懲戒解雇した社員に退職金を支払う義務はある?不支給の条件や手続きを解説
更新日: 2025.3.11
公開日: 2024.7.31
OHSUGI
懲戒解雇とは、重大な規律違反や秩序違反を犯した従業員に対しておこなわれる「解雇処分」です。違反を犯して解雇となったので、会社側からすると退職金は払いたくないと思うかもしれません。
しかし、就業規則に懲戒解雇による退職金不支給が明記されていても、基本的に退職金を支払う必要があるとされています。ただし、従業員の悪質な行為により企業側が不利益を被った判断された場合は、退職金の不支給が認められるケースも少なくありません。
いずれにしても、懲戒解雇で退職金を支給するかしないかは企業の判断になりますが、不支給にするには就業規則の見直しや変更が必要になるでしょう。本記事では、懲戒解雇した際の退職金不支給の条件や、退職金不支給にするための就業規則の定め方、不支給になった事例などを解説していきます。
目次 [非表示]
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1. 懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、従業員との労働契約を会社側が一方的に破棄(解約)する処分です。従業員が就業規則に違反したり、重大な規律違反や秩序違反をしたりした場合、会社は懲戒処分を課すことができます。
懲戒処分は、主に下記のような種類があります。
処分 | 処分内容 |
戒告・けん責 | 戒告:将来を戒める処分
けん責:始末書を提出させて将来を戒める処分 |
減給 | 本来労働者が受け取るべき賃金額から一定額を差し引く処分 |
出勤停止・自宅謹慎 | 雇用契約は継続となるが、一定期間の出勤を禁止する処分 |
降格 | 役職や職位などを引き下げる処分 |
諭旨解雇 | 退職願の提出を促し、提出があれば退職扱い、提出がない場合は懲戒解雇とする処分 |
懲戒解雇 | 雇用契約を一方的に解約する処分 |
懲戒処分の中で、懲戒解雇はもっとも重い処分となるため、就業規則において懲戒事由が明確に記載されていること、懲戒処分に懲戒解雇が定められていることなどが実施条件となります。
懲戒解雇は、懲戒処分の中でも、もっとも重い制裁であり、懲罰的な意味合いで行われるため、退職金の不支給または減額を伴うケースが多いです。
従業員が、重大な職場規律違反・企業秩序違反(例えば、横領・贈賄などの明確な犯罪)を犯した際に実施されます。
2. 懲戒解雇の場合でも基本的に退職金は支払う必要がある
就業規則に基づき従業員を懲戒解雇した場合でも、基本的には退職金を支払う必要があります。退職金を不支給にできない理由は、退職金には以下3つの法的性格を持ち合わせているからです。
- 賃金後払いの性格
- 功労報償的性格
- 生活保障的性格
過去の判例では、上記の退職金の性格を踏まえて、功労を抹消するほどの行為でない場合は退職金の請求を認めています。
しかし、中には退職金請求の一部が認められた事例もあります。一部退職金の請求が認められた過去の判例については、以下中央労働委員会の事例をご確認ください。
参照:退職後の競業行為を理由とする退職金の不支給|中央労働委員会
参照:就業規則違反を理由とする退職金の不支給 |中央労働委員会
3. 懲戒解雇による退職金の不支給は可能
従業員がこれまでの功労を抹消するほどの悪質な行為で懲戒解雇された場合は、退職金の不支給が認められる場合があります。例えば、企業に大きな損害をもたらしたり、企業の社会的な信用を低下させたりするなど、会社に不利益をもたらした場合は不支給にすることも不可能ではありません。
ただし、懲戒解雇による退職金の不支給を可能にするには、就業規則に退職金の不支給に関する規程を記載しなければなりません。
とはいえ、単に「懲戒解雇は退職金を不支給にする」というような内容は、従業員に不利益となる可能性があります。従業員に不利益になる就業規則は合意が得られないので、変更や見直しをする際は従業員が納得できる内容にしましょう。
4. 懲戒解雇による退職金を不支給にする就業規則の定め方
懲戒解雇による退職金を不支給にする就業規則の定め方について、以下2つの方法をご紹介します。
- 新しく就業規則を作成する場合
- 就業規則を変更する場合
ここでは、これらの方法について解説していきます。
4-1. 新しく就業規則を作成する場合
10人以上の従業員を雇用する企業では、就業規則の作成が必要です。
退職金を定める場合は、労働基準法第89条3の2に基づき以下の内容を記載しなければなりません。
- 退職金が適用される労働者の範囲
- 退職金の決定
- 退職金の計算および支払の方法
- 退職金の支払の時期に関する事項
厚生労働省より公表されている「モデル就業規則」では、退職金に関する記載方法を紹介しています。モデル就業規則を参考にしたうえで、それぞれの企業に合う退職金規程を定めてください。
併せて、懲戒解雇による退職金の不支給に関する規定も決めましょう。
また、新たに就業規則を作成する場合は、退職金以外にも記載すべき項目があります。以下の記事に就業規則の作成方法や注意点などをまとめているため、ぜひ参考にしてください。
参考記事:就業規則の作成方法|記載すべき項目や注意すべきポイントを解説
4-2. 就業規則を変更する場合
すでにある就業規則を変更する場合は、労働基準法第90条に基づき、労働組合や労働者の代表の意見を伺う必要があります。企業側が従業員の意見を確認せず、就業規則を変更することはできません。
懲戒処分の中に新たに懲戒解雇の項目を入れる場合や退職金を不支給にすることを定める場合は、客観的に合理的な理由があること、社会通念上に相当することが求められます。会社側だけに都合が良いような内容では、懲戒解雇自体が無効となるので注意しましょう。
従業員の意見を確認し就業規則の変更に問題がなければ、労働者代表の意見書を添えて、労働基準監督署長へ書類を提出します。提出方法については、厚生労働省の資料を参考にしてください。
5. 退職後に懲戒解雇に相当する不正が発覚した場合
従業員の退職後、懲戒解雇に相当する不正が発覚した場合に知っておきたい内容は以下の2つです。
- すでに退職している場合は懲戒解雇にできない
- 退職後の退職金返却に関する規則を定める
退職後は、「雇用契約」は適用されないので、担当者の方は「退職後に不正が発覚した場合」の対応について確認しておきましょう。
5-1. すでに退職している場合は懲戒解雇にできない
従業員が退職後、懲戒解雇に相当する不正が発覚しても、懲戒解雇に変更することはできません。懲戒解雇は従業員と雇用契約がある際に効力が発生するため、雇用契約を終了した場合は無効です。
もし退職金を支払った後に従業員の不正が発生した場合は、懲戒解雇に変更できず、退職金の返却を求めることは難しいとされています。
そのため、従業員が突然退職を申し出たり、少しでも怪しいと思ったりした際は、不正に相当する行為がないか調査しましょう。
5-2. 退職後の退職金返却に関する規則を定める
退職金を支払った後の不正発覚を考慮し、退職金返却に関する規則を定めましょう。就業規則に記載しておけば、退職金を支払った後でも従業員の不正を理由に退職金返却を請求できます。
ただし、退職金返却を請求するには、従業員が不正したとされる証拠をまとめておきましょう。客観的な証拠が無い場合は、返却を求めても応じてもらえない可能性があります。また、訴えても証拠がなければ無効となる確率が高いので、必ず調査をして「不正がおこなわれた」証拠を集めておくことが重要です。
6. 懲戒解雇による退職金不支給の扱いとなった3つの事例
懲戒解雇による退職金不支給の扱いとなった事例として、以下3つの事例をご紹介します。
- 企業機密情報を転職先に漏洩した事例
- 競業他社の業務を請け負った事例
- 約1年半にわたり横領を繰り返した事例
ここでは、これらの事例について解説します。
6-1. 企業機密情報を転職先に漏洩した事例
企業機密情報(事業契約書・稟議書・売上など)を転職先に漏洩し、懲戒解雇による退職金不支給となった事例です。
情報漏洩が発覚した従業員は懲戒解雇となり、企業側は退職金を支払いませんでした。しかし従業員は納得できず、退職金の支払いを求めて企業を提訴します。
裁判所では、漏洩した情報は企業の利益を大きく害する内容であり、悪質な行為であると判断しました。よって、従業員の退職金請求を認めず、企業側は退職金を支払わなくてよいという判決がくだされています。
6-2. 競業他社の業務を請け負った事例
競業他社の業務を請け負い、懲戒解雇による退職金不支給となった事例です。
従業員は、就業時間中に競業他社の業務をおこなうだけでなく顧客を奪う行為をしたとされ、企業側は退職金を支払いませんでした。納得できない従業員は、退職金の支払いを求めて企業を提訴します。
裁判所の判決では、競業他社の業務を請け負った事実は悪質な行為であると判断しました。また企業の損失が認められたため、従業員の退職金請求を認めず、退職金の不支給が適用されています。
6-3. 約1年半にわたり横領を繰り返した事例
約1年半にわたり横領を繰り返し、懲戒解雇による退職金不支給となった事例です。
従業員は金銭や金券などを取り扱う窓口と総務に従事し、他店に異動するまでの約1年半にわたり横領を繰り返しました。
異動後に後任となった担当者が窓口の金額が合わないことを上司へ報告し、従業員の横領が発覚します。調査の末に従業員は懲戒解雇とされ、企業側は退職金を支払いませんでした。
しかし従業員は、自己都合退職であれば退職金が受け取れたとし、退職金の支払いを求めて企業側を提訴します。
裁判所の判決では、長期にわたる横領を繰り返したことは悪質な行為であると判断されました。また横領を隠蔽した事実も悪質性が高いとされ、従業員の退職金請求を認めず、企業側の退職金不支給が適用されています。
7. 懲戒解雇について理解したうえで退職金不支給の就業規則を定めよう
就業規則に懲戒解雇により退職金不支給を定めていても、基本的に企業側は退職金を支払わなければなりません。
ただし、従業員の悪質な行為が認められたり、企業の損失が認められたりする場合は、就業規則に記載のあるとおり退職金不支給が適用される場合もあります。
懲戒解雇による退職金不支給を適用するために、労働基準法に基づいた就業規則を定めましょう。また、退職後に従業員の不正発覚に備えて、退職金返却に関する規程も加えることも大切です。
就業規則に退職金規定を設けていても、退職金不支給や返却に関する記載がなければ効力はないので、不正を抑止するためにも就業規則の変更を検討してみてください。
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