厚生年金の経過的加算とは?計算方法や増やし方をわかりやすく解説
更新日: 2025.12.2 公開日: 2025.2.9 jinjer Blog 編集部

厚生年金の経過的加算とは、年金の受給を公平におこなうための仕組みです。60歳以降に働くか、働かないかのポイントにもなります。
企業の人事労務・経理担当者は、従業員に質問される場合もあるため、正しく理解しておくことが大切です。
本記事では、厚生年金の経過的加算の基本的な情報と計算方法、受給するメリットや経過的加算の増やし方を解説します。年金の受給額が気になる人は、ぜひ参考にしてみてください。
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1. 厚生年金の経過的加算とは


厚生年金の経過的加算とは、国民年金を40年納付したにもかかわらず、納付した年齢の関係で満額受給できない場合に不公平を解消する仕組みです。
厚生年金の受給開始年齢が上がったときの経過措置としてつくられました。ただし、経過措置としての役目はほぼ終了しています。
現在は、国民年金を納めた年齢によって、受給金額に不公平を生じさせないための役割が大きいです。
国民年金は、20歳~60歳までの40年間納めることで満額受給できます。受給額に反映されるのは、20歳~60歳の期間に納入した分のみです。
一方で、厚生年金に加入すると年金の1階部分である国民年金も納めることになります。企業に勤め、厚生年金を納付している人のなかには、20歳前や60歳以降の人もいるでしょう。
そのような人が国民年金を40年納付したにもかかわらず、納付した年齢の関係で満額受給できない場合に対応するための仕組みが経過的加算です。
参考:[年金制度の仕組みと考え方] 第3 公的年金制度の体系(年金給付)|厚生労働省
1-1. 厚生年金の経過的加算が設けられた背景
厚生年金の経過的加算が設けられた背景には、厚生年金の受給開始年齢の引き上げが関係しています。60歳から65歳に受給開始年齢が引き上げられた際、混乱を避けるために60歳から64歳の人には「特別支給の老齢厚生年金」が支給されることとなりました。65歳からは「老齢厚生年金」「老齢基礎年金」に切り替わる流れとなっています。なお、特別支給の老齢年金は、以下の2つの要素で成り立ちます。
特別支給の老齢年金額 = 定額部分(加入期間に応じた金額) + 報酬比例部分(在職時の報酬に比例した金額)
65歳になったら、報酬比例部分が「老齢厚生年金」、定額部分が「老齢基礎年金」に置き換えられます。しかし、特別支給の老齢年金から切り替わる際に差額が生じ、65歳から受給する年金額が、特別支給の老齢厚生年金よりも少なくなる場合がありました。その際の差額を解消するために設けられたのが「経過的加算」です。
1-2. 経過的加算と加給年金の違い
| 経過的加算 | 加給年金 | |
| 受給できる人 | ・特別支給の老齢厚生年金と老齢厚生年金に差額がある人
・20歳前、または60歳以降にも厚生年金に入っており、かつ国民年金の納付期間が40年(480年)に満たない人 |
65歳になったときに、65歳未満の配偶者、または18歳到達年度の末日までの子どもがいる人 |
| 受給金額 | 定額部分から受け取れる老齢基礎年金額を引いた額 | ・配偶者:239,300円(受給権者の年齢によって特別加算がつく場合もある)
・1人目・2人目の子ども:各239,300円 ・3人目以降の子ども:各79,800円 (1級・2級の障害状態にある子どお場合は20歳未満) (いずれも年間で支給される額) ※令和7年4月~ |
| 受給条件 | 厚生年金に加入していた人 | 20年以上厚生年金に加入期間していた人 |
| 受給期間 | 生涯受け取れる | ・配偶者が65歳になるまで
・子どもが18歳になった年度の末日まで |
経過的加算と加給年金の違いを表にまとめました。加給年金は、家族を扶養するために支給されるものです。配偶者が65歳になると配偶者自身が年金を受け取れるため、加給年金は打ち切られます。子どもが18歳以上になった場合も同様です。
2. 経過的加算の対象者|もらえる人・もらえない人


経過的加算の対象者は、以下の条件をすべて満たした人です。
- 20歳~60歳の間で国民年金を納付した期間が40年(480ヵ月)に満たない
- 20歳前または60歳以降にも厚生年金に加入していた
ほかにも、年金受給開始年齢引き上げの経過措置として、特別支給の老齢厚生年金を受け取っている人は経過的加算を受け取れます。
ここから紹介するのは、経過的加算がもらえる人・もらえない人の例です。さまざまなパターンを見比べてみてください。
2-1. 18歳から58歳まで厚生年金に加入していた人はもらえる
18歳から58歳まで厚生年金に加入していた人は、経過的加算をもらえます。この人が厚生年金と国民年金を納付し始めたのは18歳です。
しかし、国民年金の対象年齢は20歳~60歳なので、年金受給額は20歳から60歳の38年(456ヵ月)で計算されます。
一方で、実際にこの人が国民年金を納めた期間は満期分と同じ40年(480ヵ月)であり、年金を満額受け取れないのは不公平です。したがって、この人は国民年金2年分の経過的加算を受け取れます。
2-2. 20歳~62歳まで厚生年金に加入していた人はもらえない
20歳~62歳まで厚生年金に加入していた人は、経過的加算をもらえません。厚生年金の1階部分である国民年金は、20歳~60歳の40年(480ヵ月)で満額となります。
国民年金は、満期を超えて納付しても受給額には反映されません。したがって、どこにも差額は生じず、損もしていないので経過的加算を受給することができません。
2-3. 22歳~62歳まで厚生年金に加入していた人はもらえる
22歳~62歳まで厚生年金に加入していた人は、経過的加算をもらえます。この人は、国民年金の満期と同じ40年(480ヵ月)、厚生年金、国民年金の両方を納付しました。
しかし、国民年金の対象となる20歳~60歳の期間内には38年(456ヵ月)しか年金を納付していません。
満額分納めたにもかかわらず、38年(456ヵ月)分しか受給できないのは不公平です。したがって、この人は2年分の経過的加算を受け取れます。
3. 経過的加算の計算方法


経過的加算の計算方法は以下のとおりです。
経過的加算 = (1)特別支給の老齢厚生年金のなかの定額部分に相当する分 - (2)厚生年金の老齢基礎年金分
(1)の部分の求め方:1,734円※ × 1.0 × 被保険者期間の月数(上限は480ヵ月)
※昭和31年4月1日以前が誕生日の人は1,729円
(2)の部分の求め方:※831,700円 × 20歳~60歳の間の被保険者期間の月数 ÷ 480
※昭和31年4月1日以前が誕生日の人は829,300円
上記の計算は、令和7年度に日本年金機構が発表している数値を用いています。数値は変動する可能性もあるので注意してください。
3-1. 経過的加算額を増やすには
国民年金の免除期間がある人や、国民年金の未納期間がある人は、60歳以降も働き、厚生年金を納めることで経過的加算を増額できます。しかし、国民年金の上限である40年(480ヵ月)に達した場合、それ以上加算額は増えません。
一方で、老齢厚生年金は長く納めるほど受給額が増えていきます。年金額を少しでも増やしたいと考えている従業員に対しては、国民年金の満額にこだわらず、厚生年金を納付し続けるのも良い方法であると伝えてあげましょう。
3-2. 経過的加算を支給するために必要な手続きは?
厚生年金の経過的加算を受け取るために特別な手続きは不要です。老齢厚生年金の請求手続きをする際、自動的に経過的加算の判定・計算がされ、対象となる人には年金額に加算されて支給されるためです。
なお、老齢厚生年金を受け取るためには、厚生年金の加入期間があるだけでなく、受給資格期間の条件も満たさなければなりません。受給資格期間が10年未満の場合、老齢基礎年金に加えて、老齢厚生年金も受給できず、同様に経過的加算も受け取ることができません。
受給資格期間には、国民年金・厚生年金・共済組合に加入して保険料を納めた期間だけでなく、保険料が免除された期間や、年金額には反映されない合算対象期間(カラ期間)も含まれます。従業員から経過的加算を受け取れるかの質問があったら、まずは受給資格期間の要件を満たしているかどうか確認したうえで対応しましょう。
参考:老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額|日本年金機構
4. 経過的加算を受給するメリット


厚生年金の経過的加算により得られるメリットは、国民年金加入期間が40年に満たない人でも、年金受給額を満額・または満額に近づけられる点です。
年金の受取額が少ない人も、経過的加算により受給額を増やせる可能性があります。20歳~60歳の間に年金を納められず、将来の年金が不安な従業員に対しては、60歳からも積極的に働き、厚生年金に加入することで年金額を増やせることについて伝えてあげましょう。
4-1. 経過的加算は今後見直される可能性もある
厚生年金の経過的加算は、「特別支給の老齢厚生年金」に含まれていた定額部分の役割を補うために設けられた制度です。厚生年金保険法の附則にも「当分の間」と記載されているように、今後法改正により、経過的加算の制度が見直しされる可能性もあります。従業員の疑問に的確に対応できるよう、年金制度の最新情報を日頃から確認しておきましょう。
(老齢厚生年金の額の計算の特例)
(省略)老齢厚生年金(厚生年金保険法附則第八条又は平成六年改正法附則第十五条第一項若しくは第三項の規定により支給する老齢厚生年金を除く。)の額は、当分の間、第一号に掲げる額が第二号に掲げる額を超えるときは、同法第四十三条第一項及び第四十四条第一項の規定にかかわらず、これらの規定に定める額に第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を控除して得た額を加算した額とする。(省略)
5. 経過的加算について理解し従業員に説明できるようにしておこう


厚生年金の経過的加算は、老齢厚生年金の受給開始年齢が引き上げられたときに、経過措置として設けられました。現在では、国民年金の納付期間が満期に満たない人が、対象年齢である20歳~60歳に縛られずに、満期まで納入できる仕組みとして機能しています。
経過的加算について理解すれば、年金の受給額を増やすため、60歳以降も積極的に働きつづけようと考える人もいるでしょう。従業員から経過的加算について質問された場合には、従業員の国民年金の納付期間に注目して、アドバイスをすると良いでしょう。
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