裁量労働制とは?2024年法改正のポイントと適用できる職種、メリットやデメリットを解説
更新日: 2025.12.1 公開日: 2025.8.27 jinjer Blog 編集部

裁量労働制が適用できる職種や導入時のメリットとデメリットなど、裁量労働制の導入を検討するにあたって、悩みを抱える人事労務担当の方は多いでしょう。
裁量労働制は専門業務型と企画業務型の2種類があり、特定の業務に対して労働時間をみなし労働時間で計算する制度です。2024年4月には裁量労働制の適用ルールが見直され、対象業務の追加や労働者本人の同意義務化、さらに健康・福祉確保措置の強化などが施行されました。
この記事では、裁量労働制の概要や対象となる職種、改正内容、メリットやデメリットについて解説します。
「みなし労働時間」で運用する裁量労働制ですが、割増賃金の支払いが一切不要になるわけではありません。
特に、労働基準法で定められた法定休日の労働に対しては、企業は35%以上の割増賃金を支払う義務があります 。このルールを見落としてしまうと、意図せず未払い賃金のリスクを抱えることになりかねません。まずは、自社の勤怠管理が法的に問題ないか、基本的なルールから見直しませんか?
◆休日出勤の割増賃金で押さえておくべきポイント
- 裁量労働制でも支払い義務のある「法定休日労働」の定義
- 法定休日と所定休日で異なる割増賃金率の考え方
- 振替休日や代休を取得した場合の賃金計算の注意点
裁量労働制のコンプライアンス体制を強化するために参考になりますので、ぜひこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
1. 裁量労働制とは?

裁量労働制とは、労働者の働いた実時間ではなく、あらかじめ企業と労働者の間で取り決めた一定の時間を労働したものとみなす制度です。
例えば、1日のみなし労働時間を8時間と定めた場合、実際の労働時間に関わらず8時間労働したものと扱われます。業務遂行の手段や配分を個人の裁量にゆだねることで、働き方の柔軟性を高めるのが裁量労働制の特徴です。
2. 裁量労働制の2つのタイプと対象職種

裁量労働制には次の2つのタイプがあります。
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制
裁量労働制はすべての業務に自由に適用できるわけではなく、法律で認められた一部の業務にのみ導入できます。専門業務型と企画業務型で適用対象となる職種が異なるため、自社の業務が該当するかを確認する必要があります。
【労働時間規制の体系図】
参考:裁量労働制の現行制度の概要 及び経緯等について|厚生労働省
2-1. 専門業務型裁量労働制と対象職種
専門業務型裁量労働制とは、業務の進め方や時間配分を従業員に具体的に指示することが難しいとされる高度な専門知識や技術を要する一部の業務に適用できる制度です。従業員は、業務遂行の手段やスケジュールを自ら判断しながら働けます。
専門業務型裁量労働制を適用できる業務は、厚生労働省令により20種類に限定されています。
【専門業務型裁量労働制を適用できる職種の例】
- 研究職
- システムエンジニア
- 出版記事の記者や編集者
- デザイナー
- コピーライター
- インテリアコーディネーター
- 証券アナリスト
- 公認会計士や弁護士
- M&Aアドバイザー
参考:パンフレット「専門業務型裁量労働制について」|厚生労働省
2-2. 企画業務型裁量労働制と対象職種
企画業務型裁量労働制は、事業運営上の重要事項の企画・立案・調査・分析といった業務に適用される制度です。
適用には、以下の4要件をすべて満たす必要があります。
- 「事業の運営」に関するものである
- 企画・立案・調査・分析の業務である
- 業務の性質上、遂行の方法を大幅に従業員の裁量にゆだねる必要がある
- 業務遂行の手段や時間配分について従業員に広範な裁量が認められている
企画業務型を導入するためには、労使委員会を設置して委員会の全会一致による決議をおこない、労働基準監督署に届け出る手続きが必要になります。導入後も所轄労働基準監督署へ定期報告が必要となるなど、適用のためのハードルが高い点が特徴です。
参考:パンフレット「企画業務型裁量労働制について」|厚生労働省
3. 2024年4月法改正のポイント

2024年4月から裁量労働制のルールが大きく見直されました。専門業務型と企画業務型それぞれに適用要件の変更点があり、さらに両方の制度に共通して労働者の健康管理措置が強化されています。
3-1. 専門業務型:対象業務の追加と同意取得の義務化
専門業務型裁量労働制では2024年4月から「M&Aアドバイザーの業務」が新たな対象業務に加わりました。これにより、金融業界でのM&Aの仲介なども裁量労働制の適用範囲に含まれます。
さらに重要な改正点として、従業員本人の同意取得が義務化されました。対象従業員一人ひとりに制度内容を説明し、書面などで同意を得ることが必要となっています。
また、労使協定に必要な項目として「労働者が同意しなかった場合に不利益に扱わないこと」や「同意の撤回手続き」を定める項目も追加されました。
3-2. 企画業務型:労使委員会の運営ルール変更
企画業務型裁量労働制でも、労使委員会の運営や決議に関するルールが強化されています。まず、労使委員会の運営規程に定める事項として、新たに3つのポイントが追加されました。
- 賃金・評価制度の事前説明義務:従業員に適用される賃金や人事評価制度の内容を、労使委員会に事前に説明すること。また、制度変更時には労使委員会への変更内容説明を決議事項とすること
- 適正な運用の確保:制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)
- 労使委員会の開催頻度:委員会を6ヵ月以内ごとに1回以上開催すること
加えて、今回の改正で労使委員会の定期報告の頻度が見直されています。具体的な内容としては、初回の報告は決議の有効期間開始から6ヵ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回と定められました。これは改正前の「6ヵ月ごとに1回」よりも報告間隔を緩和する内容です。
3-3. 共通の変更点:健康・福祉確保措置の強化
両方の裁量労働制に共通する大きな改正ポイントが、従業員の健康・福祉を確保するための措置(健康確保措置)の強化です。裁量労働制は労働時間の管理を従業員の裁量に委ねる反面、長時間労働が常態化し健康被害を招くおそれが指摘されてきました。
そのため2024年の改正では、「全従業員に共通で講ずる措置」、「状況に応じ個別に講ずる措置」の中からいずれかの措置を選択して協定し、実施することが求められています。「全従業員に共通で講ずる措置」から1つ以上と、「状況に応じ個別に講ずる措置」から1つ以上を実施することが望ましいとされています。
<全従業員に共通で講ずる措置>
- 勤務間インターバルの確保
- 深夜業の回数制限
- 労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合、裁量労働制の適用解除)
- 年次有給休暇についてまとまった日数を連続して取得することを含めた取得促進
<状況に応じ個別に講ずる措置>
- 一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
- 代償休日・特別休暇の付与
- 健康診断の実施
- 心身の健康問題についての相談窓口設置
- 適切な部署への配置転換
- 産業医などによる助言・指導または従業員への保健指導
4. 裁量労働制のメリット

裁量労働制には、企業側・従業員側それぞれにメリットがあります。
ここでは主に企業側のメリットに焦点を当て、詳しく解説します。
4-1. 人件費の予測が容易になる
裁量労働制を導入すると、人件費の予測がしやすくなります。従来の労働時間制では、残業が増えると人件費も増大し、その月ごとの変動を予測するのが難しい面がありました。
一方、裁量労働制では労働時間に関係なく一定の時間分の給与を支払うため、原則として追加の残業代が発生せず、人件費の見通しを立てやすくなります。
ただし、深夜労働(22時〜翌5時)の割増賃金や法定休日・所定休日に労働した場合の人件費などは別途発生するため、注意が必要です。
4-2. 労務管理の負担が減る
裁量労働制では従業員の始業・終業時刻を細かく管理する必要がないため、企業の労務管理負担が軽減されます。勤怠打刻の確認や残業申請の処理といった日々の管理業務が減ることで、人事・労務部門の業務効率が向上するでしょう。
ただし、労働時間の把握義務が完全になくなるわけではありません(後述の健康確保のための管理は必要です)。基本的な労働状況のモニタリングは引き続き、適切におこないましょう。
4-3. 優秀な人材が定着しやすくなる
時間に縛られず自己裁量で働ける環境は、優秀で成果主義的な志向を持つ人材にとって魅力的な制度であり、結果として定着率向上につながることが期待できます。
企業が裁量労働制を導入することで「成果で評価する柔軟な職場」というアピールになり、他社との差別化や採用力アップにも寄与するでしょう。
4-4. 生産性の向上が見込める
裁量労働制は成果主義への転換を促し、従業員一人ひとりの生産性向上につながる可能性があります。労働時間ではなくアウトプットで評価する仕組みによって、従業員は自ら工夫して業務効率を高め、より短時間で成果を出そうとする動機づけが働くためです。
また、自分のペースで仕事を進められることで、業務の優先順位付けやスケジューリングが柔軟になり、急な案件にも迅速に対応できるなど組織全体の機動力向上も期待できるでしょう。
関連記事:裁量労働制とは?労働時間管理における3つのポイントを徹底解説
5. 裁量労働制のデメリット

一方で、裁量労働制には注意すべきデメリットも存在します。ここでは制度運用上で発生し得るリスクや課題を解説します。
5-1. 意図せぬ長時間労働が発生する可能性がある
裁量労働制では従業員自身に業務時間の裁量を委ねるため、知らないうちに長時間労働に陥ってしまうケースが少なくありません。成果を上げようとするあまり「もっと働かなければ」と心理的プレッシャーを感じ、結果として労働時間が伸びてしまうケースもあります。
また、残業代を出さなくてよいことから、企業の不適切な運用によって裁量労働制の適用下で過労死や健康被害が問題視されてきた経緯があります。
裁量労働制だからといって実労働時間を把握しないのではなく、勤怠管理システムなどで従業員の働き過ぎをモニタリングし、必要に応じて是正するフォローが欠かせません。
関連記事:裁量労働制とは?労働時間管理における3つのポイントを徹底解説
5-2. 打ち合わせなどのコミュニケーションが取りづらくなることがある
従業員が各自の裁量で働くため、出勤・退勤時刻がバラバラになることでチームメンバー同士の打ち合わせの調整が難しくなるなど、社内コミュニケーションの機会が減少することがあります。
こうしたコミュニケーション不足は、放置すると組織の一体感低下や新人社員の孤立などにつながるおそれがあります。対策として、事前にスケジュールを示し合わせて定例の打ち合わせを設けたり、情報共有ツールを活用するなど、意識的にコミュニケーションの場を確保することが重要です。
5-3. 導入までに手間がかかる
裁量労働制を導入するには、通常の労働時間制度よりも煩雑な手続きが求められます。とくに企画業務型であれば労使委員会の設置・運営と全会一致決議が義務づけられており、これらの準備・手続きに時間と労力がかかるでしょう。
さらに協定や決議で細かい事項を定め、それを所轄の労働基準監督署へ書面で届け出ることが必要です。
制度の適用業務の特定や、協定条項の検討には専門知識も多数求められます。社内での制度設計に加え、必要に応じて社労士など外部専門家への相談が発生することもあるでしょう。
これらの背景から、裁量労働制導入の手間は将来的な効果を見据えた「初期投資」として捉え、法令遵守の姿勢で取り組むとよいでしょう。
5-4. 導入後もフォローが必要
裁量労働制は一度導入すれば終わりではなく、導入後の適切なフォローと運用管理が欠かせません。労働時間の自己管理を労働者に任せる制度である以上、企業側は長時間労働の兆候や健康状態を継続的にチェックし、必要な対策を講じる責任があります。
前述した健康・福祉確保措置についても、対象労働者全員に対して適切に実施することが義務づけられています。勤務間インターバルの運用や、健康診断の実施状況などを定期的に見直す必要があるでしょう。
5-5. 同意を得られない・撤回される可能性がある
2024年の法改正によって専門業務型でも個別同意が必須となったことで、従業員から同意を得られないケースや、同意が撤回されるケースに備える必要が出てきました。
従業員の中には裁量労働制に消極的な人もおり、「残業代が支給されなくなるなら通常の労働時間制のほうがよい」と感じて同意しない場合があるでしょう。また、いったん同意した人でも、制度上は後から撤回する権利も認められています。業務状況によっては、従業員が途中で制度適用をやめたいと申し出てくることも考えられます。
同意しない従業員には無理に裁量労働制を適用せず、代替策として固定残業代制度やフレックスタイム制を適用するといった選択肢も検討しなければなりません。また、同意を撤回した従業員については、通常の労働時間管理下で働かせる処遇を用意しておく必要があるでしょう。
6. 裁量労働制を正しく活用して従業員満足度を高めよう

裁量労働制は、うまく運用すれば企業・従業員ともに生産性向上と柔軟な働き方の実現につながる制度です。一方で、制度の趣旨に反した不適切な運用をすれば長時間労働や健康障害のリスクを高めるおそれもあります。
そのため、導入に際しては法的要件を満たすことはもちろん、導入後も運用や従業員の健康管理に十分配慮し適切な処遇を保障することで、裁量労働制のメリットを最大限に活かすことができるでしょう。
制度を正しく活用して従業員のワークライフバランスと満足度を高め、ひいては組織全体の成長につなげていきましょう。
関連記事:裁量労働制の従業員の打刻管理で注意すべき2つのこと
「みなし労働時間」で運用する裁量労働制ですが、割増賃金の支払いが一切不要になるわけではありません。
特に、労働基準法で定められた法定休日の労働に対しては、企業は35%以上の割増賃金を支払う義務があります 。このルールを見落としてしまうと、意図せず未払い賃金のリスクを抱えることになりかねません。まずは、自社の勤怠管理が法的に問題ないか、基本的なルールから見直しませんか?
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- 法定休日と所定休日で異なる割増賃金率の考え方
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