賞与から厚生年金は控除される?計算方法や注意点を解説
更新日: 2025.6.11
公開日: 2025.5.23
jinjer Blog 編集部
「賞与額から厚生年金保険料は控除される?」
「賞与の厚生年金保険料を正しく計算するのに必要な知識は?」
賞与も、毎月の給与と同様に社会保険料が控除されます。計算方法が制度として定められているため、正確に処理するには制度の理解が欠かせません。
この記事では、賞与から厚生年金が控除されるかどうかやその理由、控除されないケースなどを解説します。具体的な計算方法や注意点も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
給与計算業務でミスが起きやすい社会保険料。
保険料率の見直しが毎年あるため、更新をし損ねてしまうと支払いの過不足が生じ、従業員の信頼を損なうことにもつながります。
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1. 賞与から厚生年金は控除される
毎月の給与と同様に、賞与からも厚生年金保険料が控除されます。
なぜなら、賞与も給与の一部として扱われ、社会保険の対象となるためです。厚生年金のほかにも、健康保険料や雇用保険料、所得税も控除されます。
事業主が被保険者に賞与を支給した場合、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払い届」で支給額を届出なければなりません。届出によって決定された標準賞与額に、厚生年金保険料率を掛けた金額が保険料です。
なお、控除された厚生年金保険料は、将来の年金受給額に反映されます。単なる負担ではなく、老後の生活を支えるための重要な制度の一つです。
2. 賞与から厚生年金が控除される理由
賞与から厚生年金保険料が控除される理由は、公平性を確保するためです。
かつては賞与が厚生年金保険料の対象外だったため一部の企業は給与を減らして保険料の負担を回避する動きがありました。
このような不公平な状況を防ぐため、1994年に賞与にも保険料を課す「特別保険料」が導入されます。
しかし特別保険料では、賞与から天引きされた分は本人の年金額には反映されず、高齢者への年金支給に充てられていました。
そのため、「支払った保険料が自身の年金額に反映されないのは不公平」との意見が多く、2003年からは新たに「総報酬制」が導入されています。
総報酬制は、支払った保険料が本人の年金額に反映されるため、被保険者にとっても納得しやすい仕組みが特徴です。現在も運用されており、より公平で持続可能な社会保障制度の構築に役立っています。
3. 賞与から厚生年金が控除されないケース
賞与から厚生年金が控除されないケースは、主に以下の2つです。
- 賞与を受け取った月に退職する場合
- 産前産後休業・育児休業中に賞与を受け取る場合
それぞれ具体的に解説します。どの従業員が対象外になるかを理解し、適切に処理できるようにしておきましょう。
3-1. 賞与を受け取った月の月末以外で退職する場合
賞与が支給された月に退職する場合、退職日が月末以外であれば、その月の社会保険料は発生せず、賞与から厚生年金保険料は控除されません。
社会保険料は、退職日の翌日が「資格喪失日」となり、前月分までが対象となる仕組みだからです。
例えば、7月20日に退職した場合、資格喪失日は7月21日となります。社会保険料は6月分までが対象となり、7月に支給された賞与には厚生年金保険料が課されません。
一方で7月31日に退職した場合は、資格喪失日は8月1日となって7月分の社会保険料が発生します。
従業員の退職日によって社会保険の資格喪失日や保険料の計算が異なるため、必ず退職日を確認し、適切な手続きを行いましょう。
3-2. 産前産後休業・育児休業中に賞与を受け取る場合
産前産後休業や育児休業中の従業員は、賞与から厚生年金保険料が控除されません。
産前産後休業や育児休業中の従業員には、社会保険免除制度が適用されるためです。休業中の健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。
例えば、育児休業中に賞与が支給された場合、その月末時点で休業が継続していれば、厚生年金保険料は免除されます。特に、育児休業が1ヵ月を超えて連続している場合は、免除の対象となりやすいので確認が必要です。
一方、休業期間が1ヵ月未満、または月の末日を含まない際は、免除の対象外となる可能性があります。そのため、育休の取得予定や賞与支給日を確認し、必要な申請を漏れなく行うことが重要です。
制度の適用には事前申請が必須のため、人事担当者は従業員と連携し適切な手続きをおこないましょう。免除されなかった場合に備えて、制度を正しく理解し、周知を徹底することが大切です。
4. 賞与にかかる厚生年金の計算方法
賞与にかかる厚生年金の計算は、以下の手順でおこないます。
- 標準賞与額を算出する
- 厚生年金保険料率を確認する
- 標準賞与額に厚生年金保険料率を乗じて保険料額を算出する
賞与にかかる厚生年金保険料は「標準賞与額」に保険料率を掛けて計算されます。算出された保険料は、従業員と企業で折半して負担します。
計算の手順をしっかり理解し、ミスなく計算ができるようにしましょう。
4-1. 標準賞与額を算出する
賞与にかかる厚生年金を算出する際は、標準賞与額を求める必要があります。
標準賞与額とは、賞与支給額から1,000円未満を切り捨てた金額のことを指します。
例えば、税引き前の賞与支給額が264,900円の場合、1,000円未満の900円を切り捨てた264,000円が標準賞与額です。
標準賞与額には上限があり、1回の支給につき150万円までが対象となります。同じ月に複数回賞与を支給する場合は、合算して150万円の上限内で判断しましょう。
4-2. 厚生年金保険料率を確認する
標準賞与額を算出したら、次に厚生年金保険料率を確認します。
2025年時点の厚生年金保険料率は、18.3%(一般・校内員・船員の被保険者)です。保険料率は2004年から段階的に引き上げられましたが、2017年以降は変更されていません。
なお、保険料率は全国一律で適用されるため、地域や企業規模、従業員の給与などによって変動しない点に注意が必要です。
参考:令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和7年度版)|日本年金機構
4-3. 標準賞与額に厚生年金保険料率を乗じて保険料額を算出する
最後に、標準賞与額に厚生年金保険料率の18.3%を掛けて、保険料額を算出します。計算式は、以下のとおりです。
標準賞与額 × 厚生年金保険料率(18.3%) ÷ 2 = 賞与から控除される厚生年金保険料
例えば、標準賞与額が100万円の場合、計算結果は以下のようになります。
100万円×18.3%=18万3000円
この金額を事業主と従業員が折半するため、従業員の負担額は9万1500円です。なお端数処理は、「50銭以下切り捨て・50銭超え切り上げ」が適用されます。
以上の流れで、賞与にかかる厚生年金保険料が正確に計算可能です。企業の労務担当者は計算方法をしっかり理解し、適切に管理するよう心がけましょう。
5. 賞与にかかる厚生年金を計算する際の注意点
賞与にかかる厚生年金を計算する際は、以下の2点に注意が必要です。
- 標準賞与額には150万円の上限がある
- 年4回以上支給する場合は報酬とみなされる
それぞれ、具体的に解説します。賞与にかかる厚生年金の注意点を理解し、複雑な計算を適切に処理しましょう。
5-1. 標準賞与額には150万円の上限がある
標準賞与額には、1ヵ月あたり150万円の上限が設けられている点に注意が必要です。
もし、同じ月内に300万円の賞与を支給した場合でも、標準賞与額は150万円までとなります。150万円を超過する部分については、保険料が発生しません。
また、同じ月内に複数回の賞与を支給した場合は、合算した金額に対して上限が適用されます。例えば、7月10日に100万円、7月30日に60万円の賞与を支給した場合、合計160万円のうち150万円が標準賞与額です。
高額な賞与を支給する場合は、誤った計算をしないよう注意しましょう。
5-2. 年4回以上支給する場合は報酬とみなされる
賞与が年に4回以上支給される場合は、社会保険上では「報酬」とみなされます。標準賞与額ではなく、毎月支給される給与が該当する「標準報酬月額」に含めて計算する点に注意が必要です。
ただし、この取り扱いが適用されるのは、同じ性質の賞与が年4回以上支給される場合に限られます。ボーナスと決算手当など、性質が異なるものは別々にカウントしましょう。
なお、以下のような場合は「報酬」とはみなされず「賞与」として扱われます。
- 就業規則や賃金規定に賞与の支給が明記されていない場合
- 臨時の支給により結果的に年4回以上になった場合
自社の就業規則や賃金規定を確認し、適切に処理することが重要です。
6. 賞与にかかる厚生年金を適切に計算しよう
毎月の給与と同様、賞与にも厚生年金保険料が控除されます。賞与の厚生年金保険料は、「標準賞与額」に保険料率(2025年4月時点で18.3%)を掛けて算出する仕組みです。
ただし、退職日が月末以外である場合や産前産後休業・育児休業中など、賞与から厚生年金が控除されないケースもあります。また、標準賞与額には1回あたり150万円の上限が設けられており、超過部分には保険料が課されません。
ほかにも、標準賞与額の端数処理や、支給回数によって賞与ではなく報酬とみなされるケースなど、留意すべき注意点もいくつかあります。
制度を正確に理解し、計算ミスやトラブルがないよう適切に処理することが重要です。
給与計算業務でミスが起きやすい社会保険料。
保険料率の見直しが毎年あるため、更新をし損ねてしまうと支払いの過不足が生じ、従業員の信頼を損なうことにもつながります。
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