変形労働時間制の労使協定に関する基礎知識を詳しく紹介
繁忙期と閑散期がある事業者において、繁忙期に長い労働時間を設定しつつ、閑散期に短い労働時間を設定することが可能になるのが、変形労働時間制です。変形労働時間制を導入すれば、指定した期間内の労働時間を柔軟に調整できるようになるため、従業員の総労働時間の短縮が可能です。
変形労働時間制は非常に便利な制度ですが、導入時は労使協定を締結して所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。この記事では、変形労働時間制の労使協定について解説します。
変形労働時間制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、変形労働時間制を導入した後に、「所定時間が毎回異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「変形労働時間制の手引き」をご用意しました。「変形労働時間制の導入手順を詳しく知りたい」「残業の数え方や勤怠管理の方法を知りたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 変形労働時間制の導入に必要な労使協定とは
変形労働時間制の導入には「労使協定」が必要です。まずは、労使協定に関する基本知識を身につけておきましょう。
1-1. 労使協定とは
労使協定とは、労働者と会社の間で取り交わされる契約を書面にしたものです。労使協定の書式やひな形はインターネットからダウンロード可能です。
労使協定にはさまざまなものがあります。今回紹介する「変形労働時間制に関する労使協定」だけではなく、「時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)」や「事業場外労働のみなし労働時間制に関する労使協定」といったものが存在しています。
なお、労使協定は届け出が必要なものと届け出が不要なものの2種類があります。変形労働時間制に関する協定や36協定は届け出が必要ですが、「フレックスタイム制の労使協定(清算期間が1ヵ月の場合)」など、届出が不要なものも多いです。
1-2. 変形労働時間制は労使協定の違反に注意
変形労働時間制は、労使協定の届出をしないまま運用をスタートすることはできません。届出をしなかった場合は、30万円以下の罰則が課されてしまうため注意しましょう。また、1年単位、1ヵ月単位、1週間単位のいずれであっても、労使協定条項の要件を満たさない労働があった場合、労働基準法32条違反として罰則を受けることになります。
変形労働時間制は複雑な制度で、労使協定の締結や届出には専門的な知識が必要です。十分な知識がないまま運用すると、罰則を受けて会社の信用を落としてしまうリスクもあるため、しっかりと調べて導入を検討しましょう。
2. 1年単位の変形労働時間制の労使協定
ここからは、変形労働時間制に関する労使協定に定める項目について詳しく紹介します。
まずは、厚生労働省の「1年単位の変動労働時間制導入の手引 」をふまえ、1年単位の変形労働時間制の労使協定について詳しく見ていきましょう。
関連記事:1年単位の変形労働時間制の定義やメリット・デメリット
2-1. 対象となる労働者の範囲
まずは、変形労働時間制のもとで働いてもらう労働者の範囲を明確にします。ここでは、常時使用する労働者の人数と対象労働者の人数が異なっていても問題ありません。
なお、1年単位の変形労働時間制は勤務期間が対象期間に満たない中途採用者や退職者に対しても適用できます。この場合、どのように賃金を清算するのかをしっかりと明記するようにしましょう。
2-2. 変形の対象となる期間
次に、変形労働時間制の対象となる期間を定めます。変形労働時間制の対象期間中は、その期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えなければ問題ありません。
1年単位の変動労働時間制を導入するときは、1ヵ月を超えて1年以内の期間内であれば自由に対象期間を設定できます。具体的には、3ヵ月や6ヵ月、8ヶ月といった任意の期間を設定可能です。
2-3. 変形期間の起算日
変形労働時間制がいつから開始されるのか、具体的な起算日について記載しておきましょう。「対象期間の起算日は令和◯年◯月◯日とする」など、具体的に定める必要があります。
2-4. 特定期間
特定期間とは、対象期間のうちでとくに業務が繁忙になる期間のことです。
通常、変形労働時間制を導入していても週に1日は休日を与えなくてはいけないため、連続勤務は6日までが原則とされています。しかし、労使協定に特定期間を定めておくと、期間中であれば1週間に1日の休日が確保できる日数(最長12日)とすることができます。
ただし、これはあくまでも例外的扱いであり、「対象期間の大半を特定期間」とするといったことはできません。また、一度協定した特定期間を途中で変更することもできないため、慎重に規定する必要があります。
2-5. 変形期間中の各日および各週の労働時間
変形労働時間制を導入するときは、対象期間における1週間の平均労働時間が40時間を超えないようにする必要があります。
労働日および労働日ごとの労働時間の定め方は2種類あります。
- 対象期間中すべてを定める方法
- 対象期間を1ヶ月以上の期間ごとに区分し、各期間が始まるまでにその労働日と労働日ごとの労働時間を定める方法
の場合には対象期間が始まるまでに労使協定において下記事項を定めます。
- 最初の期間における労働日および労働日ごとの労働時間
- 最初の期間以外の各期間における労働日数および総労働時間
計算方法は、「40時間×対象期間の暦日数÷7=対象期間における労働時間の総枠」です。あらかじめ決定した労働日数や労働時間は、やむを得ない場合以外はあとから変更することができません。
なお、対象期間における労働日数の限度は「280日×対象期間中の暦日数÷365日」であり、労働時間は最大1日10時間、1週間52時間が限度です。こういった注意点も踏まえ、労働日や労働時間のスケジュールを組むことが大切です。
2-6. 労使協定の有効期限
最後に、労使協定の有効期限を決めておきましょう。実際に運用して、この制度を継続したほうがよいのか、もしくは自社に適さないのかについて判断できるよう、初めはあまり長すぎない期限を定めておくことをおすすめします。
1年単位の変形労働時間制を適切に運用するには、対象期間とおなじ1年程度とするのが望ましいとされています。
3. 1ヵ月単位の変形労働時間制の労使協定
次に、1ヵ月単位の変形労働時間制の労使協定について見ていきましょう。前項と重複する部分も多いですが、厚生労働省の資料をもとに必要な項目について解説します。
関連記事:1ヶ月単位の変形労働時間制とは?採用事例や4つの導入ステップを紹介
3-1. 対象となる労働者の範囲
1ヵ月単位の場合も、変形労働時間制のもとで働いてもらう労働者の範囲を明確にする必要があります。法令上、対象者についての制限はありません。しかし、範囲ははっきりとさせておかなくてはいけないため、しっかり規定しておきましょう。
3-2. 対象期間および起算日
対象期間および起算日は、「毎月1日を起算日とし、1ヵ月を平均して1週間あたり40時間以内とする」といったように、具体的に定めましょう。
3-3. 変形期間中の各日および各週の労働時間
1ヵ月単位の変形労働時間制の場合は、対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に決めておく必要があります。対象期間中は1日の労働時間が8時間を超えても問題ありませんが、期間中を平均して1週間あたりの平均労働時間が40時間を超えないように注意しましょう。
3-4. 労使協定の有効期限
1ヵ月単位の変形労働時間制に関する労使協定の有効期限は、対象期間よりも長い期間にする必要があります。この場合、適切に運用するためには3年以内程度の有効期限にしておくことが好ましいです。
4. 1週間単位の変形労働時間制の労使協定
最後に、1週間単位の変形労働時間制の労使協定について見ていきましょう。この場合の労使協定の内容は非常にシンプルで、以下の2点を定めておけば問題ありません。
- 1週間の労働時間が40時間以下となること
- 1日の労働時間の限度を10時間とすること
なお、1週間単位の変形労働時間制を導入できるのは、常時使用する労働者が30人未満で、小売業・旅館・料理店・飲食店の事業者のみです。また、1週間の各日の労働時間を、該当する1週間が開始する前までに書面で周知する必要があります。
5. 変形労働時間制の導入による経営への影響
変形労働時間制の導入は、企業にとって大きな経済的メリットをもたらす可能性があります。特に、業績の波が大きい事業者にとっては、繁忙期と閑散期の労働時間を調整することで、人件費の最適化が期待できます。
また、労働時間の柔軟な調整は、労働者の働きやすさを向上させることも可能です。従業員のストレスを軽減し、ワークライフバランスを改善することで、結果的に生産性の向上につながると考えられます。
6. 変形労働時間制と労使協定に関するよくある質問
変形労働時間制と労使協定について、よくある質問を解説します。
6-1. 中小企業でも変形労働時間制を導入できますか?
はい、中小企業でも変形労働時間制を導入することは可能です。ただし、適切な労使協定の締結やその後の管理が必要となります。
6-2. 労使協定が違反された場合、どのようなペナルティーがありますか?
労使協定が違反された場合、労働基準法違反となり、罰則が科せられる可能性があります。この罰則は、企業の罰金や担当者の刑事罰として具体化することがあります。そのため、企業は労使協定を適切に遵守することが重要です。
7. 導入する変形労働時間制の労使協定の項目をしっかりと押さえておこう
従業員に対する給与の支払方法は労基法第24条で定められており、通貨で支払うこと、従業員に対して直接支払うこと、支払うべき賃金は全額払うこと、給与は毎月支払うこと、一定期日ごとに給与を支払うことの5つが原則となっています。
勤怠の締日を変更したことによって変更月の労働日数が短くなっている場合は、短くなった期間で給与計算しても差し支えありません。
しかし、勤怠の締日を変更したことによって給与が支払われない月が発生してしまうと、労働法で定められている毎月払いの原則を犯してしまうので、認められないということになります。
変形労働時間制を導入するときは、労使協定で対象期間や労働時間などについてしっかりと定めておかなくてはいけません。労使協定を締結しない場合や、内容を遵守しない場合は罰則が課されてしまうため、十分に注意しましょう。
導入する変形労働時間制の種類によって、労使協定で定める内容は異なります。しっかりと導入する制度に必要な項目を理解し、適切な労使協定を締結しましょう。
変形労働時間制の導入には、労使協定の締結や就業規則の変更・届出など、行うべき手続きが存在します。
また、変形労働時間制を導入した後に、「所定時間が毎回異なるので、勤怠管理が煩雑になった」「残業時間の計算方法がよく分からない」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向け、当サイトでは「変形労働時間制の手引き」をご用意しました。「変形労働時間制の導入手順を詳しく知りたい」「残業の数え方や勤怠管理の方法を知りたい」という方は、ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
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