提出します。
原則として添付書類は不要ですが、マイナンバー(または基礎年金番号)の記入が必要です。
2-2-1. 扶養家族がいる場合
従業員に被扶養者となる親族がいる場合は、被保険者資格取得届に加えて「健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金 第3号被保険者関係届)」を提出します。
被扶養者異動届では、従業員本人だけでなく被扶養者となる親族の情報も必要です。また、添付書類として次の書類が必要になります。
- 続柄を確認できる書類(戸籍謄本、住民票など)
- 収入要件確認のための書類(課税証明書、年金振込通知書など)
- 仕送りの事実と仕送り額の確認のための書類(別居している場合)
- 内縁関係の確認のための書類(該当する場合)
ただし、続柄・収入要件の書類については、事業主が続柄に相違がなく、所得税法上の控除対象配偶者または扶養親族であることを確認しているときは、不要となることもあります。
なお、健康保険組合に加入する会社では、被扶養者が配偶者で、20歳以上60歳未満の場合は、別途「国民年金 第3号被保険者関係届」を日本年金機構に提出しなければなりません。
関連記事:国民年金第3号被保険者関係届とは?定義や提出が必要なケース・手続きを解説
2-3. 従業員から回収する書類
従業員の加入手続きをスムーズに進めるため、入社時には次の書類を従業員から回収しておきましょう。
|
書類 |
目的 |
|
マイナンバーカードのコピー、または個人番号が記載された住民票 |
資格取得届への個人番号記載 |
|
基礎年金番号通知書(または年金手帳) |
基礎年金番号の確認(マイナンバーで代用可能) |
|
被扶養者の続柄・収入を確認できる書類(該当者のみ) |
被扶養者異動届の添付書類 |
マイナンバーは社会保険・雇用保険・税の手続きで共通して必要となるため、入社時にまとめて回収しておくと二度手間を防げます。なお、年金手帳は2022年4月に廃止され、現在は「基礎年金番号通知書」の交付に変更されています。
2-4. 提出期限・提出先
社会保険の加入手続きは、事実発生から5日以内に提出しなければなりません。「事実発生」とは、事業所の新規適用であれば強制適用事業所に該当した日、従業員の資格取得であれば入社日など加入対象要件に該当した日を指します。
提出先は手続きの内容と加入する健康保険の種類により異なります。
|
手続き |
提出先 |
|
新規適用届/任意適用申請書 |
管轄の年金事務所または事務センター |
|
被保険者資格取得届(協会けんぽの場合) |
管轄の年金事務所または事務センター |
|
被保険者資格取得届(健康保険組合の場合) |
日本年金機構(厚生年金分)+健康保険組合(健康保険分) |
|
被扶養者異動届+第3号被保険者関係届(協会けんぽの場合) |
管轄の年金事務所または事務センター |
|
被扶養者異動届(健康保険組合の場合) |
健康保険組合 |
|
第3号被保険者関係届(健康保険組合の場合) |
管轄の年金事務所または事務センター |
なお、雇用保険の被保険者資格取得届は提出期限が「資格取得日の属する月の翌月10日まで」と社会保険とは異なるため、混同しないよう注意が必要です。
3. 従業員を社会保険に加入させる手続きの流れ


従業員を社会保険に加入させる場合、次の5つのステップで手続きをおこないます。
- 従業員が加入対象か確認する
- 必要書類を従業員に依頼する
- 資格取得届・被扶養者異動届を作成する
- 資格取得届・被扶養者異動届を提出する
- 決定通知を確認する
3-1. 従業員が加入対象か確認する
最初に、入社した従業員が社会保険の加入要件に該当するか確認します。
無期雇用の正社員はほとんどの場合、加入要件に該当しますが、パート・アルバイトで労働時間や出勤日数が少ない従業員が加入対象になるかは労働条件次第です。次のチェックポイントで判定しましょう。
【パート・アルバイトの加入判定チェックリスト】
- 週の所定労働時間や月の所定労働日数が正社員の4分の3以上か
- 4分の3未満でも、特定適用事業所の場合は次の4要件をすべて満たすか
-
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 月の所定内賃金が88,000円以上(撤廃予定)
- 2ヵ月を超える雇用見込がある
- 学生でない(休学中、夜間学生、通信制課程の学生などは除く)
- 加入手続きが不要となる要件(日雇い・4ヵ月以内の季節的契約など)に該当しないか
社会保険の加入条件は、6章以降で詳しく解説しています。
3-2. 必要書類を従業員に依頼する
従業員を社会保険に加入させる必要があると判断できたら、必要書類を依頼します。入社日が決まった段階で早めに依頼することで、5日以内の提出期限に余裕を持って間に合わせられます。
【従業員への依頼内容の例】
入社日までに、次の書類をご提出ください。
- マイナンバーカードのコピー(または個人番号記載の住民票の写し)
- 基礎年金番号通知書または年金手帳のコピー(マイナンバーがあれば代用可)
- 前職の雇用保険被保険者証(中途入社の場合)
- 被扶養者に関する書類(該当する場合)
扶養に入れる親族がいる場合、続柄や収入を確認できる書類も必要になるため、従業員に対して事前に扶養の要件と必要書類を説明しておくとスムーズです。
なお、被扶養者の要件は「3-5. 被扶養者の要件」章、必要書類の詳細は「4-2-1. 扶養家族がいる場合」章をご覧ください。
3ー3. 資格取得届・被扶養者異動届を作成する
従業員から必要な情報や書類が揃ったら、資格取得届・被扶養者異動届を作成します。作成時に特に注意すべきポイントは、報酬月額の算出と資格確認書の要否の2点です。
【報酬月額の算出】
資格取得届の「報酬月額」欄の記載ミスは、社会保険料の徴収額に直接影響するため特に注意が必要です。報酬月額に基づいて標準報酬月額が決定され、毎月の社会保険料額に影響します。算出を誤ると後から訂正届が必要になるため、計算が正しいか必ず確認しましょう。
報酬月額に含めるもの・含めないものは次のとおりです。
▼報酬月額に含めるもの
- 基本給
- 役職手当、住居手当、家族手当、固定残業手当などの毎月支給される諸手当
- 通勤手当(複数月分を一括支給している場合は1ヵ月分に按分)
- 残業手当の見込み額(入社時点で残業水準を合理的に見込める場合)
▼含めないもの
- 年3回以下支給される賞与
- 結婚祝金、慶弔見舞金などの労働の対価ではないもの
- 大入袋などの臨時的な支給
【資格確認書の要否】
2024年12月2日以降、従来の健康保険証の新規発行は終了し、マイナンバーカードの健康保険証利用登録をした「マイナ保険証」が基本となりました。マイナ保険証を利用できない従業員(マイナンバーカードを持っていない、または健康保険証利用登録をしていない)には、代わりに「資格確認書」が交付されます。
資格取得届の提出時には、資格確認書の要否を回答する必要があり、ここにチェックをつけないと資格確認書は発行されません。資格確認書の発行を希望するか、要件を満たしているかを従業員に事前確認しましょう。
3-4. 資格取得届・被扶養者異動届を提出する
作成した届出書類を年金機構(管轄の年金事務所または事務センター)や健康保険組合へ提出します。
協会けんぽの場合は、年金機構への届出のみとなりますが、健康保険組合に加入する会社の場合、次のとおり健康保険組合と年金機構の両方に届出が必要です。
- 健康保険組合へ提出:資格取得届・被扶養者異動届
- 年金機構へ提出:資格取得届
なお、被扶養者が配偶者で、20歳以上60歳未満の場合は、国民年金の第3号被保険者に関する届出も必要です。協会けんぽに加入する会社では、被扶養者異動届と一体となっているため1枚の提出で可能ですが、健康保険組合に加入する会社では、別途「国民年金第3号被保険者関係届」を年金機構に提出しなければなりません。
必要な手続きや提出先を確認し、届出漏れがないように手続きしましょう。
関連記事:国民年金第3号被保険者関係届とは?定義や提出が必要なケース・手続きを解説
3-5. 決定通知書を確認する
届出での審査が完了すると、日本年金機構または健康保険組合から「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得確認および標準報酬決定通知書」が届きます。
通知書には、従業員の氏名や生年月日、整理番号、標準報酬月額などが記載されています。内容に誤りがないか確認し、万が一ミスがあった場合は訂正届の提出が必要です。
また、決定通知書が届いたら給与計算への反映も必要です。社会保険料の給与からの控除は、原則として資格取得日が属する月の翌月の支払給与から開始します。
例えば4月1日入社であれば、4月分の保険料は5月支払給与から控除するのが原則です(会社の給与規程により当月控除・翌月控除の扱いは異なる場合があります)。控除開始月を間違えると従業員とのトラブルや保険料精算の手間につながるため、決定通知を受け取ったタイミングで給与計算担当者と認識を合わせておきましょう。
関連記事:標準報酬月額とは?調べ方や社会保険料の算出方法について解説
4. 社会保険の加入手続き方法


社会保険の加入手続き方法には、「電子申請」と「紙申請」の2種類あります。ここでは、それぞれの申請方法と特徴を解説します。
4-1. 電子申請(オンライン申請)
社会保険の多くの手続きはe-Govを利用して電子申請が可能です。e-Govとは、デジタル庁が運営するオンライン申請のための行政ポータルサイトです。e-Govを使えば、24時間いつでも年金事務所への各種申請手続きをおこなえます。
電子申請に必要な電子証明書やGビズIDは発行まで2~3週間かかります。利用したい場合は早めに手続きを進めましょう。
なお、2020年4月以降、特定の法人は社会保険・労働保険の一部手続きについて、電子申請が義務化されています。対象となるのは、資本金・出資金または銀行等保有株式の額が1億円を超える法人や相互会社、投資法人、特定目的会社などです。該当する企業は紙申請ができないため、必ず電子申請で手続きをおこないしましょう。
電子申請義務化についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
関連記事:e-Gov(イーガブ)とは?知っておくべき電子申請義務化と使い方を解説
4-2. 紙での申請(郵送または窓口持参)
電子申請ができない場合は、指定の書式を用いて紙媒体でも手続きできます。
郵送の場合には、事務センターまたは管轄の年金事務所に送付し、窓口への提出の場合には管轄の年金事務所へ持参しましょう。届出用紙は年金機構のWebサイトからダウンロードできます。
4-3. 電子申請と紙申請の比較表
電子申請と紙申請には、それぞれ次のような特徴があります。
|
項目 |
電子申請 |
紙申請 |
|
申請時間 |
24時間いつでも可能 |
窓口は開庁時間内のみ |
|
申請場所 |
オフィスや自宅からオンラインで可能 |
郵送または窓口持参 |
|
事前準備 |
電子証明書またはGビズID(2~3週間) |
書式のダウンロードのみ |
|
添付書類 |
PDFなどでアップロード |
原本または写しを郵送・持参 |
|
公文書の受領 |
オンラインで受領 |
郵送または手渡しで受領 |
|
初期費用 |
電子証明書取得費用が発生する場合あり |
無し |
|
向いている企業 |
手続き件数が多い、DXを推進している |
手続き件数が少ない、紙運用を継続したい |
手続き件数が多い企業や、複数の事業所を抱える企業では電子申請の方が効率的です。業務標準化や属人化解消を目指す場合も、電子申請への移行を検討しましょう。
5. イレギュラーケースの加入手続き


社会保険の加入手続きのうち、複数就業・高齢従業員など、通常の入社時フローとは異なる対応が必要なケースについて解説します。
5-1. ほかの会社で社会保険に加入している従業員の取り扱い(二以上事業所勤務者)
従業員が複数の会社で働いており、ほかの会社でも社会保険に加入している場合、「二以上事業所勤務者」として、標準報酬月額が両方の会社で支給される給与の合計額をベースに算出されます。手続きの流れは次のとおりです。
- 従業員が手続きの窓口となる会社(主たる事業所)を選択
- 各社の報酬額を確認
- 従業員が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を年金機構へ提出(提出期限:事由発生から10日以内)
- それぞれの会社が負担する保険料額を、各社の報酬額に基づき年金機構が按分して決定
保険料額の決定後、年金機構から会社に通知が届きます。毎月の給与計算では通知された保険料額を徴収する必要があるため、通知は大切に保管しましょう。副業を認めている企業では、このケースに該当する従業員が増える傾向にあるため、事前に手続きフローを整備しておくことをおすすめします。
参考:複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き|日本年金機構
5-2. 70歳以上の従業員の取扱い(70歳以上被用者)
70歳以上の従業員については、「70歳以上被用者」として、厚生年金保険の被保険者資格を喪失する一方、健康保険の被保険者資格は75歳まで継続します。
【70歳到達時の手続き】
70歳の誕生日の前日に厚生年金保険の被保険者資格を喪失します。ただし、引き続き同じ事業所で同じ条件で働く場合、事業主は「厚生年金保険被保険者資格喪失届・70歳以上被用者該当届(70歳到達届)」を日本年金機構へ提出する必要があります。なお、要件を満たす場合は届出が省略できるケースもあります。
【70歳以上で新たに入社した場合】
70歳以上の方を新たに雇用し、厚生年金保険の適用要件を満たす場合は、「健康保険被保険者資格取得届」と「厚生年金保険70歳以上被用者該当届」を提出します。70歳以上被用者該当届は、在職老齢年金の支給調整のために必要な届出です。
【75歳到達時】
75歳の誕生日当日に健康保険の被保険者資格を喪失し、後期高齢者医療制度へ移行します。事業主は「健康保険被保険者資格喪失届」を提出します。
関連記事:70歳以上の従業員の社会保険を解説!必要な手続きや注意点とは
5-3. 60歳以上で退職後1日も空けず再雇用された場合(同日得喪)
定年退職後、再雇用された場合など、60歳以上の方が社会保険の資格を喪失後、同じ日に同じ会社で資格を再取得した場合(同日得喪)、次の手続きが可能です。
- 「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の提出
- 「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」の提出
再雇用により給与体系や雇用条件が変わる場合、一度資格を喪失し再取得することで、新たな給与に基づいて標準報酬月額が決まります。特に、賃金が下がるケースでは、保険料をいち早く下げるために手続きすることが多いです。
通常の資格取得届の場合、添付書類は原則不要ですが、同日得喪の場合は再雇用契約書のコピーや就業規則の定年規定部分など、退職と継続再雇用の事実を証明できる書類の添付が必要です。
参考:60歳以上の厚生年金の被保険者が退職し、継続して再雇用される場合、どのような手続きが必要ですか。|日本年金機構
6. あわせて確認!事業所の社会保険の加入条件


ここまで解説した社会保険の加入手続きを正しくおこなうためには、事業所と従業員それぞれの加入条件を理解することが欠かせません。
この章では、事業所の加入条件としておさえたい「強制適用事業所」と「任意適用事業所」について解説します。
6-1. 強制適用事業所
「強制適用事業所」とは、法律上、社会保険への加入が義務づけられている事業所です。次のいずれかに該当する場合、強制適用事業所となります。
- すべての法人の事業所(従業員数を問わない)
- 常時5人以上の従業員を雇用する個人事業所(法定17業種に限る)
法人の場合は、従業員がいない会社(代表者のみ)であっても、代表者に報酬が支払われていれば社会保険への加入が必要です。ただし、従業員を雇用しておらず代表取締役が1人のみの法人で、代表者に報酬が支払われていない場合は、社会保険の被保険者がいないため新規適用届の提出は不要となります。
一方、個人事業所の場合は、常時使用する従業員が5人未満であれば、業種を問わず強制適用事業所とはなりません。
6-2. 任意適用事業所
強制適用事業所に該当しない事業所でも、従業員の2分の1以上の同意を得て申請すれば、任意適用事業所として社会保険に加入できます。具体的には、次の事業所が任意適用事業所となる可能性があります。
- 常時5人以上の従業員を雇用しているが、法定17業種に該当しない個人事業所(農業・林業・漁業、宿泊業、飲食業、サービス業など)
- 常時使用する従業員が5人未満の個人事業所
なお、2025年6月成立の年金制度改正法により、2029年10月以降は常時5人以上を使用する個人事業所について、現在の法定17業種に該当しない業種でも強制適用の対象となる予定です。
7. 社会保険の加入対象となる従業員


事業所が社会保険に加入している場合、従業員は原則として社会保険への加入が必要です。
しかし、労働時間や雇用期間が短い場合など、一定の条件に該当する場合は社会保険の加入対象とならないケースがあります。ここでは、被保険者や被扶養者の加入要件について詳しく解説します。
7-1. 正社員・役員の場合
常時使用される正社員は、原則として全員が社会保険の加入対象です。試用期間中であっても、労務の対価として報酬が支払われている限り被保険者となります。
役員についても、労務の対価として報酬を受け取っている場合は原則として加入対象です。法人の代表取締役も、報酬を受けている限り被保険者となります。ただし、無報酬の役員は被保険者とならないため注意しましょう。
7-2. パート・アルバイトの場合
パート・アルバイトの従業員を社会保険に加入させるかどうかは、労働条件によって判定します。原則として、次の基準を満たす場合は加入対象となります。
【4分の3基準】
1日または1週の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が同じ事業所で働く正社員のおおむね4分の3以上であること
例えば正社員の労働時間が週40時間の場合、週30時間以上勤務するパート・アルバイトは加入対象となります。
なお、この4分の3基準に満たないパート・アルバイトであっても、事業所が次に説明する「特定適用事業所」に該当する場合は、別の要件で加入対象となる可能性があります。
7-2-1. 特定適用事業所の短時間労働者要件
「特定適用事業所」とは、社会保険の被保険者数が1年のうち6ヵ月以上、50人を超えると見込まれる事業所のことです。
特定適用事業所では、4分の3基準に満たない短時間労働者であっても、次の4つの要件をすべて満たす従業員は加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額所定内賃金が88,000円以上(基本給および諸手当含む)※2026年10月に撤廃予定
- 学生でない(休学中、夜間学生、通信制課程の学生などは除く)
- 2ヵ月を超える雇用見込みがある
関連記事:2025年最新版|社会保険の加入条件とは?パート・正社員別に解説
7-3. 2026年以降の適用拡大スケジュール
2025年6月13日に成立した年金制度改正法により、パート・アルバイトの社会保険加入要件が段階的に緩和されることが決定しました。今後予定されている主な改正スケジュールは次のとおりです。
|
施行時期 |
改正内容 |
|
2026年10月 |
賃金要件(月額88,000円以上)を撤廃予定 |
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2027年10月~ |
企業規模要件を段階的に撤廃(2035年までに完全撤廃の方向) |
|
2029年10月 |
個人事業所の業種要件を拡大(常時5人以上を使用する全業種が強制適用へ) |
2027年10月からの企業規模要件撤廃は、具体的には次の予定で進められます。
これらの改正により、将来的には「週20時間以上・2ヵ月超の雇用見込み・学生でない」という3要件を満たせば、企業規模や賃金額にかかわらず社会保険への加入が必要となる見込みです。
関連記事:社会保険適用拡大とは?2025年6月改正法成立後の動向や必要な対応を解説
2026年10月からの賃金要件撤廃は、中小企業の労務管理に想像以上の影響があります。さまざまなお客様と話していて感じるのは、短時間労働者を多く抱える企業ほど、「要件撤廃後の加入判定をその都度やろうとして対応が後手に回ってしまう」ということです。
対象となる企業では、雇用契約書・労働条件通知書の「所定労働時間」欄を確認し、週20時間以上の従業員リストを先に作成しておくことをおすすめします。加入タイミングで慌てず、本人への説明・社会保険料負担のシミュレーションまで済ませておくのが理想です。
また、2027年10月以降の企業規模要件の段階的撤廃も見据え、被保険者数50人前後の企業は特に要注意です。毎年の状況確認を習慣化しましょう。
7-4. 加入対象とならない従業員
雇用期間が短い従業員など、一定の要件に該当する場合、社会保険の加入手続きは不要です。しかし、当初の予定よりも雇用期間が延びる場合には加入させる必要があります。
|
社会保険の加入手続きが不要な従業員 |
被保険者に該当する場合 |
|
日雇いの人 |
1ヵ月を超えて引き続き雇用される場合 |
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雇用期間が2ヵ月以内の人 |
2ヵ月を超えて雇用されることが見込まれる場合 |
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所在地が一定しない事業所で雇われる人 |
– |
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4ヵ月以内の季節的業務に従事する人 |
4ヵ月を超える契約の場合 |
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臨時的事業の事業所(6ヵ月以内)で雇われる人 |
6ヵ月を超える契約の場合 |
特に「2ヵ月を超えて雇用されることが見込まれる場合」に注意しましょう。雇用契約が2ヵ月でも、更新の可能性がある場合は契約当初から社会保険の加入対象となります。
厚生労働省からQ&Aも出ているので、詳細な取り扱いを確認したい場合にご覧ください。
参考:年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の施行 (令和4年 10 月施行分)に伴う事務の取扱いに関するQ&A集|日本年金機構
7-5. 被扶養者の要件
従業員に配偶者や親族がいる場合、一定の要件を満たせば社会保険上の被扶養者として健康保険に加入させることができます。主な要件は次のとおりです。
【収入要件】
- 原則:年収130万円未満(かつ同居する扶養者の年収の2分の1未満)
- 60歳以上または障害者の場合:年収180万円未満
- 19歳以上23歳未満の場合:年収150万円未満(令和7年10月1日以降)
【同居・別居の要件】
- 配偶者、直系尊属(父母・祖父母など)、子、孫、兄弟姉妹は、同居・別居を問わず被扶養者になれる
- 上記以外の3親等内の親族や内縁関係の配偶者の父母・子は、同居が条件
なお、収入要件について、別居している場合は、従業員からの仕送り額が親族の収入を上回っていることが必要です。被扶養者の要件は複雑なため、提出書類や本人へのヒアリングで要件を満たしているか確認しましょう。
参考:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|厚生労働省
関連記事:健康保険被扶養者届とは?提出すべきケースや書き方・記入例を解説
8. 社会保険の加入手続きに関するよくある質問


最後に、社会保険の加入手続きに関する、よくある質問を5つ紹介します。
8-1. 社会保険の加入手続きをしないとどうなる?
社会保険の手続きが大幅に遅れた場合は「遅延理由書」の提出が求められることがあります。
また、加入義務がある従業員の加入手続きをしていないと、年金事務所から電話や文書、訪問などで加入指導がおこなわれ、最大2年分遡って手続きと保険料の納付が必要となる可能性も発生します。
悪質なケースでは罰則が科される場合もあるため、加入漏れに気づいたら速やかに「被保険者資格取得届」を提出しましょう。
関連記事:社会保険未加入での罰則とは?加入が義務付けられている企業や従業員の条件も解説
8-2. 入社前に手続きはできる?
社会保険の加入手続きは、資格取得日(入社日・使用関係が発生した日)以降におこなうのが原則で、入社前に手続きをすることはできません。
ただし、入社日が確定している場合は、事前に必要書類を従業員から回収し、届出書類の作成まで済ませておくことで、入社日当日または翌営業日にはスムーズに提出できる状態を整えられます。特に月末月初の入社が重なる時期は、5日以内の期限に間に合わせるために事前準備が重要です。
8-3. 試用期間中の従業員も加入が必要?
試用期間中の従業員であっても、社会保険の加入要件を満たしていれば加入手続きが必要です。社会保険の加入判定は、雇用形態や試用期間の有無ではなく、使用関係と労働条件で判断されます。
試用期間中であっても労務の対価として報酬が支払われ、加入要件を満たす労働時間・雇用期間であれば、入社日から被保険者となります。「試用期間が終わってから加入させよう」という対応は誤りであり、後から遡及加入が必要になるリスクがあるため注意しましょう。
8-4. 健康保険組合加入の会社で手続きに違いはある?
健康保険組合に加入している会社の場合、協会けんぽ加入の会社と比べて提出先が一部異なります。
【協会けんぽ加入の会社】
資格取得届・被扶養者異動届はすべて日本年金機構(管轄の年金事務所または事務センター)へ提出します。
【健康保険組合加入の会社】
- 健康保険組合へ提出:資格取得届・被扶養者異動届(健康保険分)
- 日本年金機構へ:資格取得届(厚生年金分)
また、健康保険組合によっては独自の書式や扶養の判定にあたっての追加書類を求められるケースもあるため、事前に加入している健康保険組合の手続き要領を確認しましょう。
8-5. 従業員が退職後も健康保険に継続加入したい場合は?
退職後の健康保険は、選択肢が主に3つあります。
- 健康保険の任意継続制度を利用する
- 国民健康保険に加入する
- ご家族の被扶養者になる
関連記事:社会保険と国民健康保険の切り替え手続きとは?タイミングや注意点を解説
健康保険の任意継続制度とは、退職や労働時間の減少などにより健康保険の資格を喪失した方が、引き続き同じ保険者の健康保険に2年まで加入できる制度です。原則として、資格喪失前と同じ保険給付を受けられますが、資格喪失後に発生した傷病手当金および出産手当金は支給されません。
また、任意継続制度を利用するためには、資格喪失日の前日(退職日)までに継続して2ヵ月以上の被保険者期間が必要です。
任意継続の申請は原則として本人がおこないます。資格喪失日(退職日の翌日)から20日以内に「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を協会けんぽや加入していた健康保険組合に提出します。
参考:健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について|全国健康保険協会
9. 社会保険の要件を理解して正しい手続きをしよう


社会保険には、事業所自体を加入させる手続きと、従業員を加入させる手続きの2種類があります。従業員を加入させる手続きのうち、特にパート・アルバイトの従業員の加入要件は複雑なため、労働条件から該当の有無を正しく判断しなければなりません。
加入が必要な従業員の届出をしていなかったり、届出が遅れたりした場合は、最大2年分の遡及加入や行政指導の対象となる可能性があります。入社時や雇用契約の変更時には、必ず社会保険の加入要件に該当するか確認しましょう。
加入手続きは従業員から提出してもらう書類がないと進められません。提出期限に間に合うよう、早めに依頼しておくと、加入手続きがスムーズにおこなえます。
また、2026年10月以降は賃金要件の撤廃、2027年10月以降は企業規模要件の段階的撤廃が予定されており、今後は短時間労働者の加入判定頻度が増える見込みです。今のうちから準備を進めておくことをおすすめします。
加入要件を押さえ正しく手続きをおこなって、従業員が安心して働ける環境をつくりましょう。



従業員の入退社、多様な雇用形態、そして相次ぐ法改正。社会保険手続きは年々複雑になり、担当者の負担は増すばかりです。
「これで合っているだろうか?」と不安になる瞬間もあるのではないでしょうか。
とくに、加入条件の適用拡大は2027年以降も段階的に実施されます。
◆この資料でわかること
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