年俸制の残業代はなしでもいい?支払い不要なケースや計算方法を解説
更新日: 2025.8.18 公開日: 2025.4.11 jinjer Blog 編集部

年俸制というのは、労働に対する報酬を年単位で決めて契約をするので、残業代は払わなくていいというイメージがあるかもしれません。
しかし、労働基準法第36条(36協定)においては、原則として年俸制でも残業代を含む支払いが義務付けられています。ただし、契約内容や雇用形態によっては支払わなくてよいケースもあります。
年俸制の残業代というのは、一律で支払いが定められているというわけではないので、担当者であっても間違えやすいのではないでしょうか。
そこで本記事では、どのような場合に年俸制の残業代の支払い義務が発生するのか、不要なケースや残業代の計算方法などを解説します。
労務担当者の実務の中で、給与計算は出勤簿を基に正確な計算が求められる一方で、Excelからの手入力や別システムからのデータ共有の際、毎月のミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
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1. 年俸制とは?


年俸制とは、1年間の労働に対する賃金をあらかじめ年単位で定める給与制度です。
残業や休日出勤によって1か月ごとに給与総額が変わる月給制とは異なり、契約時に年間の報酬総額が明示され、それを12分割または16分割(賞与含む)などで支払うというのが一般的です。
年俸制は管理職や専門職、高度な職務を担う社員に導入されることが多く、一般的には「年俸だから残業代は出ない」と誤解されがちです。しかし、実際には労働基準法の適用対象となるため、残業代の支払い義務は基本的にあります。
年俸制はあくまでも給与の支払い方法の1つで、労働時間管理や時間外手当が免除される制度ではないので間違えないようにしましょう。
2. 年俸制の残業代の支払いは36協定によって決められている


年俸制であっても、従業員に時間外労働をさせる場合は、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)の締結・届出が必要です。
これは労働基準法第36条に基づくもので、年俸制かどうかに関係なく、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える勤務に対しては、正当な手続きをしなければなりません。もしも、協定を結ばずに時間外労働をさせたり、法定労働時間を超過した場合には、労働基準法違反となるリスクがあります。
当然ですが、年俸制だからといって、残業代の支払い義務を免除するものではありません。会社が36協定を締結していても、時間外労働をおこなった場合、残業代を支払う必要があります。
参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省
2-1. 年俸制の残業代にも時効がある
実は、残業代の請求には時効があります。2020年4月の民法改正以降、原則として「5年(当面の間は3年)」が残業代の時効とされています。
これは、月給制だけではなく日給制はもちろん、年俸制にも適用されるものなので、未払いの残業代があるとしても「5年(当面の間は3年)」を過ぎると請求できなくなるということです。
ただし、以前は時効が2年だったので、経過措置や発生時期によっては異なる場合もあります。時効の適用があいまいな場合は、過去の未払いがないかを確認し適切に対応することで、訴訟リスクや労使トラブルの回避につながります。
年俸制を導入している企業は、記録管理を徹底し、残業代の支払い履歴を明確にしておくことが重要です。
参考:事業主の皆さま、労働者の皆さま 未払賃金が請求できる期間などが延長されています|厚生労働省
3. 年俸制でも残業代を支払わなくていい雇用形態とは


基本的に、法定労働時間を超えた労働に対しては、年俸制でも残業代を支払わなければなりません。しかし、以下の役職・雇用形態に当てはまる場合は残業代は出ません。
- 管理監督者の場合
- 個人事業主の場合
- 裁量労働制の場合
- 固定残業代(みなし残業代)制度の場合
ここでは、残業代が出ない役職や雇用形態について解説します。
3-1. 管理監督者の場合
労働基準法における「管理監督者」に該当する場合、労働基準法第41条により、残業代の支払い対象から除外されています。管理監督者に対しては、労働時間や休日に関する規定が適用されず、原則として残業代の支払い義務はありません。
管理監督者とは、経営者と同じような立場で業務する人のことです。
しかし、役職名が「課長」「部長」などの管理職だけでは、除外の対象になりません。管理監督者と認められるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。
- 経営者と一体的な立場で仕事をしている
- 労働時間・休憩・休日などに関して裁量がある
- 地位にふさわしい給料面での待遇を受けている
上記の条件を満たさない場合、年俸制であっても残業代の支払い義務があります。
参考:管理監督者の範囲(労働時間の例外)|厚生労働省OSAKA
3-2. 個人事業主の場合
個人事業主と企業が業務委託契約を結んでいる場合、労働基準法の適用を受けない「業務委託契約」となるため、残業代の支払い責務はありません。個人事業主は雇用関係ではなく委託関係になり、労働基準法の適用対象外になるのです。
個人事業主というのは、フリーランスライターやプログラマーなどが該当します。企業向けに成果物を納品する場合、納期さえ守れば深夜や休日に作業しても残業代は発生しません。
ただし、企業の指揮命令下にあったり、〇時から〇時までなど労働時間が決まっていたりするなど、実態として雇用に近い働き方の場合、「偽装請負」とみなされる可能性があります。このような場合、残業代が発生する可能性があります。
そのため、契約内容だけでなく、実態に即した働き方であるかを確認することが重要です。
3-3. 裁量労働制の場合
裁量労働制は、実労働時間ではなく「みなし労働時間」で労働したとみなす制度です。裁量労働制で勤務している場合、基本的に残業代は発生しません。実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定められた時間で働いたものとみなされます。
例えば、新商品開発を担当するデザイナーが、裁量労働制で1日8時間と定められている場合、11時間働いても残業代は発生しません。逆に5時間で業務を終えても、8時間分の賃金を支払うことになります。
この制度が適用されるのは、業務の手段や時間配分を、労働者の裁量に委ねる必要がある職種です。専門業務型(研究開発や情報システム開発など)と、企画業務型(本社の企画・立案部門など)の2種類がありますが、導入には労使協定の締結や就業規則への記載が必要なので要注意です。
また、原則として裁量労働制での勤務は残業代が発生しませんが、あらかじめ定められた労働時間が1日8時間・週40時間を超える場合、割増賃金を支払う必要があるため注意しましょう。
3-4. 固定残業代(みなし残業代)制度の場合
固定残業代(みなし残業代)制度とは、毎月の給与にあらかじめ一定時間分の残業代を組み込む方法です。固定残業代(みなし残業代)制度が導入されている年俸制の場合、法的には「残業代込み」にすることが可能なので、年俸の範囲内なら追加の残業代は発生しません。
つまり、あらかじめ定められた時間分の残業代が年俸に含まれているのであれば、残業代を払わなくても問題ないということです。
例えば従業員の年俸が800万円で、月40時間分の固定残業代を含む場合、40時間以内の残業代の追加支払いは不要です。
ただし、実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合、超過分は別途残業代を支払う必要があるので、年俸の対象時間数・金額を明確しておきましょう。
4. 年俸制における残業代の計算方法


年俸制の残業代の計算方法は、下記の2つがあります。
- 基本的な計算方法
- 賞与・ボーナスの計算方法
ここでは、これらの計算方法について解説します。
4-1. 基本的な計算方法
残業代の基本的な計算式は、以下のようになります。
残業代=年俸額÷12÷1ヵ月の所定労働時間×割増率×残業時間
まず年俸から、1時間あたりの賃金単価を算出する必要があります。これは、「年俸額÷12ヵ月÷1ヵ月の所定労働時間」で計算可能です。
1時間あたりの賃金単価に、法定の割増率と実際の残業時間を掛けると残業代が計算できます。例えば、年俸が600万円で、1ヵ月の所定労働時間が160時間、月に15時間の残業をした場合で考えてみましょう。
残業代=6,000,000円÷12÷160時間×1.25×15時間=58,594円となります。
割増率は、法定労働時間を超える通常の残業の場合、1.25(25%増)です。深夜(22時~5時)の場合は1.25、法定休日労働の場合は1.35がそれぞれ適用されます。
上記の計算方法に従って残業代を算出し、従業員へ支払いましょう。
4-2. 賞与・ボーナスを支払う場合の計算方法
労働基準法施行規則第21条により、賞与やボーナスは残業代に含まれません。「臨時に支払われる賃金」や「1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金」は、算入する必要がないと定められています。
例えば年俸総額が600万円で、そのうち賞与・ボーナスが120万円の場合で考えてみましょう。賞与分を除外して計算する必要があるため、残業代計算に使用する年俸基礎額は、480万円になります。
ただし、金額があらかじめ確定した賞与やボーナスを支払う場合、残業代の計算に含める必要があるため注意してください。例えば、年俸を14等分し、そのうち12回を月給、残り2回分を定期賞与として固定額で支給するのであれば、残業代の計算に含める必要があることを覚えておきましょう。
5. 残業代を含む年俸の支払い方


「賃金支払いの5原則」により、年俸制を採用している企業でも、労働基準法に定められた賃金の支払い方に従う必要があります。年俸は一括払いではなく、分割して支払わなければなりません。
労働基準法第24条では、賃金は「期日を設定し毎月1回以上支払う必要がある」と規定されています。年俸制でも、通常は12分割して毎月支給するのが一般的です。
年俸に固定残業代が含まれる場合、給与明細などに基本給と固定残業代の内訳を記載することが重要です。記載をしておけば、従業員は給与の内訳を理解でき、企業側も後の労務トラブルを防止できるでしょう。
ただし、固定残業代を超える残業が発生した場合、超過分を翌月の給与に追加で支払う必要があるので、給与明細には「時間外手当(超過分)」などと記載するのが望ましいでしょう。
6. 年俸制の残業代ルールを理解して労務リスクを回避しよう


年俸制だとしても、残業代の支払い義務は免除されないので、雇用契約書や給与明細には、年俸の内訳をしっかり記載しましょう。固定残業代を含める場合も、その金額と対象時間数を記載してください。
年俸制を導入している企業にとって、残業代の取り扱いは非常に重要な労務管理のポイントです。管理監督者や裁量労働制など例外的に残業代が不要とされるケースもありますが、誤解や制度の不備によって訴訟や是正勧告を受ける事例も少なくありません。「年俸制だから残業代が不要」と思い込んでしまっていると、残業代未払いなどのトラブルが起こるリスクがあるので注意が必要です。
年俸制の残業代に関しては、社内への周知や規定の整備も重要ですが、残業代のルールを正しく理解して適切な運用を心がけましょう。



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