剰余金と利益剰余金、資本剰余金の違いとは?剰余金の配当についても紹介
更新日: 2024.5.27
公開日: 2022.7.20
jinjer Blog 編集部
賃借対照表の純資産の部に表示する株主資本のうち、資本金などを除いた部分を「剰余金」と呼びます。ただし、会社法における剰余金と会計実務における剰余金は、取り扱いが少し異なるため注意しましょう。剰余金は資本金への組み入れや繰越利益剰余金への振り替えのほか、株主への配当金の原資として活用できます。この記事では、剰余金と混同されやすい利益剰余金・資本剰余金との違いや、剰余金の配当をおこなう手順を解説します。
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1. 剰余金とは?
剰余金とは、賃借対照表の純資産の部に表示する株主資本の一部です。剰余金については、剰余金の処分と呼ばれる言葉があります。剰余金の処分とは、剰余金の使い道を決めることを意味します。
株主資本は、会社法上は資本金、準備金、剰余金の3つから構成されます。ただし、会計実務上は剰余金ではなく、資本剰余金と利益剰余金として取り扱う点に注意しましょう。ここでは、剰余金の定義を会社法や会計実務の観点から説明します。
1-1. 会社法における剰余金
会社法における剰余金とは、株主資本から資本金・準備金を除いた部分を指します。決算時点の剰余金の金額は、会社法第446条第1号において定義されています。
一 最終事業年度の末日におけるイ及びロに掲げる額の合計額からハからホまでに掲げる額の合計額を減じて得た額
イ 資産の額
ロ 自己株式の帳簿価額の合計額
ハ 負債の額
ニ 資本金及び準備金の額の合計額
ホ ハ及びニに掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
つまり、「資産」「自己株式」の合計額から、「負債」「資本金・準備金」「その他の勘定科目」の合計額を差し引いたものが決算時点の剰余金に該当します。
なお、資本金とは「設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額」を指します。つまり、会社設立や増資の際に株主から調達した出資金が資本金です。また、会社法第445条第2項の規定により、資本金の2分の1までの金額の余剰金を「準備金(資本準備金)」として計上することができます。会社の持つ資産や自己株式から、この資本金・準備金、その他の負債などを差し引いたものが会社法上の剰余金です。
参考:e-Gov | 会社法
1‐2. 会計実務における剰余金
会社法における剰余金と会計実務における剰余金は、少し取り扱いが異なります。会計実務上は株主資本を「資本金」「資本剰余金」「利益剰余金」「自己株式」の4つに分類し、貸借対照表の純資産の部に表示します。
純資産 | 資本金 | ||
資本剰余金 | |||
利益剰余金 | 利益準備金 | ||
その他利益剰余金 | 任意積立金 | ||
繰越利益剰余金 | |||
自己株式 |
しかし、資本剰余金と利益剰余金を単純に足し合わせたものが会社法上の剰余金に当たるわけではありません。例えば、貸借対照表の資本剰余金には、会社法上の準備金に当たる「資本準備金」という科目が含まれています。会社法の区分で剰余金を計算したい場合は、貸借対照表の純資産の部に表示した株主資本の欄を確認し、「その他資本剰余金」「その他利益剰余金」の科目をそれぞれ足し合わせる必要があります。剰余金・資本剰余金・利益剰余金の3つの勘定科目の違いは次の項目で詳しく解説します。
2. 剰余金と資本剰余金・利益剰余金の違い
剰余金と混同されやすいのが、賃借対照表上の「資本剰余金」「利益剰余金」という勘定科目です。ここでは、剰余金・資本剰余金・利益剰余金の違いを解説します。
2-1. 資本剰余金は株主の出資金のうち資本金以外の部分のこと
資本剰余金とは、会社設立や増資の際の株主の出資金のうち、資本金として設定しなかったものを指します。資本剰余金は、さらに「資本準備金」「その他資本剰余金」の2つの科目に分けられます。
2-1-1. 資本準備金
会社設立や増資の際の株主の出資金のうち、資本金の2分の1を超えない範囲で計上する勘定科目を指します。資本準備金を株主への配当金の原資にすることはできません。
2-1-2. その他資本剰余金
自己株式の譲渡益や資本準備金を減額したときの減資差益など、資本取引によって生じた利益(損失)を指します。資本準備金と違い、株主への配当金の原資にすることができます。
2-2. 利益剰余金は企業が内部に留保した利益のこと
利益剰余金とは、企業が事業活動で得た利益のうち、株主への配当などをおこなわず内部に留保したものを指します。利益剰余金ではなく、「内部留保」という言葉が使われる場合もあります。利益剰余金は、さらに「利益準備金」「その他利益剰余金」の2つの科目に分けられます。
2-2-1. 利益準備金
会社法445条第2項の規定により、株主への配当をおこなう際に積み立てなければならない準備金を指します。利益準備金の金額は、配当金として拠出した利益剰余金の金額の10分の1以上です。法律によって積み立てが義務づけられているため、法定準備金と呼ぶ場合があります。
2-2-2. その他利益剰余金
利益準備金と違い、法律によって使途が限定されない内部留保が「その他利益剰余金」です。その他利益剰余金は、会社が独自の裁量で積み立てる任意積立金と、それ以外の繰越利益剰余金に分かれます。繰越利益剰余金に区分された金額は、翌年度に繰り越されます。
関連記事:利益準備金とは?資本準備金・利益剰余金との違いや具体的な計算方法も解説
3. 剰余金の配当
資本準備金や利益準備金などの準備金は、株主への配当金の原資に回すことができません。株主に分配できるのは、会社法上の剰余金に当たる「その他資本剰余金」「その他利益剰余金」の2つの科目のみです。剰余金の配当をおこなう流れや仕訳方法を解説します。
3-1. 剰余金の配当をおこなうために必要な手続き
その他資本剰余金やその他利益剰余金を配当金の原資にするためには、以下の会社法第454条の規定に従う必要があります。
第四百五十四条 株式会社は、前条の規定による剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 配当財産の種類(当該株式会社の株式等を除く。)及び帳簿価額の総額
二 株主に対する配当財産の割当てに関する事項
三 当該剰余金の配当がその効力を生ずる日
その他資本剰余金やその他利益剰余金を配当金の原資にするには、株主総会の決議によって上記の3つの項目を定める必要があります。
3-2. 剰余金の配当をおこなうときの仕訳方法
それでは、剰余金の配当をおこなうときの仕訳処理を実際にやってみましょう。株主総会の決議により、その他利益剰余金の繰越利益剰余金の科目から、200万円を株主に分配するケースを想定します。利益剰余金の金額の10分の1(20万円)を利益準備金として積み立てなければならないため、繰越利益剰余金は利益準備金を含めた220万円の拠出が必要です。剰余金の配当の仕訳処理は以下の通りです。借方には「繰越利益剰余金」の科目を、貸方には「未払配当金」「利益準備金」の科目をそれぞれ記載します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
繰越利益剰余金 | 2,200,000円 | 未払配当金 | 2,000,000円 |
利益準備金 | 200,000円 |
関連記事:繰越利益剰余金とは?利益剰余金との違いや実際の仕訳例を紹介
4. マイナスの繰越利益剰余金の取り扱い方法は
繰越利益剰余金にマイナスが発生した場合は「その他資本剰余金」から「その他利益剰余金」への振替が可能です。本来であれば資本剰余金と利益剰余金の混同は認められません。しかし、繰越利益剰余金にマイナスが発生した際は振替が可能です。
例えば繰越利益剰余金がマイナス100万円となり、マイナス補てんのために「その他資本剰余金」から同額を取り崩したのであれば、次のような仕訳方法になります。
借方 | 貸方 | ||
その他資本剰余金 | 1,000,000 | 繰越利益剰余金 | 1,000,000 |
マイナスの補てんは減資と呼ばれ、資本金を「その他資本剰余金」に取り崩したら、「その他資本剰余金」から補てんが認められます。それぞれ株主総会において承認が必要です。
5. 剰余金は賃借対照表の株主資本の一部!剰余金の配当方法も確認しよう
剰余金は賃借対照表の資産の部に表示する勘定科目の1つです。剰余金は会社法と会計実務で取り扱いが少し異なります。会社法における剰余金は、株主資本から資本金・準備金を除いた部分を指します。会計実務で剰余金を計算したい場合は、賃借対照表の「その他資本剰余金」「その他利益剰余金」の2つの科目を足し合わせます。資本準備金や利益準備金は株主への配当金の原資に回すことはできませんが、その他資本剰余金やその他利益剰余金は分配できます。剰余金・利益剰余金・資本剰余金の違いを知り、適切に会計処理をおこないましょう。
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