派遣労働者の残業で36協定が必要な理由や注意点
更新日: 2024.1.15
公開日: 2022.2.23
YOSHIDA
労働基準法では、使用者が労働者を1日8時間、週40時間(休憩時間除く)を超えて労働させる場合、同法第36条に基づいた協定(通称36協定)を締結することを義務づけています。
36協定は自社で正規に雇用する社員だけでなく、派遣会社から出向してきた労働者も対象となるため、派遣労働者に残業させる際は注意が必要です。
今回は、派遣労働者が残業するために36協定が必要な理由や、派遣労働者を残業させる際の注意点、派遣先が気を付けるポイントなどについて解説します。
目次
関連記事:36協定における残業時間の上限を基本からわかりやすく解説!
36協定は毎年もれなく提出しなくてはなりませんが、意外に記載項目が多く、ミスや漏れなく正確に記入するには時間がかかります。
また、当然のことながら法律で定められた時間を超えて時間外労働をさせることはできないため、届出作成に際しては上限時間を正確に把握しておく必要があります。
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1. 派遣労働者が残業するために36協定の締結が必要な理由
派遣労働者における36協定の必要性を説明する前に、まずは36協定についておさらいしておきましょう。
36協定とは、労働基準法第36条に基づく時間外及び休日の労働に関する労使間の取り決めのことです。
本来、労働者は同法第32条の規定により、休憩時間を除く1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて仕事に従事することは禁じられています。
しかし、例外として、使用者が労働組合または労働者の過半数の代表者との間で書面による協定をし、行政官庁に届け出た場合には、法定労働時間を超えて労働時間を延長または休日に労働させることが可能です。
この規定は労働基準法の対象となるすべての使用者・労働者に適用されますが、労働基準法第9条および第10条では、労働者と使用者を以下のように定義しています。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
この法律で「使用者」とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
派遣先に出向した労働者は、その事業者に正規に雇用された者ではありませんが、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」という項目に該当するため、労働基準法の適用対象となります。
そのため、派遣先で残業をおこなう場合は、同法第36条に基づいた36協定を締結する必要があります。
1-1. 派遣労働者は誰と36協定を締結する?
36協定は、労働基準法における「使用者」と「労働者」の間で締結する決まりになっています。
派遣労働者の場合、実際に働く場所は派遣先ですので、使用者=派遣先と思われがちですが、実際に雇用契約を結び、賃金の支払いをおこなっているのは派遣元(派遣会社)です。
そのため、派遣労働者が派遣先で残業する場合は、あらかじめ派遣元と36協定を締結しておく必要があります。
逆に派遣先とは36協定を締結する必要がないので、派遣先が変わるたびに36協定を締結し直すことはありません。
2. 派遣労働者が残業する際の注意点
36協定を結んでいるからといって、派遣労働者へ自由に時間外労働や休日労働を命ずることができるわけではありません。派遣労働者が36協定を締結し、派遣先で残業する際は、以下の点に注意が必要です。
2-1. 派遣元の36協定の範囲内でしか残業できない
36協定の基準となる労働基準法第36条では、時間外労働について1か月45時間、1年360時間を上限としていますが、その範囲内であれば労働時間の延長および休日出勤の時間は、労使間の合意のもと、自由に設定できます。
そのため、派遣先と派遣元それぞれが36協定を締結していても、その内容は両者で異なる場合があります。
たとえば、派遣先では上限いっぱいの1か月45時間、1年360時間の時間外労働・休日出勤を認めている一方、派遣元では1か月35時間、1年300時間を上限としているというケースもあり得ます。
前述の通り、派遣労働者は派遣元と36協定を締結しますので、上記の例の場合、残業できるのは1か月35時間、1年300時間が上限となります。
同じ職場で働いていると、派遣労働者にも自社の従業員と同じ労働条件を提示してしまいがちですが、派遣労働者は派遣元の36協定の範囲内でしか残業することはできませんので、派遣先の36協定と混同しないよう注意が必要です。
2-2. 派遣先が負う責任について
派遣労働者は、派遣元と派遣先の2社間をまたぐ形で労働するため、派遣労働者の労働上の責任も派遣元と派遣先の両方で分担する仕組みになっています。
このうち、派遣先が責任を負うのは、労働基準法第32条・33条に定めた労働時間や、同法第34条・35条に規定する休日、第36条の時間外及び休日の労働、第66条の産前産後の時間外・休日労働・深夜業の制限、第67条の育児時間、第68条の生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置の6つです。
第36条については、派遣元で締結された36協定に基づき、派遣先が時間外や休日の労働時間を適切に管理しなくてはいけません。
これらに違反した場合、派遣先の使用者は労働基準法で定めた罰則の対象となる可能性があります。
たとえば、36協定で締結された時間外労働の範囲を超えて働かせた場合、派遣元ではなく派遣先に、労働基準法の第119条の罰則「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科せられる場合があるので要注意です。
関連記事:36協定の違反になるケースや違反時の罰則について解説
3. 36協定で派遣労働者が残業できる時間
派遣元と36協定を締結した派遣労働者が残業できる時間の上限は、1か月45時間、1年360時間までとなります。
もちろん、この時間はあくまで労働基準法上の上限であり、実際に可能となる残業時間は派遣元と締結した36協定の内容によるので注意が必要です。
ただ、派遣先が繁忙期に入ると、業務量の増加により、残業時間がどうしても規定の範囲内に収まらないこともあります。
そんなときは、あらかじめ特別条項付き36協定を締結することで、残業時間の上限を1か月100時間未満、年720時間以内まで延ばすことが可能となります。
ただし、臨時的な特別の事情があっても、以下2つの点は遵守する必要があります。
- 時間外労働+休日労働の2~6ヵ月平均が80時間以内
- 原則である月45時間を超える月は年6ヵ月まで
これらに違反して派遣労働者を働かせた場合は、労働基準法違反となり「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課さられる恐れがあるため注意しましょう。
なお、通常の36協定と特別条項付き36協定では使用する書面の様式が異なり、前者は「様式第9号」、後者は「様式第9号の2」を用います。
派遣労働者に1か月45時間、1年360時間の上限を超えて残業させる場合は、派遣元が派遣労働者と36協定を締結するにあたり、様式第9号の2を行政官庁に届け出ている必要がありますので、事前に派遣元へ確認を取っておきましょう。
関連記事:36協定の特別条項とは?注意点と働き方改革関連法との関係
4. 派遣先が36協定で気をつけること
派遣労働者を受け入れるにあたって、派遣先が気を付けておきたい36協定関連の注意点を2つご紹介します。
4-1. 事前に派遣元へ36協定の内容を確認する
派遣労働者に適用されるのは派遣元と締結した36協定ですので、派遣労働者を自社で働かせる場合は、あらかじめ派遣元に連絡を取り、残業時間の上限や特別条項の有無などを確認する必要があります。
誤って自社の36協定を派遣労働者に適用すると、労働基準法に抵触し、罰則の対象となりますので、正確な内容の確認・把握に努めましょう。
4-2. 派遣労働者の健康・安全に配慮する
派遣先は、派遣元と派遣労働者の間で協定した36協定の範囲内であれば、派遣労働者に残業させることが可能となります。
ただし、残業時間の範囲内だからといって、毎週・毎月のように上限いっぱいまで残業させていると、派遣労働者の心身に大きな負担がかかってしまいます。
派遣法第36条第6項では、派遣元事業主は、「派遣労働者の安全および衛生に関し、当該事業所の労働者の安全及び衛生に関する業務を統括管理する者及び当該派遣先との連絡調整をおこなうこと」と規定し、派遣元と協力して派遣労働者の安全・衛生の確保に努めることを義務づけています。
派遣労働者を残業させるときは、36協定の遵守だけでなく、当該労働者の健康状態や生命の安全に十分配慮することを心がけましょう。
参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索
5. 派遣元の36協定に基づき派遣労働者の残業時間を適切に管理しよう
派遣労働者は労働基準法における「労働者」に該当するため、法定労働時間を超えて残業させる場合は、同法第36条に基づき、36協定を締結する必要があります。
派遣労働者が実際に働くのは派遣先ですが、36協定を締結するのは派遣元であり、残業時間などの規定も派遣元と締結した36協定の内容に準じます。
そのため、派遣先はあらかじめ派遣元に36協定の内容を確認し、規定の範囲内で残業させることを心がけましょう。
特に派遣先と派遣元で36協定の内容に差異がある場合は、自社の従業員と派遣労働者の勤怠状況をそれぞれの条件に基づいて管理する体制を整えることが大切です。
36協定は毎年もれなく提出しなくてはなりませんが、意外に記載項目が多く、ミスや漏れなく正確に記入するには時間がかかります。
また、当然のことながら法律で定められた時間を超えて時間外労働をさせることはできないため、届出作成に際しては上限時間を正確に把握しておく必要があります。
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