賃金台帳の保存期間は5年!起算日や保存方法、違反した際の罰則を解説
更新日: 2025.5.30
公開日: 2021.11.12
jinjer Blog 編集部
賃金台帳とは、企業が従業員に対して支払った給与を記録しておく帳簿のことです。賃金台帳は労働基準法第108条で作成が義務づけられている書類で、一定期間保存することが求められます。
この記事では、賃金台帳の保存期間と保存方法について紹介します。保存期間や保存方法に気をつけないと、労働基準監督署から指摘を受けたり罰金が科されたりする恐れがあるので、正しい知識を身につけておきましょう。
▼賃金台帳とは?という方はまずはこちら
賃金台帳とは?記載事項や作成方法、給与明細との違い・代用できるかを解説
「賃金台帳の作成方法や保管期間などがあっているか不安」
「賃金台帳を作成していない場合のリスクを知りたい」
など賃金台帳の取り扱いに関して不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて当サイトでは、『賃金台帳の作成ガイドブック』を無料で配布しております。記載する際に必要な項目や具体的な記入例をまじえながら、作成手順を詳細に解説しています。
適切な保管期間や賃金台帳の基礎ついても詳しく紹介していますので、「法律に則って適切に帳簿を管理したい」「賃金台帳の基本を確認しておきたい」という担当者の方は、大変参考になる内容となっています。ぜひこちらからダウンロードしてご覧ください。
目次
1. 賃金台帳の保存期間は何年?
賃金台帳は、事業所ごとに作成が義務づけられている帳簿で、1人でも従業員を雇い入れている企業や個人事業主であれば必ず作成しなくてはいけません。加えて、賃金台帳は作成して終わりではなく、労働基準法によって一定期間保存しておくことが求められています。
まずは、賃金台帳の保存期間について詳しく解説します。
1-1. 賃金台帳の保存期間は5年間
賃金台帳は、労働基準法第109条に基づき、5年間の保管が義務付けられています。
この期間が経過するまでは、どのような理由があっても従業員の台帳を処分してはいけません。従来は賃金台帳の保存期間は3年間でした。しかし、2020年4月の労働基準法改正によって保存期間が5年に延びています。
(記録の保存)
第百九条 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。
1-1-1. 経過措置期間中のため現在は3年でも可
現在、賃金台帳の保存期間は3年間から5年間に延長される経過措置中です。
労働基準法第143条には、当分の間、3年間の保存が許可されることについて明記されています。このため、今は3年間の保存でも問題ありませんが、いずれは5年間の保存が義務づけられることが確実です。
したがって、企業は早めに5年間の保存を前提としたマニュアルや業務フローの見直しをおこなうことで、経過措置期間が終了してもスムーズに対応できるでしょう。
第百四十三条 第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。
1-2. 賃金台帳を源泉徴収簿と兼ねる場合の保存期間は7年間
企業のなかには、賃金台帳と源泉徴収簿を兼ねて運用をしているところもあるでしょう。賃金台帳を源泉徴収簿として取り扱うことは法的に何の問題もありません。しかし、源泉徴収簿は「その申告書等の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間」まで保存する必要があるため、保存期間が5年から7年に延びるということを理解しておきましょう。
このため、賃金台帳と源泉徴収簿を一緒に管理する場合は、特に注意が必要です。適切な記録管理をおこなうことで、税務署からの指摘や監査の際にもスムーズに応対できるようになります。
また、賃金台帳の記載内容が不十分な場合、源泉徴収に関する申告も影響を受けることがあるので、しっかりと記録を残しておくことが企業の信頼性向上にもつながります。
参考:No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間|国税庁
2. 賃金台帳の保存期間における起算日の考え方
賃金台帳は原則5年間保存すべきですが、その起算日についてもルールがあります。大切なポイントなので、正しく押さえておきましょう。
2-1. 起算日は原則「最後に記載した日」
賃金台帳は原則最後に書き入れた日から起算して5年間保管する必要があります。
起点となる日がずれてしまうとルール違反になるため、間違えることなく正しく理解しておく必要があります。
2-2. 「賃金の支払い期日」になる場合もあるため注意
賃金台帳の保存期間の起算日については、例外があります。賃金台帳に最後の記入をした日よりも、その記録に関わる賃金の支払い期日が後にくる場合、その賃金の支払い期日が起算日となるので注意しましょう。
2-3. 法定三帳簿の保存期間と起算日
労働基準法もしくは労働基準法施行規則で保管が定められている帳簿は、決して賃金台帳だけではありません。ほかにも、以下の2つの帳簿作成が義務づけられており、この3つの帳簿をまとめて「法定三帳簿」とよびます。
労働者名簿:事業場ごとに労働者の氏名や生年月日、履歴などを記入した帳簿
出勤簿:労働者の始業や終業時刻、労働時間を把握するための帳簿
法定三帳簿はすべて起算日から5年間の保管が必要ですが、それぞれで起算日が異なる点に注意しましょう。労働基準法施行規則第56条によると、帳簿ごとの起算日は以下のとおりです。
賃金台帳 | 最後に書き入れた日から5年間 |
労働者名簿 | 労働者の退職、解雇、死亡の日から5年間 |
出勤簿 | 労働者が最後に出勤した日から5年間 |
保存期間は同じですが、起算日が異なる点に注意して管理するようにしてください。
第五十六条 法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。
一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日
二 賃金台帳については、最後の記入をした日
三 雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日
四 災害補償に関する書類については、災害補償を終わつた日
五 賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日
② 前項の規定にかかわらず、賃金台帳又は賃金その他労働関係に関する重要な書類を保存すべき期間の計算については、当該記録に係る賃金の支払期日が同項第二号又は第五号に掲げる日より遅い場合には、当該支払期日を起算日とする。
3. 賃金台帳の書き方と記載事項
賃金台帳には、保存期間だけでなく、必要事項などのルールも定められています。ここでは、賃金台帳の書き方と記載事項について詳しく紹介します。
3-1. 賃金台帳のフォーマットは決められていない
賃金台帳の作成義務は、労働基準法で定められていますが、フォーマットは明確に指定されていません(労働基準法施行規則第55条、第59条の2)。そのため、必要事項をきちんと記載し、正しい期間保存できていれば、独自で作成した賃金台帳のフォーマットを用いても問題ありません。
3-2. 賃金台帳に記載すべき必須項目
賃金台帳に記載すべき事項は、労働基準法施行規則第54条に明記されています。具体的には、次の事項を記載する必要があります。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれの時間数
- 基本給と手当などの種類とその金額
- 賃金控除項目とその金額
これらの項目が記載されていなければ、賃金台帳と認められず、労働基準法違反となる可能性もあります。また、賃金台帳が正しく作成できていない場合、残業代や割増賃金などの賃金も正しく計算・支給されていない恐れがあるので、正しく管理しましょう。
3-3. 日雇い労働者は「賃金計算期間」に記入が不要
賃金台帳は、すべての労働者が対象であり、一人ひとりに対して作成しなければなりません。そのため、パート・アルバイトや契約社員、日雇い労働者なども、賃金台帳の対象者に含まれます。
しかし、日雇い労働者については、労働基準法施行規則第54条により、「賃金計算期間」の記載をしなくても問題ありません。ただし、1ヵ月を超えて引き続き雇用されることとなる日雇い労働者については、「賃金計算期間」の記入も必要になるので気を付けましょう。
関連記事:賃金台帳に必要な記載事項とは?それぞれの意味を詳しく解説
4. 賃金台帳の正しい保存方法
5年間もしくは7年間の長期間にわたる保存が必要な賃金台帳は、どのように保存したらよいのでしょうか。ここでは、賃金台帳の適切な保存方法について紹介します。
4-1. 更新日を記入する
賃金台帳には、労働基準法第108条に則り、給与を支払う都度、必要事項を遅滞なく記載しなければなりません。その際、必ず更新した日付も記入するようにしましょう。
更新日(最後に記入をおこなった日)がわからないと、賃金台帳の保存期間の起算日を特定できず、正しく賃金台帳を管理できなくなる恐れがあります。そのため、賃金台帳を更新した日がわかるように管理をおこなうことが大切です。
4-2. 事業所ごとに保存する
賃金台帳は、労働基準法第108条に明記されているように、事業所ごとに保存する必要があります。
したがって、本社で賃金台帳を一括作成する場合でも、事業所ごとに帳簿を備え付けておかなくてはいけません。本社だけに帳簿やデータを保管するのではなく、各事業所に所属する従業員に関する帳簿やデータを配布しておくようにしてください。
(賃金台帳)
第百八条 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない。
4-3. 賃金台帳の保存方法は紙媒体でも電子媒体でも可
帳簿というと紙媒体での保存をイメージする人も多いかもしれませんが、実は賃金台帳の保存方法に指定はありません。そのため、紙媒体はもちろん電子データによる保存も可能なのです。
ただし、電子データで保存する場合は、労働基準監督署から提出を求められたときにすぐ見せられるようにしておくことが条件となります。すぐに表示できるだけではなく、即時印刷ができるデータ形式で保存しておくことが重要です。
関連記事:賃金台帳の提出方法を解説!賃金台帳がない場合の対応も紹介
5. 賃金台帳を電子データで保存するときの注意点
賃金台帳は電子データでも保存できますが、一定の要件を満たした状態で保存することが求められています。
5-1. 賃金台帳と電子帳簿保存法との関係
電子帳簿保存法とは、「国税関係の帳簿や書類」を特定の条件下で電子化して保存できる法律です。これにより、従来の紙の帳簿をオンライン上で管理することが可能になりました。
賃金台帳は「国税関係の帳簿や書類」に該当するケースもあります。また、源泉徴収簿は、明確に国税関係の帳簿に該当します。
そのため、源泉徴収簿を兼ねた賃金台帳を電子化する場合、電子帳簿保存法の要件に注意が必要です。源泉徴収簿を兼ねない賃金台帳を電子化する場合も、税理士・社労士といった専門家に確認したうえで、慎重に電子化を進めましょう。
関連記事:【2023年版】電子帳簿保存法とは?概要と改正内容をわかりやすく解説
関連記事:源泉徴収簿を作成する必要性やその手順・注意点を解説
5-2. 画像情報の安全性が確保されている
画像情報の安全性が確保されていることは、電子保存をおこなううえで非常に重要です。
平成8年6月27日基発第411号によれば、以下の状態で保存されている賃金台帳であれば、保存義務が満たされると言及されています。
- 記録された保存義務のある画像情報について、故意または過失による消去や書き換え、混同ができないこと。
- 画像情報を記録した日付や時刻、媒体の製造番号などの固有標識が同一電子媒体上に記録され、参照が可能であること。
- 保存義務のある画像情報と保存義務のない画像情報を同一機器上で扱う場合、それぞれを明確に区別できること。
これらの要件を満たすことにより、賃金台帳の電子管理が法的に認められ、不正や情報の漏洩を防止することが期待されます。
安全性の高い画像情報の管理が、企業の信頼性向上にも寄与することでしょう。
5-3. 画像情報を正確に記録し、かつ長期的にわたって復元できる
画像情報を正確に記録し、かつ長期的にわたって復元できることが求められます。具体的には以下のようなポイントです。
- 電子媒体やドライブ、その他の画像関連機器について、保存義務のある画像情報を正確に記録できること。
- 電子媒体に記録された保存義務のある画像情報を、法令によって定められた期間中に損なわれることなく保存できること。
- 電子媒体やドライブ、媒体フォーマットやデータ保管システムについて、記録された画像情報を正確に復元できること。
- 労働基準監督官の調査時など必要なときに、すぐ必要事項が明らかになり、写しを提出できるシステムになっていること。
このように、電子媒体で賃金台帳を保管するときは、一定の要件が設けられています。必ず、上記の要件を満たせる状態で保管することを意識してください。
6. 賃金台帳の保存期間に違反するとどうなる?
賃金台帳は起算日から5年間の保存が法令で義務づけられていますが、万が一期間中に台帳を破棄してしまい、保存期間に違反してしまうとどうなるのでしょうか。
この章では、賃金台帳の保存期間に違反したときの罰則について説明します。
6-1. 賃金台帳の保存期間に違反すると罰則がある
賃金台帳の作成は雇用主の義務であり、法令にもその必要性について明記されています。したがって、賃金台帳が適切に作成・保存されていない場合は労働基準法違反となり、同法の第120条に定められている30万円以下の罰金刑に処される恐れがあるのです。
この帳簿は、労働基準監督署や年金事務所などの調査で必要になるため、提出を求められた際にいつでも見せられるようにしておかなければいけません。必ず、不備がないようにしっかりと備え付けておきましょう。
当サイトで無料配布している「賃金台帳のガイドブック」では、賃金台帳を作成する方法や作成しなかった場合のリスクなどの基礎情報はもちろん、賃金台帳以外の出勤簿や労働者名簿などの他の法定三帳簿の保存期間についても解説しております。自社の帳簿管理が正しいかどうかを確認する際の参考資料としても活用できます。興味のある方はこちらから無料でダウンロードしてご覧ください。
6-2. 悪質でない限りは是正勧告書の交付が一般的
賃金台帳の保存期間に違反すると罰金刑に処されると紹介しましたが、実際に罰則が適用されるケースはそこまで多くありません。よほど悪質でない限りは、労働基準監督署から是正勧告書が交付され、自ら是正することが求められるのが一般的です。
ただし、この是正勧告に応じない場合、更に厳しい指導や罰則の適用に発展する恐れがあります。そうならないようにするためには、期日までに適切な賃金台帳を作成し、是正報告書と一緒に労働基準監督署に提出する必要があります。
6-3. 雇用保険や助成金の手続きに支障が出る恐れもある
雇用保険の資格喪失手続きでは、離職票を発行するためにも、基本的に賃金台帳の添付が必要となります。また、雇用関係助成金の申請をする際も、賃金台帳が必要になるケースがあります。
そのため、賃金台帳を正しく作成・保存できていない場合、雇用保険や助成金の手続きに支障が出る恐れもあります。賃金台帳は、従業員の失業手当の受給にも影響を与えるので、その重要性を理解し、正しく管理しましょう。
参考:雇用保険被保険者資格取得・喪失 必要書類一覧|厚生労働省
7. 賃金台帳は保存期間を守って適切に運用しよう
従業員へ支払った給与を管理するための帳簿である賃金台帳は、1人でも従業員を雇い入れている企業や個人事業主であれば、必ず備えつけておかなくてはいけないものです。帳簿を作成するだけではなく、原則最後に記載した日から5年間(当面の間は3年間)の保存が求められるため、不注意で廃棄しないように十分に気をつけましょう。
賃金台帳は紙媒体でも電子媒体でも保存することが可能ですが、データで保存する際はいくつかの要件を満たす必要があります。労働基準監督署から指摘を受けたり罰金刑に処されたりすることがないよう、適切に保管することを心がけてください。
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