所得税における累進課税制度とは?基礎知識やメリット・デメリットを解説
更新日: 2023.3.17
公開日: 2022.4.18
吉田 菜穂子
累進課税になっているものは所得税、相続税、贈与税です。所得税の累進課税は超過累進課税方式で、所得の多い人に多く課税し、少ない人には少なく課税し、公平性が保たれるようになっています。
本記事では、所得税における累進課税制度の概要や、対象となる税金、メリット・デメリットなどを紹介します。
関連記事:所得税とは?納税方法や確定申告が必要な人・不要な人について解説
目次
1. そもそも所得税における累進課税制度とは
所得税は、個人の所得に課税される税金です。所得は個人が得た利益なので、会社に勤めて得た給料や、事業で得られた所得や、銀行にお金を預けて得た利益など、さまざまなものがあります。
個人の1年間(1月1日から12月31日まで)のすべての所得を計算して、年間の所得から所得控除を差し引いた残りの金額に累進課税による所得税率を適用し計算します。所得のうちでも、累進課税の対象にならないものもありますが、基本的には年間の所得税に対して累進課税が適用され、税率が決まります。
1-1. 所得税の種類
所得は性質によって、次の10種類に分けられます。
- 利子所得
- 配当所得
- 不動産所得
- 事業所得
- 給与所得
- 退職所得
- 山林所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
なお、上記すべての所得が累進課税の対象になるわけではありません。対象になるものとならないものについて後ほど説明いたします。
所得税における累進課税とは所得の高い人は高い税金を納め、所得の少ない人は少ない税金を納めるというるというものです。こうすることで公平な税負担を求めようという仕組みになっています。これは「所得の再分配」と呼ばれています。
1-2. 単純累進課税と超過累進課税
累進課税にも種類があり、日本では超過累進課税制度が採用されています。
【単純累進課税】
累進課税対象の所得全体が一定金額以上になった場合に全体に対する税率が高くなるもの。
【超過累進課税】
課税対象の所得金額が一定の金額以上になった場合に、超えた分についてのみ税率を高くするというものです。控除額を設けることでさらになだらかに課税されるような制度です。
2. 所得税における累進課税の対象になる税金
超過累進課税の対象になるものには次のようなものが挙げられます。
- 給与(給料)
- 個人事業主としての所得(事業所得)
- アパート所得(不動産所得)
- ビットコインの売却益(雑所得)
2-1. 累進課税の対象にならないもの
超過累進課税の対象にならないものとしては、次のものが挙げられます。
- 土地建物の売却(譲渡所得)
- 株式の売却(譲渡所得)
- 退職金(退職所得)
これらは、譲渡した年だけの特別なものです。仮に給料などと合わせて税率を決めると、その年だけ税金が特別に高くなってしまうという事態が起きてしまうため、累進課税の対象にはなりません。
退職金についても、老後の資金としてその後の生活に大きくかかわるものであり、それまでの何十年もの歳月の労働に対してのものなので退職時に高い税率をかけることは適切ではないのです。
2-2. 年収別の税金の仕組み
超過累進課税制度では、年収が195万円までの部分は5%、195万円~330万円の部分には10%の税率…という仕組みです。そのため、年収が195万円の人と196万円の人では、その差額の1万円の部分だけ税率が変わるということになります。
実際に国税庁のホームページでは以下の通り、所得の税率は分離課税に対するものを除き、5%から45%の7段階に区分されています。
※平成25年から例は19年までの各年分の確定申告においては所得税と復興特別所得税(原則としてその年の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなります。
例えば、年収が330万円の人の場合は、以下の通りです。
330万円×10%-97,500円=232,500円
年収が331万円の人の場合は、以下の通りです。
331万円×20%-427,500円=234,500円
このように、年収の差によって簡単に計算できるよう、あらかじめ各段階において控除額が定められています。
関連記事:所得税率は所得金額で変わる!税率改定の影響や注意すべきポイント
2-3. 所得控除(所得金額から差し引かれる金額)
各納税者の控除の対象となる扶養家族が何人いるかなどの個人的事情を加味して、税負担を調整するものです。
【所得控除の種類】
- 雑損控除
- 医療費控除
- 社会保険料控除
- 小規模企業共済等掛金控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寄付金控除
- 障害者控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 勤労学生控除
- 配偶者控除
- 配偶者特別控除
- 扶養控除
- 基礎控除
関連記事:所得税における控除とは?控除の種類や所得控除を受ける方法を解説
2-4. 税額控除(税金から差し引かれる金額)
税額控除とは、課税所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から、一定の金額を控除するものです。
【主な税額控除】
- マイホームの取得等と所得税の税額控除
- 居住者に係る外国税額控除
- 非居住者に係る外国税額控除
- 配当控除
- 政党寄付金特別控除
- 認定NPO法人に寄付金控除
- 試験研究費の総額にかかる税額特別控除特別控除
- 雇用者の数が増加した場合の税額控除
- 雇用者給与等支給額が増加した場合の税額控除
- 地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の税額控除
- 給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の税額控除
本章でも解説したように、所得控除には複数の種類があったり、法改正で控除の種類が変わったりと、計算ミスが起きやすいため注意が必要です。
当サイトでは、上記のようなミスを防ぎつつ効率化をさせる方法や、そもそもとなる計算方法を解説した資料を無料で配布しております。
効率化の方法や基礎知識を確認したいご担当者様は、こちらから「所得・住民税 給与計算マニュアル」をダウンロードしてご確認ください。
3. 所得税における累進課税のメリット・デメリット
所得税における累進課税のメリット・デメリットは以下の通りです。
3-1. 累進課税のメリット
- 富の再分配が行える
累進課税制度が取り入れられているものには所得税・相続税・贈与税があります。 - 所得格差の是正
その人その人の税金の支払い能力に応じた課税がなされるので、公平な税負担になります。「貧富の格差の是正」において重要な役割を果たしています。身分の固定化・世襲を阻止する効果も見込めます。 - 消費を促進することができる
相続すると税金が高くなるので、貯金に回さず消費を促進させることができます。 - 節税することができる
贈与であれば時期をずらすことなどによって節税することができます。また、控除を使い課税金額を減らすことができます。たとえば、個人事業主などは控除を使い、車を経費として計上し、課税対象金額を減らすことも可能です。
3-2. 累進課税のデメリット
- 労働意欲の減退
労働意欲の減退は、労働供給の低下につながります。身近なところでは、主婦がパートで働くときに扶養控除の範囲内で働くというのもこのためです。 - インフレによる納税額の変動
インフレによって、実質的な所得が変わらなくても納税額が増えることがあります。 - 高所得者層の負担が大きい
課税額が多い人ほど負担が大きいため、なかには海外への移住を検討する人もいます。消費を抑えるために貯蓄志向が高まれば、経済の循環が滞りかねません。
4. 累進課税制度は担税力を加味して公平性を保つための制度
累進課税になっているものは所得税、相続税、贈与税です。所得税における累進課税制度は、所得が基準を超えた分について税率が高くなっていく超過累進課税方式です。この制度は担税力に応じた税負担とし、公平性を保ち、所得格差を少なくするという重要な役割があります。また、納税者それぞれの個人の諸事情を加味し税負担がより公平性を保つように控除という形で調整されています。
他には社会経済のバランスをとるために累進課税の方式をとらない所得税や、全く別の課税方式(消費税・固定資産税など)もあります。税金は色々な課税方式を組み合わせることで多くの国民が納得するように工夫されています。
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