住民税特別徴収とは?納付手続きの流れや注意点を詳しく紹介
更新日: 2025.4.18
公開日: 2024.7.29
OHSUGI
従業員を雇用する企業では、住民税特別徴収をおこなう必要があります。そのため、企業は住民税を正しく納められるように、基本的な知識を確認しておくことが重要です。
しかし、一方で「普通徴収との違いは?」「どのように手続きすればいい?」など、疑問を抱えている方は多いでしょう。
住民税特別徴収や普通徴収などに関する正しい知識を持っておかないと、滞納などのトラブルをまねくリスクがあるため、担当者の方はしっかり理解しておくことが求められます。
本記事では、住民税特別徴収の基礎知識や普通徴収との違い、知っておくべき注意点、シーン別に必要な手続きなどを解説していきます。
目次
給与計算を手計算しているとミスが発生しやすいほか、従業員の人数が増えてくると対応しきれないという課題が発生します。 システムによって給与計算の内製化には、以下のメリットがあります。
・勤怠情報から給与を自動計算
・標準報酬月額の算定や月変にも対応しており、計算ミスを減らせる
・Web給与明細の発行で封入や郵送の工数を削減し、確実に明細を従業員へ渡せる
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1. 住民税特別徴収とは
住民税特別徴収とは、給与支払者(事業主)が納税義務者(従業員)に代わって個人住民税を納付する制度です。毎月の給料から天引きして、納税義務者が居住している市町村に納めます。
「地方税法第三百二十一条の四」によって住民税特別徴収は義務付けられているため、給与支払者は手続きが必須です。下記の条件を満たしたすべての従業員が対象となります。
- 正社員やパートタイム労働者・アルバイトを含むすべての従業員
- 前年中に給与の支払いを受けている
- 当月の4月1日に給与の支払いを受けている
県民税と市民税をあわせたものが個人住民税になり、これらは前年の所得に応じて計算されます。正しく納付するために、基本的なルールを確認しておきましょう。
1-1. 住民税特別徴収の納付方法
住民税特別徴収は、従業員の給与から天引きした預かり金を集計し、納付する市区町村別に振り分けて納付します。
主な納付方法は、以下の3つになります。
- 特別徴収税額通知書に同封されている納入書による納付
- 地方税共通納税システム(eLTAX)
- 銀行の「地方税納入サービス」などオンラインによる納付
これらの方法のいずれかを使って納付しますが、利用しているシステムによっては「eLTAX用」や「オンライン振込用」のデータを自動で作成できるものもあります。
どの納付方法でも、納付する際には特別徴収税額通知書の納付額と集計した住民税の額が一致していることを確認しましょう。
1-2. 住民税特別徴収の納付期限
住民税特別徴収の納付期限は、従業員の給与から住民税を天引きした翌月10日までとなっています。
納付期限に納めないと、市町村から催促状が届き、納付期限の翌日から延滞金が発生します。延滞金は延滞税率によって決まりますが、延滞期間が1カ月以上になると税率が跳ね上がるため注意が必要です。延滞金は、納付義務のある企業に必ず請求されるので、納期期限はしっかり守りましょう。
2. 住民税特別徴収と普通徴収の違い
特別徴収と普通徴収では対象者や徴収回数などに違いがあります。
住民税の普通徴収とは、納税義務者が自ら納付する方法です。前年に一定以上の所得がある場合に、市町村から送付された「納税通知書」を使用して住民税を収めます。
特別徴収と普通徴収の具体的な違いを以下にまとめました。
住民税特別徴収 | 普通徴収 | |
対象者 | すべての従業員 | 個人事業主やフリーランス
退職後に次の就職先が決まっていない方 転職先が決まり申請手続き中の方 特別徴収から普通徴収に切り替えが認められた方 |
徴収する回数 | 1年分を12回に分けて納付 | 6月8月10月1月の年4回 |
納付方法 | 給与支払者が給与から天引きして翌月10日までに納付 | 納付通知書を使って納税者が自ら納付 |
すべての従業員は住民税特別徴収の対象であるため、普通徴収は基本的に関係ありません。ただし、一部例外もあるのでチェックしておきましょう。
参照:個人住民税|総務省
3. 住民税特別徴収の納期の特例とは
住民税特別徴収には、特別徴収した住民税を年に2回に分けて納めることを認める特例があります。原則として給与を支払った翌日の10日までに住民税を納める必要がありますが、特例を利用することで納付の回数を減らせます。
対象となるのは「給与支給人数が常時9人以下の特別徴収義務者」です。対象となっている企業は、年に2回の納付時期をチェックしておきましょう。
徴収した期間 | 納付期限 |
6月~11月 | 12月10日 |
12月~翌年5月 | 翌年6月10日 |
ただし、対象となっているだけで特例を受けられるわけではありません。住民税特別徴収の納期の特例を受けるためには申請が必要です。詳しい方法は市町村の公式ホームページで確認してください。
なお、常時10人以上になると特例の要件が満たせなくなるため、届出書をなるべく早く提出しましょう。
4. 住民税特別徴収の手続きの流れ
住民税特別徴収の手続きをおこなう際の流れは、以下の通りです。
- 給与支払報告書を提出する
- 給与から住民税を天引きする
- 住民税を納付する
これらの流れの詳細を知っておくことで、スムーズに手続きをおこなえるので、ここで解説していきます。
4-1. 給与支払報告書を提出する
給与支払者は、毎年の1月31日までに納税義務者が居住している市町村に以下の書類を提出します。
- 給与支払報告書個人別明細書
- 給与支払報告書総括表
普通徴収になる納税義務者がいる場合は、上記にくわえて「普通徴収切替理由書(兼仕切書)」を用意してください。
給与支払報告書は以下の方法で提出できます。
- 郵送
- 窓口
- eLTAX(電子申請)
- 光ディスクなど
eLTAX(エルタックス)もしくは光ディスクで提出するためには手続きが必要なので、事前に準備しておきましょう。
なお、年度途中から住民税特別徴収を開始したい場合は、「特別徴収切替届出書」の提出も求められます。
4-2. 給与から住民税を天引きする
住民税特別徴収は6月からスタートとなるので、6月の給与から住民税を天引きします。住民税額は「特別徴収税額決定通知」を確認してください。
特別徴収税額決定通知は、納税義務者が住居する市町村から毎年5月頃に届きます。記載された年税額と月割額に従い、毎月の給与から天引きしましょう。
4-3. 住民税を納付する
納税義務者の給与から天引きした住民税を、市町村に納付します。期限は特別徴収した月の翌月10日までです。
納付は、指定された金融機関などの窓口でおこないます。手続きなどの準備が必要ですが、eLTAXによるキャッシュレス納付も可能です。
5. シーン別に必要な住民税特別徴収に関する3つの手続き
シーン別に必要な住民税特別徴収に関する3つの手続きは、以下のとおりです。
- 入社の際に必要な手続き
- 退職や異動の際に必要な手続き
- 納税額が変化した際に必要な手続き
必要な手続きを確認しておくことで、トラブルを防止できるでしょう。
5-1. 入社の際に必要な手続き
新卒入社など過去に所得がない入社者の場合、手続きは不要です。
一方、中途採用のような前年度に所得があるケースでは、市町村に以下のような書類を提出します。
前年度の徴収方法 | 必要書類 |
普通徴収 | 特別徴収切替届出書 |
特別徴収 | 給与所得者異動届出書 |
どちらのケースでも、届出をしなければ納税義務者本人が住民税を納めることになります。そのため、給与支払者は手続きをしなかったとしても問題はありません。
ただし、納税義務者(従業員)は会社が手続きしてくれると思っている可能性もあるので、手続きをしない場合は従業員に忘れずに伝えましょう。
翌年1月31日までに給与支払報告書を提出すれば、2年目から特別徴収への切り替えが可能です。
5-2. 退職や異動の際に必要な手続き
退職の際には、「給与所得者異動届出書」を翌月の10日までに市町村に提出します。
退職によって発生する未徴収税額の徴収方法は以下の通りです。
退職した時期 | 徴収方法 |
6月1日~12月31日 | 普通徴収もしくは一括徴収に切り替え |
1月1日~4月30日 | 一括徴収に切り替え |
5月 | 特別徴収 |
このように、退職時期によって報酬方法は異なるため、あらかじめチェックしておきましょう。ただし、死亡による退職の場合は時期に関係なく、徴収方法は普通徴収となるので間違えないようにしてください。
転職の場合は、納税義務者の転職先に「給与所得者異動届出書」を送ることで特別徴収を引き継げます。「新しい給与支払者」の欄を記入したうえで、転職先を通じて提出してください。
5-3. 納税額が変化した際に必要な手続き
通知した納税額に変更があったときは、市町村から「特別徴収税額変更通知書」が届きます。
この場合、納税額が増えた場合は手続き不要ですが、通知に記載された金額を給与から天引きするという業務が増えます。
ただし、税額が大幅に減った場合は還付に関する手続きが必要となるため、通知された方法に従って手続きをおこないましょう。
6. 住民税特別徴収のメリット
住民税特別徴収は年12回払いとなるため、1回の支払い額の負担が少なくなります。また、毎月天引きされるので納付期限を気にする必要もなく、「納付の納め忘れ」がないというのがメリットです。普通徴収は年4回なので、場合によっては支払いを忘れてしまうというリスクがありますが、住民税特別徴収は毎月の業務に組み込まれているので、担当者のミスを防ぐことができます。
また、所得税は徴収額が毎月変わるので計算が必要ですが、住民税の税額計算は市区町村がおこなうため、税額計算の業務の負担や年末調整の手間がかからないというのもメリットです。
7. 住民税特別徴収のデメリット
住民税特別徴収のデメリットは、従業員すべての住民税の管理や納付手続をおこなわなければならないということです。
住民税特別徴収は、各従業員の住所地に給与支払報告書を送付し、市区町村から送られてくる特別徴収税額決定通知の税額を従業員の給与から控除するという流れになります。
毎月納付で税額も決まっているので、一度手続きをしてしまえばそれほどの負担はないかもしれません。しかし、従業員数が多ければ、その分手続きの手間がかかります。
また、何らかのトラブルで滞納してしまうと、企業側の責任となることもあるため、担当者の方は滞納しないように毎月の確認するという業務負担が増えるのもデメリットといえるかもしれません。
8. 住民税特別徴収をする際の3つの注意点
住民税特別徴収に関する3つの注意点は以下のとおりです。
- 原則として普通徴収への切り替えはできない
- 拒否すると脱税になる
- 退職金も特別徴収の対象になる
ここではこれらの注意点について解説するので、担当者の方は、トラブルを避けるためにしっかり確認しておきましょう。
8-1. 原則として普通徴収への切り替えはできない
原則として、住民税特別徴収から普通徴収へ切り替えることはできないので注意してください。
しかし、以下の条件のいずれかに該当する場合は、普通徴収への切り替えが認められています。
- 会社の総従業員数が2名以下
- ほかの事業所で特別徴収をおこなっている
- 給与が少なく税額が引けない
- 給与の支払いが不定期
- 個人事業主の事業専従者で専従者給与をうけている
- 5月末日までの退職者または退職予定者
上記に当てはまる納税義務者がいて、切り替えを希望している場合は、給与支払報告書とあわせて「普通徴収切替理由書(兼仕切書)」を提出します。提出しないと切り替えられないので注意しましょう。
ただし、切り替えに関しては自治体によって条件が異なることがあるので、詳しくは市町村の公式サイトでチェックしてください。
8-2. 拒否すると脱税になる
住民税特別徴収は給与支払者の義務であり、拒否すると脱税になります。地方税法の規定によって、10年以下の懲役または200万円以下の罰金が科されるので注意しましょう。
また、納期限までに納付できなかった場合は延滞金が発生します。
延滞金は督促状が届いた日からではなく、納期限の翌日から納付した日までの日数に応じて加算されるため、遅れた際にはなるべく早く納付することが重要です。
8-3. 退職金も特別徴収の対象になる
退職金は住民税特別徴収の対象になります。そのため、退職金を支払う際に住民税を天引きして納付することが、基本のルールです。
退職金の特別徴収は、預かり金課税退職所得金額に税率をかけて住民税を算出します。計算式は課税退職所得金額×税率10%(都道府県民税4%+市区町村民税6%)です。
支払わないまま退職してしまうと、退職者に請求がいきます。退職者が特別徴収を理解していれば問題ありませんが、知らない場合はトラブルになる可能性があるので注意しましょう。
参照:退職所得にかかる住民税の計算・納入について|千代田区役所
9. 住民税特別徴収の納付は企業の義務
納税義務者(従業員)を雇用する給与支払者(企業)は、住民税特別徴収をおこなうことが義務づけられています。義務ということは法律で定められているため、「知らなかった」ではすまされません。そのため、普通徴収との違いや手続きの基本的な流れ、基本的な知識を確認しておくことが重要です。
また、従業員が常時9人以下なら納期の特例を申請することを検討しましょう。eLTAXなどキャッシュレス納付を活用すれば、手続きの手間が減るので、担当者の方の負担を軽減できます。
併せて、住民税特別徴収する際の注意点や、シーン別に必要な手続きをチェックしておけば未払いなどのリスクを防ぐことも可能です。
意図しない滞納や手続きのミスを防止して、正しく住民税を納めてください。
給与計算を手計算しているとミスが発生しやすいほか、従業員の人数が増えてくると対応しきれないという課題が発生します。 システムによって給与計算の内製化には、以下のメリットがあります。
・勤怠情報から給与を自動計算
・標準報酬月額の算定や月変にも対応しており、計算ミスを減らせる
・Web給与明細の発行で封入や郵送の工数を削減し、確実に明細を従業員へ渡せる
システムを利用した給与計算についてさらに詳しく知りたい方は、こちらからクラウド型給与計算システム「ジンジャー給与」の紹介ページをご覧ください。



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