管理職に年俸制を適用するのはなぜ?理由やメリット・デメリットを解説
更新日: 2025.8.4 公開日: 2025.4.12 jinjer Blog 編集部

近年、管理職に年俸制を採用する企業が増えています。管理監督者に該当する管理職は、労働時間が法定時間を超過しても残業代の支払いがありません。基本的に給与額が固定制となるため、年俸制に適しています。
管理職に年俸制を適用すると業務に対するモチベーションがアップし、連鎖的に部下のモチベーションアップにもつながるでしょう。また、年俸制は成果に応じて翌年の給与総額を算出する仕組みなので人件費を事前に把握でき、経営計画を立てやすいです。
本記事では、管理職に年俸制を適用する理由やメリット・デメリットを詳しく解説します。管理職に年俸制を適用するプロセスについても触れているので、ぜひ参考にしてみてください。
労務担当者の実務の中で、給与計算は出勤簿を基に正確な計算が求められる一方で、Excelからの手入力や別システムからのデータ共有の際、毎月のミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、昇格や人事異動に伴う給与体系の変更や、給与計算に関連する法令改正があった場合、更新すべき情報も多く、管理方法とメンテナンスにお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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1. 管理職に年俸制を適用する理由


管理職に年俸制を適用する理由は、労働時間に制限がないからです。
管理職の場合、労働時間が法定時間を超過しても残業代を支給する必要がありません。休憩時間や法定休日の適用も除外されているので給与額は固定制となり、年俸制の仕組みに適していると考えられています。
ただし、肩書だけ管理職にしたからといって残業代を支払わなくてもよいわけではありません。残業代の支払いが不要となるケースは、管理監督者に該当する管理職のみです。
管理監督者に当てはまるかどうかの判断基準は、下記のようになっています。
| 職務内容 | 経営者と一体的な立場で職務をしているかどうか |
| 責任や権限 | 管理監督、指揮命令などの権限を委ねられているかどうか |
| 待遇 | 一般の従業員と比較して給与などの待遇がなされているかどうか |
| 勤務形態 | 出退勤時間は自らの裁量に任されているかどうか |
肩書は管理職であっても、管理職としての実態が伴わない状態のことを「名ばかり管理職」といいます。「名ばかり管理職」は労働時間や残業代などについてトラブルに発展するケースが多いので、注意が必要です。
また、管理監督者に該当する管理職の地位であっても、以下の点には注意しなければいけません。
- 心身の健康を害するような長時間労働をさせない
- 有給休暇は一般の従業員と同様に取得させる
- 深夜割増賃金は支払う
管理職への負担が集中している企業は、管理職の裁量権拡大やアウトソーシングの活用などを検討してみましょう。
2. 管理職に年俸制を適用するメリット


管理職に年俸制を適用するメリットは以下の2つです。
- 離職率の低下が期待できる
- 企業の経営効率化が図れる
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
2-1. 離職率の低下が期待できる
管理職に年俸制を適用することで、従業員の離職率低下が期待できます。
年俸制は、成果に応じて報酬が明確に設定されるため、管理職にとって納得感のある制度です。報酬に対する透明性や公平感が高まることで、仕事に対するモチベーションが維持され、結果的に離職率の低下につながる可能性があります。
また、年俸制では業績に連動した評価・報酬となるため、企業側が管理職の貢献度を適切に認識しやすくなり、評価への不満も生じにくくなります。特に責任の重いポジションである管理職にとって、報酬に見合った働き方ができるという安心感はとても重要です。適切な制度設計と評価基準を整えることで、優秀な人材の定着やモチベーション向上が期待できるでしょう。
また、管理職のモチベーションの高さを目の当たりにすることは、部下の意識にも影響を与え、意欲向上にもつながることで、結果的に生産性アップも期待できます。
2-2. 経営効率化が図れる
管理職に年俸制を適用すると、企業の経営効率化が図れます。年俸制は成果や業績に応じて翌年の給与総額を算出する仕組みなので、人件費を事前に把握できるためです。
管理職に年俸制を導入すると、企業は人件費のコントロールがしやすくなるので、経営の効率化につながります。年俸制は成果や業績に応じて翌年の給与総額を算出する仕組みなので、年単位での給与設定により予算の見通しが立てやすくなります。
また、月ごとの変動が少なくなるため、資金繰りも安定しやすくなるというのもメリットです。業績や役割に基づいて柔軟に年俸を設定できることから、経営戦略に応じた人材配置や報酬調整もやりやすくなるでしょう。さらに、残業代を含めた給与計算の手間が軽減されるため、事務負担の軽減という意味で効率化につながります。
3. 管理職に年俸制を適用するデメリット


管理職に年俸制を適用するデメリットは以下の2つです。
- 年度中に額を変更できない
- 評価制度の整備が必要になる
ここでは、これらのデメリットについて解説します。
3-1. 年度中に年俸額を変更できない
管理職に年俸制を適用するデメリットとして、年度中に金額を変更できないことが挙げられます。年俸制は事前に決まった金額を支払う必要があるためです。
期中に大きな成果を出した場合であっても、結果が給与に反映されるのは翌年度以降となります。成果がすぐに給与に反映されないことで、従業員のモチベーション低下につながるおそれがあるでしょう。
また、急激に企業の業績が悪化した場合でも、あらかじめ設定した給与を支払わなくてはいけません。企業の財政状況が安定しない場合にはリスクが高いといえます。
年俸制で給与額を決める際は、最悪の事態も考慮して設定することが重要です。
3-2. 評価制度の整備が必要になる
年俸制を適用する場合、評価制度の整備が必要になります。 年俸制は成果によって給与が決まるので、不明瞭な評価制度だと従業員が不信感を募らせるためです。
評価制度というのは、客観的な視点でおこなわないと納得感が得られないので、システムを導入するのがベストです。しかし、システム導入にはコストがかかりますし、運用する従業員の業務負担が増えるため、評価制度の整備が必要となるのはデメリットといえます。
また、評価基準については就業規則などで開示し、従業員の納得感を高めるようにすることも重要です。このように、年俸制を採用する場合にはいろいろな手間がかかるので、安易に採用してしまうと従業員から苦情がでる可能性があります。そのため、負担が多くならないよう、プロセス通りに導入することが求められます。
4. 管理職に年俸制を適用するプロセス


管理職に年俸制を適用するプロセスは以下のとおりです。
- 年俸制を適用する目的を明確化する
- 評価制度を整備する
- 従業員の合意を得る
- 就業規則に明記する
- 年俸額を決定する
それぞれのプロセスについて詳しく見ていきましょう。
4-1. 年俸制を適用する目的を明確化する
年俸制を導入する際は、まず制度の目的を明確にすることが重要です。その理由は、「成果主義の強化」「人件費の可視化」「管理職の責任範囲に応じた報酬設計」など、目的によって制度設計や運用方針が大きく変わるためです。
また、目的が曖昧なまま導入すると、従業員の理解が得られず、制度に対する不信感や混乱を招く恐れがあります。年俸制は管理職に対して成果や役割への責任を求める制度であるため、その位置づけを正しく社内に共有することが大切です。
可能であれば説明会を開き、目的を丁寧に説明して従業員に納得してもらうことが、スムーズな導入の第一歩となります。
4-2. 評価制度を整備する
管理職に年俸制を適用するにあたり、評価制度を整備する必要があります。年俸制は、報酬の決定が年単位でおこなわれるため、何をもって「成果」とするかを明確にし、客観性のある評価基準を整備しなければなりません。個人の成果を重視して給与額が決定する成果主義であるためです。
評価制度は、対象となる管理職の役割や責任範囲に応じて、数値目標や達成度、マネジメント能力などを評価項目に盛り込むのが一般的です。成果は明確に数値化し、能力は項目をできるだけ細分化することで評価しやすくなります。また、曖昧な評価や属人的な判断は、制度への不信感を招いてしまうので、評価プロセスには透明性を持たせることも重要です。
さらに、評価に応じて翌年の年俸を調整するなど、成果と報酬を連動させると制度の実効性が高まるので、管理職のモチベーション向上にもつながります。
4-3. 従業員の合意を得る
管理職への年俸制適用により就業規則を改定する際は、従業員の合意を得なければいけません。特に、既存の給与体系から年俸制へ変更する場合、報酬の構成や支給方法が変わるため、「なぜ支給方法を変えるのか」「年俸制にするメリット」などを丁寧に説明しましょう。
労働契約法では、「不利益変更に該当する場合は合理的な理由が必要」とされているので、一方的な導入はトラブルの原因となります。そのため、個別の労働契約書に年俸制の内容を明記し、対象となる従業員の合意を得ることが基本です。
合意が進まない場合は、評価制度の導入と同じく年俸制に関する説明会を開いたり、人事部などでQ&Aを設けたりして、不安や疑問にしっかり対応することも重要です。
4-4. 就業規則に明記する
年俸制を導入する場合、必ず就業規則に明記しなければなりません。特に、複数の管理職に制度を適用する場合や、新たに制度を導入する場合には、賃金の決定方法や支給方法、年俸に含まれる手当の種類(賞与や残業代の扱い)などを就業規則に具体的に記載する必要があります。
また、就業規則の変更は労働基準法に基づき、過半数代表者への意見聴取が義務付けられているので、手続きにも注意してください。制度の目的や内容が曖昧だと労使トラブルを引き起こす要因となるため、内容はできるだけ明確に記載することが重要です。
さらに、就業規則の変更は周知義務もあるため、変更後の規則を全従業員にしっかりと説明し、制度の趣旨を理解してもらいましょう。
4-5. 年俸額を決定する
管理職に年俸制を適用する環境が整ったら、具体的な年俸額を決定します。年俸額というのは、業務の責任範囲や前年度の成果、業界相場、人材の経験・スキルなどを総合的に考慮して、納得感のある水準で決定することが重要です。
また、年俸に含まれる手当や賞与相当分、見込み残業代の内訳を明確にし、本人に書面で提示する必要があります。特に、見込み残業代を含める場合は、時間数や金額を具体的に示し、実際の労働時間との乖離がないよう注意してください。
ちなみに、年俸というのは1年ごとの契約なので、毎年同じ報酬額を支払うわけではありません。そのため、年次の評価結果に応じて翌年度の年俸を見直すという運用方法にすれば、企業への信頼性を高めることができます。
5. 年俸制の理解を深めて管理職に適用しよう


管理職は労働時間が法定時間を超過した場合も残業代の支払いがなく、給与額が固定制となるため、年俸制に適しています。
ただし、管理監督者に該当しない管理職は残業代の支払いが必要です。管理監督者の定義をしっかりと把握し、労働時間や残業代のトラブルに発展しないことが求められます。
管理職に年俸制を適用するメリットは、離職率の低下や企業の経営効率化が図れる点です。一方で、年度中に年報額を変更できなかったり評価制度の整備が必要になったりなど、デメリットもあります。
このように、年俸制はメリットだけでなくデメリットもあるので、しっかりと理解を深めて管理職への適用を検討してみましょう。



労務担当者の実務の中で、給与計算は出勤簿を基に正確な計算が求められる一方で、Excelからの手入力や別システムからのデータ共有の際、毎月のミスや抜け漏れが発生しやすい業務です。
さらに、昇格や人事異動に伴う給与体系の変更や、給与計算に関連する法令改正があった場合、更新すべき情報も多く、管理方法とメンテナンスにお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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