固定残業代40時間分は可能?残業代の計算方法や違法性を解説
更新日: 2024.4.15
公開日: 2021.9.7
OHSUGI
固定残業制度では、あらかじめ残業時間を設定する必要があり、残業時間は企業ごとに異なります。40時間分の残業時間を設定することに問題はないのでしょうか。
本記事では、固定残業制度で違法になるケースはどのようなときか、設定する場合の注意点や違法性などについて解説します。
関連記事:残業時間の定義とは?正しい知識で思わぬトラブルを回避!
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1. 固定残業代とは
固定残業代とは、実際の残業時間に関わらず、一定時間分の時間外労働、休日労働、深夜労働に対して毎月定額の残業代を支払う制度です。
例えば固定残業時間を20時間と設定していた場合、あらかじめ20時間分の時間外手当が支払われているため、20時間までは別に時間外手当を支払う必要はありません。ただし20時間を超えた残業時間からは、追加で時間外手当を支払う必要があります。30時間働いたら10時間分は時間外手当を追加で支払わなくてはいけません。
関連記事:固定残業代とは?制度の仕組みや導入のポイントを分かりやすく解説
2. 固定残業代40時間分に設定するのは可能?
固定残業代を何時間分に設定するのかは、企業によって異なります。しかし、長時間を設定すると従業員の健康を損ねたり、賃金と残業時間のバランスが崩れてしまいます。固定残業代40時間を目安に、違法性や賃金について考えていきましょう。
2-1. 固定残業代40時間分は違法ではない
結論からいうと、固定残業代を40時間分に設定することは可能です。
労働時間は1日8時間・週40時間と労働基準法で決められています。これを超える時間外労働は原則としてできません。しかし労使間で36協定を結び、労働基準監督署へ届け出ていれば、月45時間・年360時間まで時間外労働が認められています。
月に45時間までの時間外労働が認められているため、固定残業代を40時間分設定することも問題ありません。2019年より前は、特別条項付きの36協定を結べば時間の限りなく働くことが可能でした。しかし、働き方改革関連法が施行されてからは、上述の通り残業にも上限規制が設定されています。みなし残業制の場合や気づかず超過してしまった場合でも、罰則の対象になるため注意が必要です。
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2-2. 賃金と残業時間のバランスが重要
固定残業時間を40時間に設定すること自体は、36協定を締結している場合に限り違法ではありません。しかし、残業時間と賃金のバランスには注意が必要です。
例えば40時間の固定残業時間を設定し、賃金を3万円に設定するとします。この場合、時給換算すると750円になります。最低賃金は都道府県別に設定されていますが、750円はどの地域でも最低賃金を下回ることになり、違法になってしまいます。
また、本来残業代は割増で支払われるものであるため、その賃金が最低賃金を下回っていれば従業員からの不満が出る可能性が非常に高いです。労働基準法を守るとともに、従業員の満足度や働きがいも考えた固定残業代の設定をするようにしましょう。
3. 固定残業代40時間分がトラブルになるケース
固定残業時間が40時間であり、最低賃金を上回っている場合でも、トラブルになるケースもあります。どのようなケースがトラブルになるのか、正確に把握しておきましょう。
3-1. 固定残業代が基本給に含まれている
固定残業代は他の賃金とは明確に区別しないといけません。よくあるのは「基本給20万円(固定残業代含む)」として固定残業代が基本給に含まれており、いくら支払われるのか分からないケースです。このように記載をしたい場合「基本給20万円(固定残業代20時間分の5万円含む)」などと具体的にしておく必要があります。
固定残業代が営業手当など他の手当とひとまとめにされてしまい、残業代が分からないケースや、実際は支払われていないケースもトラブルになりやすいので注意が必要です。
3-2. 超過分の割増賃金が支払われない
固定残業制でよくある勘違いが「固定残業代を支払っているのだから、時間外手当はそれ以上払わなくてもよい」というものです。これは明らかな誤りで、冒頭でも説明したように固定残業時間を超える残業をした場合は、時間外手当を支払わなくてはなりません。
例えば固定残業時間40時間であった場合、月の残業時間が45時間になったとしたら、5時間分の賃金が必要です。また、この残業手当には割増賃金が発生します。
3-3. 設定した固定残業の時間まで働かない場合に固定残業代を支払わない
固定残業時間が40時間であるのに対し、実際に残業した時間が30時間であったとしましょう。この場合、10時間分の残業が残っていますが、これを理由に固定残業代を減らしたり、支払いをしなかったりすることは違法です。
固定残業代とは時間外労働の発生や時間に関わらず、必ず毎月定額で支払われる制度です。残業が0時間でも40時間でも、定めている金額を支払わなくてはいけません。
3-4. 就業規則や雇用契約書に固定残業代の規定がない
固定残業制を導入する場合は、その内容を雇用契約書や就業規則などに明示しなくてはいけません。
固定残業制であることだけでなく、残業時間や賃金の定め、割増賃金の範囲なども明記しておきましょう。固定残業に関連するルールがない状態では、固定残業代を支払っていても、割増賃金が正確に支払われていると認められない恐れがあります。
その場合は割増賃金未払いとされ、労働基準法に違反したと判断されるケースも考えられます。
3-5. 固定残業時間が月45時間を超えて設定されている
36協定を結んでいる場合でも、1ヵ月の残業時間は45時間が上限です。この上限を超えた固定残業時間は違法だと判断され、無効になる可能性があります。残業時間が増える繁忙期や、トラブル対応などで急な残業が発生しやすい事業の場合は、この点に十分に注意しましょう。
特別条項付き36協定を締結している場合は月45時間を超える残業も可能です。残業時間が長くなる可能性がある場合は、固定残業制を導入する前に十分に残業時間を計算しましょう。
4. 固定残業代40時間分に設定する際の注意点
固定残業代40時間分を設定する際の注意点について解説します。前項で解説したようなトラブルに発展する可能性もあるため、以下の点は必ず守るようにしましょう。
4-1. 就業規則や雇用契約書への明示
固定残業を導入するには、就業規則や雇用契約書に次のことを明記する必要があります。
- 固定残業代が残業手当の定額払いであること(それ以外の賃金との区別)
- 固定残業代に何時間分の残業代が含まれているか明らかにすること
- 固定残業分の時間外労働を超える場合は時間外手当を支払うこと
固定残業の導入前から雇用している従業員に対しては、給与辞令や労働条件変更通知書などで固定残業を導入することと上記の3項目を通知して合意を得ておきましょう。
4-2. 時間外労働時間を正確に把握する
先述したように、固定残業制を導入しても、超過分の時間外労働については時間外手当を支払わなくてはなりません。つまり時間外労働をした場合は、従来どおりに残業時間を把握する必要があります。
また給与明細の固定残業代はその他の賃金とは区別して記載するほか、時間外労働の時間も表示したほうがよいでしょう。支払われた給与が正当なものだという担保になるからです。
2019年に施行された働き方改革関連法により、残業時間の上限規則が法律によって定められています。これによって、正確に残業時間を把握していなかったり、賃金の支払いがされていなかったりすると、法律違反をしたことにより行政指導が入る可能性も考えられます。
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4-3. メリットとデメリットを検討する
固定残業代40時間を設定する際は、メリットだけでなくデメリットにも必ず目を向けましょう。
固定残業制は、労働者側からすると明らかなメリットがあります。一方企業側からすると目に見えるようなはっきりとしたメリットはないことも多いです。
人件費削減のためにこの制度を導入する企業もありますが、人件費は削減できないばかりか短期的には増えてしまう可能性が高いです。そのため、固定残業制が本当に企業にとって最適な方法であるのか、よく検討しなくてはいけません。
①固定残業代を導入するメリット
メリットとしては、まず残業が40時間までなら時間外手当の計算が不要になるため、給与計算が楽になります。人事や労務担当者の業務負担を減らせるでしょう。
次に労働者側からすると時間外労働をしないほうが得であるため、効率的に業務を進めようとする意欲が出やすくなります。時間外手当目当てで残業をする従業員が減り、短時間で効率的に仕事をする優秀な従業員を見つける手段にもなりえます。
また、ワークライフバランスが向上し、優秀な人材も集まりやすくなるでしょう。こうした従業員の変化は、長期的に見れば企業発展につながり、企業側のメリットにもなります。
このほかに固定残業代を基本給に含めれば見た目の賃金が増えるため、求人の際に見栄えがよくなるのも事実です。ただし求人の賃金表示はトラブルや勘違いを引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。先述したように、固定残業代の内訳を明らかにしておくことが大切です。
②固定残業代を導入するデメリット
一方でデメリットは時間外労働がない場合でも、40時間分の時間外手当が必ず発生することです。業務が少なく、売り上げが低い時期で誰も残業をしていなくても、固定残業代は必ず支払わなくてはいけません。
また求人の際に固定残業代40時間分と書かれていると、「残業が40時間もある」や「40時間は残業しないといけないのか」と思われてしまう可能性もあります。固定残業制には、知識不足からマイナスのイメージを持つ若者が多いため、勘違いを起こさないように配慮しましょう。
5. 固定残業制度を適切に運用してクリアな労働環境を維持しよう
固定残業時間を40時間に設定することに、法律上の問題はありません。しかし固定残業制を正確に理解し、違法になるケースがあることを理解しておく必要があります。トラブルが起きてしまうと出費が増えるばかりか、企業の信用に傷がついてしまうかもしれません。
一方で、正しい理解に基づいて固定残業代40時間を設定するのであれば、より効率的な業務が可能になります。また、優秀な人材を集め、企業成長につなげることも可能です。固定残業制を導入する場合は、正しい知識に基づいて十分に検討しましょう。
関連記事:みなし残業制度とは?定義やメリット・デメリットを詳しく解説
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